幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

28 / 100
28話です。初の外界調査になります。


28話 探し物

 またか。折角の楽しい雰囲気がぶち壊しになったサンカは、口をへの字に曲げて肩を落とした。休みの日が終わらぬうちにこうして来られては、休まるものも休まらない。

 

 

「今度は何です?」

 

「実はね、ここの所幻想郷に入ってこようとする者がいるのよ。幻想郷は来るもの拒まずだけれど、ちょっと嫌な雰囲気がするのよね」

 

 饅頭をモグモグと食べながら、急かす様子もなく頬杖をついて呑気そうに話す。

 

 はたてを連れて外界に行きたいと紫に持ち掛けた際、自分にも友好的な異性が欲しいと愚痴られたが、異性が寄り付かないのは彼女の人を使い走りにする性格と、適当さが原因なのではなかろうか。顔やスタイルは決して悪くないのだから、あるとすればそれくらいしか考えられない。

 

 

「何か失礼な事考えてないかしら?」

 

「いいえ、滅相もない」

 

 ジトっとした目で見られたので否定すると、紫はコホンと咳ばらいを一度して話しを戻した。

 

 

「ともかく、貴方にはそれが何者なのかの確認と、排除をお願いしたいの」

 

「……わかりました。やっておきます」

 

「決まりね。ああそうそう。その前に」

 

 紫は指をパチリと鳴らすと、今まで蚊帳の外だったはたてを隙間に落とした。はたては声も上げる間もなく、吸い込まれるように落ちていく。

 

 

「あ……」

 

「安心して。幻想郷に戻しただけよ」

 

「ですが彼女は僕が―」

 

「大丈夫よ。それに今回は外を知っている貴方だけでやってもらわないと困るの。あの娘がいると満足に動けないでしょうから。それじゃ、お願いしたわ」

 

 反応される前に言うだけ言うと、サンカが預けた荷物と共に、彼女は隙間の中に消えて行った。

 

 

「探せと言われてもねえ……」

 

 承諾はしたが、どうしたものかとサンカは首を捻った。

 当然だが、外界は幻想郷よりも遥かに広いため、しらみ潰しに探すのにも限度がある。今回はヒントになりえる物が全く無く、使える時間も少ないので、あまり悠長にしていられないのも厳しい。消えてしまう前に一旦は帰れると思うが、幻想郷に悪影響を与える相手を放置しておく訳にはいかないので、依頼を達成するまで何度も此処へ来させられるだろう。

 

 

(やるしかないか。体が消える前に探さないと)

 

 とりあえず街の方に行けば何か見つかるかもしれない。はたての身を案じつつ、サンカは静かになった公園から走り出した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 夜の街はタバコや酒の臭いに支配され、その表情を一変させていた。乾いた路面を走る車の走行音、時折聞こえる笑い声は不愉快な雑音として処理され、ギラギラと不自然な色を放つネオン達が、痛い程存在を主張をしている。

 

 

(こんなんじゃ、幻想郷の方が住みやすいな)

 

 今まで行く当てもなく放浪していたサンカは、人智の及ばぬ異形達が当たり前のように存在するあの場所こそが、自身が求めていた心の穴を埋められる唯一の居場所だと考え始めていた。外の便利な生活も確かに悪くないが、不思議とあの不便ながらも温かい暮らしの方が自分には向いている気がするし、はたても傍に居てくれるので今更出ていく理由も無かった。

 

 そういえば、彼女は今どうしているのだろうか。無理矢理別れさせられたが、泣いていたりしないだろうか。脳裏に不安がよぎる。

 

 

(大丈夫かな……いや、今はこっちを優先しないと)

 

 不安感とすぐにでも帰りたい気持ちを押さえつつ、サンカは鼻先に意識を集中させる。先ほどから妙な臭いが漂っているのが、どうにも気になるのだ。

 

 

(酒にタバコ、排ガス、それに―)

 

 非常に僅かだが、錆びた鉄のような臭いと、明らかな腐敗臭が混ざっている。間違いなく腐った人のそれだ。間違えようがない。

 

 

(一体どこから?)

 

 こんな場所で後始末が杜撰な人殺しでもしたのだろうか。そう思いながら鼻にこびりついて離れない臭いを辿って行くと、ある店からとても強く臭っているのに気づいた。

 

 

(ここは確か……)

 

 昼に指輪を購入した店だった。

 蝋燭だろうか、暗くなった店内にはうっすらと光が揺れ動いており、あの女性がなにやら近くでゴソゴソしているが、手元は陰になっていて外からでは見えない。

 

 サンカはガラス越しに窺うのを止めると、意を決し、closedの札がかけられたドアを開け、店内へと踏み入った。

 

 

「すみません、今日はもう閉店なんで……ああ、貴方ですか」

 

 女性は振り返ると笑みを見せたが、素早く後ろに何か隠したのをサンカは見逃さなかった。腐臭も先ほどと比べて明らかに強くなっており、発生源は此処で違いないだろう。

 

 サンカは目的を悟られないように、上っ面だけの笑みを見せて警戒を解こうと試みる。

 

 

「実はちょっとお聞きしたい事がありまして」

 

「聞きたいこと?何でしょうか?」

 

「はい。此方で購入した指輪なんですが……」

 

 リュックから包装された指輪を取り出すと、テーブルの上に置いて女性に見える位置に置く。すると彼女はゆっくりとした歩みで近づいてきた。

 

 

「忘れていたんですが、これって名前は入れられますか?どうしても渡したい相手がいまして」

 

「名前ですか……ごめんなさい。うちではそういったサービスはしていないんです」

 

 そうですか、と残念そうな顔をしつつ、隙を見て店内を見渡す。この店はネックレスや指輪等を取り扱っているが、並んでいる物はどれも統一感が無く、更には商品価値があるとは思えない物も幾つかあった。捨値が付いてこそいたが、ひび割れた宝石を誤魔化しもかけずに売るだろうか。怪しさが徐々に増していく。

 

 

「わかりました。どうも夜分遅くにすみませんでした」

 

此処は一旦退いて、時間をおいてからもう一度来るとしよう。不法侵入になるが、いざとなれば隙間に逃げてしまえば良い。サンカはドアノブに手を掛け、戸を少しだけ空けた。

 

 

「……あ、ちょっと待ってください。良ければ何か食べて行きませんか?夕飯はまだでして」

 

 外に出ようとすると、女性は何を思ったのか突然食事を誘ってきた。中々好都合だが、閉店後に現れた客を夕飯に招くとは、どんな風の吹き回しだろうか。

 

 

(何のつもりだ?)

 

 サンカは多少不審に思いながらも、構いませんが、と承諾した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。