幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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ヤンデレと言っておきながらヤンデレしてないなと最近思い始めました。バランスを考えないと難しいですね。それでは34話、お楽しみください。



34話 存在

 サンカはフラフラと着陸すると、体についたチリを軽く払う。そして地に伏す魔理沙を一瞥し、はたての方を向く。

 

 

「サンカ?その目……」

 

 はたてはすぐにサンカの異変に気付いた。彼の瞳の色が見慣れたこげ茶色ではなく、どうしてか黄金色に変色し、月の光を反射して薄っすらと光っていたのだ。他の面々にもその異常に気付いているのか、ひそひそと声を交わす。

 

 

「……ぐああっ!!」

 

「サンカ!?椛、永琳を呼んできて!」

 

 突然、サンカが両目を押さえて悶えだした。指の隙間から生暖かく、粘り毛を帯びた赤い液体が滴り落ちる。

 

 はたては椛に叫びながら指示しつつ苦しみだしたサンカの元へ急ぐが、そんな彼女の前に霊夢が現れた。胸の前で腕を組んで仁王立ちする霊夢は、はたてを制止させると、キツく睨みつけた。

 

 

「永琳を呼ぶ必要はないわ。放っておきなさい」

 

「何を言ってるの!?サンカが苦しんでるのよ!?早くどい……て……」

 

 はたてが言葉を失う。霊夢の肩越しに見た彼の姿は、あたかも満月を見てしまった狼男のように変化を始めていた。黒々としていた髪からは色艶が消え失せ、肌色は生気を感じさせない寒々とした白色へと変色し、まるで死人の如き様相へと変わっていく。その姿は彼女の古い記憶を鮮明に蘇らせ、同時に畏怖すらも抱かせた。

 

 

「はたて」

 

 はたては名前を呼ばれてビクリとし、恐々と霊夢を見た。僅かながら眉間に皺が寄っていて不機嫌そうだ。

 

 

「アンタがコイツを匿ってた理由は後で聞かせてもらうわ。嘘をつこうなんて思わない事ね。しかしまだ生き残ってたなんて……とっくの昔に全滅したと思っていたわ」

 

「サンカさんは貴方と同じ人間ですよ?全滅したなんてそんな……」

 

「人間?笑わせないで。こんなのが人間な訳ないでしょ」

 

 酔いの醒めた文の茶化しに、霊夢は食い気味に反論する。そしてすっと息を吸い、周りにも聞こえる声量で言った。

 

 

「アンタは人間なんかじゃない。餓鬼の出来損ないよ」

 

 その場が水を打ったように静まり返り、次にどよめきが広がって行く。

 

 

「執念深いわね。人間の真似をして幻想郷に入り込むなんて。今度は何?外界から追い出すに飽き足らず、幻想郷まで滅ぼしに来たって訳?」

 

「言いがかりです!サンカさんはそんな事をする人じゃありません!!」

 

「表面上は良い顔していても本性は化け物よ。きっと私達を油断させて喰う腹積もりに決まってるわ」

 

 椛が抗議するが、酒を飲んで騒いでいた面々も冷ややかな態度を取り始め、口々に呪詛を吐き、石や徳利を投げつけ始めた。サンカは周りの態度の変化が理解できず、投石を浴びて額から血を流しながらも困惑した表情で霊夢を見つめる。

 

 

「アンタはここで始末させてもらうわ。無駄な抵抗はしない方が良いわよ」

 

「僕が……僕が何をしたって言うんだ」

 

「自覚無いの?まあそうよね、人外を餌としか思ってない輩は!」

 

 霊夢は怒鳴ると大幣を大きく振りかぶり、サンカの頭に振り下ろした。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「はっ!?」

 

 サンカが目を覚ますと、薄暗い座敷で寝かされていた。はたての家で無いのは間違いないらしいが、だとすれば此処に運び込んだのは誰だろうか。

 

 首を動かして辺りを見ると、枕元で弱弱しく明かりを灯す行燈の後ろに姿見があるのを見つけた。鏡には白っぽい影が映りこんでおり、段々と暗さに目が慣れてくるにつれて、その影が現在の自分の姿だと分かった。

 

 

「嘘だ……そんな……」

 

 鏡の中の自分が明確になると共に狼狽し、声にならない声を発しながら己を映す鏡を叩き割る。

 

 老人のように色が抜けた艶の無い髪、血管が青く浮き出る程青白く生気の無い肌、真っ黒になった白目に浮かぶ、月の如き黄金色の瞳。まさしく外界で相対した餓鬼そのもので、自身を人間と鼓舞し続けていた彼にとってはおぞましく、認めたくない姿だった。速くなった呼吸が、静かな部屋に響く。

 

 

「サンカ?」

 

 声が聞こえた方へ振り向くと、はたてが暗がりの中に座ってウトウトとしていた。彼女は傷だらけの痛々しい姿をしていて、両目は泣いていたのか腫れている。

 

 

「怪我の具合はどう?霊夢に殺されかけて―」

 

「ちょっと黙ってくれ!!」

 

「……」

 

「……ごめん」

 

 混乱のあまり怒鳴ってしまったが、落ち着きを取り戻すと謝罪の言葉を述べ、ため息を深くつく。はたてはサンカの心境を知ってか、彼を責める事はしなかった。

 

 

「……ここはどこなんだ?あの後どうなったんだ?」

 

 サンカがはたてに近づき、なけなしの力で怪我を癒しながら質問する。

 

 

「紫の屋敷よ。霊夢に捕まった私達を運んでくれたの。宴会は騒ぎでお開きになったわ」

 

「紫さんが……」

 

「うん。目が覚めたら部屋に来るようにって」

 

 はたてが一通り説明すると同時に治療を終え、重たい静寂が戻った。行燈の火が揺らめき、二人の姿がゆっくりと明滅する。

 

 

「はたては……はたては僕を嫌いにならないのか?」

 

「……」

 

 投げかけられた恨みつらみの言葉が脳裏から離れない。霊夢の言葉と周りからの拒絶は、サンカに耐えがたい苦痛を与えた。

 もし餓鬼と化した自分に対し、はたても恐怖心や嫌悪感を抱いて離れて行ってしまったら―そう思うと、生きていく気力すら無くしてしまいそうだ。

 

 サンカは暗い面持ちのはたてから帰ってくるであろう返答を待つ。

 

 

「そんな訳ないでしょ?ずっと一緒に居たのに、今更嫌いになんかならないわ。私は何時でもサンカの味方よ?」

 

「本当か?」

 

 なおも疑念を拭えないサンカを、はたては優しく抱き寄せる。温かな抱擁はサンカを安心させ、壊れかけた心を繋ぎとめてくれた。

 

 

「これでも信用できない?」

 

「……ありがとう、はたて」

 

「分かればよろしい。ねね、能力を使っちゃったから眠くなってない?」

 

 指摘されると、確かに瞼が重くなってきていた。

 

 彼女は自分の味方だ。傍に居る限り、命も、他者からの怨みに押しつぶされる心配も無いだろう。サンカは身をゆだねるよう、静かに目を閉じた。

 

 

 

 再び眠りについたサンカに布団を掛けると、はたては同じ布団に潜り込む。肌に触れると死体のような冷たさを感じたが、彼は確かに呼吸をしていた。

 

 

「ちょっとやり過ぎちゃたけど、私を避けようとするから悪いのよ?」

 

 博麗神社での宴会は都合が良かった。能力をあの巫女の前で使えば、遅かれ早かれ間違いなく孤立する。

 そして孤独を感じるようになった彼に救いの手を差し伸べれば、必ず自分を求めてくれる筈だ。自身を避けた罰として実行してみたが、サンカの餓鬼化という予想外の出来事もあり、効果は抜群だったとはたてはほくそ笑む。

 

 

「例えお互いが引き離されていたとしても、例え私の事を忘れていたとしても、永遠に添い遂げて見せるわ。アナタ」

 

 はたてはサンカの頬に口づけをすると、耳元で小さく囁いた。




今後の事でアドバイスいただけますと幸いです。
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