幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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今回は少し短くなっています。ごゆっくりお楽しみください。


36話 信頼

 卓袱台を挟んで向こう側に座る二人の天狗に、サンカは少なからぬ疑念を抱いていた。

 

 正体が餓鬼だと分かった途端、大多数の人外が嫌悪の表情を浮かべ、罵詈雑言を浴びせながら石を投げる-あんな目に遇えば、親しくしてくれたこの二人も内心は憎く思っていて、いつか自分に牙を剥くのではないかと考えてしまうのだ。

 

 

「それじゃ、お茶取ってくるね。サンカはほうじ茶で良い?」

 

「……うん」

 

 機嫌の良いはたてがお茶汲みに出ると、残された3人の間に重い空気が流れた。椛と文はよそよそしく姿勢を変え、互いに目配せしている。

 

 

「あの、サンカさん」

 

 暫くして、沈黙に耐え兼ねたのか椛が口を開いた。声色は暗く、いざ呼んでみたが話すのを躊躇うように口をパクパクさせている。

 

 

「サンカさんはその……本当に餓鬼なんですか?」

 

 漸く絞り出された言葉に、サンカは小さくため息を吐いた。彼は帽子を脱いで色の抜け落ちた髪を露にし、闇に浮かぶ満月のような目に、動揺する二人の姿を入れる。

 

 

「そうだよ。見ての通り、僕は餓鬼だったんだ」

 

 過去の記憶を持たず、常に孤独が当たり前だったサンカにとって、幻想郷は安寧を得られた唯一の場所であり、はたてのように親しく接し、温もりを与えてくれる相手が初めて出来た場所でもあった。それだけに、存在を拒絶され、覚えの無い理由で命を狙われるようになってしまった

 

 

「皆僕を嫌う。何も覚えてないのに。自分が誰なのかもわからないのに」

 

 サンカは誰に言うでもない怒りとも嘆きとも取れる言葉を椛と文に投げかけ、頭をグシャグシャと片手で掻きり、小さく嗚咽する。押し殺していた感情が一気に溢れ、彼にもどうすることも出来なかった。

 

 

「顔を上げてください。私達は貴方の味方ですよ」

 

 呼びかけられて顔を上げると、椛は顔を覗き込み、両方の手を痛いくらい握り絞めてきた。

 両手を封じられたサンカは振りほどこうと抵抗したが、椛も後ろで控えている文も何もしてこない。

 

 

「何をして……僕を恨んでいるんだったら早く殺せば良いじゃないか」

 

「恨む?なんでサンカさんを恨まなきゃいけないんですか?」

 

 椛はキョトンとして聞き返すと、文が心情を読み取ってか苦笑いし、サンカに説明するように言う。

 

 

「安心してください。私も椛も、この里に住まう全ての天狗達も、サンカさんに危害は加えません」

 

「なんで……僕は餓鬼なんだぞ?昔―」

 

「昔の事なんて一々覚えてませんよ。天狗は忘れっぽいので。それに貴方は悪い……死霊じゃありませんしね」

 

 椛は数度頷くと、持っていた紙をサンカに渡した。受け取って見ると、どうやら寄せ書きの様だった。書かれていた字は綺麗な物から読みにくい物まで様々で、励ましの言葉や賛辞の言葉が綴られてある。

 

 

「なんだ?これ」

 

「霊夢さんの言動が気に入らなかったので、色んな所を回って同意見の人に書いてもらったんです。二日も居なかったので出し損ねてました」

 

「フランさんなんて、お兄ちゃんを化け物って呼ぶな、って抗議してましたよ。いや~短い間に随分人気者になりましたねぇ。羨ましい限りです」

 

 文は冗談めかして言うと、椛が軽く小突いた。

 

 

「恨む方もいると思います。でも、未だに昔の事を引きずり出して恨むのは器量が小さいですし、そんな事する方は情けないと思います」

 

「そうか?」

 

「そうですよ。ここは実力が物を言う場所ですからね。貴方ももっと強くなって、堂々とすれば酷いこともされなくなります」

 

 サンカは少し考えてみた。

 文の言う力で押さえつけるやり方ははあまり好ましくはないが、自分を嫌う妖怪は少なからずいる。

 それなら、お互い嫌な思いをするのであれば会わなければ良いだけの事だ。態々こちらに来てまで蒸し返そうとするのも、馬鹿馬鹿しいと思えるように。

 

 そもそも霊夢に、たかが10代の娘に貶されて何を悩むことがあるのだ。自分には信頼してくれる者が多くいる。

 

 そう思うと少しだけ気が楽になり、さっきまで疑心暗鬼だった自分がおかしくなってきた。

 

 

「何を考えていたんだ。僕は」

 

「あや?なんで泣くんです?」

 

「最近涙腺が脆いんだ。歳かな」

 

「ごめん、ちょっと時間がかかっちゃったわ・・・って何見てるの?」

 

 はたてはサンカの隣に座る二人の後ろ姿を見て蔑んだ様な顔をすると、すぐに普段通りの笑顔を浮かべてサンカの背中に飛びつき、彼の手元を見る。

 

 

 

「ああ、これはですね・・・」

 

文が傍から離れると、秋の特有の匂いを乗せた風が涼し気に風鈴を鳴らした。

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