幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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大変お待たせしました!39話になります!


39話 黒い粉

 高木から飛び降り着地すると、サンカは正邪の逃亡を防ぐように立った。

 

 彼女は急に現れた彼に気を取られて石に躓き、転びそうになりながらも如何にか態勢を戻す。

 

 

「こんばんは。そんなに急いでどこに行くんだい?」

「今日はいつもより追手が多いな・・・失せろ老いぼれ。痛い目見たくないならな」

 

 老いぼれか・・・そんなに歳をとっているように見えるのだろうか。非常に遺憾である。サンカは心外だと瞬きを数回すると、彼女の足元を指さした。

 

 

「それ以上来ると危ないよ。罠が仕掛けてある」

「は?」

 

 何を言い出すのだ、コイツ馬鹿なのか?と言いたげに足元と顔を交互に見てくる。

 

 確かに足元には見え見えのロープが張ってある。

 普通こう言われれば誰でも警戒して―もしくは感謝して踏み込まなかったりするものだが、彼女は絶対に踏み込む。いや、種族的に踏み込まなければならなくなるという確信があった。

 

 

「こっちは通れないんだ。他所を探してくれるかな?」

「ハンッ、戯けた事を言うな。こんなバレバレな罠仕掛けるやつが何所に居ると言うんだ?」

 

正邪はロープを蹴り上げ、自身気に胸を張った。

 

 

「そら見た事か!こんな物―」

 

 言いかけると、頭上から粉が降ってきた。モロにその粉を被って頭からつま先まで真っ黒になると、プルプルと震え出した。怒ったようだ。

 

 

「お前!!」

「だから言っただろう?人の言う事を聞かないからそうなるんだよ」

 

 露骨に残念そうな顔をしながら鼻先をポリポリ掻くと、正邪は此方に走り出した。手は握りこんでおり、次に来るのは鉄拳だろう。

 

 サンカはそんな彼女を見ると、更に指を差して指摘した。

 

 

「そことそこも罠だよ」

「あ?」

 

 注意した所で引っ掛かるのは回避はできないが、一応嫌がらせ程度に言っておくと、正邪はまんまと罠を起動させた。更に粉が降り注ぎ、一面墨を撒いたように真っ黒になる。

 サンカは口元を押さえて極力吸わないようにして、粉塵が落ち着くまで気長に待った。

 

 

「貴様!!人間のくせに!」

「人間か。もう僕は人でないし、襲うのも捕まえろと言われたからだけどね」

 

 正邪はその言葉に何か引っかかりを感じたのか、此方を睨むように観察すると、ふと何かに気づいたように血の気が引き、恐怖した。

 

 

「その白い肌に黒い目・・・お前、餓鬼か!?」

「その通りだよ」

「まさか!他にもまだ・・・」

 

 言葉が尻すぼみに小さく鳴り、踵を返して涙目で走り出した。幽霊を見た子供のように本気で逃げていく後姿を見ると、彼女もまた餓鬼によって数を減らした種族なのかもしれない。

 

 だが、残念ながら逃がすという選択肢はないのだ。サンカはポケットからスペカを取り出して一瞬で回り込むと、前方から追い立てるように宣言する。

 

 

「スペルカード。冥撃《めいげき》・ 黄泉御霊(よもつみたま)

 

 赤黒い針を、一切の手加減をせず出現させて片っ端から投擲する。針は細かく分散して降り注ぎ、さながら血の雨のようにも見える。

 

 正邪は自身の手汗にてこずりながらも、再び布を取り出して防御した。途端、針は布を避ける様にして右へ左へと逸れ、地面や木々、岩などに着弾し、内側から破壊されるかのように弾け飛んだ。地面に広がっていた黒い粉は衝撃で巻き上がり、あたかも霧のように広がる。

 

 

「それが噂の反則アイテムか。なんか既視感がある様な気がするな」

「お、お前は私に勝つことはできない。弾幕は撃つだけ無駄だ!」

「そうらしいね」

 

―もう十分な量を散布できた。答えを教えてやろう。

 

 

「文明は便利になると同時に、危険性も隣り合わせで増えて行った。毎年必ず何らかの形で死人が出るほどにね」

「・・・一体何を」

「今君の被った粉は石炭を粉末状にしたものだよ。それともう一つ。燃えやすい粉って、空中に撒いて火をつけると爆発的な燃焼を生みだすんだ。石炭粉には高い可燃性があるんだけども、今ここでこの小爆弾を投げたらどうなると思う?」

「!」

 

 正邪はこの後何をする気なのか察した。

 周囲はまだ粉が舞っている。さっきのスペルは彼女を攻撃するのではなく、周りの粉を舞い上がらせるために放ったのだ。

 慌てて逃げようにも四方八方粉塵まみれだ。サンカを見ると、彼は防御姿勢を取りながら上昇し、爆弾を投げた処だった。

 

 

「弾幕が効かないなら物理で叩けばいいだけの事。それじゃ、良い空中散歩を」

「待っ!」

 

 四角いサイコロ状の爆弾が起爆したのは、正邪が命乞いをしようとしたのと同時だった。

 それ単体では目くらまし程度にしかならない爆発は瞬時に巨大化し、遠目から見れば隕石の衝突に見紛うほどの規模の威力を発揮する。爆心地から周囲数十m内を超高熱で焼き払うそれは、正しく地獄の業火と言えよう。

 

 

「サンカ、終わったの?」

「うん。なんとかね」

 

 サンカは上空にすぐさま避難して無事ではあったが、顔を少し焦がしてしまった。この程度すぐに治りはするのだが、はたては濡れたハンカチで火傷の後を冷やしてくれた。

 傷口に沁みるが、それもまた生きている証だ。

 

 爆発が収まり残り火がチラチラと散見される程度になると、二人は地上に降り立った。

 正邪ははそこから少し先の場所でひっくり返って気を失っており、傷は殆どないように見える。

 あれ程の爆発だったというのに軽傷なのは、彼女が妖怪だからか、それとも悪運が強いのか。なんにせよ、これで捕らえることは容易にできるようになった。

 サンカは余っていたロープの切れ端を、未だ起きる様子のない正邪にきつく巻きつけて捕縛し、肩に担いだ。

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