幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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今回は前後編に分かれています。
ゆっくりお楽しみください。


4話 片鱗・前編

「ねえねえサンカ、今の外の世界はどんな風なの?」

 

 高速で空を飛翔しながら、はたてが興味津々に話しかけてくる。出会った当初の傲慢不遜そうな態度は何処へ行ったのか、急に心の距離が近づいた気もしたが、好奇心旺盛な今時の子供らしくて安心できた。

 

 聞けば彼女は幻想郷ができる以前の風景しかしらないとの事だったので、サンカは帽子が飛ばないように押さえながら、現在の外界の風景や文化、日常を軽く教えた。

 

 

「そんなに便利な世界になったのねー。一度見てみたいなぁ」

 

「外の国の文化も入ってきてますし、違う国へ旅行に行けるんです。空を飛べる乗り物だってあるんですよ」

 

 この服装も隣の国で手に入れたんだ、とサンカが話す。するとはたては興味深そうに聞きながら、彼女なりに気になったことを事細かに尋ねてくる。

 隔離されたこの世界では、外の様子は全く分からない。外界から入ってきたサンカから話を聞きたがるのは、至極当然なのであろう。

 

 

「それで……ええと、いつまでこのままなんでしょう?」

 

「う~ん、もうちょっとの辛抱よ。それとサンカ」

 

「何ですか?」

 

「私に敬語は禁止。良い?」

 

「……わ、わかった。他に聞きたい事はあるかい?」

 

「そうねぇ、じゃあ―」

 

 はたては未知との遭遇に喜々としていたが、サンカは周囲の景色が目に入る度に身震いし、神に祈るような気持ちでいた。落ちれば即死の高さを宙ぶらりんにされて飛んでいるので無理も無いのだが、この先どうなるのだろうかとその身を案じている。

 救いと言えば、おしゃべりをしている間は注意が散漫になり、恐怖心が薄れるくらいだろうか。

 

 そうこうしていると、話すネタも無くなってお互い無言になってしまい、気まずい空気が流れ始めた。時間だけが無駄に進む。

 

 

(き、気まずい……しかし人とマトモに談笑するなんて何時以来だろう?あぁ、考えてたら頭が……)

 

「……ねえねえ」

 

「な、何?」

 

 俄かに訪れた頭痛に苦悶の表情を浮かべると、不意に声を掛けられた。帽子を気にしつつ見上げると、はたてはサンカの顔をじっと見ていて、何故か頬が顔が赤らんでいる。まさか腕の負荷が限界に近いのだろうか。

 

 

「サンカってさ、その……彼女はいたの?」

 

「彼女?」

 

 いきなり何を言い出すのだ。あまりに突拍子のない質問に対して呆気に取られていると、はたてが慌てたように続ける。

 

 

「ほら、幻想郷に入って来ちゃって出れなくなっちゃったでしょ?だから外界に彼女が居たら二度と会えない訳だし、きっと可哀そうだなーって」

 

 若干早口になりながら言うと、はたては押し黙ってしまった。突然何を言い出すのだと思っていたが、沈黙に耐えられなくなったのだとすぐに理解した。

 

 

「いないよ。居たことも―」

 

「じゃあ好きな人は?」

 

「そういう人もいないね。今のところは」

 

「本当に!?」

 

「あ、ああ」

 

 引き気味に頷くと、不安げだったはたての顔が一瞬で明るくなる。人の恋模様を聞きたがるのはなんとも微笑ましいが、19~20の男の恋愛経験を聞いて面白いのだろうか。婦女子の嗜好は男では理解できない側面もあるのだなと、サンカは思う。

 

 と、ここで悪戯心が湧いてきた。こちらが質問に答えたのだから、同じことを聞いてみる権利はこちらにもあるはずだ。

 

 

「君も好きな人とかいるのかい?」

 

「え?」

 

 彼女は返答に困ってしまったらしく、暫く目を泳がせてからかそっぽを向いた。そして沈黙の後、口をパクパクさせながら声を絞り出す。

 

 

「わ、私は……私は、い」

 

 そこまで言いかけた時、ガクンと振動を感じて支えられている感覚が消え去った。体が反転して上を向くと、呆然とした顔のはたてと、雲一つ無く澄み渡る青空が見え、全ての物が一瞬だけ停止した。

 

 

「え?」

 

「あ……」

 

 状況が理解されると共に、時間がゆっくり流れ始める。

 

 これは落ちてるのだ。下に引っ張られるような、体が浮くような、不思議な感覚を味わいながら落ちているのだ。

 

 解決できそうにない状況で合っても頭は解決策を探しているのか、辺りの風景がやけにゆっくりに見える。地面は刻々と迫って来ていて、瞬きを終えた直後には彼岸に立っている事だろう。

 

 

「まいったなあ」

 

 走馬灯のように様々な光景が廻ったのち、ようやく口から出た言葉だった。短い人生だったと諦めた気持ちになると、サンカは全てを受け入れて目を瞑った。

 

 

(……あれ?止まったぞ?)

 

 強い力が体にかかって落ちる感覚がピタリと止んだので、ゆっくり目を開けてみると、地面すれすれで体が浮いていた。

 

 どういうことだ?高空から落ちれば、地面に叩きつけられてバラバラになるのが普通なのではないのか。それとも誰か支えてくれいているのかと思って振り返るが、そこには誰もいない。

 

 

「ぶっ!!」

 

 完全に単独で浮いていると認識すると、急に力が抜けて顔から地面に落ちた。痛みはするが死ぬほどではない。むくりと起き上がって顔を触ると、鼻は折れていないようだった。

 

 

「いてて……」

 

「何事ですか騒がしい!もうすぐ日暮れなんですから、子供は・・・あれ?貴方はさっきの?一体どこから……」

 

 痛む場所をさすっていると、つい最近見た覚えのある人物が目の前に現れた。その遥か後方からははたてのように黒い翼の生えた男達が武器を持ち、何やら騒ぎ立てながらこちらに向かっているのが見える。

 

 周囲を見渡すと、大通りに沿って立派な屋敷が立ち並んでおり、やはりはたてと同じような姿の子供達や女性がこちらをじっと見ていた。

 

 

(ひょっとしてここがその……)

 

 サンカの予想は的中していた。落ちた場所は噂に聞く天狗の里だったのだ。

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