幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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41話です。フラグを少し回収します。


41話 閑話

 まだ太陽が昇る前の薄暗い時間に、サンカは外出の準備をしていた。

 傍から見れば夜逃げしようとしているように見えるが、実際には紅魔館からお茶会の案内が来たからだ。

 妖怪達が活発になる前の、なるべく早い時間に来いと言われたためこの時間となったが、多少は此方の事も考えてほしいものである。

 

 

「この文面だと絶対に来いって言ってるようなものじゃないか・・・」

 

 愚痴を零しながら外界で購入した縫いぐるみをリュックに詰めていると、まだ寝ぼけている様子のはたてが部屋に入ってきた。いつの間にか寝巻から着替えていた彼女は眠い目を擦って欠伸をすると、もはや当たり前になった朝のやり取りをする。

 

 

「おはよう」

「おはよう。出かけるの?」

「ああ。紅魔館に行った後魔理沙の所に行くんだけども・・・君も行くかい?」

「・・・うん」

 

 少々暗い返事ではあるが、はたては頷いた。彼女はサンカからの誘い、特に人と会う時は全くと言っていいほど断らなかった。それは二人で居られる時間を増やしたかったからなのか、或いは暇だからなのか。いずれにせよ、一人よりは二人の方が寂しさはないので歓迎するが。

 

 

「まだ髪は整えてないのか。ほら、待ってるから寝ぐせ直しておいで」

「サンカがやって」

「はいはい」

 

 まだ完全に目が覚めていない彼女が怪我をしないように手を引くと、薄くなった線状の傷痕が目につく。最近のはたては怪我の頻度が増えており、ついこの間も料理中に腕を傷だらけにして、台所を血の海にしていた。

 

 サンカは指に能力を集中して痕をなぞりながら、はたての目を見た。焦点が定まっていないが、彼女も不思議そうに此方を見返して来る。

 

 

「最近どうしたんだ?なにか心配事でもあるのかい?」

 

 不安げにそう言うと、彼女は目をそらした。彼女はサンカと同じように嘘が下手だ。傷痕が薄っすらと煙を上げて消えていく。

 

 

「・・・なにもないよ。それより出かけるんでしょ?急がないといけないわ」

「いや、僕は君のことが」

「大丈夫よ。ほら、髪を整えて?」

 

 話題をすり替えられてしまった。都合の悪い事から逃げようとする、はたての常套手段だ。

 この方法を取られた場合、サンカは深入りせずに話を合わせている。聞かれたくない理由があるのなら、無理に聞き出すことはない。

 

 

「ほら、終わったよ」

「ありがとっ。さあ、行きましょ?」

 

 

 もうすっかり目が覚めたはたてが、ニコッと笑顔になった。

 この笑顔は、どんな物と比べても価値のある物に思えた。彼女を守れるのであれば、どんなことでもやり遂げて見せるだけの覚悟がある。

 

 山の間から登り始めた太陽が二人を照らすと、サンカは眩しそうに朝日を手で遮った。

 

 

 

 

「遅かったですね」

「申し訳ないです。道に迷ってしまいまして」

「そういう事でしたら大丈夫ですよ。此方です」

 

 ほぼ役目を果たしていない門番を素通りして館に入ると、メイド長の咲夜が出迎えてくれた。後に聞いた話ではあるが、彼女は一応人間で、時間を止める事が出来るのだそうだ。外界で館の主であるフランの姉、レミリアに拾われるまでかなり肩身の狭い思いをしていたようで、彼女の主への忠誠心は最早崇拝のレベルにまで達している。

 

 館内を速足で行く彼女に付いていくと、以前来た図書館ではなくフランの私室に案内された。部屋は広く、物と言えば、部屋の中心にポツンとベッドとテーブル、椅子が置いてあるくらいだ。

 フランはドアを開けて入ってきたサンカを見ると、貴族が行うようなお辞儀(カーテシーと呼ばれる)をし、対面に座る少女に何やら伝えていた。

 

 

「まさか、私と話していた相手が餓鬼だったとはね。驚きだわ」

「遅くなりましたパチュリーさん。フラン、これお土産だよ」

「ありがとう・・・はたてお姉ちゃんも一緒に遊ぼう?」

「え?ええと」

「すまんはたて。遊んできてあげてくれないか?」

「・・・わかった」

 

 サンカは一息ついて椅子に座ると、出された紅茶を一口だけ飲んだ。血のように赤い紅茶は味わい深く、冷えた体を温める。

 

 

「どうされたんですか?お茶会なら、テラスでも良いのに」

「フランも参加したいと言っているのに外でお茶会はできないわ。それに、中の方が涼しいし」

 

 彼女は持っていた本のページをペラペラと捲りながら、サンカを観察するようにジッと見た。あまり良い気分はしないのでティーカップの中に視線を落とすと、彼女は独り言のように小さく、

 

 

「・・・本題だけれども、あの死骸を調べて分かった事があるわ」

「分かった事?」

 

 カップを皿の上に置き、視線をパチュリーの後ろに向ける。背後では楽し気に遊ぶフランと、少し恐々と相手をするはたてがいた。とりあえず二人は大丈夫そうだ。

 

 

「確証はまだないけれど。貴方達は妖怪や人間等を捕食する事で、命を取り込んで自分の物に出来るみたいよ」

「命?」

「ええ。餓鬼は施しを受けた食事や水しか飲食できず、自力で何か食べても吐き出してしまうのは知っているわよね?」

「まあ、はい。僕がそうですし」

 

 あんみつを作ったときに口の中で砂になってしまったのはこれが原因だった。施し、というのは、他者が食事を分け与えたり、作って振舞ったりすることだ。こうする事で初めて餓鬼は飲食が可能となるのだ。

 

 

「でも、それで空腹感が満たされることはない。あくまでも食事ができるようになるだけ。貴方はどうしているか分からないけれど、餓鬼の空腹感を満たすことができるのは、何かしらの意識を持つものを捕食したときみたいね」

 

 身に覚えはあった。初めて物の怪を殺めた時、そして外界で餓鬼に遭遇した時。どちらも吐き出しさえしたが、捕食した後に空腹感を覚えることは無かった。

 

 

「話を戻すと、取り込んだ命はストックされるの。そして命を死の瞬間に消費する事で、即死級の攻撃を受けたとしても、取り込んだ命の数だけ何度でも復活できる。貴方がフランの能力、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力を受けたのに死ななかったのは、それが原因よ」

(・・・命の数だけか)

 

 一体自分は、何人の妖怪や人間を喰らったのだろうか。今もこうして生きているのは、食われた者達の命を消費しているからなのだ。人から奪い取るだけ奪い取り、のうのうと生きている自分に怒りを感じる。

 

 俯くサンカの様子を見たパチュリーは本を閉じて卓上に置くと、カップに新しく紅茶を注ぎ、砂糖を入れた。

 

 

「この話題はこの辺りにしましょうか。時間はたっぷりあるわ。好きなお菓子を食べて雑談といきましょう?」

 

 サンカは小さく頷いてはたてとフランを呼ぶと、すっかり冷え切った紅茶を口に含んだ。

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