魔理沙の後を付いていくと、小さな西洋作りの一軒家に着いた。
想像していた陰鬱な感じのするいかにも魔女が生活していそうな家とは違い、周囲は木々が伐採されている事もあって明るく、白い壁は清潔感を感じさせた。
屋根の上には掠れた文字で、霧雨魔法店と読むことが出来る看板が設置されている。
「意外ね。もっとこう、ジメジメした所に住んでると思ってた」
「失礼な。私はそんな根暗な奴じゃないぜ」
はたての嫌味ともとれる言葉にそう返すと、魔理沙は二人を自宅へ招き入れた。
玄関を通ってリビングと思わしき場所へ案内されると、来客用の物なのか古ぼけた椅子を二つ引っ張り出してきた。座ってみるとかなり軋むが、大丈夫なのだろうか。
「まあ適当に座っててくれ。今紅茶を出すから」
「いや、紅茶はいいよ。君の分だけ入れてきてくれ」
「うん?そうか。じゃあゆっくりしていってくれよな!」
案内された部屋はガラクタや得体のしれない物が散乱しており、足の踏み場もない状態だった。
人は外身だけではわからないとは良く言うが、家もそうなのだろう。外からは想像できない散らかり様だ。オマケに空になった鍋の中には先日の夕飯なのか、毒々しい色合いのキノコの欠片が入っている。
今まで誰かの家にお邪魔することは何度かあったが、流石にこの惨状を見ると閉口せざる負えなし、これ程酷い物も見たことがない。
(玄関先で用事を済ませるんだった)
「サンカ、床からキノコが生えてるわよ」
半笑いの声を聴いて振り返ると、はたては屈んで床から生えたちっぽけなキノコを見ていた。そのキノコは魔理沙のズボラさと芯の強さをを象徴しているかのように、ポツンと一本だけ生えている。
「どれどれ」
サンカはそれを拾い上げると、窓から入ってくる光にかざしながらしげしげと観察してみた。
鮮やかな黄色い色味からするとニガコのようだ。所謂毒キノコで、彼自身も何度か誤食してひどい目に合っているため、見間違えることは無い。
サンカははたてに食べては駄目だと真剣に伝えると、
「食べるわけないでしょ?」
と至極当然な返しを貰った。
自分程食い意地を張っていなくて良かったと安堵していると、魔理沙が戻ってきた。片手には何か握られているが、ミニ八卦路ではない。
彼女はよっこらせと椅子を軋ませながら腰かけ、テーブル上の本を退けてそれを置いた。それは手に収まるほどの大きさの藍色の四角い箱で、開かない様に周囲を薄桃色のリボンで括っている。
「お望みの物はこれで大丈夫か?」
「中身を確認しない事には何とも・・・はたて、良いって言うまで後ろ向いていてくれないか?」
「え?う、うん・・・」
はたての視線が箱から逸らされると、念のためサンカは彼女から見えないであろうテーブルの下で箱を開け、中身に入っている物を確認する。
「・・・大丈夫そうだ。もう良いよはたて。ありがとう魔理沙」
「友人の願いだからな。これからも異変解決から水道管修理までなんでも任せていいんだぜ!」
魔理沙は自身気に宣言すると、手元に戻ってきた箱を手早く包装し、それに見合った大きさの紙袋に入れて手渡してきた。
ご丁寧にも、花を模したリボンまで作ってあった。ある意味繊細なその仕事を見るに、彼女もやはり女性なのだと実感する。サンカは紙袋を受け取ると、中を覗き込もうとするはたてから袋を遠ざけた。
「ねえそれ何?」
「内緒だ」
「また内緒?もしかしてやましい物でも・・・」
「そんな物欲しがるように見えるかい?ほら、もう帰るよ」
「ああ、ちょっと待ってくれだぜ」
心外そうにしながら席を立つと、魔理沙が呼び止めてきた。まだ何か用があるのだろうか?
中腰の体制のまま制止すると、はたては瞬時に魔理沙を睨みつけた。何か不都合な事を言えば殺すと言わんばかりの目だ。
サンカははたてを何時でも抑えられるようにしつつ魔理沙の言葉を待つと、彼女は顔の前で親指を立てた。
何故グッドサインなのだろうか。
「頑張れ!応援してるぜ!」
魔理沙はまるでいたずらを思いついた子供のような笑顔を作った。
サンカは何のことなのか最初はわからなかったが、暫くして言葉の意味に気づいた彼は、死人の様な白い顔を茹ったタコのように赤くした。魔理沙はそれを見て更に面白がる。
「う、うるさい。行こうはたて」
「?」
「結果も聞かせてくれると嬉しいぜ!」
「うるさいっての!」
魔理沙の揶揄うような声が、動揺するサンカの背中を押した。