幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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51話です。今回R15要素(Gではない)が入っているので、不快な方はブラウザバックをお願いします。それではごゆっくり楽しんでください。


51話 ささやかな平穏・2

 完成した食事は基本的な一汁三菜。贅沢過ぎず、かと言って貧相すぎることもない丁度良い品数だ。

 

 

(今日は赤くない料理か)

 

 時々出てくる妙に赤い料理は、食べると不思議と体調が良くなる。何の調味料を入れているのか謎ではあるが、心なしか味も多少良いように感じる様になってきた。とは言え、やはり見栄え的に不気味なのだが。

 

 

「これは・・・鮎?」

「そうなのよ。新鮮なのが手に入ったから・・・貴方の好物でしょ?」

「ああ。ありがとう」

 

 誰かに作って貰う料理と言うのは、なぜこうも旨いのだろうか。一度はたてにおいしさの秘訣を聞いたことがあるが、愛情という答えしか返ってこなかった。本当にそれだけで味わいが向上するかは不明だが、ともあれ彼女の作った料理は一級品だ。

 

 しかし・・・なぜか膳は一人分しか用意されておらず、、一人で食べるには多すぎる量がよそられていた。それに加えて彼女との距離も近く、手を伸ばせば容易に顔に触れられる位置に対面で座っている。これから何をしようとしているのだろうか。意図が全く不明だ。

 

 

「サンカはさ、今日一日私の言う事を聞いてくれるんだよね?」

「まあ・・・うん」

 

 聞くも何も、はたてから提示した罪を償う条件である。よほどでなければ拒否はしない。そう説明すると、彼女は少し恥じらいながらも、ずいっと身を乗り出すような姿勢になった。

 

 

「私に食べさせてほしいなー・・・って」 

 

 そういうことか。何も考えずに添えられていた箸を手に取って一口分のご飯をはたてに差し出すと、彼女は口に含んで咀嚼しゆっくり飲み込んだ。その様子が妙に色っぽく見え、サンカは頬を赤らめる。

 

 

「・・・おいしい」

「そうか」

「ねえねえ、次はこれが食べたいのだけど」

「焼き魚だね。わかった」

 

 再度一口分切り分けて彼女の口に運んであげると、頬を両手で押さえながら心底幸せそうな声を上げる。顔の周りに花が咲いていると錯覚させる程の幸福顔だ。

 

 

(幸せそうだな)

 

 サンカはつられて頬が緩みそうになるのを抑えつつ、自身も食事をするべく箸を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 食事を終えたサンカは、お茶を片手に庭をボンヤリと眺めていた。

 天井から下がっていた風鈴は片付けられており、季節が変わった事を知らせてくる。息を吸えば秋独特の枯れ草のような匂いがふんわりと感じられ、庭の隅では白い彼岸花がゆったりと風に吹かれていた。

 

 白彼岸。それは彼にとっては特別な花だった。この花を見ていると、無性に虚しく、無性に寂しく、無性に`誰か`に会いたくなるのだ。

 `誰か`は彼にとって最も大切で、最も愛しい相手だった。ただし、その人物がどんな姿でどんな声だったのか、記憶が抜け落ちた今の自分では思い出すことは出来ない。

 

 

(・・・・)

 

 食器にこびり付いた米糊も取れた頃だろう。サンカは片付けのために立ち上がると、顎に手を当ててふと考えた。

 

 

(ああいうお昼ご飯も悪くない・・・かな?)

 

 先ほどの昼食はなんとも不思議だった。はたてに一口づつ食べさせつつ、彼女から食べたい物のリクエストが出るまでゆっくり食事を取る。体質上空腹なままではあるが、妙な満足感があった。

 

 ・・・そういえば箸は一膳しかなかく、はたてに食べさせた後にその箸を使って食事を―

 

 その意味を一呼吸置いてから理解し、サンカの顔が自分でも分かるくらい暑くなっていった。終始彼女がニヤニヤしていたのはこのせいか。先程までの感傷はどこへ行ったのか、彼は感情が爆発しかけているのを抑えつつ、恥ずかしさを誤魔化すかのように、走りながら炊事場へ向かった。

 

 

 

 

「あれ?はたて?」

 

 炊事場に入るとそこに食器は無く、代わりに黙々と野菜を切っているはたてがいた。

 

「なーに?」

 

 上機嫌そうに振り向くと、やはりニヤニヤしている。先ほどの事を意識しないように抑えつつ、冷やしていた食器の事を尋ねると、既に片付けたという答えが返ってきた。

 

 

「ありがとう。でも、僕にやらせた方が君に負担が・・・」

「いいのよ別に。それに負担とかそんな問題じゃないし・・・」

「?」

 

 気にしないでと食材を切る手を止めずに言うと、突然彼女の動きが止まり蹲った。よそ見をしている間に指を切ってしまったらしく、手の隙間から流れていく血が痛々しい。

 

 

「大丈夫!?すぐに・・・」

「能力は使わないで!」

 

 怒鳴るように拒否されて体が硬直する。

 治療しようとしているのにどうして拒絶するのだ、と理解できずにいると、彼女は負傷した指をサンカの顔の前まで持ってきて、指差しの形で止めた。指先からは真っ赤な血が滴っている。

 

 

「・・・舐めて治して」

「いや・・・流石にそれは」

 

 次々と変わっていく状況に追いつかない頭が絞り出した一言がそれだった。フランなら喜んで飛びつくかもしれないが、サンカは吸血鬼ではないのだ。自分の指ならまだしも、他人の、例え好きな人の指であったとしても舐めたいとは思わない。それでは変態だ。

 能力を行使した方がずっと早く傷を治せる筈だと訴えるべくはたての目を見ると、そこには光は無く、疑問と不信感の入り混じった感情が見受けられる。

 

 

「なんでも言う事を聞くって、言ってくれたよね?」

「確かに言ったけど・・・」

「じゃあ舐めて」

「う・・・」

「舐めて。ほら」

 

 目が怖い。数度の押し問答を繰り返すと、段々と機嫌が悪くなって行くのが分かった。これ以上逆らうと恐ろしい目に会う気がする。直感的に判断すると、若干抵抗しながらも彼女の指をくわえて血を舐め取った。上目遣いに表情を伺うと、恍惚の表情を浮かべており、少し息が荒っぽい様子のはたてがいる。

 

 

「あぁ・・・サンカが私の血を・・・直接・・・」

 

 何やら小声で呟いているが、それよりも口の中が血生臭くてたまらない。ここにきてようやく罰らしい罰が来たなと思いつつ、こっそり能力を行使して出血を止めた。

 指を口から出すと、素早く流水で洗い流し、ハンカチで涎を取きとる。 口に溜まった血を吐きだそうとしたが、ふとした拍子で飲み込んでしまった。吐き出す事を期待したが、それは叶わなかったようだ。

 

 

「血は止まったよ。はたて」

「え?う、うん・・・」

 

 はたては正気に戻ったような顔になると、渋い表情をしたサンカを他所に、負傷していた指を名残惜しそうに見つめていた。

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