幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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後編です。なにやら書いてる本人が不気味に感じてきました。
ゆっくりお楽しみください。



6話 片鱗・後編

 はたての家に到着した頃には日の光は傾き始めており、辺りは薄暗くなっていた。

 

 彼女の家は一人で暮らすには広々としており、とても片付いていた。縁側からは幻想郷を一望でき、所々明かりの灯っている場所も見て取れる。あの場所は人里だろうか。

 

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「いいのいいの。さ、ゆっくり寛いでね!」

 

 案内された部屋に荷物を置いて楽な姿勢をすると、彼女はお茶を注いで出してくれた。茅葺屋根で天井の高い室内は涼しく、熱いお茶がとても美味しく感じられる。

 

(今日は随分と忙しかったな)

 

 一日に起きた出来事を纏めて整理しようとしたが、やはり自身の常識という点では理解しがたいのもあって、頭は思考の途中で一点の疑問に集中し始めた。

 

 それは、落ちれば即死の高度から落下したのに、何故無傷でいられたのかだ。はたてが何かした訳でもなさそうだし、そもそもあの奇妙な現象は自分自身で発生させたような気がしてならないのだ。

 

 人間の脳は現状では半分程度しか力を発揮していないとどこかで読んだ本に書いてあった覚えがあるが、果たして空中浮遊が可能な程の力があるのだろうか。気になりはしたが、残念ながら超能力の類には疎いので答えが出てこない。

 

 

「夕ご飯作ってくるから、サンカは少し待っててね」

 

 はたてが考え込む彼に言う。見ると浮足立った様子で割烹着を着こんでおり、その姿はどこか初々しさが感じられる。心なしか嬉しそうだ。

 

 だが、家に住まわせてもらうなら家事の一つや二つ手伝わなければいけないだろう。全て家主の彼女に押し付ける程図々しくはない。

 

 サンカは口を尖らせる彼女を説得すると、サイズの合わない割烹着を中途半端に着て、調理場へと向かった。

 

 

「さてと。献立はどうしようかな」

 

 釜土の前に立って、軽く伸びをする。自炊は何度もしているので、幸いにも料理には自信があるのだ。流れるような動作で米を炊き、丸々と太った川魚を調理する。

 折角なら彼女が食べた事の無いであろう料理にしてあげようと、リュックサックから調味料を取り出し、炊事場へと持っていく。

 

 

「美味しそうな匂いね。何を作っているのかしら?」

 

「ああ、これは―」

 

 つい質問に答えそうになったが、この声ははたてではない。どこからだ、と声の主を探したが見つからない。空耳だろうか。

 

 

「こっちよ。こっち」

 

 また聞こえた。場所は米を炊いている釜からのようだ。まさかと思いつつ蓋を取ると、

 

 

「初めまして」

 

 西洋人形の様な麗しい金髪の女性が居た。咄嗟に窯の蓋を音を立てて閉め、落ち着こうと深く息を吐く。なぜ窯の中に女がいるのだ。

 

 ひょっとすると見間違いかもしれないと判断し、再び窯の蓋を開けると、そこには綺麗に炊けた御飯があるのみである。女性はどこにも見当たらない。

 

 

「気の……せいか。気のせいだよな、うん」

 

 疲れで幻覚を見た、そうに違いない。サンカは自分に言い聞かせながら、作業へ戻った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「お待ち遠さま。ご飯できたよ」

 

「わあ!人が作ったご飯って何年ぶりだろ~」

 

「口に合うと良いんだけど」

 

「美味しそう……なんて料理なの?」

 

 食事を膳に並べて運ぶと、はたては既に座って待っていた。一つ一つ丁寧に説明すると、彼女はそれを聞きながら手元にあった紙に料理の名前を書き込み、食事に手を付ける。

 

 瞬間、目が輝き、驚きの声を上げる。

 

 

「こんなに美味しい食事初めて食べたわ!どこで覚えたのこれ!?」

 

「海を跨いだ向こう側の国だよ」

 

 どうやら気に入ってもらえた様だ。かなり早いペースで食べ進めている。

 サンカはそれを見ていると、どうしてか心に空いた穴が埋まって行くのを感じ、自然と笑みが零れた。

 

 

「あ、初めて笑った」

 

「え?そうかな……」

 

 笑たのは何年振りだろう。自身も食事に手を付けつつ見つめていると、後ろの空間から女が音も立てずに現れた。サンカは窯の中の女だと認識した瞬間、後ろへ飛びのく。

 

 

「うおっ!!」

 

「?どうしたの?」

 

「う、後ろ……」

 

 振り向くと、少し驚いた顔をした後、何かマズい物を見た表情へと変わる。

 

 

「ゆ、紫」

 

「久しぶりね。はたて」

 

 顔見知りのようだ。紫と呼ばれた女は空間に開いた隙間から上半身を乗り出してフワフワと浮いている。

 

 

「最近また誰か隙間を通って入ってきたみたいだから見に来てみれば、貴方が匿ってたのね」

 

「な、何の用よ」

 

「別に?ちょっと様子を見に来ただけよ」

 

「は、はたて、誰なんだこの人は?」

 

 サンカの問いにはたてではなく、女が答える。

 

「私は八雲紫。この幻想郷を作った賢者の一人よ」

 

 彼女が話に聞いたこの地の創造主なのか、とサンカは納得した。それならこの怪奇な能力にも納得がいく。とすれば、ここの世界からの出かたも何かヒントに生り得る事を知っているのではないだろうか。

 

 

「八雲さん」

 

「紫でいいわ」

 

「では紫さん。貴方はここを作ったんですよね?ここから出る方法は何か知っていたりしませんか?」

 

「出る?それは―」

 

 そこまで言いかけた時、はたてが紫の口を押え、奥の間へと連れて行った。暫くして二人が戻ってくる。

 

 

「出る方法だったわね。それは存在しないわ」

 

 やはり出ることは不可能なのか。落ち込んでいると、紫は話しを繋げた。

 

 

「完全に出ることは出来ないわ。でも時間制限付きで、一時的であれば外界に帰れる」

 

「本当ですか!?」

 

 思わず立ち上がると、紫はサンカに小さな御符を渡した。蝋燭の光に当ててみると、相当古い物らしく、字が掠れて読めない。

 

 

「それがあれば1日程度出ることができるわ。でもそれを過ぎた場合、貴方は体が風化し死に至る。幻想の者になった宿命よ」

 

 死亡するリスクはあるが、一時的に外へは出られるのだ。これを調べつくせば、完全に外へ出る方法も見つかるだろう。

 

 

「そ、そうだ。お風呂沸かしておいたのよ。良かったら入ってきて」

 

「え?ああ、それはありがたいけど、紫さんにお礼を―」

 

「入ってきて」

 

 殺気を感じ、サンカは若干たじろいだ。相手は少女といえど天狗である。大人しく従った方が無難だろう。

 

 

「な、ならお言葉に甘えて」

 

 サンカは着替えを取りに、走るようにして自身にあてがわれた部屋へと消えて行った。それを見送ったはたては一際大きなため息をついて、紫を睨む。

 

 

「アンタ、私の邪魔をするわけ?」

 

「そんな事無いわよ?でも、こんな強引なやり方じゃあの子は振り向いてくれないかもしれないわね」

 

 はたては歯を食いしばった。仮にも幻想郷の創造主でもある紫に歯向かえば、存在を消されてしまう。そのことは彼女が一番知っていた。それを見透かしたように、紫は気味の悪い笑みを浮かべる。

 

 

「まあ、貴方がこの100年間彼を探してようやく引き込んだ訳だけれども、彼は貴方どころか、自分が何であったかも忘れているみたいね」

 

「……うるさい」

 

「私の張った結界まで歪めて……何故そこまで彼に執着するの?」

 

「うるさい!!」

 

 家が揺れ思える程の大声で怒鳴る。その形相は、先ほどまで幸福そうな表情を浮かべていた少女と同一とは思えなかった。

 

 

「……まあ、私は貴方が彼をどうしようと気にも止めないけれど。精々気を付けなさい。彼は唯一の生き残りよ」

 

 紫は空間に隙間を作り出すと、影と同化するかのように消えて行った。

 

 

「……」

 

 一人残されたはたては、サンカが使った箸を手に取り、火の光に当てる。まだ少し唾液が付いている箸は、光が反射しキラキラと光を放っていた。

 

 

「やっと見つけた。サンカは私の物よ……誰にも渡さないわ」

 

 誰もいない居間で、はたては静かに、しかし不気味に笑った。




一先ずこれで第一章は終わりです。
次回からは本格的に異変解決物となりますので、ご期待ください。
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