幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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65話 怪奇なる生命・後編

 サンカとの話を終え、寝巻に着替えたはたてが外気との寒暖差に震えながら部屋へ向かっていると、庭の真ん中に不可解な物を見つけた。

 この空間は月が無いのになぜか薄明るいので、大まかな形状でしか分からないものの、それが人の形をしているという事だけは判別できた。

 

 確か脱衣所にあった時計は丁度丑三つ時を指し示していた筈だ。

 紫の知人が遊びに来たのかとも考えたが、来客にしては非常識すぎる時間帯での来訪であるし、そうでないなら気味が悪い。いずれにせよマトモな人物でないのは確かだろう。

 

 人影は特に何をする訳でもなくただそこに立っているだけだったが、得体の知れない言い知れぬ恐怖を振りまいていた。

 関わるのは得策ではないが、誰かにこの事を知らせようにもサンカは万全でないし、紫は何所にいるか分からない。はたては何方を頼るかを数秒思案すると、サンカの方がまだ安心できると判断して一度浴室まで戻る事にした。

 

 

(気づいてない・・・よね?)

 

 万一でもあれが自身の存在に気づいたら、命の保証がないと第六感は強く警告しているのだ。従わない理由はない。

 今更な気はするが、足音を立てないようにすり足で後ろへ下がっていく。

 

 

――カタン

 

 

 足になにかがぶつかり、跳ね返って乾いた音が静寂の中に響く。足元を見てみると、手鞠が一つ転がっていた。そういえば、サンカの稽古中に猫が遊んでいたようなー

 

 急いで人影の方を向くと、人影も此方を向いていた。それは白っぽい髪色で緑の服を着ており、背中に2振りの刀を背負っていた。

 

 

(妖夢?)

 

 異質な気配を放つ物の正体は彼女だったが、何か様子がおかしい。呼吸は不規則で、焦点のあっていない目で体はフラフラと揺れ始めている。

 

 数分程注視していると、突然妖夢は大きく体を震わせて跳躍し、此方へ飛んできた。その挙動は生理的嫌悪感を覚える動きで、考えるより先に体が動いていた。

 

 

「きゃあ!!」

 

 悲鳴を上げながら飛び退くと、先程までいた場所に派手な音を立てて落ちてきた。彼女はすぐに起き上がって来たが、やはり動き方は気持ちが悪く、ゴキカブリのように此方へ走って来た。

 

 助けを呼びに行く暇はない。はたては厳しい面持ちになると、懐から携帯を取り出してカメラを向けた。悪あがきになるかも知れないが、助けが望めない以上此処で食い止める他にない。

 今まで相手にしてきたどんな異形よりも強い圧に震える手を押さえ、奮い立たせる様に叫ぶ。

 

 

「これくらい私だって!」

 

 スペルの宣言をせずに能力を行使すると、紫の光を放ちながら無数の弾幕が放たれ、妖夢に命中していく。出力を弱めているので大した傷にはならないが、足を止める事ができた。

 

 はたては間髪入れず、弾幕を受けて仰け反った姿勢になった彼女をファインダーに収め、シャッターを切った。写真として納められた空間には更なる弾幕が展開され、その一つ一つが優美な機動を描いて目標へと吸い込まれていく。

 

 

「ギュイィィ・・・」

 

 おおよそ人の声とは思えないような怪音を出して後ろへ吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなる。

 息を整えて恐る恐る近づくと、彼女はぐったりした様子で気絶していた。一応は無力化できているので起き上がってくる事はない筈だが、一抹の不安は残る。

 

 

「いい加減にしてよ・・・もう」

 

 誰にぶつけるでもない悪態を静かにつくと、伸びきっている妖夢を軽く蹴った。

 

 このまま気の触れた妖夢を放置したとしても碌な事にならないのは明白なので、この場で息の根を止めてしまえばさぞ楽だろう。それに二人の仲を引き裂く敵になる前に排除してしまえば、ある種の予防にもなるので一石二鳥である。

 

 だがそんな事をすればサンカは喜ばないし、異変を起こしている首謀者を倒せなくなる恐れもあるのでぐっと堪え、明日の朝になるまで屋敷の柱にでも括り付け、判断を紫にゆだねる事にした。

 

「それにしても、馴れ馴れしく私のサンカの手を掴むなんて本当に油断も隙もないわ」

 

 はたては苦虫を噛み潰したような顔をしながら、妖夢を背負って屋敷へと運び込んだ。

 

 

◆◆◆

 

 

「それでここに妖夢がいるのか・・・」

「ごめんねサンカ。今度一緒に外界に出掛けよ?」

 

 二人の声がする。重たい瞼を開けるとぼやけた風景が徐々にクリアになり、何故か紫の屋敷で布団に寝かされている事が分かった。襖の前ではサンカとはたてが背中を向けて話し合いをしており、不穏な空気が流れていた。

 

 

「あ、目が覚めたみたいよ」

「平気かい?気分は?」

 

 目覚めた事に気づいた二人が振り向くが、その顔を見て凍りついた。顔はグチャグチャに潰されたひき肉の様になっていて表情を窺い知る事はできず、何故今まで分からなかったのかが不思議な程の凄まじい腐臭が漂ってくる。

 

 

「う、うわああああああ!!」

 

 刀はない。ならばと腕を振り回して二人を振り払おうとするが、サンカと思われる方の人物に取り押さえられてしまった。

 

 

「妖夢落ち着いて!何があったの!?」

「いやああああ!!」

 

 パニックを起こした妖夢はただひたすら暴れ続ける。取り押さえて来た男は埒が開かないと判断したのか、妖夢の両腕を拘束した上で頭を掴んで床に押し付けた。絶妙に力が入れにくい体勢のため、なされるがままになる。

 

 

「この・・・あれ?」

 

 目を動かして睨みつけようとすると、その顔はひき肉の様な醜い物ではなく、しっかりした人の顔に戻っていた。

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