幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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今年最後の投稿になります。来年も良い年になりますように


66話 意識

「なにも覚えてない?」

「は、はい」

 

 サンカは神妙な面持ちで妖夢にアレコレ聞いたが、彼女はどの質問に対しても首を横に振るだけだった。

 彼ははたてが襲われたことで気が立っており、返答次第では肉片に変えてしまうつもりだったが、本当になにも覚えていないと察してからはなるべく静かに聞いていた。

 

 彼女曰く、主の屋敷に戻って簡単な報告を済ませた後に炊事場で調理を始めようとしたら、気がつくと紫の屋敷で寝かされていたと語る。はたてを襲撃した事も記憶にないようで、その場にいる全員が首を捻った。

 

 念のため他者を操る事ができる能力を持っていて、今回の騒動を引き起こしそうな、或いは引き起こすことが可能な人物に心当たりがないか聞いてみたが、似たような力を持つ者は居るには居るがどれも毛色が違うし、こんな事をさせる理由も特にないとの事だ。

 

 

「とりあえず、朝になったら紫に聞いてみようよ。今回の異変関連なら何か知ってるかもしれないでしょ?」

 

 分からない事ばかり浮かんで誰もが首を捻る中、はたてはそう提案した。確かに紫に聞けば何かしら知っていそうではあるし、一度休んで過熱気味の頭をリセットさせれば、小さな見落とし等に気づく事が出来る筈だ。

 

 

「・・・そうだね。そうしよう」

「わかりました。一度私は失礼して―」

 

 平行線のまま話を終えて、妖夢の見送りをしようと立ち上がったまさにその時、タイミングよく紫が障子を開けて入って来た。先程まで寝ていた所を藍に起こされて急いで来たらしく、息は上がっているし髪型は崩れていているしで折角の美人が勿体ない事になっている。

 

 

「紫さん?どうし」

「二人とも一旦妖夢から離れなさい」

 

 普段の落ち着きが全く感じ取れない程に取り乱した口調で、サンカの声を遮った。よく見れば彼女は汗をかいていたのだが、それは体を動かしたせいで出る汗ではなく、緊張から出てくる汗の様だ。普段は飄々とした態度を崩さない紫がここまで焦るのも珍しいと同時に、かなり悪い状況だということも伝わってくる。

 

 突然そんな事を言われた3人はポカンとしていたが、痺れを切らした紫がはたてとサンカの腕を引っ張って部屋から強引に退出させると、妖夢の体の彼方此方を触りつつ痛みが無いか確認しだした。

 

 

「・・・まだ大丈夫そうね。サンカ、能力で治療をお願いできないかしら」

 

 安堵の入り混じった声と共に手招きされたが、サンカは言葉の意味を理解するまで時間を要した。何故なら妖夢には目立った外傷は少なく、止血剤や消毒剤を付けておけば自然と癒えるので治療は必要ないと判断したからだ。

 紫はその指摘を聞いたが、それでも治療をする様に迫ってくる。

 

 

「急いで。空気が冷たくても進行を完全に止められる訳じゃないんだから」

 

 進行という単語を聞き、何かしらの菌やウイルスに感染していると考えて二度小さく頷くと、彼はおずおずと近づいて両手をかざしながら、別に口にする必要のないスペル名を呟いた。

 

 

不空羂索(ふくうけんじゃく)

 

 その途端に、まるで治療を拒むように妖夢が暴れ出した。

 

 白目を剥いて口から泡を吐きながら、男、或るいは低い老婆の様な声で罵り始めるが、紫は臆することなく隙間から出した無数の手で押さえつけつつ、時々弾かれそうになりながら、怯んだサンカに治療を続けるよう激を飛ばした。

 

 だが能力が発動すると、あれだけ暴れていたのが嘘の様に、動きが突然ピタリと止まった。

 怪訝に思いながら覗き込んでみると、驚いた様に大きく口を開けながら両手両足をピッチリ合わせて硬直している。一見すると間抜けな光景だが、この状態では流石に恐怖を感じざる負えない。

 

 

「よ、妖夢?へい―」

「ギイイイイイイイアアアアアア!!」

 

 あまりにも微動だにしないので、呼吸しているか確認するために耳を近づけた瞬間、想像を絶する大きすぎる声量で叫ばれてしまい、何も聞こえなくなった。思わず治療を続けている手を離しそうになったが、紫に掴まれてどうにか堪えることは出来た。

 

 妖夢は肺の空気を出し切りながら叫び続けると、緑色の泡を吐き出してぐったりしてしまい、再び動かなくなってしまった。先程と違うとすれば、力が入っていない事である。

 

 

「死んで・・・ませんよね?」

「眠っているだけよ。安静にしておけば大丈夫」

 

 紫は眠たいのかウトウトしながら布団を被せ直し、妖夢の頭を母親の様な優しい手つきで撫でた。私室まで連れて行こうかと提案したが、妖夢の経過を見たいと丁重に断られた。

 

 改めて吐き出されたものを見てみると、泡の様なそれはベタベタと粘着質で、血が少し混じっているのも確認できる代物だった。臭いも膿のそれで酷く臭く、鼻が曲がりそうになる。

 

 

「それなに?」

 

 はたてが恐る恐る背後から近づき、鼻をつまみながら肩越しに泡を凝視した。紫は素早く隙間の中にそれを落として処理すると、手に付いた埃を払う仕草をする。

 

 

「タタラの能力よ。生きた者の意識を乗っ取り、自身の駒に作り替えるの。もうここまで来ているとはね」

「彼女の主は大丈夫でしょうか?」

「人から人へは移らないし、既に屍になった者には使えないわ。妖夢は半人半霊だからこそ餌食になったの。さあ、明日も早いわよ。部屋に戻ってなさい」

 

 サンカは何も言わず、後ろから一連の流れを不安そうに見ていたはたてを連れて、半ば追い出される形で薄暗い廊下を歩き始めた。

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