幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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体調不良につき、先週投稿出来なかった事をお詫びします。


77話 旅は徒然

 二人は山を抜け、とある街の茶店で甘味を楽しんでいた。急ぎではあるのだが、丸一日通して歩き続けたせいかはたてが不服そうにし始めたので、機嫌をとるため、そして休息をするために立ち寄ったのだ。

 

 

「このお団子、柔らかくて美味しいね」

「ああ、そうだな」

「おにい・・・サンカ、眠そうだけど大丈夫?」

「駄目かもしれん」

 

 はたてがホクホク顔で団子を頬張るのを眺めつつ、サンカは目を擦りながらうつらうつらとしていた。

 

 彼自身も寝不足気味なせいか頭がよく動いておらず、この状況で野犬か狼、追い剥ぎに襲われでもしたら一溜まりもないだろう。

 

 そこで、人気が多い場所である環境を逆手に取り、敢えて此処で休息を取る事にしたのだ。遅くてもあと1日で目的地に到着するので、その前にこの鉛のような疲れを取りたかったし、いい加減固い地面とおさらばしたかった。

 

「宿はとってあるから、今日はそこで休むぞ。あと少しの辛抱でお前は家に帰れる」

 

 そう言うと、はたては小さく頷いた。

 

 格好を見た者は皆息の根を止めてきたが、念の為お互いの服を新調し、はたての翼を麻布で隠してあるので、仮に見つかったとしても言い訳をして彼女を逃がすことができる。黒っぽい特徴的な被服も街に入ってすぐ売り飛ばしたので、見つけ出すのも困難だろう。

 

 -勿論、戦闘になったとしても負ける事は決してないのだが。

 

 

「食べ終わったか?行くぞ」

「あ、待って」

 

 食べきったのを見計らって会計を済ませようとすると、はたてに制止された。彼女は代金を受け取ろうとしていた娘へと駆けていく。

 

 

「えっと、その・・・ご、ごちそうさまでした」

「まあ!」

 

 勇気はいるが、歳が近そうな相手であれば話せると判断したのだろう。自分よりも小さい子供が茶菓子の礼を言うのを見て、娘はお盆で口元を隠しクスクスと笑った。

 

 

「とってもお利巧なお子さんですね!御父上の躾が良いみたい」

「ああ、ははは・・・」

 

 他所から見れば父親に見えるのか。サンカは背後で爆笑している客に舌打ちをしつつ、頬が緩みきっている娘へと代金を渡して店を出る。

 

 

「まったく・・・人が増えたな。逸れるなよ」

「う、うん」

 

 気を取り直して、闊歩する人々を縫うように通りを歩く。整備された風景は一見すると綺麗に見えなくもないが、うっすらと腐臭が漂っていて、簀巻きにされた死体が荷馬車で運ばれていくのを何度か見た。細い路地に目を向けると、乞食が転がる死体から金目の物や被服を剥いでいる。

 

 聞けば最近になって異形が現れるようになったらしく、それの犠牲になった者達なのだという。夜に出歩かないよう箝口令も出ているが、それを無視して出て行く愚か者が後を絶たないとの事だ。

 はたても外に出なければその心配もない筈だが、一応言っておくに越したことはない。

 

 

「いいかはたて。夜になったら外には出るなよ。何か聞こえたり見えたりしても、絶対に宿から出ちゃ駄目だ」

「うん・・・」

「・・・浮かない顔だな。どうした?」

「やっぱりここ、人がいっぱいいて嫌」

 

 はたては道行く人に怯えた眼差しを向ける。確かに彼女には辛いだろうが、この道を通らないと旅籠へは行けないので妥協はできない。逸れないよう手は繋いでいるが、汗ばんでいる肌の感触からしてストレスになっているのは間違いないようだ。

 

 

「もう少しの辛抱さ。ほら、頑張れ」

 

 サンカは少しでもはたてを安心させるために、彼女の手を強く握り返した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「着いたぞ。布団は敷いておくから、ゆっくり休んでくれ」

 

 二人が通された部屋はそこそこ広く、部屋の片隅には木組みが赤色に塗られた行灯が置かれていた。窓は通りと反対側に位地しているため、障子を開けば紅葉に彩られた美しい山が一望できる。

 

 

(ええと、ここか?)

 

 サンカはゴソゴソと押し入れから布団を取り出して、行灯の置かれている場所へと持って行く。本来ならここで働いている者の仕事だが、彼らが布団を敷いてくれるまで待っていられない。

 

 一方のはたてはと言えば、フカフカの布団に埋もれてはしゃいでいる。やはり子供は元気だ。

 

 

「そうだ、包帯を変えないとな」

 

 無事に布団も敷き終わり、襖が閉まっているのを確認すると、包帯を片手に手招きした。膿抜きも多少はやったが、また溜まってきているかもしれないので、剥がした拍子に部屋が汚れないよう注意する必要がある。

 

 

「痒くはないか?痛みは?」

「ううん。大丈夫」

 

 何度目になるか分からないやり取りを交わしながら、汚れた包帯を解く。その下には痛々しい傷が・・・無かった。

 

 糸はそのまま縫われているので何所が怪我をした場所なのかは分かるのだが、それにしても綺麗に傷跡が消え去っている。天狗は人と比べて治癒能力が高いとは聞くが、他の天狗も皆こうなのだろうか。考えていても始まらないので抜糸すると、傷は完璧に分からなくなっていく。

 

 

「凄いな。少し手当てしただけなのに、もう治ってる」

 

 感嘆の声を上げると、はたては意外そうに首を傾げる。

 

 

「お兄ちゃんはすぐに治らないの?」

「人は怪我を治すのに時間がいる。僕もこうだったら良かったんだが」

 

 今は無き片足を、これまた今は無き左手で摩ってみせる。それを見たはたては哀しい表情になり、その日は眠るまで片時も傍を離れようとはしなかった。

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