幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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81話 舶来の剣

 彼らは逃亡者の身体的状態を考慮し、それに合った戦術を想定していた。ただの人間、ましてや義手義足という大きなハンデがある以上、発揮できるであろう力はたかが知れており、数人でかかればすぐに勝負がつくと楽観的に考えていたのだ。

 

 だが現実は想定とは大きく異なっていて、見通しが甘すぎたとすぐに痛感させられる事となった。

 

 

「なんと優雅な・・・あれが異国の剣術だと言うのか?」

「見惚れている場合か!気をしっかり持て!」

 

 獰猛にして優美。その言葉がピッタリな程に、彼の太刀筋は洗練されている。剣を振るう時に生じる無駄は極限まで削ぎ落とされ、足の運びから呼吸まで計算されつくした動作は、神前で舞を披露しているかのような堂々とした美しさがあり、殺陣という言葉に疑問符が付いた。

 

 更には敵に余計な苦痛を与えないよう的確に急所を狙って即死させているのだが、狼等の肉食獣が獲物を仕留めるような荒々しさは決してなく、寧ろ繊細な印象を与える攻撃は、その場にいる誰もが魅了されている。

 

 

「綺麗・・・」

 

 おぞましい妙な気はちらほら漏れ出ているのだが、それすらも相俟って危うい儚さを覚えてしまい、殺し合いの最中だというのも忘れ、はたてもついつい見惚れてしまう。戦は血生臭く陰険な物だと考えていたが、こうも不快にならない戦も有るのだろうかと、彼女は子供ながらに思った。

 

 

「ばっ、化け物がああ!」

「・・・」

 

 刀を真っ直ぐ構えて吶喊してくる敵を前に、サンカはサーベルを一旦納めて目を瞑り、柄に手を掛けたまま意識を指先へと集中させる。全ての音が遠ざかり、自身の心音と呼吸が大きく聞こえ、直にそれすらも聞こえなくなると、より意識だけが鋭角になって行く。

 

 

(遅いな)

 

 誰かが言っていたが、時を斬れるようになるには二百年は掛かるらしい。人間にはまず達成不可能な領域であるが、この事象がもし刻を斬るという物なのであれば、人外が気の遠くなる修行を重ねている間に、既に達成していた事になるのだろう。  

 

 あと少しで切っ先が顔に突き立てられるその刹那、刀を振り上げた敵は、サンカの目前で崩れ落ちていった。

 ほんの一瞬の出来事ではあるが、彼は能力を使った訳では無く、その攻撃の瞬間を見ていた者達が認識するよりも遥かに速く動き、首の皮一枚を残して斬り伏せたのだ。

 

 

「配下の者は皆死んだ。後は大将首の貴様だけだ」

 

 息を整えると、刀身に付着した血糊を振るい落とす。岩に腰かけていた餓鬼も、余裕綽々といった具合で観戦していたのだが、現在は険しい面持ちでサンカを睨みつけている。

 

 

「なかなかやりおる・・・敵ながら天晴れだ」

 

 餓鬼は襲い掛かって来るサンカの後ろへと攻撃を躱して回り込み、振向きざまに彼の顔を掴んで口を大きく開く。サンカは腐臭を嗅がされて嫌な顔をしたが、内部で揺れ動く小さな火を見ると顔色を変えて、顔面を掴む餓鬼の腕を切り落として頭を下げた。

 

 ボウッ、と轟音を立てて周囲が明るくなる。背後に尋常ではない熱を感じ、飛び散る火の粉に肌を焦がしながら、周囲が文字通りの焦土と変わって行くのを見て、餓鬼の能力を知る。

 

 

「火焔・・・そうかお前が針口か」

 

 炎を吐き出し終わるタイミングを見計らい、顎を蹴り上げて隙を作りつつ、間合いを取って相手を視界に収めた。はたてが無事か気になって見てみれば、彼女は木の上の方へ逃げており、餓鬼―針口を動揺した目で見下ろしている。

 

 

「名を知っているとは、貴様も勤勉な」

「黒い噺はよく聞いている。逃がすと後が面倒だ。ここで倒されてもらうぞ」

「面白い。やってみろ人間風情が!」

 

 腕を再生させて再び炎を吐き出す。逃がさない工夫のつもりか先程と比べて火が左右へ大きく広がっており、横へ逃げるのは愚策だ。

 そこで、サンカは炎とは逆の方向に逃げつつ、岩を盾にして体を小さくした。直接焼かれはしないが、周囲が熱い。

 

 

(頭を狙えるか?いや、サーベルじゃ無理か)

 

 強い生命力を持つ餓鬼を倒すには頭を一撃で消し飛ばすか、能力を使わせて疲弊させたところを倒すかの二択しか存在しない。可能であれば後者が望ましいが、相手の霊力がいつ尽きるか不明瞭なので、前者しか選択は無い。

 

 だが、遠距離から攻撃しようにも銃器は預けるか棄てるかしてしまったので肉薄せざる終えず、体を焼かれる覚悟で挑まなければいけないだろう。であれば、奥の手を使ってみるのも手だ。

 

 

(これっきりだから使いたくはないんだが・・・やるしかないか)

 

 サーベルを納めて義手のカバーを外し、内部に張られている赤い紐に指をかける。機会は一度だけ、外せば後はない。

 

 

「見つけたぞ!丸焼けになるがいい!」

 

 覚悟を決めると、頭上から声がした。すぐさま仰向けになって左掌をまっすぐ突き出し、指の隙間に針口を捉えた。その口には火がくすぶり、いつでも火焔が吐き出せる準備が整っている。

 

 

(落ち着け。確実に当てるんだ・・・今だ!)

 

 充分に引きつけてから紐を引っ張ると、けたたましい音を立てて掌から散弾が撃ち出され、針口の顎から上が柘榴のように弾けた。義手にヒビが入り、だらりと指が垂れさがる。

 

 

(当たった!)

 

 体を捻って早急に起き上がると、針口の死骸が粉々になった肉片と共に落ちて来た。針口はジタバタと暴れていたが数分して大人しくなり、みるみる溶けて消え、気づけば静寂が戻っていた。

 

 思い出したようにダメ元で指を動かそうと試みるが、射撃の反動で異常が生じたらしく、一本たりとも動かすことができない。直す手段はないので付け根ごと腕を外し、膝の上に置く。

 

 

「ポンコツめ・・・」

「お兄ちゃん!」

「・・・はたて、悪いが手当てしてくれないか?片手が使えないんだ」

 

 駆けてきたはたてに義手を持ってユラユラと振ると、彼女は半泣きで手当てをしてくれた。何度も謝られたが、腕の一本を犠牲にして彼女が無事なら本望だ。

 

 

(もうすぐお別れか・・・)

 

 彼女を送り届けたら、次は何をしようか。サンカは針に糸を通そうと格闘するはたてを見ながら、気づかれないように憂鬱な声を漏らした。

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