幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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前回に続き不快な描写があります。ご注意ください。


84話 返り討ち

 座敷牢にて、サンカは自由を奪われて拷問にかけられた。拷問は小一時間続いたが、サンカがあまりにも無反応過ぎたせいか天狗達の方が消耗しており、流血しっぱなしの彼を置いて小休止を始めていた。

 

 

「どうだ人間の拷問は?」

「胴の皮半分剥いで両足を捥ぎ取っても、うめき声一つ上げやしねえから気味が悪りいや。本当に人間なのかよ」

「じゃあエレキテルは試したのか?あれで痛がらない奴は・・・」

 

 電気を流したって無駄だぞと、声には出さずに重たい瞼を開けると、牢の外で烏天狗が二人いるのが見えた。

 表皮を剥がされたせいか体の右半分に不快な感覚を覚えたし、オマケに左側の視界が消えていたが、これもすぐに慣れるだろう。

 

 

(残忍な真似をしてくれるな、全く)

 

 はたてなりの良心で連れてこられたので彼女を攻める気は全くなく、寧ろ初めて出会った時とは真逆の立場だなと考えるくらいには楽観的だった。あの時と違うとすれば、腕が天井から吊るされていないのと、連れ出してくれる相手がいないくらいか。

 

 

「笑ってやがる。さっさと殺しちまった方が良いと思うんだが」

「親方様が情報を吐かせろって言ってんだ。我慢しろ」

 

 お前らが知りたいような事は何もないぞと首を小さく左右に振るが、意図は伝わらなかったらしい。二人は腫物を扱う態度を取りながら格子戸を開けて出て行くと、代わりに虚しい静けさがやって来た。

 

 

・・・(あの娘は無事なのか?)

 

 自分の状態よりも引き離された相手の事ばかり考えてしまう。

 

 腕が飛ぼうが顔の皮を剥がれようが、後先の残っていないこの自分がどうなろうと知った事ではない。こんな人間一匹よりも、未来への道のりがまだ続いている天狗少女―即ちはたてが生きているのかが気になるのだ。

 なんとか無事を確認したいが、もし彼女が先に三途の川を渡っていたらと想像すると、残った手の震えが酷くなってしまう。赤の他人に対してこれだけ入れ込んでしまうような事は後にも先にもないだろうが、これが恋なのだろうか。

 

 

(・・・そんな訳ないだろう。さっさとここから出ないとな)

 

 大人しく死を待っていても仕方ないので、脱出する術を思いつく限り試してみるべく行動に起こそうとすると、天板が外れる音が聞こえた。音を立てた正体を知りたいが、生憎明かりを持っていかれたせいで何も見えない。鼠だろうか。

 

 

「人?いったいどこで?」

 

 鼠ではなかった。声からすると男で、まだ若年特有の青臭さがある。サンカが得体の知れない相手に注意を向けると、男は小さな明かりを灯し、姿を露わにした。

 

 彼は上から下まで真っ白な出で立ちで、色素の薄い獣の耳と尻尾からするに、希少性の高い白狼天狗だろう。うろ覚えだが、(馬鹿馬鹿しいが)不老不死の効能がある丸薬の材料だったと記憶している。

 

 

「もしや・・・巷で噂の妖怪狩りとお見受けいたします。力をお貸しいただきたい」

「誰だ?」

「別に名乗る程ではありません。我々はこの屋敷の主を捕えるためにやってきました。ですが、我々だけで達成するには今一つ困難を極めております。そこで此処から出た後の安全を保障する代わりに、少々我々にご協力をお願いしたいのです」

「取引か?いいだろう。だが此方からも条件がある」

「何でしょう?」

 

 全く臆さずズケズケと交渉をする彼に興味が湧いたらしく、微笑んでずいっと顔を近づける。サンカは遠慮せずに条件を要求すると、彼は「善処する」と快諾して錠を外してくれた。

 

 

「丈夫な物は持っているか?棒状なら何でも構わん」

「これでよければ」

 

 やや大ぶりな刀を差しだされると、サンカは刀身を柄から外して足に突き刺した。天狗が渋い顔をするが、ふらつきながら立ち上がる。

 

 

(待っていてくれよ。今助けに行くからな)

「ったく人使いが荒い主人だこって。もうちょっとマシな―」

 

 彼は見張りの天狗が鍵を外して一人で入って来たのを確認すると、背後から音も無く忍び寄って口を押え、全身の力を込めて首をへし折った。牢に引きずり込み、痙攣している男から短刀を奪い取ってもう一人が戻ってくるのを静かに待つ。

 

 

「おーい煙草を忘れっ!?」

 

 短刀を喉笛に差し込んで掻き切る。彼の者の目には光が無く、顔に掛かった血を拭い取った。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 はたては親に身を清めるように強要され、濡れた体を丹念に拭き上げていた。あの親なので絶対に何かあるに違い無いが、今は指示に従っておきつつ、隙を突いてサンカと共に出て行く算段である。相手は甘く見ているので、容易く手玉にとれるはずだ。

 

 

「ん?」

 

 服を着ようと着替えの入った籠に手を潜らせると、硬いゴツゴツした物に触れる。取り出してみると、サンカから預けられた拳銃だった。寝る間際に何時も彼がやっていたように、見様見真似で弾倉をクルクルと回転させると、弾丸は満装填されていていつでも発砲可能な状態にあり、軽く教えられたとおりの操作をすれば、確実に弾が出る筈だ。

 

 

「おい、いつまでやってるんだ?客が待ってるんだよ」

「・・・はい」

 

 母親の声だ。ブカブカではあるが、はたては拳銃を収めたケースを服の下に隠し、俯いたままその場を後にする。

 

 

「なんだ待ちきれなかったのかい?ほら行きな」

 

 頭を掴まれて無理矢理振り向かされると、サンカを殴りつけた男天狗が立っていた。体臭は臭く、嫌に息が荒い。

 

 

「アンタの望み通りの物だよ、今晩はソイツを好きにしていい。金はそうねぇ・・・10両でどう?」

 

 男は提案を了承したらしく、はたてが逃げるよりも早く腕を掴み、布団が敷かれた座敷に引きずりこむ。服を乱暴に脱がせようとしてくる男に抵抗するが、圧倒的な体格差がそれを拒む。

 

 

「やめて!やめ・・・」

 

 はたては噛みついたり叩いたりしたが、何かが切れる音を聞いて急に頭が冷え、どうすればこの状況を脱する事ができるのか自ずと理解した。

 

 抵抗を止めて腰の位置に手をやると、気を良くした男が自分の服を脱ぎ始めた。その間冷静に拳銃の撃鉄を指で起こし、ケースから引き抜いて動きを止めた男へ容赦なく発砲する。はたての目に光はなく、闇よりも暗い色を湛えている。

 

 

「ひっ、ひいいいいい!!」

 

 男は銃で反撃されて頬を負傷すると、声にならない声を発しながら床を這って逃げ始めた。巨体という身体的特徴が仇となり、その足取りは非常に鈍足だ。はたては半裸の格好のまま男の前に回り込むと、撃鉄を再度起こして銃口を額に押し付ける。

 

 

「わ、悪かった!殺さないで―」

 

 そして彼女は、引き金を引いた。

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