幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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87話 博麗の巫女

 草木も眠る丑三つ時。例の白狼天狗に呼び出され、新しく拵えた義足を鳴らしながら静まり返った里を出た。彼ら人外達が生き残る術を知っている人物から指示があったらしく、これからとある神社へと向かい、そこの巫女と話を通しておくらしい。

 

 

「して、俺は何をすれば良い?」

 

 不機嫌さを隠しきれないサンカが、徒党を組んで歩く天狗に尋ねる。旅の間は禄に睡眠をとっていなかったので、願いを無視して就寝したかったが、居候している身の、それも大の大人が子供の前で駄々をこねる訳にもいかず、渋々従った形だ。

 

 一人家に置いてきたはたてはといえば、後を追って飛び出したりしないよう、近所に住む女天狗に無理を言って見張って貰っていた。それでも、サンカからすれば彼女が目の届く範囲に居ないと気が気でなく、寂しくないだろうかと不安になってしまうのである。血縁はおろか種も異なるが、親バカっぷりは遺憾なく発揮されているので、早く用事を済ませて帰りたいのが彼の心情だ。

 

 

「最新の戦術や兵器を学んだ貴方様の知りうる情報と意見が必要なのです・・・話をするだけですから、それは不要なのでは?」

 

 義足に焼け跡から回収した黒焦げのサーベルがぶつかって金属音を立てる。刃が潰されて鉄棒に成り下がっているが、肌身離さず持ち歩いた愛用の一品なので、腰にぶら下げておかないとどうも落ち着かない。

 

 

「これが無いと手持ち無沙汰でな。どうか許してくれ」

「はあ・・・」

「しかし博麗神社か・・・待てよ、確かかなり距離があったと思うが?」

 

 はたてを案じつつ、サンカは疑問を訂す。地図で見る限りでは、片道で日が真上に上ってしまう距離の筈だ。夜間の間に済ませて戻ると聞かされているが、どうやって移動時間を短縮するのだろうか。

 

 

「心配ご無用です。空を飛べば一瞬ですから」

「うん?それって―」

 

 羽交い締めにされて瞬時に高空へと飛び立ち、状況を理解した頃には雲より高い位置を飛行していた。空を飛ぶのはある意味貴重な体験ではあるが、同時に足が地に着いている有り難さを認識する羽目になった。こんな目に会うのはこれっきりにしてほしいと、サンカは顔には出さずに願う。

 

 

「さあ、着きましたよ」

 

 言われて下を向くと、低い山に辛うじて視認できる鳥居が見える。朱色の鳥居は小さな明かりに照らされて闇の中に浮かび上がっており、そこだけ異世界から現れたようだった。天狗達はそれを目印に一斉に降下し、広い境内へと降り立つ。

 

 

「あー、やっと来た。遅いわよ」

「申し訳ありません。急いで来たのですが」

 

 膝に伝わる地面の感触と体にかかる体の重さに安堵していると、ぶっきらぼうかつ、柄の悪そうな巫女が天狗とやり取りを交わし始めた。彼女が噂の巫女なのであれば、想像よりもかなり若い。

 

 それに加え、脇から胸の横まで大きく露出した破廉恥極まりない格好には、目のやり場に困ってしまう。神聖な職に就く者がこれで勤まるのだろうか。

 

 

(これでは花魁と大差ないではないか。近頃の若造はこれだから・・・)

「ちょっとアンタ、何か失礼な事を考えてない?」

「別に何も考えてなどいない。貴様の妄想だ」

「なら目を見て話しなさいよ。やましいわね」

 

 悪態を散々つくと、気が晴れた巫女は大幣で肩を叩き、顎で指図して社へと入って行く。サンカは冷めた目で後ろ姿を拝みつつ、はたてはあんな粗暴で品の無い女のようにはなってほしくないと強く願った。

 

 

「で?そこの片輪(欠損身障者)は何で連れてきたの?」

 

 片輪と呼ばれてムッとしたが、睨みつける程度に収めておく。天狗が事情を説明すると、むくれた顔で冷たくあしらわれていた。

 

 

「まーた紫の差し金ね・・・私は霊夢。見れば分かると思うけど、この博麗神社の巫女よ。ま、この名前は初代から受け継いだ名前だけど」

 

 覚えのある名前だと、サンカは顎に指を当てて首を捻る。確か人外に味方する人間で、なにやら珍妙な妖術を使う小娘がいると小耳に挟んだ覚えがあったが、それが目の前のはしたない女だとは信じがたい。噂では攻撃が当たらないとか、空を飛べるとか言われている。

 

 

「アンタ、妖怪狩りらしいわね。残念だけど、怨みを買い過ぎてるアンタはお願いされても連れて行けないわよ」

「連れて行く?どこへだ?」

「幻想郷、妖怪も神も人間も、全てが平和に暮らせる理想郷よ。私はこっちの世界と幻想郷を分け隔てる結界を張る役割があるの。ともかく、アンタは幻想郷には連れて行けない」

 

 残念だけどと、残念と微塵にも思っていない調子で言われた。自分自身は取り残される覚悟くらいはあるが、はたては見ず知らずの土地で、たった一人でやっていけるだろうか。友人も家族もいない彼女が、周囲に受け入れられる保証はないのだ。

 

 とはいえ、寿命に絶対的な差があるサンカと共にいたとしても、それはそれで不幸になるだろう。ならば同族と共にタタラが手出しが出来ない所に置き、平和に暮らしてもらった方が良い。記憶も時間が風化させてくれるだろう。

 

 

「・・・俺はあの娘が、はたてが何事もなく平穏に暮らせれば文句はない。それを実現するためなら、何だってしてみせる」

「あらそ。じゃあ・・・」

 

 大幣を押し付け、霊夢が鋭い眼差しで睨むと、親指が自然とサーベルの護拳に掛かり、抜刀の姿勢をとった。意識しなくとも斬りかかる体勢へと入るのは、第六感が彼女を危険視したからである。次の行動次第では、この社の中が赤くなるだろう。

 

 天狗達が固唾を飲む中、霊夢はサンカから微かに放たれている殺気に臆する素振りも見せず、凛とした声で命じる。

 

 

「貴方も闘いなさい。彼らを救うためにもね」

 

 なんだその程度の事かと、安堵したサンカはサーベルから手を放して笑った。

 

 

「言われなくともそうするさ・・・承知した。お前の案を聞かせてくれ」

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