幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

91 / 100
91話 痛み

 人と妖怪が入り混じった戦は規模こそ小さいものの、過去に起きた大戦と比較しても遜色ない凄惨さを極めた。

 銃が使えなくなれば刀や棍を、刀が無くなれば手足で、それすら無くなれば顎さえも己の武器にして戦い続ける。お互い一人でも多く道連れにしようと躍起になり、一人、また一人と死に絶えて行く有様は、常世に存在しうるあらゆる負の感情が濃縮され、正に地獄絵図の様相を呈していた。

 

 しかし、数を減らしているのはあくまでも弾避けの人間だけで、主力であろう餓鬼とそれを指揮しているタタラは未だ五体満足、それも無傷の状態を維持し続けており、かなりの強敵であると認めざるを得ない。

 

 

(弾が通らない・・・当然か)

 

 対妖怪用の兵器として製造されただけの事はあるらしく、肉体もかなりの強度を誇っている。通常兵器で対抗するのは、やはり厳しかったようだ。

 

 

「援護を!」

「承知しました!」

 

 刃の無いサーベルで防御をしつつ、義足に取り付けられた刀剣を展開し、回し蹴りの要領で接近してくる敵を軒並み斬り伏せた。背後では白狼天狗が指揮を執りつつ、弾幕を展開して援護を行う。皆は指示通りに動いてくれるが、それでも数的不利は覆すに至らず、敵は倒しても倒しても沸いて出てくる。戦線は崩壊しつつあり、突破されるのも時間の問題だろう。

 

 

「キリがないな。虫けらはどっちなんだか」

 

 珍しく息が上がっているなと、自身の異常に気づく。理由は明確で、まだ両足の感覚に不馴れな事と、新しい戦い方に順応しきれていない事が原因なのだ。こうなってしまっては、赤い血が流れている生身の足だった頃が懐かしい。

 

 隣まで寄ってきた白狼天狗に背中を預け、次に襲ってくる相手を見極める。

 

 

「雑兵の数は減っていますが、まだまだ予断は許せませんね。ですが、手薄になった大将首は討ち取りやすいかと」

「上手くいくと思うか?周りは餓鬼だらけだぞ」

「やらないよりはやって後悔した方が良いかと」

「それもそうか・・・俺が道を切り開く。しっかりついて来い!!」

 

 二人はほぼ同時に走り出した。餓鬼も意図を察知して追いすがるが、他の天狗達に妨害を受けて(瞬時に排除されるので微力であるが)動きが鈍い。サンカは集まってくる雑兵を蹴散らしつつ、憎たらしい薄笑いを浮かべる愚弟の懐へと潜り込み、続いて到着した白狼天狗と共に急所目掛けて刺突する。やはり避ける素振りは見せず、我関せずといった態度だ。

 

 

(貰った!)

 

 勝利を確信しほくそ笑んだが、切っ先は見えない力が働いたのか的外れの方向へと逸れてしまい、がらんどうになった腹部に極めて重い鉄拳を受けてしまった。地面を転がり、同じく投げ飛ばされてきた天狗の下敷きになる。

 

 

(攻撃が見えない?いや、そんな速さで動ける筈が・・・)

 

 一切の構えをとらない状態から放たれた拳は、同じ人間が放てる技とは到底考えにくい威力と速力を有していた。サンカは咳き込みながら覆い被さっている白狼天狗を退け、愕然としながらタタラを見上げる。

 

 

「ふん」

 

 彼は悪巧みをする顔をしながら、指をパチリと鳴らした。

 

 突然、強烈な違和感を覚えて腹部を押さえ、顔を苦悶に歪ませて嘔吐する。これまで味わった事がない感覚は苦痛と呼ぶに相違無く、消えた四肢の断面すらも、形容しがたい猛烈な感覚を伴いながら、心臓が鼓動する度に脈打っている。

 

 

「っ!?」

 

 なんなのだこの感覚は。今までこんなを味わった試しは-

 

 

(-まさか!?)

 

 未知の感覚の正体、それは痛みだった。常人からすれば不調があれば必ず感じる正常そのものの反応だが、体質的にあらゆる痛覚を持たない筈のサンカが痛みを覚えるのは異常に違いない。

 

 彼は突如として発現した痛みに戸惑いながらも、歯を食いしばってどうにかサーベルを手に取った。立ち上がるが、間に合わせにこしらえた粗悪な義足の取り付け部が肉に食い込んでおり、激しい痛みを伴っているがために真っ直ぐ立てない。

 

 

「木偶の坊が・・・俺に何をしやがった」

 

 息を切らしながらも、はたてには決して聞かせなかった地の底から響く声で威圧する。タタラは畏縮してしまうような反応も示さずにおどけてみせ、人の失敗を指摘するように嘲笑う。

 

 

「言っただろう?真似事ではないとなぁ・・・お前は一体いつから自分が特別だと錯覚していたぁ?』

 

 粘着質な音を立てながら涎を撒き散らし、タタラの口が耳の後ろまで裂けて大きく開く。口内には黒ずんで欠けた歯が疎らに生え、その隙間を蛆が這い回り、喉の奥には青みがかった丸い球体が顔を覗かせている。およそ人とも妖怪ともつかぬその不気味な姿は、サンカを心の底から畏怖させた。

 

 

「なんだお前は・・・一体何者なんだ!?」

 

 質問に答えず、金属を引っ掻いたような甲高く耳障りな声が発せられる。すると、後ろから白天狗に拘束され、強制的に俯せの体勢を取らされた。右肩の骨が嫌な音を立てて外れ、尋常ではない痛みを味わう。

 

 

「ぐっ・・・がぁ!!」

『もうカビが廻ったかぁ。ヒッ、ヒヒヒ』

 

 意味が理解できない。カビとは、古い蜜柑やパンに生えてくる緑色の綿毛だろうか。

 

 状況を理解しているのかと毒づこうと天狗を見ると、彼の眼球は左右別々の方向を向き、口から血の泡を吹いている。体も腰の位置から上下が逆を向いており、一目で何かされたのだと察した。天狗はタタラの声を使い、饒舌に語り出す。

 

 

『我々は人々の畏れが作り出した怪異そのもの。嘘を百度つけば真になるように、言霊は畏れを呼び、畏れは実体を形作り、実体は更なる畏れを呼び起こして広がる』

『『お前たちが生み出した怪異は、転写と複製を繰り返し、無限に増殖するのだ』』

 

 戦いの音が止む。嫌な静寂が戦場を支配し、人、人外、死体さえもがサンカを目指して歩き出す。表情は千差万別だが、目は別々の方向を向いていて状態が異常なのは一致している。

 

 サンカは生きているかも死んでいるかも分からないその集団を見て、親から聞かされた昔話を思い出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。