幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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95話 一人の英雄

 境内を覆う結界の上で行われている決闘は狂気的なまでに激しく、時々衝撃波によって大気が震えた。結界が効力を保っているおかげで傷を負わずに済んでいるが、もしこの結界の傘が無かったら、下に居る者達は光の奔流に打たれて、骨も残らないだろう。

 

 サンカが連れて行かれてしまってから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。多少落ち着きを取り戻しはしたが、それはどうにか正気を繋ぎ留めているに過ぎない。情けないが、自分を鼓舞していなければマトモで居られないのだ。

 

 加えて、普段なら鮮烈で美しい弾幕は、風景も含めてモノクロかつ単調に見えていた。自身も弾幕を展開して霊夢や紫の援護をしているのだが、それすらも色が消え失せ、僅かな濃淡で色の違いが区別できている程度だ。

 

 

(サンカ……)

 

 永遠に続くと思えてしまう時の中で、はたては攻撃の手を緩め、この悪夢のような状況の行く末を思案した。もし延命の為の処置を施しても、あのまま目が醒めなかったら……そんな悪い予想ばかりが浮かんでは消えを繰り返し、彼を幻想郷に引き込まなければ穏やかに過ごせたのではないかと、自身を更に追い詰めてしまう。

 

 

(また私のせいで……なんでいつも)

 

 冷静さを失いながら懺悔を始めると、ドゴッと鈍い音が木霊し、意思とは無関係にビクリと肩が跳ねる。霊夢の方を見ると、花火の様に小規模な爆発が断続的に続き、標的を見失った光弾が地表へ降り注ぐのが見えた。

 

 大きさも様々なそれらの光弾は、景観を整える為に植えられた木や、整備された参道を見るも無惨な瓦礫の山へと一変させ、天狗達からどよめきや悲鳴が上がった。正しく遊戯の範疇を超えた威力の強さを物語っており、これが遊びではなく正真正銘の殺し合いを目的とした殺伐な物なのは明らかだ。

 

 

「いい加減封印されなさいよ!!」

 

 陰陽玉を纏った霊夢が、毒蛾の様におどろおどろしく霧を撒き散らすタタラを猛追し、一騎打ちを仕掛けている。若干霊夢が圧している気がするが、息が上がり始めているのか隙が増えており、攻勢が逆転してしまうのも時間の問題だろう。遠巻きでも力を消費しているのが良く分かった。

 

 

「はたて、気をしっかり持ちなさい」

 

 気を取られていると、隙間から紫が顔を出した。彼女は普段通りの飄々とした態度を装っているが、若干の焦りを隠しきれておらず、逼迫しているのが伝わってくる。

 

 

「彼はあの程度じゃ死なないわ。傍には文と藍をつけているし、なにも心配する必要は……」

 

 語りかけているが、話は右から左へと抜けて行き、頭に入ってこない。彼女は何をしてもだんまりを決め込んでいるはたてに業を煮やしたのか、両肩を掴んでその鋭い目線を合わせ、強い口調で言い放った。

 

 

「しっかりしなさい。彼と……サンカと一緒に居たいんでしょう?貴方も闘いなさい。彼が帰ってくるまで、奴を押し留めるのよ」

 

 此方が不利と悟っていたらしく、攻撃を止めてしまったはたてへと続けざまに都合の良さそうな言葉を並べて激を飛ばす。紫がこれだけ感情的になるのも、そうそうは無いだろう。

 

 はたては肩を掴む手を乱雑に払いのけると、自分の頬を数度叩いて雑念を殺し、やけ気味にスペルを唱えた。

 

 

「スペルカード!連写・ラピッドショット!」

 

 鱗状の小さな光弾を撃ちながらタタラに接近すると、携帯が音を立て、ファインダーを模した複数の画面が囲むように現れた。はたては携帯に備えられたカメラに相手の姿を収め、シャッターを切る。

 

 撮影された空間に赤い電光が走り、タタラの片腕を弾き飛ばす。タタラは意外そうにしつつも2撃目を避け、反撃として螺旋状に回転する光線で十字砲火を浴びせる。

 

 

「こんなもの……!!」

 

 三度目の攻撃も避けられはしたものの、はたての携帯はすぐに次の撮影の準備が始まり、数秒して準備が整った。彼女は憎い相手を追い立てながら、再度ファインダー内に姿を収めようとする。

 

 

「ぐあっ!!」

 

 苦悶に満ちた声―霊夢が目の前を焦げ臭さを伴いながら落ちていく。予想よりも早く消耗していたらしく、タタラが外した攻撃に運悪く当たってしまったらしい。

 

 

「アンタの弾幕なんか……これっぽっちも……」

 

 なおも虚勢を張り続け、立ち上がって強大な敵を見据えるのは、性格なのか或いは博麗の巫女としての立場故なのだろうか。霊夢は傷だらけの体に無理に力を入れ、立ち上がって飛び立とうとした。

 

 そんな彼女が癪に障ったらしく、タタラうなり声を上げる。同時に霊夢の胸の前で小さな何かが光ると、彼女は弾かれたように後ろへ飛び、灯篭に背中を打ち付けて動きが止まった。境内を覆っていた結界が効力を失って霧散していくのを見るに、残っている力も使い果たしたのだろう。

 

 

「霊夢!」

『人の心配をしている場合かぁ?』

 

 スペルを唱えようとするも、既にタタラは目と鼻の先に移動しており、はたてが行動を起こす前に首を掴まれてしまった。喉が締まり、息が止まる。

 

 

「がはっ!」

『まさかあの時の天狗が目の前に現れるとはぁ……あの男への見せしめに此処で喰らってやろう』

 

 顔が左右に割れ、黄ばんだ牙を露わにする。食われる前になんとか逃げ出そうと足蹴にするが、タタラの体から新たに生えてきた腕に取り押さえられ、完全に封じられてしまった。頬に牙が刺さり、いよいよ呑み込まれる段階となる。

 

 

(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!)

 

 数秒先の未来を予測し、はたては見開いた目に恐怖の涙を浮かべた―その時である。

 

 

「スペルカード。冥符・|閻魔王の飛礫」

 

 赤黒い小さな針の雨がタタラの右半身を引き裂き、血の飛沫さえも一呼吸の内に蒸散させる。スペルの特徴はサンカの使用する黄泉御霊に似るが、格段に威力と速さが勝り、慈悲を微塵も感じさせない圧巻の光景は、正しく閻魔の捌きであると言える。

 

 

「この弾幕……もしかして!」

 

 世界に色が戻り、胸の奥底から湧き上がる喜びを覚えた。彼女は見たのだ。月が照らす夜空に、一筋の線が伸びて行くのを。

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