幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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リアルが立て込んでいたため大変遅くなり、誠に申し訳ありませんでした。予定としては次回が最終回となりますので、もう少々お付き合いください。
それでは、ごゆっくりお楽しみください


98話 終戦

 タタラは鼻先に向けられたサーベルを前にして、形勢不利に陥った状況を覆す余力がまだ残っていた。大量の霊力に中てられはしたが、まだカードは此方にあるのだと、サンカに語ってみせる。

 

 

『それで勝ったつもりかぁ?』

 

 タタラが握り拳を作って空虚を手繰り寄せると、憔悴しきった魔理沙が真上から吶喊してきた。彼女は八卦炉の砲口をサンカに向け、いつでも攻撃が行える状態に入っている。タタラのしたり顔を見るに、見知った相手、それも女であれば手出しできないと履んだのだろう。

 

 サンカは義手で八卦炉の射線上から自分の体を隠し、身を屈めて防御の姿勢を取った。間を置かずに弾幕ごっこでも使われた極大のレーザーが発射され、大気が揺らぐ程の尋常ではない熱量を伴って着弾する。

 

 相も変わらず火力が高い。瞬く間に義肢の表面を溶解せしめ、指の駆動に深刻な影響を与え始めた。このままではやられてしまう。

 

 

「こ……の!」

 

 動かない義手を生身の手で掴み、角度を少しだけずらしてレーザーを反射させた。サンカは両足の飛行装置の推力を最大まで上げ、光の柱を散らせながら魔理沙へと体当たりを敢行する。

 

 

「不空羂索」

 

 腹に鉄拳を叩き込むと共に能力を行使して菌を吐き出させると、ぐったりしてもたれ掛かって来た魔理沙を霊夢の方へと投げ飛ばす。霊夢の腹に直撃したのか、

 

 

「うっ」

 

 とぐぐもった短い声が上がった。

 

 

(しまった。邪魔だが投げるべきではなかったな)

『天符・インドラの矢ぁ!』

 

 当たり所が悪かっただろうかと案じていると、不意打ちのつもりか、タタラが新たな弾幕を生成した。丸太くらいの太さの矢がサンカを中心にして展開され、音が遅れて聞こえてくる速さで襲いかかる。

 

 

「舐めるな」

 

 サンカは地面スレスレを高速で飛行しつつ、舵を細かく動作させて一切の攻撃を回避していく。完全に覚醒する以前なら耐えられなかった過度な負荷も、餓鬼としての強靭な肉体を手に入れてからはどうという事は無い。弾幕を退けつつ、自身が得意とする間合いへと入る。

 

 

「射程距離だ。接近戦なら弾幕は使えまい!」

 

 壊れかけの義手に備わる4本の指先から、光線を発振・集束させてひっかき、肉を溶断した。高濃度に圧縮された霊力を浴びたタタラは、吸収する事も叶わず、切断面がケロイド状に爛れる。

 

 斃せる。確信し、トドメにサーベルをタタラの額へ突き立てようとした……その時だった。

 

 ボンッ―

 

 後方からの爆発音。突き上げる衝撃が大腿骨から頭部へと伝わり、サーベルを落としかける。

 

 今ので内臓を損傷したのか、意思とは無関係に大量の鮮血を吐き出す。重力を生み出す飛行装置は沈黙し、数度弾みながらグシャリと音を立てて墜落した。チラリと見えた両足は黒焦げになり、太腿にはその破片が幾つも突き刺さっていて、見るからに痛々しかった。

 

 

「ぐぅぁっ!」

 

 強かに体を打ち付けるが、勝機を逃すまいとその手にした得物を投擲する。サーベルは空気を引き裂いてタタラへと向かうが、無数の腕に弾かれてあられもない方向へと飛んで行ってしまい、決定打とはならない。タタラはニタニタと笑うと、地に伏したサンカの髪を掴んで引き起こし、四肢を拘束して宙づりにした。

 

 

『惜しかったなぁ?ここまで追い詰めたのは褒めてやるが、貴様じゃあ俺に勝てんぞぉ?』

「はぁ、はぁ……確かに満身創痍で、死に体の俺一人じゃ勝てないさ。だが……形は違えど予定どおりだ。はたて!!」

 

 決死の呼び声に呼応してタタラの背中を刃が貫き、切っ先が胸へと抜ける。外したかに思われたサーベルははたてが受け止めており、タタラの意表を突く形で襲撃したのだ。

 

 サンカは義手の肘から上腕部を引き抜き、折りたたまれていたピックをこめかみに向けて突き刺し、崩すように素早くかき回した。緊急用に拵えさせただけの事はあり、タタラは二段構えの不意打ちを全く予見できていなかった。

 

 

『ぎゃあああああ!!!』

「サンカから……サンカから離れろ、この化け物!!」

 

 はたては柄を両手で握り、青筋が浮かぶ程に力を入れて袈裟に斬り捨てる。流石は妖怪なだけはあり、サーベルが負荷に耐えられず根本から折れ、刃先が回転しながら近くにあった灯篭に突き刺さってしまった。

 

 タタラは断末魔の叫びか一際大きな声を挙げ、最期の悪足掻きとばかりにサンカの頬を爪で歯が確認できるほど抉り取り、漸く力尽きた。数百年に亘って人外の者を脅かし、人間に恐れ戦かれた存在の、余りにあっけない最期だった。

 

 

「ぐえっ」

 

 拘束から解放されたサンカは頬の痛みに顔を歪め、思わず傷口を押さえた。体はボロボロであるし、今なら霊夢はおろか椛にさえも容易く殺められてしまうだろう。

 

 

「サンカ!」

「……はたて」

 

 しわがれた声を聴いて、はたては柄だけになったサーベルを手放し、力なく首を垂れるサンカを起き上がらせる。悲しいかな、ただの人間と同等程度しか残っていなかった力を、辛うじて生きられるギリギリまで使い果たしたせいで、彼女の手を払いのける気力も体力も無くなっていた。

 

 ザリザリ―砂利を踏みしめる音が耳に障る。重力に任せるまま顔を向けると、霊夢が大幣と護符を携えて近づいて来ていた。回復を終えていたらしく、服が煤けている以外は健常そのものだ。

 

 はたては自身の体を盾にし、弾幕を展開しようと携帯を構える。

 

 

「別にアンタ達をどうこうする気は無いわよ。用があるのはそっち」

 

 弾幕勝負をする気はないと示すと、一瞬でタタラの死骸を護符で包み、私怨も込めて大幣で引っ叩いた。彼女は面倒くさそうに肩を鳴らし、その他大勢にあれこれ手伝わせながら、死骸を境内の中心へと引き摺っていく。

 

 

「それを……それをどうする気だ?」

「アンタの仕事は終わり。後始末は私がやるから、アンタは社で休養を取りなさい。言っとくけど、変な事したら封印するからね」

 

 さっさと行けと顎で指図し、紫さえ居なければ、と呟くのが聞こえた。餓鬼を前にして手を出すなと余程キツく言われたのだろう。その納得いかなそうな態度が、サンカには何故かおかしかった。

 

 

「フフッ」

「サンカ?」

「何でもない。それよりお腹が空いたな。はたて、何か作ってくれないか?」

「勿論よ!食べたい物は何でも言って!」

 

 夜が明け、山の間を登り始めた太陽が闇を照らし出す。その光景は、二人が行動を共にし始めた時に見た、あの風景に似ていた。

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