幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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最終話 まどろみにて

 タタラは霊夢と紫の手によって厳重な封印術を施された上、骨も残らず焼却された。強力な生命力を持っていたので無力化できるのか憂慮していたが、不死では無いので灰になってしまえば復活は出来ないと紫に教えられ、胸を撫で下ろした。人外達も悩みの種であり憎しみの対象である存在が消えた事で、枕を高くして眠れるだろう。

 

 異変解決後、天狗の里では生き延びた天魔が皆を率いて再建を始めており、勢力こそ衰えはしたが、近々復興を終えると聞かされている。サンカも回復次第帰還する予定だが、その暁には壮大な宴会を催すつもりだと言う。無類の酒好きが多い天狗達である、どんな目に遭うかは想像するに容易い。

 

 そして当のサンカはどうしているのかと言うと、季節が移り替わった現在でも、未だ博麗神社に身を置いていた。母屋の一室を借りて新たな手足が生えてくるまで療養しているのだが、全快するにはまだまだ時間が掛かると痛感する毎日である。再び自由に空を舞うのは暫く先になりそうだと、彼は見舞いの品を強奪しに来る霊夢を前に悔しがった。

 

 

(今日も来たか)

 

 接近する気配に気づき、表紙がボロボロになった本を閉じて姿勢を正す。文とはたてが特ダネと称してサンカの活躍を記事にしたせいか、見舞いと称して連日客人が訪れるのだ。

 

 例を挙げるならば、単なる談笑の他、記録をさせてほしいと頼みに来る変わり者や、餓鬼に対する呪詛を吐き、決闘を申し込みに来る者(霊夢に叩き出されるが)等。それでも寝たきりが続く退屈極まりないこの生活では、暇な時間が潰せて有難い。

 

 

「どうぞ」

 

 返事を聞くや否や、二人を隔てている障子が外れそうな勢いで開け放たれた。早朝の冷たい空気が部屋に流れ込み、吐かれる息が白い靄となって空へ溶けていく。

 

 遠くに望む山々は美しい紅葉を湛えていたのに、今では寒々しい枯れ枝を伸ばすのみであり、本格的な冬の到来を視覚的にも訴えてくる。

 

 来訪者を見ると、紫を基調とした装束を身に纏い、同色のリボンで長い髪を縛ってツインテ―ルにしていた。彼女はサンカの姿を捉え、再会を喜ぶ笑みを見せ、明るく弾んだ声で話しかけてきた。

 

 

「おはよっ!具合はどう?」

「おはようはたて。まあ代わり映えはないかな。いつも来てくれて悪いね」

「良いの!私が好きで来てるんだから」

 

 はたては朝刊の配達を終え次第、日が落ちるまで毎日付きっ切りで身の回りの世話をしてくれている。左手と両足が喰われているので仕方ないのだが、まるでヒモになったみたいで、あまりいい気分ではしない。だが彼女からすればサンカを独占し、頼られるのが嬉しくてやっているらしいので、そこを気にしていても仕方ないだろう。

 

 華やかになった空気に、サンカは心底幸せそうに口元を緩める。

 

 

「隣、座ってもいい?」

「ああ、構わないよ」

「ありがと!っと、その林檎は?」

「これかい?夜明け前にフランとメイドさんがお見舞いに来てくれたんだ。紅魔館で採れたんだってさ」

「ふーん」

 

 枕元に置いてあった真紅の林檎を手に取ると、はたては神妙な面持ちで匂いを嗅ぎ、表面をしげしげと観察する。不満げに頬を膨らませているのは、自分以外の女に物を貰ったからだろうか。

 

 

「なあに?どうしたの?」

 

 林檎への興味が失せたらしく、視線に気づいた彼女はずいっと顔を近づけた。こうして間近で見られるのは関係が進展した今でも慣れない。

 

 何でもないと誤魔化そうか考えたが、美人になったねと当たり障りない一言を伝えると、彼女はやめてよと恥ずかし気に俯いた。

 

 

「……ねえ、サンカが私に出した宿題って、まだ覚えてる?」

 

 はたてが照れくさそうに質問してきた。そういえば別れ際に花言葉を調べてもらうとか、そんな約束をしていた。二度と会えなくなると覚悟して出題したが、実際はこうして再会しており、ここは答えを聞いてみても良いだろう。

 

 

「白い彼岸花の花言葉だったね?ちゃんと覚えてるよ。それじゃあ、答えを聞こうか」

「うん。白い彼岸花の花言葉は2つあって、一つは[また会う日を楽しみに]。もう一つが[思うは貴方一人]。どう?」

「正解だよ。言いつけを守ってくれたんだね」

「好きな人からのお願いだもの、当然じゃない?でも、サンカって意外とロマンチストなのね。それとも、ちょっと気取ったの?」

「ははは、案外両方かもしれないね……ああそうだ、僕からはたてに贈り物があるんだ。宿題のご褒美だと思って、受け取って欲しいんだ」

「贈り物?」

 

 サンカは懐から手のひらに収まる小さな箱を取り出し、はたてに差し出す。丁寧に梱包された箱は過去に魔理沙の家で目にした代物で、あしらわれたリボンの端が戦いで少しだけ焦げてしまっていた。

 箱を受け取ったはたては促されるがまま、不思議そうにリボンと包みを取り去り、露わになった蓋を開く。

 

 

「これって……」

 

 入っていたのは指輪だった。一点の曇りもなく磨き上げられた白銀に輝く指輪は、派手さこそ無いが良い仕上げが成されており、外界の店で一目惚れした指輪と瓜二つだった。

 

 

「はたてが欲しそうにしてた指輪を、にとりや魔理沙に頼んで作って貰ったんだ。オリジナルは向こうに置いて来ちゃったからさ」

「……」

「それと、外界において指輪を意中の人に贈るのはっ!?」

 

 はたては言葉を遮り、唇を重ねた。薬を飲まされた時とは違って優しい接吻で、思わぬ不意打ちにサンカは赤面し、脈を速める。それは彼女も同じようで、尖った耳の先までも紅潮していた。互いにとって、今日は忘れられない一日となったようだ。

 

 

「こういうのずっと憧れてたの。最高のプレゼントをありがとう、サンカ!」

「ど、どういたしまして」

「ねえ、結納は何時にする?私は大安の日が良いわ!」

「いやいや、気が早くないか?けど、それなら―」

 

 夢に見ていた平穏で健やかな日常を、これから二人は共に歩んでいく。天狗と人間の奇妙な物語は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

―終―




 今回で最終話となります。かなり長い期間書いていましたが、自身の語彙力の無さや幼稚さを痛感するばかりでした。それでも最後まで続けられたのは、読んでいただいた皆さまのお陰です。

 今後も他の作品や、本作の続編的なお話も気が向いたら書こうかなと構想していますので、その時はまた読んでいただけるとありがたいです。

 それでは、ご愛読ありがとうございました!
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