2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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第9話

 日菜ねぇからまさかの爆弾が投下された。

 

(スカウト? ギター?)

 

「えっと……最初から説明してもらえるかな?」

 

「う~んとね~。この間ゆーくんのお部屋に入った時にお姉ちゃんがギター弾いているの見て、るん♪ってきたの」

 

 あぁ。あの動画か。そういえばパソコンの電源入れたまま風呂に入ったことあったっけ。その時にでも見たんだろうね。

 

「それでフラーッと歩いてたら、オーディションやってたからヒョイと出てズガガーンと演奏したら受かっちゃった」

 

「えぇ……」

 

 街歩いてたら偶然オーディションをやっていて、飛び入り参加して合格って……日菜ねぇだけだよ。そんなこと出来るの。

 ところで、オーディションってなんのだろう? 湊先輩のところみたいなインディーズ? のバンドかな?

 

「そのオーディションって、バンドの?」

 

「ん~とね……これ!」

 

 日菜ねぇが出してきたのは1枚のチラシ。

受け取って確認すると――

 

「アイドルバンド?」

 

 平たく言えば、歌って踊れて、楽器を演奏できるアイドルって最強じゃね? というヤツだろう。

近年のガールズバンドブームを考えれば乗らない手はないだろう。

 

「ってことは、いきなりメジャーデビュー!? 大丈夫なの?」

 

 

「うーん。楽しければいいかなぁって」

 

「えぇ……」

 

 確かに当たれば大ヒットだけど、注目度が高い分、失敗すればその期待値は酷評として刃となって襲いかかる。

 その時に事務所が盾になってくれるか――

 

(はたまたトカゲのしっぽ切りか……)

 

 日菜ねぇが興味を持つものが出来て、喜ばしいことではあるのだけど、事が事だけに手放しで喜べないでいる。

 

「お姉ちゃんに教えたら、喜んでくれるかな?」

 

「!!」

 

 今日のチャットでライブに参加するってあこが言っていたことを思い出す。

日菜ねぇがメジャーデビューすることを聞いて、紗夜姉さんが冷静でいられるか――

 

「日菜ねぇ、ストップ!」

 

 部屋を出ようとする日菜ねぇを呼び止め、素早くドアの前に回り込む。

 

「紗夜姉さんには内緒にしておこう」

 

「え~。なんで?」

 

 不満げに頬を膨らませる日菜ねぇ。

 

「ほら、サプライズだよサプライズ。今言うより、テレビとかでこう……ババーンと知った方が驚くでしょう?」

 

 我ながら何という説得力のなさ。微妙に語彙力があこっぽくなってるし……アドリブ苦手なんだよ。

 

「そうだね! そうしよっと」

 

(助かった)

 

 思いのほか、日菜ねぇはあっさりと信じてくれた。

まぁ、いつかは紗夜姉さんにバレるだろうけども、とりあえずはライブが終わるまでにバレなければいい。

 

 そんなことを考えていた。

 

 

 土曜日。燐子さんに指定された30分前に駅前にいた。

燐子さんなら人を待たせたくないと思って早く来るだろう――自分が人ごみが苦手なのにも関わらず。

いくら覚悟を決めたとはいえ、今からオーディションをしなきゃいけない燐子さんに余計な負担をかけたくない。

 

 それに――

 

「ねぇ、か~のじょ。今1人?」

 

 駅前って、わりと待ち合わせに使われるんですよね。

 

「おーい。スマホとにらめっこしてないで、俺と遊ばない?」

 

 ただ、待ち合わせということは当然『待つ』側がいます。

それを狙いすましたように声をかけてくる人もいます。

献血の協力、何かよく分からないアンケート調査、お店のキャッチ……この辺なら相手も仕事だし、仕方ないと思う。問題は――

 

「ねぇってば!!」

 

 ……いい加減無視するのも無理そうですね(ため息)

 

「失礼しました。音楽を聞いてましたので」

 

 イヤホンを耳から外し、声をかけてきた男性――ナンパ男――に向き合う。本当は音楽は聞いて無くて、いわゆる『声をかけないで』という意思表示だったんだけどね。

 

「今、暇? 俺たちと遊ばない?」

 

 下心丸出しの下卑た笑顔を浮かべる目の前の男。

俺『たち』ということは、近くに仲間がいるんだろう。

ちなみに、ナンパされるのは今日だけで3度目。いい加減にうんざりしている。

 

「すみません。連れと待ち合わせしていますので」

 

 それでも、ことを荒立てないように。そして相手の男としての尊厳(ナンパ男に尊厳ってあるのかな?)を『同じ男として』守るようにやんわりと断る。

 

「男? そんなヤツより俺らと遊んだ方が楽しいよ~」

 

 あ、尊厳ないや(手のひら返し)

勝手に待ち合わせ相手が男だと思ってるし。

まぁ、女って言っても、結果は一緒だろうし……RPGの『はい』を選ばない限り話が進まないみたいなものか。

 

(意外としつこいなぁ……燐子さんが来る前に終わらせようかな)

 

 いい加減、ナンパ男がうっとうしくなってきたので断るとしよう。――最初からうっとうしいとか本当のこと言わない。

 

 これが紗夜姉さんならバッサリと断るだろう。日菜ねぇなら笑い飛ばしながら断るだろう。ちなみに俺は――

 

「ねぇねぇお兄さん。1つ聞きたいことがあるんだけどぉ……いい?」

 

 スマホを持った手を後ろで組み、少し前かがみになって、上目遣い気味にナンパ男にスルッと近づく。

 

「お、何々?」

 

 先ほどとのつれない態度からうって変わって、積極的になった俺に『掛かった!』というような表情を浮かべるナンパ男。

 

「あのね……」

 

 そこで、ニコッと笑って――

 

「同性愛ってどう思う?」

 

 爆弾をぶん投げる。

 

「……は?」

 

 当然、言われた側は面食らう。

それはそうだろう。会ったばかりの人間にいきなり『同性愛』について聞かれて冷静対応出来る人はそう多くないだろう。

 

「お兄さんは同性愛ってありだと思う? 無しだと思う?」

 

 さらに距離をつめて訊ねると、ナンパ男はその分下がる。まるで人を化け物かなにかのように顔を引きつらせながら。

 

「ねぇ?」

 

「し、知るかよ!!」

 

 最後のひと押しをすると、血相を変えて逃げてしまった。彼からしたら同性愛は『ない』らしい。

 

(他愛ない)

 

 『同性愛』について聞いて逃げるヤツはたいしたことない。

聞いて『NO』と答える相手には自分の性別をカミングアウトして、お断りする。

 

厄介なのは、『アリ』と答えた上で自身も同性愛者、または『両刀』の場合。

 このケースは1人しか見たことがなく、その人には急所をクリティカルしてご退場いただいた。

同じ男だけど、身の危険を感じたから仕方ないよね。

 

 

「お待たせしてしまって……すみません」

 

 燐子さんが来たのは約束の時間の15分前。

案の定早めに来たようだ。

 

「大丈夫です。俺もさっき着いたばかりなので」

 

 とりあえず先ほどのようなナンパ男の被害に遭わなくてホッとする。

 

「じゃあ、少し早いですが行きますか」

 

「あ……はい」

 

 ライブハウスに向かう前に、ちらりと燐子さんをもう一度見る。

 今日の服装もモノトーンで清楚な感じなんだけど、露出が少ないはずなのになぜか燐子さんの服装って目のやり場に困るんだよなぁ……体型が強調されているからだろうか?

 

(周りからの視線も気になるし)

 

「夕輝さん……どうかなさいました?」

 

 じっと自分を見て動かない俺を不思議に思って燐子さんが声をかける。

 

「燐子さん。失礼ですが、これを羽織ってもらえますか?」

 

「? 分かりました……」

 

 着ていたパーカーを燐子さんに渡すと、不思議に思いながらも羽織ってくれた。

多少サイズが大きいかもしれないけど、少なくとも体型が隠れることで視線は防げそうだ。手が少し隠れてしまってるが、それはそれでありだと思う。

 

「さ、行きましょう」

 

 燐子さんの手を引いて足早に駅前を離れた。

 

 

「お待たせしました~」

 

 ライブハウスに隣接しているオープンカフェに行くと、既にメンバーが揃っていた。

 

 湊先輩はちらりとこちらに目線を向けて、興味ないようにまた戻した。

 姉さんは、逆にこっちを見据えている。

反する反応なのに、2人から威圧感を覚えるのはなんなんでしょうね。

 リサ先輩はこちらを見ていたけど、1点で止まっている。俺なのか燐子さんなのか分からないけど。

 

「ゆー兄! りんりん! あれ? なんで手を繋いでるの?」

 

「「!?」」

 

 あこに指摘されて、手を繋いでいたことを思い出して、急いで手を放す。

 

「あ……」

 

 燐子さんの悲しげな声が響いた。

 

「それで? キーボードに心当たりがあるって聞いていたけれど?」

 

「あ、そうそう。ゆー兄もりんりんも、心当たりがある人はどこにいるの?」

 

 姉さんが本題に入り、あこも候補者を探してキョロキョロあたりを見渡す。

 

「いやいや。ここに1人いるじゃない」

 

 鏡があったら今の俺は、いたずらが成功した子どものような笑みを浮かべているんだろうな。

 

「え? それって……」

 

 あこが呟くと、俺の隣に立っていた燐子さんがスッと1歩踏み出す。小さな、それでいて大きな決意の1歩。

 

「あこちゃん……黙っててごめんなさい。私……ピアノ弾けるの」

 

「え!? 本当に!?」

 

 驚き半分、喜び半分といった声を上げるあこ。

だが――

 

「ただ弾けるだけのキーボードならいらない。私たちのバンドは頂点を目指さなければならない」

 

 ここで傍観していた湊先輩が立ち上がり、告げる。

 

「あなたの実力、ここで示してちょうだい」

 

「……もちろんです!」

 

 両手を強く握り、燐子さんも応える。

 

「行くわよ」

 

 湊先輩が先にライブハウスへと歩みを進める。

姉さんもちらりとこちらを一瞥して湊先輩のあとへ続く。あこも軽い足取りでついていく。

 

「夕輝さん……手をだしてください」

 

「? はい」

 

 燐子さんに言われ、右手を出す。

 

ギュッ

 

「り、燐子さん!?」

 

 出した右手を左手で握られ、さらに右手で挟むように握られた。

 そのまま10秒ほど強く握られ――

 

「勇気、お借りします……」

 

 1礼してライブハウスへむかった。

 

「えぇ……」

 

「お~、夕輝もやるもんだねぇ~☆」

 

 何が起こったのか分からずぼーっとしていると、後ろから声をかけられた。

 

「リサ先輩!?」

 

「いやぁ、見た目女の子なのに、しっかり男の子なんだねぇ。ただ、タラシは関心しないかなぁ~」

 

「えっと……どういう?」

 

「さぁ~ねぇ~☆」

 

 リサ先輩に言葉の真意を聞くもはぐらかされた。

 

「ところで、夕輝は行かないの?」

 

「俺は部外者ですから」

 

 肩をすくめ、自虐気味に笑う。

 

「3人もけしかけておいてよく言うね」

 

 けしかけるなんて人聞きの悪い。

 

「ただ、1歩踏み出すか悩んでた人の後ろから軽~く押してあげただけですよ」

 

 それこそ線の前で越えるかどうかを悩んでた人のバランスを崩すかのようにトンっと。

 

「まぁ、少なくともアタシもあこも感謝はしてるんだけどね」

 

 そう言ってリサ先輩も入っていった。

 

 部外者の俺も帰ろうとしたが、燐子さんに貸しているパーカーに財布やら鍵やら入れていたので、帰らずにカフェで待っていた。

 

 

 ともあれキーボードを加え、友希那さんのバンド、『Roselia』は本格的に動き出したのだった。

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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