「夕輝、あなたにはRoseliaのオブザーバーになってほしいの」
「はい?」
突然の湊先輩の申し出に俺は首をかしげた。
※
ライブが終わり、帰る道中。俺たちはライブの感想を言い合った。
ひまりは、『このバンドのギターの人がサビ前の仕草が――』とかっこいい部分や気に入った部分を挙げて、巴はあこの成長をしみじみと語っていた。
「……」
その一方で蘭は心ここにあらず、といった感じでライブが終わった後からずっと黙っている。
「蘭、どうかした?」
巴とひまりが先に行くなか、歩調を緩めて蘭に合わせる。
人酔いしちゃって具合が悪くなったのだろうか……。
「――かった」
「え?」
「すごかった。あの人たち。あれであたしたちと同じ高校生なんだ」
おそらくRoseliaのことを言っているのだろう。
確かにあの人たちは技術が高いからね。1番技術がないのがブランクのあるリサ先輩っていう状態だしね。
しかも地力がある上に、それにあぐらをかかないで努力に努力をコーティングしまくってるからね。
「確かに技術は見習うところはあるけれど……そこまで参考にしなくてもいいんじゃないかな」
「どういう意味?」
言い方が悪かったのか、蘭が少し不機嫌な表情を見せる。
「いや、技術的な事じゃなくて、目指す部分がそもそも違うんだよ。
「でも、
それを聞いた蘭は、目を閉じ、フッと息を吐いた。
「夕輝のくせに生意気」
「いや、どういう理論なのさ」
確かにクサイ台詞だって自覚はあるけどさ。
「そうだね。あたしたちは『いつも通りに』、だね」
「うん。それで――」
ピンポーン
「っと、母さんからかな?」
そういえば母さんに連絡してなかったなぁとトークアプリの通知を確認する。
「あれ?」
通知は母さんからではなく、リサ先輩からだった。
『お疲れ~☆ 今からファミレスで打ち上げ……というか反省会なんだけど……夕輝も来ない?』
Roseliaの反省会兼打ち上げに俺もいていいんだろうか?
それに蘭たちを送り届けなきゃいけないし……今回は断ろうかな。
「行かないの? 打ち上げ」
「わっ!? ら、蘭!?」
スマホとにらめっこしていたのを不審に思ったのか、蘭が手元を覗き込んでいた。
「呼ばれてるなら行けばいいのに……」
「とはいえ、女の子3人だけで帰すってのも……」
「ここまで送ってもらえば大丈夫だし。それに――夕輝がいても変わらない気がする」
グサッ
蘭の的確な分析が俺を的確に突き刺した。
「……なぜだろう。否定できない」
確かに巴がいればなんとかなる気もするし、ライブ前に待ち合わせしてた時も3人を差し置いてナンパされたし……あれ? 俺ってトラブルメーカー?
「ともかく、こっちは大丈夫だから」
「……ごめん。じゃあ、また学校でね」
蘭に断りを入れて元来た道を引き返す。
※
「いらっしゃいませ~。1名様ですか?」
「すみません。待ち合わせなんですけど……」
約束のファミレスに到着。走ったことで上がった呼吸を整えて入る。
対応してくれた店員さんに待ち合わせであることを伝える。でも、どこにいるやら……
「夕輝~、こっちこっち☆」
と、途方に暮れる前にリサ先輩に呼ばれ店員さんに一礼してからそのテーブルを目指す。
もしかしたら客が来るたびに入り口を気にしてくれていたんだろうか。リサ先輩、マジ天使。
「遅くなり……まし……た」
テーブルに着くと、空いている席は1つしかなかった。6人掛けに5人座っていれば当然なんだけど――
(マジですか……)
まず、入り口に近い通路側にリサ先輩、真ん中あこ、壁際に燐子さん。燐子さんの向かえ側に姉さん。隣に湊先輩。そして空席――つまりはここが俺の席らしい。
「何をしているの? 座ってちょうだい」
着席を促す湊先輩。彼女は何気なく――もっとも時間を無駄にしたくないという気持ちはあったかもしれないが――言っただろうけど……
(強者の風格が半端ないです)
「し……失礼します」
「ごめんね~。わざわざ来てもらっちゃって。何か用事あったりした?」
あぁ、リサ先輩の細かい気遣いがありがたい。
これがコミュ力のある人のなせる技なのか。
「いえ、特に予定はないです」
「よかった~☆ あ、何か注文する?」
はい、どーぞ☆ とメニューを渡してくれるリサ先輩。
お礼を言ってメニューに一通り目を通す。
ピンポーン
「早っ!?」
驚かれたけど、俺がメインじゃないんだから時間かけられないしね。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「ドリンクバーと、カルボナーラ、シーザーサラダと……」
テーブルの上を一瞥し――
「山盛りポテトで」
告げた途端に視界の左端でアイスグリーンの髪が揺れた気がした。
店員さんはメニューを復唱して確認し、戻っていった。
「ずいぶん食べるね~☆」
さすが男の子だ~、とリサ先輩が驚いている。
もっと食べる人もいるし、俺は少ない方だと思うけど。
「でも、ポテトは『皆さん』食べますよね?」
少なくとも約一名食べることは分かっているけど、こう言わないと手を伸ばさないかもしれないからね。
「あ、ゆう兄。あこ、何か飲み物取ってくるよ!」
「ううん。遠慮しとく」
あこのせっかくの申し出だけど遠慮した。
えー! と不満げなあこだけど――
「いや、絶対ドリンクバーでいろんな飲み物混ぜて、『これは魔界より伝わる漆黒の……なんか凄いドリンク』っていいそうだし」
「そ、そんなことないよ~」フー
うん。あからさまにごまかそうとしてるし、口笛吹けてないし。
「てなわけで行ってきま~す」
※
ファミレスって、ドリンクバーとかスープバーって混むときはなんでこう混むんだろう。何組もいて、みんながみんな同じタイミングで飲み物取りに行くとかあるの?
ともあれ、ドリンクを持って席に戻る。
「燐子、あこ……リサ。あなたたち、Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」
(あちゃー。どうやらタイミングがよろしくないかもしれない)
湊先輩が3人の覚悟、音楽への真剣さを確認していた。姉さんは湊先輩同様ガチ勢って分かってるから聞かないのだろう。
ともあれ、さっきみたいに突っ立っていても邪魔なだけだし、気を散らせないように気配を出来る限り殺して席に着く。
どうやら注文の品は届いているようだ。
ポテトをススッとテーブルの真ん中あたりに移動させる。
さて……サラダから食べたいんだけど、レタスって噛むと結構音が出るんだよね……いや新鮮な証拠だし、音でないレタスを食べたいとは思わないけどさ……。
と、いうわけでトマトからっと。
うん。この弾くような皮の食感。口の中で広がる酸味とほのかな甘味……昔はトマト、嫌いだったんだよねぇ。種の部分の酸味がね……
「夕輝、聞いてるの?」
「んぐっ!?」
急に湊先輩に話しかけられ、うっかりトマトを飲み込んでしまった。
「ちょっ!? 大丈夫!?」
「ぷはっ! リサ先輩、ありがとうございます……」
リサ先輩に水を渡され、トマトをなんとか流し込む。
ふは~……よい子のみんなはちゃんと噛まなきゃダメだよ?
「ごめんなさい……」
湊先輩が顔を俯かせて謝る。
「いえ。こちらこそ、話を聞いていなかったもので……」
それに、驚きの表情をしている湊先輩が見られたので、少しラッキーかなって。
あまり表情に出ない人なのかと思ってたし。
「それで、お話というのは?」
湊先輩が俺の方を向き直る。
え、まさか『これ以上Roseliaに関わらないで、Roseliaにあなたは必要ない』と宣言されるのだろうか。
まぁ、部外者だし仕方な――
「夕輝、あなたにはRoseliaのオブザーバーになってほしいの」
「はい?」
まさかの発言だった。
(オブザーバー? どういうこと?)
「つまり、夕輝には第三者の視点から意見、アドバイス、気づいたことを言ってほしいの」
「そういうこと。私たちだけでは気づかないこと、当たり前のように見逃していることを指摘してほしいの」
あぁ、そういうことなのね。まぁ、それなら音楽知識がろくに無い俺でも役に立てそうだ。
「俺で良かったら、そのお話お受けします」
「そう。よろしく」
スッと湊先輩が右手を差し出してくる。
「?」
訳が分からず、湊先輩の顔を見ると――
「握手よ」
湊先輩も握手するんだなぁ、と新たな発見をしつつおしぼりで手を拭いてから握手に応じる。
「よろしく~☆」
「よろしく……お願いします」
「よろしくね、ゆう兄」
「……よろしく」
他の4人にも迎えられ、『部外者』氷川夕輝は『Roseliaのオブザーバー』氷川夕輝にジョブチェンジした。
「で、さっそくなんですけど……衣装、作りません?」
「どういうことかしら?」
さっそく提案したのは『ステージ衣装』。
「例えば、今日の服装なのですが……統一感はないですよね?」
「あはは~、アタシが浮いちゃってるかなぁ」
5人中3人がおとなしめなのに対して、あこがゴシック、リサ先輩はいかにもギャルと服装がバラバラなのだ。
もちろん個人の趣味・嗜好があるから仕方ないことなのだろうけど、今回1回限りでなくこれからもステージに上がる以上服装を統一、または共通の衣装がなければ『技術のある人だけを集めた寄せ集め集団』という印象を与えかねない。
「いくら『馴れ合いは不要』、『音楽技術に関係はない』とはいえ、審査員も音源を聞くだけではなく、実際に目で見て判断するでしょう」
「変に印象を与えたくない、と言うことね」
湊先輩の言葉に俺は肯く。
「と、言っても衣装代はそう安くすむものでもないでしょうし、テーマを決めて、それに沿った服を――」
「あの!」
と、ここで不意に燐子さんが声をあげる。
「どうしました?」
「私……作れます……衣装」
「へ!?」
何気にRoseliaで多才なのは燐子さんなのかもしれない
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
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許す! 書くことを許す!
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ただでさえ話進まんのだからやめーや!!