今回は紗夜さん推しの方にとってはひどい話になるかもしれません。申し訳ないです。
「こんな感じで……どうでしょう?」
燐子さんが鉛筆を置き、ふぅとひと息つく。
「凄いですね。デザインまで出来るなんて……あとはこれを形にしていくんですか?」
「いえ……皆さんの意見をいただきながら修正して……あと数パターン作っていきます」
「な、なるほど……」
とりあえず大変なことは分かった。
ライブハウスに併設されているカフェで、
燐子さんと衣装の話をしていた。
と、言っても燐子さんが描いているデザインを見ていただけだけれど……。
ちなみにリサ先輩も一緒である。
「絵が上手い人ってうらやましいです。俺、生首しか描けなくて……」
「生首!?」
まぁ、生首っていうか、顔に体がジョイントしてるっていうか……美術の先生には『昔CMで見たた○こに似てる』って言われたっけ。よく分からなくてあとで調べたら確かにた○こに見えた。
しばらくあだ名が『た○こ画伯』になったのはイヤな思い出。
閑話休題
「それにしても、よくこの意見でこんな素晴らしいデザインが出来ましたね」
衣装のデザインを決める際、メンバーから意見を集めようということになった。なったのだけど――
――ボーカルのM先輩の意見――
「Roseliaにふさわしい衣装を」
――ギターのHさんの意見――
「演奏の妨げにならなければなんでも……」
――ドラムのUさんの意見――
「我らが纏いしは、漆黒の衣に……こう……ババーンと」
3人の要領を得ない意見に、見るに見かねたリサ先輩も手伝ってくれることになった。リサ先輩、本当に女神。
というか、演奏の妨げにならなかったら、裸でもいいんだろうか? 怖くて聞けはしないが。
「それにしても、燐子が衣装作れるなんて、驚きだよ~。もしかして、刺繍とか出来たりするの?」
「はい、一応できます。ネットとかで……独学ですけど……」
「えー!? 独学!? 凄いよ~! 超人じゃん!」
「そ、そんなに……大層なことでは……」
「謙遜することないって~☆」
リサ先輩と燐子さんが洋服談義を始めた。
ていうか、リサ先輩のテンションが妙に高い。
「今井さんは……洋服作ったりとかは……」
「あたしは修繕が精一杯。編み物なら出来るんだけど……」
リサ先輩が編み物だって!? 面倒見のいい人だとは思っていたけど、そこまで女子力あったのか。
「というか~……その、ぬいぐるみとか好きで……編みぐるみとか編んじゃうんだよね~。……似合わないでしょ?」
顔を赤らめながら告げるリサ先輩。
何この先輩。可愛いんですけど!
「そんなこと……ないです」
首を横に振る燐子さん。
「だって、ギャルが編みぐるみだよ!? 変じゃない?」
そこまで変じゃないと思うんだけどなぁ。確かに驚いたっちゃ驚いたけど、ギャップ萌え? それも魅力の1つだと思うし……なんだったらリサ先輩の作った編みぐるみ、もらって家宝に……」
「夕輝さん、夕輝さん……」
なんてことを考えていると、燐子さんに声をかけられる。
「どうしました?」
「漏れてます……」
漏れてる? テーブルの上の飲み物はなんともないし――
「夕輝さんの……心の声が……」
俺の、心の声?
リサ先輩を見ると顔を真っ赤にして俯いている。
もしかして――
「口に出てました?」
「それは……バッチリと……」
恥ずか死にたい……
羞恥のあまり顔を覆う。
「本当?」
「え?」
「編みぐるみ、作ってきたらもらってくれる?」
恥ずかしさのせいか、目を潤ませているリサ先輩。
こんな顔を見て、断れます? イヤ無理!
「もちろん! 一生大事にします!」
そもそも断るつもりなんてないけれど。
「燐子も?」
「もちろん……」
「やった!」
嬉しそうに喜ぶリサ先輩。その顔を見られただけでも間違いではなかったと思う。
※
side 紗夜
『新しく結成したアイドル? バンドなんだってさ』
『このギターの娘、紗夜ちゃんに似てるような……』
ギターのメンテナンスを頼んだ行きつけの楽器店。
そこで見かけたアイドルバンドのポスターには日菜が写っていた。――ギターを持って。
日菜がバンドに加入したことは知らなかった。それも、あろうことか自分と同じくギターで。
『日菜に負けたくない』その一心でひたすらにギターを弾いて弾いて弾き続けた。
やっと見つけた私の居場所。私にはギターしかないのに! それをあの子はまた!
「――夜。紗夜」
「はっ!」
もの思いに耽っていたところで湊さんに声をかけられ、意識が浮上する。
「すみません……」
「どうかしたの? いつもなら音楽以外の話をしていると注意するのは紗夜が先なのに」
少し離れたところでは、宇田川さんと今井さん、白金さんと夕輝が何やら話をしている。
「お姉ちゃんのドラムはねどーん、ばーんってね」
「あはは、あこってばいつもその説明だね~」
「つまり、激しく躍動的だと……」
「何で分かるの!?」
「あこのはまだ初級編ですから。上級編になると全部ルビが振られます」
「いや、分からないから!」
少し離れたところでは、宇田川さんと今井さん、白金さんと夕輝が話している。
「紗夜? 具合が悪いのなら帰――」
「大丈夫です。この休憩中に頭を冷やせば」
少し集中力が途切れてしまうけど、切り替えなくては――
「最近まで一緒にお風呂に入ってたんでしょ?」
「え? そうなの?」
「みんなそうじゃないの?」
「いや、俺は姉2人だし流石にねぇ……」
「あたしは妹いないしなぁ……」
「私も……」
「ふふん、2人とも兄弟がいないから分からないんだよ。お姉ちゃんは1番かっこいい、妹のあこがれなんだよ!」
「お姉……ちゃん」
『お姉ちゃん!』
『ねぇ、お姉ちゃん』
『お姉ちゃ~ん!』
「いい加減にしてよ!」
その瞬間、私の中の何かが切れた。
side out
※
「いい加減にしてよ!」
突然響き渡る姉さんの怒号。みんなの目線は自然と姉さんに向けられた。
休憩中とはいえ、少し話すぎただろうか?
「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ! 憧れられる方がどれだけ負担か……分からないくせに!」
しかし、姉さんの怒りの原因は別にあった。
「なんでも真似して! 自分の意思はないの!? 姉のすることが全てなら、自分なんて要らないじゃない!!」
姉さんが怒りに任せてまくしたてる。
傍から見たら、あこの発言に怒っているようにも見えるが違う。
「あこ……またやっちゃった……。前に注意されたのに……紗夜さん、ごめんなさい……」
涙ながらにあこが謝るが、それでも姉さんの怒りは治まらない。
「まぁまぁ、姉さん。落ち着いて。あこも悪気があるわけじゃないんだし」
むしろこの件、あこは単に引き金を引いてしまったにすぎない。
とりあえず姉さんの怒りを鎮めようと、姉さんの前に立つ。
パァン
いきなり何かが破裂したような音がスタジオ内に響いた。
あこは驚きのあまり泣き止み、燐子さんは手で口を覆っている。リサ先輩は目を見開き、あの湊先輩ですら驚きの表情を浮かべていた。
「あなた、日菜がギター始めたこと知ってたのね!? 知ってて私に黙っていた! ようやく見つけた私の居場所を奪おうとした!! 私にはもう、ギターしかないのに!!」
姉の悲痛な叫びが耳に、胸に響いた。
「紗夜、どんな事情があろうとも、Roseliaに私情を持ち込まないでちょうだい」
いち早く硬直から抜けた湊先輩が告げる。
「それに、今日は練習に集中出来てなかった。帰って」
「っ――失礼、します」
ギターをケースにしまい、背負うと姉さんはスタジオを出て行った。
姉さんが出て行ってから、ようやく左頬に痺れと痛み、熱を帯びているのを感じ、叩かれたことに気づいた。
「夕輝、あなたも――」
※
side another
「お騒がせしてすみません。今日のところは失礼します」
左頬を押さえながら頭を下げる夕輝。
再び顔をあげた彼の顔を見て、他のメンバーは再び驚愕した。
いつもは笑顔を浮かべたり、怒られたときには悲しんだり、顔に出やすいとよく言われる彼の表情はまるで能面のようだった。怒りも、悲しみも読み取れず、目もまるで作り物のように輝きが失せていた。まだビー玉の方が綺麗に見えるほどだった。
心配のあまり、声をかけようとしたリサも退室を促した友希那も、あこも燐子もまるで金縛りにあったかのように動けなくなった。
そんな彼女たちを後目に、夕輝はスタジオから出ていき、ドアが閉まる音だけが響いた。
「」
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
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許す! 書くことを許す!
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ただでさえ話進まんのだからやめーや!!