2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

14 / 40
 さようなら平成、よろしく令和(今さら)


第13話

「――輝、夕輝」

 

「え?」

 

 授業中に声をかけられて、そちらを向くと蘭が黒板の方を指差している。

訳も分からず視線をスライドさせると――

 

「氷川! 氷川夕輝! いないのか?」

 

 教科担任が仁王立ち。

 

「は、はい」

 

「前に来てこの問題解いてみろ」

 

 黒板の前に行き、チョークを手に問題に向き合う。

いつもなら難なく解けるはずなのだが――

 

「どうした? 解けないのか?」

 

「すみません……」

 

「吉川、代わりに解いてくれ」

 

「はい」

 

 代わりの子にチョークを渡す。彼女はスラスラと問題を解いていくが、全く頭に入ってこない。

 

「はい、ありがとう。氷川、分かったか?」

 

「え、あぁ~……」

 

 俺の態度を見て、先生はため息1つ。

 

「顔洗って、目ぇ覚ましてこい」

 

「……はい」

 

 先生の言うことに従い、教室を出る。

 

 今年から共学になった羽丘だけれど、しっかり男性用トイレもある。もっとも、男子生徒よりトイレの方が多いせいでトイレ掃除が大変だったりするけれど。

まぁ、催した時に近場にないと困るから多いに越したことはないんだけれど。

 

 ともあれ、洗面台の蛇口を開けて水を手ですくう。そして顔に叩きつけるようにして顔を洗う。それを何度も何度も繰り返す。傍から見たら異常だと思われそうだけど、今は授業中。しかも男子トイレにわざわざ来る変わり者なんていない。

 

 ある程度顔を洗い、正面の鏡を見ると、ポタポタと水滴を滴らせながらこちらを見る男がいた。

 俺と同じ色の髪、同じ色の目をしていた。

ただ、目の下には酷い隈が出来ていて、顔色も青白く不健康そうだった。

 

「ははっ、ひっどい顔」

 

 その男の顔を笑うと、そいつもこちらを見て笑っていた。

 さて、いつまでもにらめっこしているわけにもいかないし、ハンカチハンカ――

 

「はい」

 

「お、ありがとう」

 

 ()()()()()()()()()を受け取り、お礼を言ってから顔の水滴を拭う。柔軟剤を使っているのかかなりフワフワだ。香りもうちのとは違うようだ。どこのを使っているか聞いてみよう。

 

 ん? 俺は1人でトイレに来たはず。ならば当然タオルを渡してくる人などいないわけで……。

おそるおそるタオルを出してきた人物の方を見ると――

 

「目、覚めた?」

 

 見紛うことなき赤メッシュ。

 

「蘭!? 何でいんの!? ここ男子トイレ!」

 

 

 いくら他の生徒がいなくて、見た目カッコいいからといっても蘭は性別上女の子なわけで、男子トイレに入っちゃまずいでしょ!?

 俺も時々、『あれ? 氷川くん。こっちじゃないの?』って女子に弄られることはあるけども!

 

「それは分かってる。ただ、アンタが心配だったから」

 

 蘭……まさかそんなに俺のことを……

 

「1限目から具合悪そうだったし、ボーッとしてて先生に注意されまくってたし」

 

 デスヨネ~。知ってた。まぁ、

 

「夕輝がボーッとしてるなんて珍しいし……悩み事?」

 

 蘭はよく気難しそうって勘違いされるけれど、実は実は心優しいんだよなぁ。でも――

 

「心配してくれてありがとう。でも、話せないんだ。これは俺の問題だからさ」

 

 ごめんね、と謝る。

 

「そっか……。じゃああたしは先に戻ってるから」

 

「ありがとう。タオルは洗って後日帰すから」

 

 ん、と返事して片手を挙げて去って行った。

こういう仕草が似合っててカッコいいんだよねぇ。

 

 もう一度鏡を見る。左頬に痕は残っていなかった。

そういえば、最後に姉さんに叩かれたのはいつだっただろうか。

 水滴のように心のモヤモヤは拭えなかった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 チャイムとともにコンビニ袋を持って教室を出る。

結局、あのあともボーッとしてしまい先生にかなり怒られた。

放課後に呼ばれてしまった。女子に呼ばれるイベントだったらドキドキするのに、相手が先生でなおかつ補習と分かっている以上、ありがたくないイベントだ。

 

 フラフラと廊下を歩き、階段を上る。着いた先は屋上へ続くドア。

美術の授業で写生のために開放していたのか、前に来たときは開いていたが――

 

ガチャガチャ

 

 今日は開いていないようだ。でも、実は出口ってここだけじゃないんだよなぁ。

 

 カラララ

 

「ん、こっちは開いてたか」

 

 なんのためについているか分からない窓。この窓のうち一カ所が実はカギが壊れていて開くようになっている。屋上へ出られるか冒険心のつもりで確かめていたら偶然見つけたものだ。

おそらく先輩たちも気づいていながら誰も先生に報告していないのだろう。暗黙の了解というヤツだ。

 

(姉さんだったら、注意した上で先生に報告するんだろうな)

 

 ふとそんなことを思って、胸が鈍く痛む。

屋上へ出て、窓から少し離れたところで仰向けになる。

よく、空を見れば悩みなんてちっぽけなものだ~、なんて言うが、消してそんなことはなく、モヤモヤが胸の中でいつまでも鎮座している。

 

(何も食べる気がしない。もう寝ていよう)

 

 目を閉じ、片手で目を覆う。

 

「屋上に出るなんて、お姉さん感心しないなぁ」

 

 聞き慣れた声と同時に、自分に影がさすのを感じた。

 

「そんなとこに立つとパンツ見えますよ、リサ先輩」

 

 もちろん目は閉じてるし、手で覆っているので見えるわけはない。ただ、リサ先輩が距離をとってくれればと思ってのでまかせだ。

 

「ん~? 夕輝はそんなことするはずないよね? それに……夕輝だったらいいよ☆」

 

 うん。参りました。だまし合いは俺の負けです。

 

「隣いい?」

 

 むくりと起き上がると、リサ先輩はススッと寄ってきて、座ろうとする。

 

「ちょっと待ってください」

 

 俺の横――から少し離れたところにハンカチを広げて敷く。蘭には悪いが、タオルを借りてよかった。使ってないから濡れてないしね。

 

「紳士的だね~☆ ありがと」

 

 そう言うと、ハンカチを拾って()()()()()()()()()()座った。

 

「え~っと……いい天気だね~」

 

「そうですね」

 

 気を遣ってくれているのか、無難に天気の話題から入るリサ先輩。ちなみに天気は曇り空。

日射しが苦手な俺からしたらいい天気なんだけど、一般的にはどうなんだろうね?

 

「え~っと……」

 

「リサ先輩。普通に聞いてもらっても構いませんよ」

 

 少し冷たい言い方になってしまったけど、これ以上気を遣わせるのも申し訳ない。こちらから話を進めることにした。

 

「……昨日、あれから紗夜とは?」

 

 答えの代わりに首を横に振る。

 

 あのあと、家に帰ってから姉さんは部屋にこもってしまい、出てきてくれることは無かった。

朝もいつもより早く出たようで、会うことはなかった。

 

 顔を合わせなくてよかったと思う反面、謝る機会を失ってしまい、どうすればいいのか分からないのが現状だ。

たぶん姉さんもそんな感じなんだとは思うけど。

 

「夕輝……こんなこと聞いていいのか分からないけど、紗夜と日菜って何かあるの?」

 

 おそらく俺は驚きのあまり、目を見開いたのだろう。自分では自覚ないけど。

 

「姉妹仲は悪くないと思うんだけどね……あたしがRoseliaに入ってからの紗夜の様子を知りたがってるし……」

 

 リサ先輩の言葉に、俺は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 

 日菜ねぇは紗夜姉さんの様子を知りたがっていた……でも俺は紗夜姉さんの心の安定を考えて、日菜ねぇにギターのことを教えてなかった。日菜ねぇがギターに興味を持たないように。

 

 そして紗夜姉さんにも日菜ねぇがアイドルバンドに入ったこと、ギターを担当することを教えてなかった。

 

 2人に隠し事をして、お互いを傷つけた。

 

「俺……最低じゃん……」

 

 頬を涙が伝う。

 

「ちょっ!? 夕輝! どうしたの!?」

 

 いきなり俺が泣き出したことでリサ先輩があたふたとしてしまった。

 

 

 

「大丈夫? 落ち着いた?」

 

「すみません……」

 

 結局、幼い頃からの姉妹のすれ違いの顛末、2人のそれぞれの隠し事などを涙ながらにリサ先輩に話した。

流石に1人で抱えられずに話してしまった。

 

(蘭にはあんなこと言ったのにね……)

 

 つくづく自分がイヤになった。

 

「そっか……夕輝も1人で抱え込んでいたんだね……」

 

 辛かったね、と頭を撫でてくれるリサ先輩。

恥ずかしいけど、触れられたところから不安が消え去り、どこか穏やかな気持ちになる。

 

「すみません……」

 

「謝る相手が違うかな~。まずは日菜と紗夜に謝らないとでしょ?」

 

 諭すようにリサ先輩が告げる。

2人の仲を取り持つためには、まず俺が2人に謝らないと――

 

「あ、お昼休み終わっちゃうね~」

 

「すみません……これ、良かったらどうぞ」

 

 コンビニで買っていたサンドイッチをリサ先輩に手渡す。

リサ先輩は弁当を持ってきてたけど、流石に短時間じゃ食べられないしね。

 

「ありがと」

 

 リサ先輩は1切れ取ると残りを戻してきた。

 

「夕輝も何か食べないともたないよ?」

 

「ありがとうございます」

 

「いや、もともと夕輝のだからね?」

 

 2人で急いでサンドイッチを食すと、屋上を後にした。

 

 

 

「ゆーくん♪」ドーン

 

「っ!?」

 

 校門を出た途端、日菜ねぇに文字通り突撃された。

しかも、背中からのハグつき。

 

「ちょっ!? 日菜ねぇ! 離れて!」

 

「え~、その提案はるん♪ としないなぁ」

 

「いや、ホント、ホントにお願いします」

 

 さすがに謝罪しなきゃいけないのに力ずくではがすわけにもいかず、謝り倒して離れてもらった。

この時点でかなり謝っているのに、さらに謝らなきゃいけないってなんだかなぁ……。

 

「日菜ねぇ、姉さんがギターを始めたこと、バンドに加入したことを黙っていてごめんなさい」

 

 頭を下げる。当然下校中の生徒からの視線が集まる。

 

「そんなこといいよ~」

 

 あっさりと許された。あまりにあっさりしすぎてこっちが呆然としていると

 

「それよりゆーくん。これあげる」

 

 日菜ねぇから1枚のチケットが。

 

「え? 『○○プロダクション合同 LIVE』!?」

 

 それなりに知名度のあるプロダクションだということは分かる。

 たしか、日菜ねぇがオーディションを受けた――Pastelなんちゃらも所属していたっけ。

 

「じゃあ、今からレッスンだから行くね~」

 

 バイバーイ、と日菜ねぇは行ってしまった。

 

 俺の心に別な不安が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。