運命のライブ。それが終わる時彼は――
この辺で知名度のある会場、埼玉でいうSSA、千葉でいう幕張――実際そこまではいかないけれど――そんな感じの場所に俺はいた。
うん。なんていうか、熱気がすごいね。ライブはこの間のRoseliaライブが初めて……あ、湊先輩のソロの時が最初か。
ともかく、こんなに広い会場でこれだけの人数が集まったライブは初めてだ。
さすが有名プロダクション。会場を借り切ってプロダクション主催のワンマンライブを行うなんてねぇ。
それも、『合同』と銘打っているけど新人アイドルバンドのお披露目も兼ねている。
大手プロダクション、大きな舞台。驚くことは大いににあるけれど――
(練習時間、足りているのかな?)
日菜ねぇからオーディションに受かったと話を聞いてからそんなに日が経っていない。もともと音楽に精通している人たちを集めたのか、別のバンドとして活動していた人たちに日菜ねぇを加えたのか……そんな風に思っていた。
パンフレットが売っていたので購入したんだけど、『Pastel*Palette』のメンバーはほとんど見たことが無かった。
知っているとしたら、日菜ねぇと――
「白鷺千聖……」
芸能界に詳しくない俺でも知っている『元子役』。
連続テレビ小説の主要キャストの子役としてデビューしてから時代劇、ドラマ、教育番組などで引っ張りだこ。
子どもとは思えない演技とテレビ慣れしたかのような落ち着き具合、時々見せる年相応の子どもらしさ。そういった要素がウケたのか、『白鷺千聖を起用すれば数字が獲れる』と一躍時の人となった。
そんな彼女だけれど、そのあとはあまり姿を見なかったため、学業に専念するために引退したものと思っていた。
それがアイドルバンドのベースとしてなんて……。
(楽器をやるきっかけがあったんだろうか)
それは何かの役として弾くことになったのか。それとも個人的に興味を持ってベースを始めたのか……
『大変長らくお待たせいたしました。本日は○○プロダクション合同ライブにお越しいただき、誠にありがとうございます』
おっと、いろいろ考えてたらもう開演の時間らしい。
開演前の注意事項がアナウンスされる。
まぁよくある『スマホ・ケータイは電源切るかマナーモードにして』、『盗撮・盗聴は厳禁。やったらデータ消した上で退場』というヤツだ。
実際にステージ上では映画館でおなじみの人が踊っているところを警備員(こっちは普通の人)に羽交い締めにされている。これ、肖像権だかなんたら権は大丈夫なのかな?
とりあえずスマホは電源切って、パンフレットをしまった。
アイドルのライブってスゴいね。ライブハウスでのライブと盛り上がりが全然違う。ペンライト? サイリウム? があちこちで振られ、手作りだかグッズだか分からないけど団扇を掲げている人もいれば半被やら特攻服着てる人いるし……ガチの人じゃないよね?
何より声援が比べものにならない。ハコの規模が違うとここまで違うのか、はたまたアイドルだからなのか……
それは分からないけど、これだけの人数の声援がアイドルに送られてパフォーマンスが向上する。
「続きまして新生アイドルバンド、『Pastel*Palettes』の登場です。本日が初お披露目となります彼女たちにご声援お願いいたします」
進行の煽り、それにプロダクション初のアイドルバンドということもあり会場もさらに盛り上がる。
ステージが照明で照らされ、現れたのは5人の少女。ボーカルのピンク色の髪の少女、ドラムの茶髪の少女、キーボードの白髪? の少女とクリーム色の髪のベース、白鷺千聖とお馴染みアイスグリーンの髪のギター、日菜ねぇ。
「はじめまして、私たち『Pastel*Palettes』です!」
ボーカルの少女、丸山彩が挨拶する。
「まずは私たちの歌を聞いてくだひゃい」
(あ、噛んだ……)
「失礼しました。聞いて下さい『しゅわりんどり~みん』」
すかさず白鷺さんがフォローする。
芸能界に長くいたから身についたのか、はたまた丸山さんがやらかす人だからなのか分からないけれど、さすがだと思う。
奏でられる曲は、いかにも王道アイドルといったポップな曲調。いつもRoseliaの曲を聞いている俺には少々なじみが薄いけれど、こういった曲もいいかもしれない。
ただ、Roseliaに比べると演奏のレベルは劣るかもしれない。
まあ、Roseliaのレベルが高すぎると言えば納得なんだけどね。あそこはガチ勢だし。
そんな彼女たち、『Pastel*Palettes』……長いしパスパレとでも略しようか。パスパレだけれど、楽しそうに演奏している。緊張などしていないかのように声が震えたり、指がぶれて余計なコードやキーを触ったりすることなく演奏が出来ている。
しかし、世の中というか、神様というのは時に残酷なものだ。『越えられる者にしか試練を与えない』とはいうけれど――
曲が盛り上がっていき、おそらくサビを迎えるといったところで事件が起こった。
「!?」
突如として『演奏が止まった』。
歌も楽器の音も止まった。何が起こったのか分からず、会場はざわめきだす。
突如として誰かが言った。
「当てレコだ」
と。
つまりは彼女たちは音源に合わせて歌うふり、演奏するふりをしていたということだ。
ただ、これは彼女たちパスパレ自身の考えではなかったのだろう。そうじゃなければ、なぜみんな顔面蒼白で何をすればいいのか分からない、といった反応をしないだろう。
ただ、そんなことは関係ない。これまでの会場の熱気は冷め、声援は怒号に変わる。
「すみません。機材トラブルにより、これ以上の演奏は不可能になってしまいました」
そんな中でもいち早く混乱から抜け出し、フォローするのは白鷺さん。
状況の説明と謝罪をし、メンバーを引き連れて舞台袖に引っ込んだ。
それでも納得のいかない人はいるわけで――
「ふざけるな-!」
「詐欺だろうこんなの!!」
「金返せ-!!」
と怒号が飛び交い、ステージに押し寄せようとする人と、それを止めようとする警備員でごった返していた。
(こんなやり方……)
俺は両の拳を強く握る。
話題性づくりのためにアイドルバンドを結成、即ライブをさせて、肝心の歌と演奏はアテレコ。バレなきゃプロダクション初、むしろ業界初ともいえるアイドルバンドの初ライブ。失敗しても『炎上商法』として売り出す。
大手プロダクションの合同ライブだ。当然メディアもかなりの量が来ている。どちらに転んでもメディアでは大きく取り上げられ、名前は覚えてもらえるだろう。
(でも、彼女たちのことなど考えていない……)
もし考えているならば、ちゃんとした練習時間を設けた上で小さなハコからでもデビューさせただろう。
アテレコがバレたタイミングでフォローの1つもいれただろう。
実際、今だって人気アイドルによるメドレーをいれることで沈静化と同時に『強引に』ライブを続行させている。つまり、
「新人のはあくまで名売りのパフォーマンス。ライブの進行には一切支障をきたさない」
「それに、ライブを最後まで見たでしょう? じゃあ返金には応じませんよ」
と言うことなのだろう。
(こんなことって……)ギリッ
怒りのあまり無意識のうちに歯を噛み締めていた。
俺の怒りの矛先はアテレコをした彼女たちでも、ライブを続行させようとする運営でもない。
(人の夢をなんだと思っているんだ!)
少女の夢を弄び、儲けしか考えないプロダクションの上層部だ。
その後、ライブは続行されたが、俺は最後まで見たのか、途中で帰ったのか覚えていない。どこをどう帰ったのかも覚えていなく、気づけば家にいた。
※ side紗夜
(なかなか上手くいかない……)
部屋での自主練習、同じフレーズの同じ部分で躓いてしまう。
(こんなところで躓いていては――)
出来ない自分に苛立ちながらも少し頭を冷やそうと小休憩を入れることにした。
カタン
下から物音が聞こえた。
(お母さんが帰ってきたのかしら)
先ほど買い物に行ったはずなのだけれど、もう戻ってきたのだろうか。
のども渇いていたので下へ降りていく。
リビングに入ると――
(夕輝!?)
そこにいたのは夕輝だった。
(この間のこともあって顔が合わせづらいのだけれど……)
キッチンに入りコップに水を注いでのどの渇きを潤す。
コップを濯いで水切りカゴへ置く。
チラリと夕輝に視線を向けると、夕輝はそこに立ちつくしたまま動かなかった。というより――
(私に気づいてない?)
立ちつくしているだけではなく、視線も一点を見つめたままだ。
「夕輝?」
呼びかけてみるも反応はなく、両手を硬く握りしめている。
「夕輝、どうしたの?」
夕輝は昔から怒ることがめったになかった。
怒るときは、今みたいに両手を真っ白になるくらいに強く握りしめて黙っている子だった。
そういう時には今みたいに前に回り込んで両手を握っていた。
(ここまで夕輝が怒ったのはいつだったっけ……)
すると、夕輝はポツリポツリと語り出した。
次第に夕輝の目から涙があふれ出した。
私はただ夕輝を抱きしめることしかできなかった。
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
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許す! 書くことを許す!
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ただでさえ話進まんのだからやめーや!!