ライブの日の翌日、懐かしい夢を見た気がした。
確か、中学生になった夏頃だっただろうか。先輩に食ってかかったことがあった。原因は覚えていない、というか思い出したくない。紗夜姉さんか日菜ねぇ関係だったのは確かだ。
とにかくかなり激怒したのだろう。体格差があった上に、あちらは複数人。対してこちらは1人。それでも関係ないとばかりに向かっていった。
当然ボコボコどころかボロボロにされた。それでも相手方も無傷とはいかなかった。
ちなみに先生にはこっぴどく怒られたものの、事情を説明し、なおかつ人数の差もあって俺は反省文と数日の謹慎で済んだ。
閑話休題
そのボロボロにされた日。家に帰ると、紗夜姉さんがいて、俺の惨状を見てかなり驚いていた。
当然理由を聞かれたけど、理由を話さないで押し黙っていた。
そんな俺に紗夜姉さんはただ向かい合って、手を握ってくれた。
(夢……だよね?)
ベッドから起き上がると、昨日の服装のままだった。
本当に記憶が無いんだけど、どうやって自分の部屋まで来たんだろう……。とりあえずシャワーを浴びよう。
コンコンコン
脱衣所のドアをノックするも、誰もいないようだ。とりあえずホッとする。
ノックって、人類の偉大な発明だよね。ノックするだけで余計な争いを防ぐことが出来るんだから。
うっかり忘れてしまい脱衣所で紗夜姉さんと遭遇したときは寿命が縮むかと思った。
全面的に俺が悪いのだからすぐに土下座をして謝ったけれど、かなり怒られた。
しばらくは(恥ずかしさのあまり)紗夜姉さんを直視出来なかった。
逆に日菜ねぇに突入されたこともあった。
俺に非はないはずなのだけれど、日菜ねぇともども紗夜姉さんに怒られた。
そんなわけで脱衣所のドアに貼り紙をしておく。
本当は鍵をかければいいんだけれど、朝の忙しい時にかけると大惨事だからね。
※
朝に紗夜姉さんと顔を合わせた時、顔を赤くしていたけど怒ってはいなかった。
とりあえず数日前ほどのギスギスした感じはなかった。
なんで顔を赤くしていたかは分からないけど……
とりあえず紗夜姉さんには帰ってから謝るとして、今気にするべきは日菜ねぇ。
昨日のライブ以降、顔を合わせていない。
と言っても家に帰っていないわけではなく、家にはいるようだった。
(学校に行くときには会えなかったけど……教室にいるかな?)
昨日のこともあり、少し気晴らしにでもと思い、放課後に2年生のフロアを訪れる。
入学してまだそんなに経っていないけれど、見慣れた光景。それでも1人で来るのは初めてだ。
「あれ? 夕輝じゃ~ん☆ 珍しいね~。どうしたの?」
声をかけてきたのはリサ先輩だった。今日はたしか練習は無かったはずだし、今から帰るところだろうか。
「リサ先輩、お疲れさまです」
「お疲れさまって、Roseliaの活動じゃないぞ~?」
気持ちは分かるけどね~☆ と苦笑いするリサ先輩。
「失礼しました。こんにちは、リサ先輩」
「ん、こんちは~☆ で、どうしたの?」
「日菜ね……日菜先輩いらっしゃいますか?」
危ない危ない。いつものクセで『日菜ねぇ』と呼びそうになった。
「ん~? 日菜なら……あ、いたいた☆ 日菜~! 夕輝が来てるよ~」
「「「日菜の弟くん!?」」」
「!?」ビクッ
何故か日菜ねぇが反応する前に、他の先輩が反応したんだけど……俺、何かした?
「日菜がうらやましい……」
「うちの弟はどうして乙女系じゃないの!?」
「DNAの問題?」
「……それどういう意味?」
何か好き勝手言われている上、修羅場に発展しそうなんですけど……正直今すぐ立ち去りたい。巻き込まれる前に。
「ゆーくん? どうしたの?」
と、日菜ねぇが出てきた。
いつもは日菜ねぇに引っ張られて来るため、日菜ねぇも不思議そうにしている。
「いや、一緒に帰ろうかなって……」
そう告げた途端、日菜ねぇの表情がみるみる明るくなって――
「本当!? じゃあ、すぐ準備するね!」
言うが早いか、自分の席に戻って鞄に荷物を突っ込んでいく。気持ち、『るん♪』度合いが高い気がする。
「日菜、また明日ね~」
「うん。ばいば~い♪」
すれ違う人すれ違う人にあいさつをしながら戻って来た。
「おまたせ~♪ じゃ、行こうか」
「うん。皆さん、お騒がせしました。失礼します」
教室内の先輩方に一礼する。
「弟くん、ばいば~い」
「夕輝くん、またね~」
あいさつを返してもらって、嬉しいやら恥ずかしいやら……うん。こりゃ顔真っ赤だね。
「リサちーも、またね~」
「お先に失礼します」
「うん、また明日~☆」
入り口の前にいたリサ先輩にもあいさつをして2年生のフロアをあとにする。
「本当にあんな弟がほしい……」
「弟はいらない、夕輝くんがほしい……」
何か不吉なつぶやきが聞こえたけれど、聞かなかったことにした。
「それで、どこに行くの?」
「あ~……」
ノープランだった。一緒に帰ることは考えていたけれど、どこに行こう、どこに寄ろうとかいうのを一切考えていなかった。
「じゃあ、アタシのるん♪ってくるところでいい?」
「うん。情けないけど、日菜ねぇにお任せするよ」
「よ~し、レッツゴー! ゴーゴー!」
そういうと、日菜ねぇは俺の手を握って走り出す。
元気になったのは嬉しいが、こうなるとちょっとやそっとじゃ止まらないので(二重の意味で)日菜ねぇに遅れないように、追い越さないようにペースを維持して走る。
※
「ここだよ」
日菜ねぇに連れられて来たのは小高い丘だった。
特に遊具とかがあるわけでもなく、簡単な四阿があるだけの特徴があるわけでもない丘。
「ここ?」
「そう。ここ」
着く頃には、つないでいたはずの俺の手を日菜ねぇが抱きしめるようにして歩いていた。
(近いけど……言うだけ野暮だよね)
日菜ねぇに『お任せ』した時点で、俺に拒否権はない。あったとしても、今日は日菜ねぇの好きにさせるつもりなので拒否する気もないけど。
それはおいといて、ここが日菜ねぇのるん♪とする場所なのだろうか?
「何もないとこでしょ?」
俺の考えを見透かしたように日菜ねぇが呟く。
「でも、何もないから夜には星がキラキラ、ピカピカって輝いて見えるんだよ。アタシのお気に入りのスポットなんだぁ。今日はまだ早いんだけどね」
たしかに、西の空はオレンジがかっているし、東の空は、オレンジと濃紺のグラデーションのようで、星もまだまばらにしか見えない。
行こ? と日菜ねぇに促され、四阿に入る。
雨は凌げそうだが、風に対しては期待出来そうもない。
もっとも、今日に関してはどっちも心配することは無いけれど。
「昨日はありがとうね。見に来てくれて」
腰を下ろすと、日菜ねぇがポツリと言った。
「ゆーくんにいいところ見せたかったんだけど、時間が足りなくて、あんなことになっちゃって……かっこ悪いね」
あはは、と乾いた笑いとそれとは正反対に俺の手を握る手に力が入る。
「前までだったらさ、『あ~あ、ダメだったなぁ~』で終わったんだろうけどさ……今は、ただただ悔しくてさ……」
日菜ねぇから『悔しい』という言葉が出たことに驚いた。
さっき日菜ねぇが言ったとおり、出来なかったり飽きたりすると投げ出していた日菜ねぇ。そんな日菜ねぇが悔しがるほどに、ギターは、『パスパレ』は短い期間だったけれども彼女に何かしらの変化をもたらしたのだろう。
「日菜ねぇはさ……ギターを、パスパレを辞めたいと思う?」
ネットでは『結成、即解散』やら『活動休止』やら『デビュー兼解散ライブ』なんて言われているけど――
「辞めないよ。あそこは新しいるん♪てくる場所だから」
涙を流しながらも、彼女の決意は固かった。
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
-
許す! 書くことを許す!
-
ただでさえ話進まんのだからやめーや!!