ライブがあった次の週の土曜日。
モカに呼び出されて俺は商店街に来ていた。
約束していたわけでもなく唐突だった。
いつもより早く起きてしまい、ベッドで本を読んでた時だった。
※
『おはよ~。モカちゃんだよ~』
『おはよう』
『ゆーくん。暇~?』
『今、本読んでた』
『今日1日、モカちゃんに付き合って~』
『9時に山吹ベーカリー前に集合ってことで~』
……あれ? 俺OKしてない……
※
半ば強引な気もしたけど、紗夜姉さんや日菜ねぇみたいにバンド活動してる訳じゃないしいいかな。
(これもある意味デートだしね)
この先あるか分からない経験に、ワクワクしながらモカを待つ。
「お~、ゆーくんの方が先でしたなぁ~」
きっかり5分前に慌てる様子もなく、いつも通りの飄々とした態度で現れた。
(おぉ、これは……)
制服姿と、ステージ衣装しか見たことない俺からしたらモカの私服姿というのは新鮮だった。
何やら英語の書かれたTシャツにグレーのパーカーを羽織り、下はショートパンツ。
ガーリーな服を着るイメージは無かったが、変に着飾ってないのがモカらしい。というかーー
(生足が……)
上は露出が少ないものの、下はショートパンツのため露出が多く感じる。加えて、もともと色白なモカの脚を強調しているその服装は目が離せなくなる。
(制服では気にならないのに……これが私服マジックか)
「ゆーくん? モカちゃんの脚に見とれちゃってるの~?」
「い、いや……そんなことはないよ? うん」
誰が見ても明らかな挙動不審っぷり。よっぽどの聖人か『超』がつくほどの天然じゃない限り騙されない。
「ふ~ん……」
そして目の前にいるのは、人を弄ることに定評のあるモカ。
ちなみに被害者はひまりか蘭が大半。
そんなモカが不敵に笑う。何かイヤな予感がする。
「あ~、くつひもがほどけてる~」
妙に棒読みなのが気になるが、そう言ってモカは
俺の視線は屈んだモカの脚にーー
「ゆーくんは嘘つきだなぁ~」
その声にハッとすると、モカはニヤニヤしている。
(やられた!)
あっさりとモカの策略に嵌まった。
「モカちゃんの脚に興味ないんじゃなかったのかな~?」
ふふんと不敵に笑いながら俺の逃げ道を潰すモカ。
下手な言い訳は墓穴を掘りかねない。
「そうだよ! モカの脚に見とれてたよ! 制服のスカートと比べて露出範囲は広いし、色白だし……目を奪われないわけないだろう?」
完全な開き直り。これでは墓穴を掘っているのと何ら変わらない。
「あー……そこまで堂々と宣言されると、さすがのモカちゃんも恥ずかしいんだけど~」
恥ずかしがっているのか、引いているのか、そんな反応だった。
「あー……ごめん」
「と、言うわけなので慰謝料を請求しま~す」
「は!?」
まさかの慰謝料請求に頭がついてこない。
そもそも脚を見つめてたから慰謝料って……いや、でも不快感を与えたのだとしたらセクハラに該当するだろうし……そう考えれば慰謝料も妥当なのかもしれない。
「……分かった。いくら払えばいい?」
示談で治めてくれるならそれに越したことはない。
さすがに前科持ちは勘弁だしね。
もっとも、モカの冗談の可能性は大いにあるけど、そん時は今までの迷惑料ってことで治めてもらおう。
「それなら、善は急げ。中に入ろう~」
言うが早いか、俺の手を掴み山吹ベーカリーのドアを開けて突撃していくモカ。
「いらっしゃいませ~、ってモカか。今日も早いね~」
「おはよ~、沙綾」
お店のカウンターに立っていたのは、この間お世話になったお姉さん……山吹さん。
後々あこから聞いたら、ここの娘さんだったらしい。
ドアベルが鳴り接客モードだった山吹さんだけど、入ってきたのがモカだと分かると、対応がフランクになった。
「あれ? その人はーー」
「あ、この間はどうも……」
山吹さんがこちらに気付き、俺は頭を下げる。
「あれ? 沙綾とゆーくん、知り合い?」
「いやいや、この間パンの差し入れしたでしょうが」
「あ、そーだった。それよりも~、パン~」
頼むぜ、モカさんや……。
「また来てくれたんですね……えっと氷川夕輝さん……でしたよね?」
「覚えてくれてたんですか?」
「ええ。接客業ですから」
誇らしく笑う山吹さん。
とは言っても、たった1回来ただけ。それもたった1度名乗っただけの人間のフルネームを記憶出来るものだろうか……。
「氷川さんってお姉さんいます?」
「ええ。ひとつ上の姉が二人」
「一人は『氷川紗夜』さんですか?」
驚きのあまり山吹さんを見ると、確信めいた目をしていた。
「最初見たとき、ビックリしましたよ。紗夜先輩そっくりなんですから。髪の長さぐらいしか見分けつきませんもん」
そこで姉さんと勘違いしないのはさすがだと……ん?『紗夜
「……山吹さんって、花女ですか?」
「はい。今年入学したばかりです」
「同い年!?」
「わっ!? ビックリした!」
目の前で山吹さんが目を丸くして驚いているけど、俺も驚いた。
リサ先輩みたいに面倒見のいい人だと思っていたけど、まさか同い年だったとは……。
(恐るべし、花女……こんなに落ち着いている同い年、羽丘にいただろうか……)
自分の周りの人間を思い浮かべる。
(ツンデレ赤メッシュ、熱血姉御、やらかしピンク、大天使、食いしん坊パン財……うん、いない)
「あ、同い年なんだ。双子って聞いてたから先輩かなって……」
「いや。双子なのは紗夜姉さんと、羽丘に通ってるもう1人だよ」
「あ、そうなんだ! あれ?じゃあ、妹さんがいるの?」
山吹さんから不思議な質問が返ってくる。
「いや。妹はいないけど……どうして?」
「『氷川三姉妹』って聞いたんだけどね。でも、夕輝くん? だよね? だから妹さんがいるのかなって」
「あ~……」
恐らく初対面で間違えられなかったのは初めてのこと。
俺個人としては喜ばしいことなんだけど……
(マジかぁ……花女でも、ソレで広まってるのかぁ……)
現実逃避したくなり、頭を抱える。
「え!? 大丈夫!?」
「うん。大丈夫……いつものことだから」
そう言って、『三姉妹』の由来を話す。
幼い頃は姉のお下がりを着て、3人一緒に遊んでいたため間違えられたこと、今でも身長があまり変わらないため間違えられること、普通に男物を着ていても、ボーイッシュ(またはマニッシュ)にしか見られないこと……
「それはなんとも……」
おっと、身の上話をしたら、山吹さんはなんとも言えないと言わんばかりに苦笑いしてしまった。なんとか話題を変えねばーー
「山吹さんはさーー」
「沙綾」
「へ?」
急に自分の名前を呼び始める山吹さん。
「夕輝くん。ここはどこ?」
急に記憶喪失になったかと思ったけど、そんなことはないようだ。
「どこって山吹ベーカリー?」
「そう。で、私の家でもあるんだよ」
山吹さんの言い回しが少し気になるが、当たり前とのことだよね……
「つまり、『山吹さん』ってお父さんもお母さんも『山吹さん』なんだよ」
「えっと……」
「まぁ、回りくどい言い方しちゃったけど名前で呼んで欲しいかな。お互い知らない仲でもないんだし」
私も夕輝くんって呼んでるし、と笑った。
「さ、沙綾?」
「うん! よろしくね!」
「沙綾~、お会計もよろしく~」
と、マイペースな声とともに大量のパンをトレーに載せたモカがーー
「多すぎない!?」
「いつも通り~だよ~」
目線で沙綾に確認すると本当のようだ。
モカはサッととポイントカードを置くとーー
「ゆーくん、よろしく~」
「マジか……マジかぁ……」
樋口さんと引き換えに数枚の野口さんと小銭を手に入れた。
「ありがとうございました~」
沙綾の声に見送られ山吹ベーカリーを後にする。
「ゆーくん、食べる?」
早速パンを1つ取り出したモカが紙袋を差し出す。
「いいの?」
「さすがに全部食べるほどモカちゃんは鬼じゃないですので~」
パンを20個以上買わせるのは鬼じゃないのか、という疑問は口にしないでおく。争いは口から生まれるのだ。
「じゃあ、チョココロネを~」
「しゅーん」
「やっぱりメロンパンを~」
「しゅーん」
「…………」
無言でモカを見るとーー
「ほんのモカちゃんじょーくだよ?」
かわいいけど笑えない。
「で? 今日の用事は終わりかな?」
「まだだよ~。次はつぐのところへ、れっつご~」
まだ解放されないらしい。
山○きモカのパン祭り……
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
-
許す! 書くことを許す!
-
ただでさえ話進まんのだからやめーや!!