2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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第24話

 羽沢珈琲店

商店街では知らない人はいないと言っても過言ではない……というよりも商店街の人間なら誰でも知っている憩いの場である。

落ち着いた店内は年配の方はもちろん、女子高生たちも通うほどだ。

そして、After glowのキーボード担当の羽沢つぐみの実家である。

 

『1度はおいでよつぐの家』とは同じバンドのやらかしピンクの言葉である。

 

 いつかは来よう。そう思っていたけど、まさかこんなにも早くその機会が来るとは思わなかった。

 

「ゆーくん、どうしたの~?」

 

「いや、なんでもない」

 

 入り口で立ち止まっていた俺を不思議に思ったモカが声をかける。

 

「それじゃ~、れっつらご~」

 

 気の抜ける掛け声とともにドアを開けると、来客を知らせるためのドアベルが、カランカランと鳴り響く。

 

(あれ?看板『closed』になってたような……)

 

 そんな俺の不安をよそにモカは店内へーー

 

「モカちゃん、夕輝くんもいらっしゃい」

 

 出迎えてくれたのは店の制服に身を包んだつぐ。

学校の制服とは違い、可愛らしさよりも清楚さが出ている。

 やはり開店前だったようで、各テーブルのセットをしている。

 

「開店前みたいだけどいいの?」

 

「うん! 大丈夫だよ」

 

「いつものことだから~」

 

 (いや、いつもなのか……)

 

 呆れながらも店内を見回すと、キッチンにいる男性と目があった。恐らくつぐのお父さんだろう。すみません、という思いを込めつつ会釈する。あちらも会釈を返してくれた。

 

(あとでちゃんと挨拶させてもらおう)

 

「誰か来てる~?」

 

「ひまりちゃんが来てるよっ」

 

「ひーちゃんは暇人だからなぁ~」

 

「モカ? 聞こえてるからね!?」

 

 そんな俺をよそにいつもの漫才が始まる。

 

「蘭ちゃんと巴ちゃんもそろそろ来るって!」

 

 After glow勢揃いか~。あれ? じゃあ今日ってモカ、用事あるんじゃないの?

 

「つぐ、今日って何かあるの?」

 

 モカがひまりのところに行ったため、つぐに訊ねる。

 

「今日はこの間のライブの反省会だけど……」

 

 お盆を抱きしめながらつぐは教えてくれた。

どうでもいいけど、その仕草もかわいい。

 

「あれ? じゃあ何で呼ばれたんだろう?」

 

 After glowの反省会なら、俺を呼ぶ意味が分からない。

それこそ部外者なんだけれど。

 

(あぁ、部外者という響きが懐かしい)

 

 謎の感傷に浸っているとーー

 

「あれ? モカちゃんから聞いてない?」

 

 頬に指を当てながら首をかしげる。かわいい。

いや、そんなことよりーー

 

「どういうこと?」

 

 モカから聞かれたこと……今日は暇かってことくらいだけど……

 

「夕輝くん、Roseliaの練習見てるじゃない? 

 だからアドバイスもらえるんじゃないかなってモカちゃんが……」

 

「え? なにそれ初耳……」

 

 俺が呆然としていると

 

「モカちゃん、忘れちゃったんだね……」

 

 とつぐは苦笑い。

確かにRoseliaの練習を見てはいるけど、アドバイスとか大それたものではなくて、第三者の観点からの意見やら感じたことを口にしているだけだ。

 

「二人とも、どうしたの~?」

 

 あまりに席に来ないものだからか、モカがひまりを引き連れやって来た。

 

「夕輝くん、本当に来てくれたんだ!」

 

「うん。呼ばれた理由はつぐから今しがた聞いたばかりだけどね」

 

「えっ!? モ~カ~?」

 

 一瞬驚いた表情を見せた後、モカの方を振り返るひまり。こちらからは表情が見えないけど、いつものように頬を膨らませているんだろうなぁ。

 

「およ? 言ってなかったっけ~? モカちゃんうっかり~」

 

 悪びれる様子もなく、おとぼけ顔のモカ。

いや、暇だったからいいんだけどさ……とりあえずデートだと(勝手に)思った俺のドキドキを返してほしい。

 

 

 

 

「ーーと、ライブ見てて思ったことはそんなことかなぁ」

 

 蘭と巴が来たところで、ボックス席に俺を含めた5人で座り反省会が始まった。

 つぐも座ればいいのに、と言ったところ、

 

「いつお客さん来るかわからないから」

 

 とやんわり断られた。それなら俺も立ってようとしたけど、つぐに制されて、モカとひまりに挟まれて座ることになってしまった。

 

 そうしてライブで感じたことを口にしたのだが、みんな蔑ろにすることなく受けとめ、つぐはメモまでとってくれた。

 こういったところを見るに、After glowも音楽に対して真剣なのだろう。

 

「は~、夕輝くん。思った以上によく見てるんだね~」

 

「ん? どういうこと?」

 

 ひまりの言葉が少し気にかかる。

 

「あ、悪い意味じゃないんだよ? ただ、『俺に音楽的な知識はないけど』って言ってたからさ。まさかそこまでしっかりと見てたとは思わなくて……」

 

 ひまりが焦ったように弁解する。とりあえず誉められたのは分かるけど……

 

「今のは俺のマネかな? 場合によっては出るとこ出るよ?」

 

「ひーちゃんはすでに出るとこ出てますからな~」

 

 冗談のつもりでひまりを弄ると、空かさずモカも弄る。

 

「むぅ~! 太ったっていいたいわけ!?」

 

 モカの一言にむくれるひまり。

けして太ったってわけじゃなくて、ひまりの場合は本当に出るとこが出てるんだよね。

 

PPP

 

「ちょっとごめん。先に話進めてて」

 

 電話が鳴り、蘭が席を立った。

 

「まぁ、ひまりの体の話はおいておくとしてーー」

 

「巴~!」

 

 ひまりが抗議の声をあげるも、つぐに宥められて大人しくなる。

 

「とりあえず、これがガルフェスに出場予定のバンドな」

 

 と、リストをテーブルに置く。

って、コレ俺が見たら不味くないかな?

 

「聞いたことあるバンドも結構あるね」

 

「ここのバンドって、確か演奏技術が相当高いところだよね?」

 

「まぁ~、それでもやることはいつも通りだしね~」

 

 つぐとひまりは他のバンドを確認して気負っているようだが、モカは『そんなのモカちゃん気にしな~い』とでも言うようにいつも通りの脱力感だ。それがこういうときにはこんなにも頼もしく感じる。

 

「あぁ! アタシたちは変わらずいつも通りにだ」

 

 巴もいつも以上に熱くなっているようだ。

 

「じゃあ、セトリ決めちゃおう!」

 

 ひまりの一声でフェス用のセットリストも決めることになった。

 

 

 

「じゃあ、今日はこれでかいさ~ん」

 

 セットリストを決めた頃にようやく蘭が戻ってきたのだが、今日は急用が入ったようで解散することになった。

 

「さて、じゃあモカさんや。どこに行きます?」

 

 ひまりはバイト、巴はあこと出かけるらしい。

 

「ん~、そうですねぇ~」

 

pppp

 

「およ? 電話だ」

 

 ごめんね~、と断って電話に出た。

 

「お疲れ様で~す。どうかしました?」

 

『ーーーー』

 

「あらら~。分かりました~。では後ほど~」

 

(何かあったのかな?)

 

「ゆーくん、ごめ~ん。今日のシフトの人が風邪引いちゃって、代わりに出ることになっちゃった~」

 

 申し訳なさそうにするモカ。本当に残念なのだろう。

 

「それなら仕方ないよ。また今度付き合うからさ」

 

「おっ、ゆーくんの奢りかな?」

 

 意外と図太かった。いや、気をつかってるのかな?

 

「全額は無理だけど、割り勘ならね」

 

 さすがに今日のように大量のパンは勘弁かな。

 

「りょうか~い。ではでは~」

 

 つぐもバイバ~イ、と言って店を出ていった。

 

(さて……どうしようか……)

 

『1日』と言われたので何も予定を入れてなかったのだが、思いがけず空いてしまった。

 いつもなら時間が空いた時のために本を持ってきてるんだけど、モカといるなら……と置いてきてしまった。

 

「夕輝くん……」

 

「ほい?」

 

 つぐに呼ばれて振り向くと、いつもと違い思い詰めた表情をしている。

 

「なにか言いにくいことかな?」

 

 きっと他の四人には言いにくいことなんだろう。

ある程度あたりをつけて、つぐが口にするのを待つ。

 

「相談したいことがあるんだけれど……時間大丈夫?」

 

 

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!

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