2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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 注意 つぐが若干暗くなっております。


第25話

「着替えてくるから、適当に待ってて!」

 

 部屋に通されるなり、つぐは着替えのために戻っていった。

残された俺は手持ち無沙汰なため、立ちつくしたまま部屋を見渡す。

 

(いかにもって感じの女の子の部屋だよなぁ)

 

 別に女の子の部屋に入るのが初めてというわけではない。

紗夜姉さんや日菜ねぇの部屋にも入ってるし、それ以外だと燐子さんのお部屋にもお邪魔した。

 

 だったら慣れているだろう、と思われるかもしれないがそんなことはない。

 紗夜姉さんの部屋は殺風景とは言わないけれど、シンプルだ。

とはいっても家具しかないわけじゃない。あちらこちらに写真を飾っているし、ベッドヘッドボードには観葉植物もある。

 

 日菜ねぇの部屋は紗夜姉さんの部屋に比べて、部屋の装飾が鮮やかだ。日菜が『るん♪』ときただろう雑貨が飾られている。

なにより紗夜姉さんとの決定的な違いはアロマオイルの香りがすることだ。

 

 燐子さんの部屋はかなりの衝撃を受けた。

ピアノにパソコンが3台。机の本棚にはびっしりと本があった。

部屋の装飾もシックで高級感があった。

 

 女の子の部屋という意味では日菜ねぇが近いかもしれない。

 

 

 つぐの部屋は雑貨の他にもベッドの上にぬいぐるみが置いてあって、いかにもつぐらしい。

 

(この匂いは?……)スンスン

 

 

 ふわっとなにかの匂いがした。

最初は香水かと思ったけど、お店に出ることもあるから違うだろう。

日菜ねぇみたいにアロマオイルを使っているのかと思い、辺りを見回す。

 

 

「あまり見られると、恥ずかしいかなっ」

 

 振り向くと、着替えを終えたつぐが苦笑いしていた。

チェックのワンピースにクリーム色のカーディガン、脚は黒ストッキングと、清楚さと可愛らしさが両立していた。

 

「夕輝くん?」

 

「っと、ごめん。あまり友達の家に行くことがなかったから物珍しくて……」

 

 つぐの私服に見とれてしまったのをバレないようにごまかした。

 

(実際に最後に行ったのはいつだったかなぁ……友達以外なら燐子さんだけれど)

 

「まぁ、立ったままなのもなんだからどうぞっ」

 

 ミニテーブルの前にクッションを置くつぐに勧められ座る。

 

「こんなことなら片づけておけばよかったよ……」

 

「言うほど散らかってないと思うけど?」

 

「それでも女の子にはいろいろあるんだよっ」

 

「女子って大変だね……」

 

 反論しようと思ったものの、男の俺には理解出来ないだろうと思ってやめた。

 よくひまりが『太った~』って騒ぐけどソレみたいなもんだろう……たぶん。

 

「夕輝くん、飲み物……ジュースでいいかな?」

 

「あー……お構い無く」

 

 戻ってきた時に持ってきていたジュースをグラスに注いでくれる。

 

「つぐ、つぐってアロマオイルとか使ってる?」

 

「アロマオイル? 使ってないけど……どうして?」

 

 先ほどから気になっている匂いの正体を確かめるべく訊ねる。

とりあえず、オイルは使ってないらしい。

 

「さっきからいい匂いがするから、なにかな~って……」

 

「それなら、柔軟剤かなっ」

 

 柔軟剤ですと!? この気分が落ち着く要因は柔軟剤だったのか……

 

「ほら、うち飲食店だから香水は使えないから……」

 

 その代わりにつぐがこだわったのは柔軟剤や入浴剤ということらしい。特に入浴剤は収集が趣味になるくらいらしい。

 

閑話休題

 

 

「ところで……相談したいことってなにかな?」

 

 先ほどまで笑っていたつぐの表情が翳る。

 

「この間のライブ、夕輝くんはどう思った?」

 

「それは、さっきも言ったよね? あれは全部俺の感じたことだけれど……」

 

 つぐの質問の意図が分からないけれど、たぶんそういうことではないんだろうな。

 

 

「みんな凄いよね……蘭ちゃんも、モカちゃんも、ひまりちゃんも、巴ちゃんも……私だけが普通なんだよ……」

 

 いつも明るく、みんなを励ましたり、フォローしているつぐのからは想像出来ないーーいや、俺が知ってるつぐも、つぐの一面に過ぎないだろう。

 

「始まりは一緒だったはずなのに……」

 

「ねぇ、つぐ」

 

 思い詰めて深刻そうなつぐの気持ちの吐露を遮る。

 

「普通って、いけないことなのかな?」

 

「えっ?」

 

 俺の突然の問いにつぐはきょとんとした顔をしてこちらを見る。

 

「音楽って、才能がなければやっちゃいけないのかな?」

 

「そんなことは……」

 

「ない、よね?」

 

 つぐはコクンと頷いた。

 

 音楽とは読んで字のごとく、『音』を『楽』しむこと。

元々そこに隔たりなんてなく、自由そのものだった。

 

 そこからフェスやらコンテストやらが出来てしまい、そこから資格やら技術思考なんかが出来始めてしまった。

 それでも、音楽は誰でも楽しめるものであるはずなんだ。

 

「……俺の知り合いにもさ、才能がないって人が二人いるんだ」

 

「その人たちは……?」

 

 質問の語尾を言わなかったものの、つぐの目線は『辞めたの?』と問うてきた。

 

「一人は、何事にも全力で励んで、毎日毎日欠かさずに練習してさ。それこそ人の何倍も努力……って簡単に口にするのが憚られるほど練習したんだ。でも、才能には勝てなくてさ……。それでバンドを始めたんだけどね。あそこまでひたすらに音楽にすべてをかける人はみたことないかもしれない」

 

 もはや努力の鬼、といっても過言ではない紗夜姉さん。

 

 

「もう一人は最近知り合った人なんだけど、この人もなかなか芽が出なかったらしくて、その人より実力のある人なんていくらでもいた。でも、そんな人達ですら諦めて辞めていくような世界。

 でもその人は、自分の決めた道を進むために腐らず、けして諦めなかった。ようやく夢に手が届きそうなんだけど、それすらも奪われようとしている。

 それでも諦めず、その夢が形になるまで努力を重ねて不器用ながらも突き進んでるよ」

 

 諦めれば楽になれる。もう少し楽な道もあるかもしれない。

それでも、自分の決めた道をボロボロになりながらもただひたすらに前に進み続ける丸山さん。

 

 

「つぐにこの人達のようになれ! とは言わない。むしろつぐに必要なのは適度な休息だと思う」

 

 バンドに生徒会に家の手伝い。それらすべてに一切手を抜くことなく取り組むつぐ。『つぐは三つ子?』と疑われるレベルですでに努力している。

 それはまるで張りつめた糸のよう。これ以上負荷をかければ簡単に切れてしまうことだろう。

だからこそつぐに必要なのは過度の練習ではなく休むこと。

 

「他のメンバーも、つぐに技術的なことは求めてないと思うし、つぐの長所は別にあると俺は思うよ」

 

 つぐが上手かろうが、そうでなかろうが、あの四人はけしてつぐを蔑ろにしたりはしない。これは俺の憶測ではなく、確信だ。

 それに、ライブで見せてくれたつぐの弾けるような笑顔。あれはつぐの才能だと思うし、長所だろう。本人は自覚してないものの見てくれる人は見てくれると信じてる。

 

「……そっか。ありがとう」

 

「うん。こんなもんで良かったのかな?」

 

「うん。夕輝くんのおかげで楽になったよ」

 

 つぐの悩みが解消されたのなら良かった。

そのあと、些細な談笑をして帰った。

 

 

 

 だが、この時俺は明らかなミスをしていた。

悩みを解消されたのにいつものような笑顔じゃなかったこと。

それにかける言葉を間違えていたことーーいや、一言も二言も言葉足らずだったこと、もっとハッキリと休息をとらせること……あげたらキリがない。

 

 そのミスさえなければあんなことにはならなかっただろう。

 

 

「つぐ! 大丈夫か!?」

 

 ーーもっとも、ソレに気づくのはもっとあとでーー

 

 

「つぐ!? しっかりしろ! つぐ!!」

 

 ーーそんな大事になるなんて、その時の俺は微塵も思っていなかったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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