2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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 羽丘イベ来ましたね。つぐほしいんじゃ~


第26話

「今日はここまでね」

 

 湊先輩の一言が今日の練習も終わりを告げる。

 

「じゃあ、片付けよっか☆」

 

「私は次の予約を入れてくるわ」

 

 湊先輩は予約を入れに受付へ、残りは機材の片づけや掃除を行う。ちなみに俺もこっち。

 

(と、いうか俺の役割って最近これしかないよね……)

 

 機材のセッティングと片づけ。それ以外は練習を見学して気になる部分を指摘するのだけれど……

 

(あまり指摘する部分がない……)

 

 演奏に関しては湊先輩がその都度指摘するし、それ以外と言われても特にない。しいて言うならーー

 

 

「やっと今日からイベント解放だね! りんりん」

 

「うん……楽しみだね」

 

「今回の報酬はーー」

 

 あこと燐子さんが今日から開始されるイベントの話をしている。

ただ、話しながらも手を止めない燐子さんに対し、あこの方は興奮からか手が止まっている。

 あ、姉さんも気づいた。

 

「あこ~? イベントが楽しみなのは分かるけど、今は目の前のクエストこなそうね~?」

 

 あこのやる気を出させるように少し回りくどい言い方をしたけれど、要は『口より手を動かそう』ってことだ。

 

「あ、いけない! そうだよね」

 

 俺の言いたいことに気づいたのか、あこも手を動かし始める。

チラリと姉さんに視線を向ければ、『作業をしているなら言うことはない』とでもいうかのように片づけを続行していた。

 

 メンバー同士の衝突を避けるように時には緩衝材に、時にはサンドバックになるのも俺の仕事……といってもこれは俺が率先してやってることなんだけどね。

 

 もちろんバンドが成長するためには衝突も必要なんだろうけど、何かの拍子に不満が爆発、お互いの関係に軋轢が生まれるかもしれない。

 

 今のだって、放っておいたら姉さんが注意しただろう。

でも、姉さんのことだ。

 

「宇田川さん、無駄話をするよりも手を動かして!」

 

 

 と正論を述べたことだろう。

別に姉さんが間違っているわけではない。でもーー

 

(正論は正しいけれど、優しくない)

 

 正論である以上、そこに反論の余地はない。謂わば絶対王政のようなもの。だからといってむやみやたらに片っ端から正論を振りかざそうとすれば、不満が溜まる。

 

(特にあこと姉さんは衝突の機会が多いから気をつけないと……)

 

「夕~輝☆ コードもらうよ?」

 

「あ、すみません」

 

 纏めたコードをリサ先輩に渡す。

 

「さっきはありがとね☆」

 

「え? 何がです?」

 

 リサ先輩にお礼を言われたけど、何かしたっけ?

 

「あこのこと。うまーく促してくれたじゃん」

 

 リサ先輩には考えがお見通しだったようだ。

 

「いや、大したことないですよ。これくらいしか出来ることないですし」

 

「いやいや、夕輝にはわりと助けられてるよ~。あたしも見習わなきゃって思うこともあるし……」

 

 リサ先輩にそう言ってもらえるのは嬉しいけど、なんかむず痒い。

 

「リサ先輩……」

 

「ん~? どした~?」

 

「雉撃ちに行ってきます!」

 

 敬礼しながらにこやかに告げる。

 

「あ~……うん。いってらっしゃ~い」

 

 リサ先輩は呆れたように苦笑いしながら見送ってくれた。

まぁ実際、雉撃ち7割の照れ隠しのための逃走3割なんだけどね。

 姉さん、呆れないでほしいかな。生理現象なんだから仕方ないじゃん?

 

「えっ!? ゆー兄はハンターなの!?」

 

 あこが突拍子もないことを言い出した。

 

「えっ? 俺はハンターじゃないよ」

 

「だって今、雉撃ちって……」

 

 あぁ、文字通りの意味にとったのか。ハンターじゃないし、もちろん猟友会でもマタギのおっちゃんでもない。

 

「あこちゃん。『雉撃ち』っていうのは隠語で……」

 

 うん。細かい説明は燐子さんがしてくれるみたいだから任せよう。俺に出来ることはいち早くトイレに行くことだ。

 部屋を出る前に、姉さんが頭を押さえていたように見えたけど、見なかったことにした。

 

「ふぅ~、スッキリした」

 

 用を済ませて元の部屋に戻るために急いで廊下を歩く。

あまり待たせるとうちの歌姫様と姉上からお小言を頂戴することになりそうだ。

 

「っと……あれ?」

 

 途中の部屋で見覚えのある人物を見た気がした。足を止めて、マナー違反だと思いながらもドアの小窓から覗き込む。

 

(これで別人だったら不審者確定だよね)

 

 予想通りの人物だったことに安堵しながら、ドアをノックする。

部屋の主は、ノックされることを想定していなかったのか飛び上がりそうな勢いで驚き、見開いた目でこちらを見つめている。

 

「こんちわ、つ~ぐ」

 

「夕輝くん、こんにちは」

 

 ドアを開けてあいさつすると、俺だと分かって安心したのか、つぐもあいさつを返してくれた。

 

「いきなりノックされたからビックリしちゃったっ」

 

「ごめんごめん、部屋戻るときにふと見えたからさ。つぐのとこも練習?」

 

 見ると、まだ誰も来てないようだけれど早めの自主練だろうか。

 

「うん。とはいってもお昼からだからまだ誰も来てないんだけどねっ」

 

「早めに来て練習か……つぐらしいね。俺にはマネ出来ないや」

 

 俺だったら早めに来て、セッティングだけしてスマホアプリをやっているだろう。

 

「Roseliaも練習?」

 

「うちのとこはもう終わり。……といっても俺はほとんど見てるだけなんだけどね」

 

 苦笑いしながら自虐的に言う。

 

「夕輝くんは楽器やったりしないの?」

 

「ん~……やりたいとは思うけど、その前にやらなきゃいけないことあるから、それが終わったら始めてみようとは思ってる」

 

「そうなんだっ」

 

 つぐの呟きに頷きで返す。

 

「っと、練習してるのにしゃべってちゃお邪魔かな?」

 

「そんなことないよっ」

 

 遠慮なのか本心なのかは分からないけど、つぐが否定する。

 

「じゃあ、つぐが練習するの見てていい?」

 

「いいよっ」

 

 図々しいお願いにも嫌な顔一つしない。

 

「じゃあ邪魔にならないように隅っこで見てるね」

 

 さすがに練習してる目の前で見るほど無神経じゃない。

人によっては『見られながら演奏する』練習としてやる人もいるだろうけど……。

 

 *

 

 

「つぐ、調子悪い?」

 

 何度目かの演奏が終わったタイミングで口を出した。

 

「えっ? そんなことないよ?」

 

 当然のことながらつぐは否定する。

 

「この間と音が違うかなって」

 

「えっ?」

 

 つぐはポカンとした顔をする。

『違いが分かるの?』という意味なのか、『コイツ何言ってんの?』って意味なのか……出来れば前者であってほしい、切実に。

 

「ちょっとごめんね」

 

 一言断り、つぐの隣に立って鍵盤に指をのせる。

察したつぐはスッと横にずれてくれた。

 

(今のつぐの感じは……)

 

 目を閉じて今のつぐの演奏をイメージする。

指の動き、強弱、テンポ……今見た全てを落とし込む。

 

「ゆ、夕輝くん?」

 

 初めて見るつぐは困惑している。

 

「よし」

 

 目を開いて呟き、鍵盤を弾く。指から発する力が鍵盤に伝わり、音を奏で、メロディーを紡ぐ。

 

「これが今のつぐの演奏ね」

 

 つぐは呆然としている。

 

「えっと……次いいかな?」

 

 一応確認をとると、コクコクと頷くつぐ。なにこれ、持ち帰りたい。

 

 さて、邪念を彼方に押しやって、あのライブの時のつぐを記憶から呼び起こす。

 こういうと降霊術みたいだね。そんなことはないよ? 目の前につぐいるし。

 

 さすがに2回目ともなるとルーティンだと分かったのか、つぐは何も言わない。

 

 

 人の体って結構繊細なんだよね。精神と体のバランスが少し狂うだけでも思うように動かなくなる。所謂『体がついてこない』状態だ。

 つぐの場合は、他のメンバーとの技術の差を感じはじめ、それを埋めようとして必死に練習する。頭では『もっと、もっと』と思っても、技術はそこまで急激に上がらない。

 そのギャップが焦りを生み……と無限ループに陥ってしまう。

 

(しばらくの間演奏をしない、って荒療治もあるけど……)

 

 おそらく、というか確実につぐはその方法をしないだろう。

 

 

「違いは分かったかな?」

 

 つぐはこくりと頷く。

まぁ、素人の俺でも気づいたくらいだしね。

 

 

「夕輝くん、ピアノ弾けるんだ……」

 

「いや、弾けないよ」

 

「へっ?」

 

 このリアクションどこかで……あ、リサ先輩と同じだ。

 

「だって今……」

 

「人のマネなら出来るけど、スコアは読めないよ」

 

「えっ……」

 

 信じられないものを見るような目だ。

まぁ、立場が違えば俺も信じられないだろうし。

 

「でも、完璧につぐの演奏をマネすることは出来ないんだ……つぐにしかできないことがある」

 

「それは!?」

 

 おう、めっちゃ食いついてきてビックリした。

 

「それはーー」

 

 つぐの方を見て、正確にはその後ろの時計を見てしまった。

 

「やべ!?」

 

 忘れてた! トイレに行くからって抜け出したのに、こんなに時間が経ってた。

 

「夕輝くん?」

 

「ごめん、次までの宿題ね。用事思い出したから、またね!」

 

「あ……うん。また」

 

 つぐとあいさつを交わし、廊下へ出る。

 

(ヤバい、ヤバいですよ!? 湊先輩と姉さんにどやされちゃう!!)

 

 急いで元の部屋に戻ろうとするとーー

 

グイッ

 

「はへ!?」

 

 急に腕を引かれたかと思うとーー

 

ドン

 

「あうっ!?」

 

 壁に叩きつけられーー

 

ドンッ!

 

「ふぁ!?」

 

 自分の両脇の壁に衝撃が来た。

 

「み……湊先輩?」

 

 俺に人生初の壁ドンをしたのは、湊先輩でした。というか……

 

(怒ってらっしゃる?)

 

 自分より10センチほど背の低い彼女からはかなりの圧を感じる。

 

「湊先輩、聞いてください。実はですね、トイレに行ってたんですがーー」

 

「知ってるわ。見てたもの」

 

「知り合いを……へ? 見てたんですか?」

 

 さっきのを見られてた? どこから?

 

「そんなことはいいわ。一緒に来てちょうだい」

 

 言うが早いか、俺の手を掴んで廊下を進む。

 

(ちょっ!? 力強いっす!!)

 

 彼女のどこにそんな力があったのか、信じられないほどの力で引っ張られる。

 

 

「あ、友希那~、夕輝、どこいってたの!? 片づけ終わったから今からみんなでファミレスにーー」

 

「申し訳ないけど私と夕輝は用事があるからここで失礼するわ」

 

 そう言いながら荷物を取ると、再び俺を伴ってロビーへ歩み出す。

 

「ちょっ!? 友希那~!?」

 

 リサ先輩の声を背に、湊先輩にドナドナされる。

行き先は歌姫だけが知っている。

 

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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