2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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第28話

 休み明けの月曜日、俺は自分の教室ではなく、1―Bの教室の前に来ていた。

 

(モカが嘘をついているとは思えないけど、わざわざつぐが嘘をついてまで練習するだろうか?)

 

 その真相を確かめるために来たわけだけどーー

 

(つぐ、いないなぁ)

 

 この時間だったらいるかと思い、覗いてみたけど見つからない。

 

「あれ? 氷川くん。どうしたの?」

 

「おはよー。珍しいね」

 

 入り口近くで談笑していた女子が気づいて声をかけてきた。

 

「おはよう。実は、つぐ……羽沢さんに用事があったんだけど……」

 

「羽沢さん? そう言えばまだ来てないね」

 

「いつもならもう来てる時間なのにね」

 

 どうやらまだ来ていないようだ。

 

「そっか……ありがとね」

 

(とりあえず出直そうかな)

 

 つぐが来るまで教室の前で待ってるのもしょうがないと思い、1―Aまで戻ろうとするとーー

 

「あれ? 夕輝、何してんだ?」

 

「あ、巴、ひまり、おはよう」

 

 巴とひまりと鉢合わせした。

こうして並んで登校してくるのを見ると、時々ひまりが『巴が男の子なら良かったのに』と言うのが分かるくらいに絵になる。

 

「おう! おはよ」

 

「おはよー! うちのクラスに何か用?」

 

「いや、つぐにちょっと用があったんだけど……まだ来てないみたいでさ」

 

「つぐ? まだ来てないのか?」

 

 巴が教室を覗き込んで確認する。

 

「珍しいね。いつもなら来てるのに」

 

 やはりつぐがこの時間で来ていないというのは珍しいことらしい。生徒会で朝の立哨活動があったりするし早く来ることが多いのだ。

 

 

「ところでさ、二人とも土曜日の午後って何してた?」

 

 念のため……と言うわけでもないが、二人が土曜日に何をしていたかを聞いておこうと思った。

 モカは『練習はなかった』と言っていたけど、もしかしたらつぐが巴かひまりと個別で練習していた可能性だってある。

 

「私は買い物に行ってたよ~!……お小遣いピンチだからウィンドウの方だけど……」

 

 ひまりは買い物。

 

「アタシもあこと買い物行ってたなぁ」

 

 巴も買い物……となると一緒にはいなかったのか。

 

「そう言えばあこが『ファミレス行こうとしたら、友希那さんがゆー兄を連れてっちゃった』ってぼやいてたぞ?」

 

「何その話!? 詳しく!」

 

 うわっ、巴からの情報リークにひまりが目を輝かせて食いついた。

こういう時のひまりは、日菜ねぇの『るん♪』と来たレベルで面倒なんだよな。

 

「詳しくも何も、友希那先輩に連れられてご自宅にお邪魔して、お母さんの料理をご馳走になったくらいだぞ?」

 

 ここで、ふたりきりでギターやらベースやらのレッスンをしていたことは黙っておく。変に隠して曲解されるくらいなら黙っておいた方がいい。『沈黙は金』というやつだ。

 

「ん? 夕輝、前は『湊先輩』って呼んでなかったか?」

 

「あ」

 

 巴の指摘で墓穴を掘ったことに気づいた。

というか、気づかないフリしてくれよ……。

 

「名前呼び……実家に挨拶……親公認!?」

 

「お前はそろそろ戻ってこ~い」

 

 髪の毛ピンクは脳内までピンクなのか、目をグルグルさせてお花畑へ旅立っている。

 

「おっはよ~」

 

「何してんの?」

 

 そこにモカと蘭も合流。

 

「ひまりが壊れちゃったんだけど……蘭、ちょっとチョップ入れてくれないかな?」

 

 こう、斜め45°の角度で~、とジェスチャーを交えて説明する。

 

「やだ」

 

 俺の提案はバッサリ切られた。おそらく袈裟斬りに……45°くらいで。

 

「ゆーくん、ゆーくん。コレ、例の~」

 

 モカは持っていた山吹ベーカリーの紙袋をガサガサと漁って、個別に袋に入れられたものを渡してきた。

 

「おー、サンキュー。んじゃコレね」

 

 代わりに俺はティッシュにくるんだモノを渡す。

 

「なに、今の?」

 

 おっと、お花畑からひまりが戻ってきたらしい。

 

「今、何を渡したんだ?」

 

 巴の質問に、俺は持っている袋を、さながらドラマに出てくる刑事のようにつまみ上げた。

 

「ん? 山吹ベーカリーのクロワッサン」

 

「「へ?」」

 

 「いやさ、前に食べたクロワッサンが美味かったんだけど、寄ってから登校すると遠回りになっちゃうからモカに頼んでたんだよ」

 

 モカは毎日、山吹ベーカリーに寄ってから来るので『ついでに』と頼んでいたのだ。

 

「じゃあ、今モカに渡したのって……」

 

「クロワッサンの代金だよ」

 

 ティッシュにくるんでおいたのは、モカの手が汚れるのを防ぐため。今もパンを取り出して食べてるし、お金を触っちゃえば衛生的に問題がある。それにモカのことだから後で確認してくれると思うし。

 

「で? 何の話してたの?」

 

「夕輝くんが友希那先輩とーー」

 

「蘭は土曜日何してた?」

 

 ひまりが余計なことを言いそうになったので被せるように質問する。というか、こっちが本題だし。

 

 

「土曜日は家にいたよ」

 

 

「家……か」

 

 たぶん稽古かな?

 

「なんで?」

 

「いや、実はーー」

 

「あ、つぐ来たよ!」

 

 土曜日のことを話そうとしたところで、ひまりの声が響く。

 

「みんな……おはよ……」

 

 走ってきたのだろう。髪はぐしゃぐしゃで、息を切らせ、頬は紅潮していた。

 

「寝坊しちゃって……」

 

「髪の毛乱れちゃってるよ! ちょっと動かないでね」

 

 ひまりは櫛を取り出して、つぐの後ろに廻るとささっと髪をとかし始めた。

 

 女子ってスゴいよね。宿題とか教科書忘れても櫛とか手鏡とかリップとかは欠かさないんだから。教室でヘアアイロン使い始めたときは目を疑ったよ。

 

「はい! 出来たよっ」

 

「ありがとう、ひまりちゃん」

 

 お、終わったようだ。つぐも息が整ったみたいだし。

 

「なぁ、つぐ。土曜日のことだけどーー」

 

 キーンコーン

 

「あ」

 

「予鈴、鳴っちゃったね」

 

 ようやく本題に入れる、そう思った俺を嘲笑うかのようにチャイムがなってしまった。

 

「またお昼休みにねっ」

 

 つぐ達は1―Bへ戻ってしまった。

なぁに、昼休みに話せばいい。

 

 

 

「ごめんねっ、生徒会の仕事が入っちゃって」

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

つぐは生徒会の仕事のために弁当を持って行ってしまった。

 

「なぁ、土曜日に何かあったのか?」

 

 箸で唐揚げを取って口に放り込みながら巴が聞いてきた。

毎度のことなんだけど、俺より先にメインを持っていくの止めてくれ~。

 

「その前にさ、最近つぐに変わったことない?」

 

「最近変わったこと……?」

 

「具体的には先週の土曜日以降かな」

 

「先週の土曜日……そういえば」

 

 はたと気づいたひまり。

 

「先週の練習の日、つぐが残ってったよね?」

 

「あぁ、『もう少し練習していく』って言ってたな。『片付けもするから』って」

 

 やっぱりか。その辺りから自主練をしていたんだ。

 

「それに、時々ぼーっとしてるよな」

 

「そうそう、何回か呼び掛けてやっと反応するくらいだし」

 

 今日の遅刻のことも考えると、寝不足の可能性もある。

 

「何かあるの~」

 

 モカがパンを食べる手を止めてまでこちらを見てくる。

 

「土曜日も練習があるのか聞いてたよね~」

 

「土曜日? 何のこと?」

 

 ひまりも巴も蘭も分からない、という顔をしている。

 

(ここまで来たら隠すことも難しいだろう)

 

 つぐには申し訳ないけど、俺は話すことにした。

つぐの悩み、俺の言ったこと、土曜日の個人練習のことを。

 

 

 

「……それ、本当に言ったのか?」

 

 話し終えて一番最初に口を開いたのは巴だった。

 

「うん。つぐはーー」

 

「つぐじゃない。お前が言ったのか? アタシ達がつぐに『技術を求めてない』って……」

 

 絞り出すような声で巴が言った。

 

「うん。言ったよ」

 

「ふざけんな!!」

 

 巴の怒号が学食内に響き渡る。他の生徒達が何事かとこちらに視線を向けてくる。

 

「ちょっと、巴」

 

 ひまりが小声で巴を宥めるも巴の怒りはおさまらない。

 

「そんな言い方したら、つぐが自分を責めるって分かんなかったのかよ!!」

 

「あ……」

 

 失念していた。『他のメンバーより技術面で劣ってる』と気にしているつぐに、フォローをいれたとはいえ『技術は期待していない』なんて言えばこうなることは明らかだった。

 

「……放課後にでもつぐに謝っとけ」

 

 そう言い残すと巴は食器を戻しに行ってしまった。

そのあとは誰も口を開かず、気まずい昼食となってしまった。

 

(とにかく、放課後につぐに謝りに行こう)

 

 

 

 

 

 放課後になり、荷物を引っつかんでつぐのところへーー

 

「日直、このノートを職員室まで持ってきてくれ」

 

「マジですか……」

 

 よりによってもう一人の日直は風邪で休んでいるし。

教卓には40冊のノート……

 

「はぁ……」

 

 とりあえず荷物を残したままノートを職員室へ持っていった。

 

 

「人使いの荒い担任だ……」

 

 

 結局、持っていった後で『教科準備室を整理する』と言い始めて担任と共に教科準備室へ行くはめになった。

 荷物を持ってきておくべきだったと後悔し始めたのも束の間、職員会議を忘れていたようで、他の先生と共に行ってしまった。

 

 バックレてもいいんだけどそうなった場合、後で何かあるかもしれないし……。結局やるという選択肢しかなかった。

 

 

 ぶつぶつと担任への文句を呟きながら教室へ戻る。

思いの外時間が経ってしまっていたようだ。教室に置いてある荷物から察するに、残っている人もそう多くはないだろう。

 

(これだとつぐも帰ったかな……)

 

 俺のため息だけが無人の教室に虚しく響いた。

 

 

 

「お?」

 

 荷物を持って階段へ行くと、ちょうど上に行く人影が見えた。

 

「つぐ」

 

 いつもなら振り向き、笑顔を見せるつぐだけれど……

 

(あれ? 聞こえなかったのかな?)

 

 俺の呼び掛けが聞こえなかったのか、そのまま上に上がっていく。

 それにしては歩調が遅くなった気がするし、左右に大きく揺れているし、どこか足元が覚束ないような気がする。

 

「は!?」

 

 つぐの足が止まったと思ったら、体が後ろに傾いた。

 

「嘘だろ!?」

 

 荷物を放り捨て、全力で走る。

 

(間に合え、間に合え! 間に合え!!)

 

 全てはつぐを支えるため。

アキレス腱? 靭帯? つぐとどっちが大事だ!

 

 靴底を鳴らしながら階段を駆け上がる。

 

ドン!

 

 つぐの背中の衝撃を受けて俺の足が階段から浮いた。瞬間、つぐを庇うべく抱き寄せる。

次いで背中から床に叩きつけられる。

 

「ぐっ!」

 

 なんとか頭を打ちつけるのを防ぐが、背中と左手に激痛がはしる。

 

「つぐ! つぐ!!」

 

 肩を叩き呼び掛けるも意識がない。

 

「どうした!?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、来たのはーー

 

「巴……ひまり……」

 

 巴とひまりだった。部活が終わったところだったんだろう。

 

「つぐ!? どうしたんだ!?」

 

「今、階段から落ちて……受け止めたんだけど……」

 

「「えっ!?」」

 

「先生を呼んできてくれないか? 場合によっては救急車も……」

 

 そう伝えると、巴は一目散に階段を駆け下りていった。

 

「ひまり。教室からつぐの荷物と、俺のジャージの上を持ってきてくれないか?」

 

 ひまりに頼むものの、ひまりは手で口を覆ったまま動かなかった。目の前の現実を受け入れられないようだった。

 

 

「上原ひまり!」

 

「はいっ!」ビクッ

 

「深呼吸!!」

 

 俺の大声での指示に、びっくりしながらも2回、3回と深呼吸する。

 

「……落ち着いた?」

 

「……うん」

 

 現実を受け入れられるぐらいには落ち着いたようだ。

 

「つぐの荷物と俺のジャージの上を持ってきてもらえるかな?」

 

「うん」

 

 ひまりはもと来た道を引き返していった。

さて、本当は動かすべきではないのだけれど、ここは階段の踊り場。何かを処置するにしても少しでも広いところの方がいいだろう。

 

(さすがにお姫様抱っこなんかはできないし……)

 

 よく漫画とかでは気絶した人をお姫様抱っこして運ぶなんてのがあるけど、実際気絶した人を運ぶなんてのは難しい。

 脱力している人間は体重の何倍にも感じるらしい。

けしてつぐが重いというわけではない。

 

「夕輝くん……持ってきたよ」

 

 そうこうしているうちに、ひまりが戻ってきた。

 

「じゃあ、ジャージを広げて敷いてくれるかな?」

 

「うん」

 

 指示したところにひまりがジャージを敷く。

今日、体育が無かったのが幸いした。さすがに使ったあとのを敷きたくはなかった。……衛生的にね。

 

(つぐ……ごめんな)

 

 つぐの後ろから両手を回し、お腹の前で組む。

あとは引き寄せる力で運ぼうとするもーー

 

(ぐっ!)

 

 左手に痛みがはしる。歯を食い縛り、表情に出さないようにする。

 

(手を組めないなら……)

 

 右手で左腕を掴み、再度チャレンジ。なんとかつぐをジャージの上に寝かせた。

 次いで、着ているブレザーを脱いで丸めて、つぐの頭の下に置いた。

 

(呼吸も苦しそうじゃないし、大丈夫かな?)

 

「夕輝くん……冷静だよね」

 

 ひまりが呟く。

 

「友達がこんなになっているのに、どうして冷静でいられるの?」

 

 それは単なる疑問か、はたまた俺に対して『冷血』という非難か、それは分からない。

 

「わりとテンパってるよ。やっていることが正しいかどうかも分からない。でも、つぐのためになることだと思ってやってるよ。だって……」

 

 

ーーそうでもしないと、ここまでつぐを追い詰めた俺自身を俺は赦せないーー

 

 

 巴が先生を連れてくるまで、誰も口を開かなかった。

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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