2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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 まさかの寝坊で仕事に2時間半遅刻してしまった


第32話

 昼下がり。モカと別れ俺はとある場所に来ていた。

 

(自宅から入るべきか……店の方から入るべきか……)

 

 自分の清算をすべく、羽沢珈琲店の前に来ていた。……のだがーー

 

(今の時間は営業中だよなぁ……迷惑になるかな? でも営業中ってことは、家の方には誰もいないかもしれないし……)

 

 うーんと唸りながら店の前を行ったり来たり。端から見れば不審者なのだが、俺自身は真剣なんです!

 

(客として来たわけじゃないから、家の方? でもいなかったら本末転倒だし……)

 

 こんなことなら『Afterglowのメンバーと顔を合わせないように……』とか変な意地を張らずに入院している間にお見舞いに行けば良かったと後悔し始めたときーー

 

「うちに何かご用ですか?」

 

 後ろから声をかけられた。

 

(父さん、母さん……あなた方の息子は不審者認定を受けたようです……)

 

 

side つぐみ

 

 私が入院して今日で六日目。といっても昨日退院して、今は自分の部屋にいる。本当はお店の手伝いをしなきゃいけないんだけど、『退院したばかりなんだから無理しないでゆっくりしなさい』って言われちゃった。

 でも、何もしないのもそれはそれで辛いんだよね……。いつもやっていることをやっていないと、気分が悪いというか……。

 

(課題でもやろうかな……)

 

 手持ち無沙汰なので入院している間に持ってきてもらった課題に手をつけるとしよう。

ただ、当然のごとく授業は進んでいる。1日出ないだけで着いていけないこともあるのに、それが四日分ともなると軽い浦島太郎状態だ。

 

(たしかノートのコピーがあったよね……)

 

 課題と一緒に巴ちゃんたちがノートのコピーも持ってきてくれた。授業を受けてなくても、教科書とノートがあればある程度解けるよね?

 

「っ!」

 

 教科書とともにノートのコピーを取り出すと、予想以上の情報量に閉口する。

ただですら分からない数式なのにまるで魔導書を解読しているような感覚に陥る。

 

(このノートは……巴ちゃんのだよね……)

 

 羅列している文字は達筆かつダイナミックでまるで彼女そのものだ。

ただ、課題とは別な方向で頭を悩ませることになりそうだ。

 

(気持ちだけ受け取っておこう……)

 

 巴ちゃんだって悪気があったわけじゃない。むしろ私が困っていると思ってわざわざノートをコピーしてくれたんだし……読み解けない私がまだまだなんだよね。

巴ちゃんに感謝しながらノートのコピーを机の引き出しにしまう。

 

(これは、ひまりちゃんのだね)

 

 巴ちゃんのとはまた違い、正しく女の子といった丸字で書かれたそれは今度こそ私でも読むことができる文字だった。

決して巴ちゃんに責任があるわけじゃないよっ!

 

「ん~……」

 

 ただ、ひまりちゃんのノートは別な方向で私を悩ませる。

それはーー

 

(目が疲れる)ゴシゴシ

 

 きっと重要な所とかを色分けして分かりやすくしようとしたのだろう。様々な色で書かれていた。ーー本来の黒を見つけられないくらいにはーー

 

(あれ? 途中から赤ペンだけで書かれてる……ペンを変えるの忘れたのかな?)

 

 ともあれ、これではどこが本当に重要なのか判別できない。

苦手ながらも頑張ってノートをとってくれたのはありがたいけど、これもどうやら私には過ぎたノートみたい。

 

(ありがとう、ひまりちゃん)

 

 感謝とともに机の引き出しにしまった。

 

(最後はモカちゃんのか)

 

 お見舞いに来てくれたときに、蘭ちゃんは授業に出ていないって話を聞いた。蘭ちゃんも色々抱えているようだけれど、正直私自身心配していられる立場にない。

 

(ごめんね、蘭ちゃん)

 

 蘭ちゃんに謝りながらもモカちゃんのコピーに目を向ける。

 

『ふふ~ん! モカちゃんのノートぞよ~。崇め奉るがよい~』ドヤッ

 

 とどや顔でノートのコピーを持ってきてくれたモカちゃん。

自信過剰ともとられるその言動だけど、実は成績上位なのだから納得もいく。

 

『モカちゃん天才ですから~』

 

 本人はそう言ってるけど、その実、誰も見ていないところで努力をしているに違いない。

 

(もうモカちゃんのノートだけが頼りなんですっ!)

 

 なるほど……ひまりちゃんのノートとは違い、余白を使って見やすく……

 

(って、ほとんど余白っ!!) ゴンッ!

 

 あまりの衝撃に机に頭をぶつけてしまった。

最初の方こそ真面目にノートをとっていたことが見受けられるが、だんだん筆跡が怪しくなっていき、終いにはダイイングメッセージよろしく線とともに途切れてしまった。

 

 そういえば、彼女に勉強のコツを聞いたところ、

 

『ん~? 睡眠学習が一番かなぁ~』

 

 と語っていた。その時は冗談かな? と思ってはいたけど……

 

(これは睡眠学習じゃなくて、居眠りだよモカちゃん……)

 

 頼みの綱が実はたこ糸レベルの細さと強度しかなかったことにうちひしがれる。

 

(こうなったら、巴ちゃんとひまりちゃんのノートを照らし合わせて……)

 

 コンコンコン

 

 そんな思考を中断するかのように、部屋のドアがノックされる。

 

「つぐみ~、今いいかな?」

 

「大丈夫だよ。どうかしたの?」

 

 ドアからひょっこりと顔を出したのはお母さん。お店が忙しくなったから手伝って、と呼びに来たのかな?

 

「お友達が来てるんだけど……お通ししていいかな?」

 

(友達? 誰だろう?)

 

 

 巴ちゃんとひまりちゃんは……この間お見舞いに来てくれたし……モカちゃんは一昨日来てくれた。もしかしたら蘭ちゃんかな?

 

「うん! 大丈夫だよっ」

 

 

 急に来たということは、大事なお話かもしれない。課題はおいておくとして、蘭ちゃんのお話を聞こう。

 そう判断して了承する。

 

「じゃあ、呼んでくるわね。あ、邪魔はしないからごゆっくり~♪」

 

 そう言い残してお母さんは部屋を出た。

その時の顔が一瞬、ニヤニヤとしたーーまるでモカちゃんが蘭ちゃんを弄るときのようなーー顔をしているように見えたのは気のせいかな?

 

 少しして誰かが階段を上って来る音が聞こえ、

 

コンコンコン

 

 遠慮がちとも言えるようなノックが聞こえた。

 

「どうぞっ」

 

 返事をすると、ドアが開けられアイスグリーンの髪がーーあれ?

 

「えっと……やっほー?」

 

 謎のあいさつとともに現れたのは、蘭ちゃんではなくて私を助けてくれた夕輝くんでした。

 

side out

 

 

 

 店の前で声をかけてきた女性はつぐのお母さんだった。

事情を説明したらかなりお礼を言われた。ともあれ不審者扱いされなくて済んで良かった(小並感)

 

「大事なお話があるんですけど……つぐみさんはご在宅ですか?」

 

 そう伝えると、つぐのお母さんは両手で口を覆っていた。

 

(えっ? 俺何かしました??)

 

 不安に駈られていると、とてもイキイキし始めた。まるで日菜ねぇの『るん♪ときた』時のようなテンションの上がりようだ。

 

「あがって待っててちょうだい♪」

 

 リビングに通されると、お母さんは二階へ上がっていった。おそらくつぐを呼びに行ったのかな?

どうでもいいことだけれど女子高生の娘さんを持つお母さんって見た目も中身も若々しいものなのだろうか。つぐのお母さん然り、この間の友希那先輩のお母さん然り。

 ちなみにうちの母さんは見た目はともかくとして中身は若々しい……というか時々はっちゃけている。それでも日菜ねぇをマイルドにしたようなものだけれど……

まぁ、紗夜姉さんが受け継がなかった分も日菜ねぇが受け継いだって考えれば……うん。バランスもとれるはず。

 

 なんて考えていると、つぐのお母さんが戻ってきた。

 

「つぐみは部屋にいるから行ってあげて。部屋は分かるわよね?」

 

「はい。大丈夫です。じゃあ……失礼しますね」

 

 一言断りを入れて、つぐの部屋に向かうべく階段を上がる。

 

「あ、そうそう」

 

 足をかけたところで声をかけられる。

 

「誰も部屋に行かないようにするから安心してね?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 込み入った話だということを察してくれたのだろう。

 

「あと、お父さんは説得しておくから大丈夫よ♪」

 

 うん……うん?……うん!?

 

「えっと、それはどういうーー」

 

「まぁまぁ、ごゆっくり~♪」

 

 不穏な響きを聞いて不安がる俺を押し込むように背中を(物理的に)押してくるつぐのお母さん。

 釈然としないけれど、いつまでもここにいても始まらない。

再び階段に足をかけ、一段、一段と上っていく。

その度に鼓動が響く気がする。

 

 程なくして階段を上り終えた。実際は一分にも満たない時間だろうけど、体感で一時間ほどに感じた。

とはいえ、まだまだ序の口。ここからが本番なんだけど……

 

コンコンコン

 

 ドアを三回ノックする。思いの外、ノックする力が弱かった。

 

「どうぞっ」

 

 すぐさま声が返ってきた。数日ぶりに聞いたその声は気だるげだったり、逆に気張っているようなこともなく、いつも通りの響きだった。

その事にひとまず安堵して、こちらも気持ちを落ち着かせるべく深呼吸。ドアノブに手を伸ばす。

 

(おい、震えるなよ右手)

 

 震える右手でゆっくりとドアノブをひねり、ドアを開ける。

ドアを開けて久しぶりに見たつぐの表情はポカーンとしていた。目の前の事実に混乱しているようだった。

 

「えっと……やっほー?」

 

『久しぶり』、『具合、大丈夫?』……いろいろ考えていたあいさつは、つぐの表情とともにどこかへ飛んでいってしまい、謎のあいさつが俺の口から思わず漏れた。

 

ガタタッ!

 

 少しして起動したつぐが座っていた椅子から立とうとして座り込んだ。

 

「ちょっ!? 大丈夫!?」

 

 驚いたものの、急いで近くに寄る。

まさかまだ体調が優れないのだろうか。だとしたら日を改めて……

 

「だ、大丈夫っ! 夕輝くんが来るとは思ってなかったから……驚いて腰抜けちゃった」

 

「うっ……」グサッ

 

 遠回しに『お見舞いに来なかった』と言われた気がした。……そんなことはないだろうけど。

 

「ごめん……お見舞いに行かなくて」

 

「えっ!? ううん! そういうことじゃなくてね……それを言ったら私が階段から落ちなかったら、こんなことにはならなかったんだし……」

 

 つぐの視線は包帯が巻かれた俺の左手に向けられる。

 

「いやいや。もともと俺がちゃんと口に出して説明してればこんなことにはならなかったと……」

 

 そこからは水掛け論というか、謝り合戦が始まった。

『俺が』、『いや、私が』……とどちらも譲らない。そんな謝り合戦に終止符を打ったのは俺でも、つぐでもなくーー

 

「とりあえずお互いに言いたいことはあるみたいだし、お茶でもいかがかしら?」

 

「「!!??」」ビクッ

 

 いつの間にか入り口につぐのお母さんが立っていた。

 

「お母さん!? いつの間に!?」

 

「あら? ノックはしたのよ? 二人とも全然気づかなかったみたいだけれど」

 

 にこやかに笑いながらテーブルの上にケーキの入った箱とコーヒーカップ、シュガーポットなどを置いていく。

 

「お茶っていっても珈琲店だからコーヒーなんだけどね」

 

「構いません。頂きます」

 

 ススッとテーブルの近くに移動して座る。

 

「つぐみもそんなところに座ってないで~」

 

「え、えぇ……」

 

 つぐはかなり困惑していた。

 

 

「まずは前に来たときのこと、謝らせてほしい……ごめんね」

 

 お茶をして落ち着いたところでようやく本題を切り出す。

 

「あの日、『つぐに技術的なことは求めていない』って言ったね」

 

「そんなこと……」

 

 つぐが続きを言う前に、右手で制す。

 

「あれは、つぐが例え技術的に劣っていたとしても他の四人は見捨てたりしないし、いつまででも一緒にいてくれる。そういう意味だったんだ」

 

「……そうだったんだ。私の早とちりだったんだね」

 

「と、俺も思っていた」

 

「えっ!?」

 

 つぐの目が驚きのあまり大きく見開かれている。

うん。まだ話は続くんです。

 

「モカからAfterglowの結成話を聞いた」

 

 午前中、モカから聞いたのは結成秘話。

もともと幼なじみの五人だったけど、中学に入って蘭だけが別のクラスになってしまった。クラスが変わってしまえば必然的に一緒にいられる時間は減ってしまう。加えて蘭は人見知り&寂しがりな質なのでクラスにも馴染めなかった。

 

『バンドやろう!』

 

 そんなときにつぐの鶴の一声でバンドが結成された。

リーダーはひまりだけれど、発起人はつぐ。

今の五人でいられるのはつぐがいたから。

 

 

「そういう意味では、つぐがAfterglowの屋台骨だったんだ。

 だから、不用意な言葉で惑わせてしまってごめんなさい」

 

「そんなこと……私の方こそ……夕輝くん、言ってくれたよね?

 努力し続ける人たちのこと。その人たちみたいにとは言わないけど適度に休みをとれって……それなのに夕輝くんの忠告を無視して……」

 

 ちらりと俺の左手に視線を向ける。

 

「夕輝くんにケガさせちゃってごめんなさい」

 

 涙ながらに謝るつぐ。

おかしい……彼女の顔を曇らせるつもりはなかったのに……

 

「ケガって言っても骨折したわけじゃないし、捻挫だって俺が変に手を着いちゃった結果だよ。

 そもそもつぐを支えられなかった俺に原因があると思うんだよねぇ~」

 

「そんなこと……」

 

 おっと、また謝り合戦が始まりそう。

 

「でも、つぐも腑に落ちないよね? だから……お互いに一つ、お願いを聞くって言うのはどうかな? それで手打ちでどう?」

 

「何でもいいの?」

 

「お互いに同意の上ならね。あ、俺は何でもオッケーだよっ」

 

「えっ!? えっ!?」

 

 おーおー、顔が赤くなっていきますなぁ~。なにを想像してるんですかねぇ?

 

「じゃあ、俺のお願いからね~」

 

「えっ!? あ、ちょっと待って!!」

 

 つぐがかなり焦ってる。まぁ、待たないんですけどね。

 

「Afterglow五人でちゃんと話し合ってほしいんだ」

 

「そんなこと!!……え?」

 

 

 

 

「ごめん! 悪かったって!」

 

「ツーン」プクゥー

 

 お願いの内容を説明すると、つぐは頬を膨らませる。まるでひまわりの種を収納し過ぎたハムスターのようだ。

 

(これはからかいすぎたか……)

 

 つぐの反応が面白すぎていきすぎてしまった。反省はしている。後悔はしていない。

 

 それでもコレじゃあ話が進まない。

 

「よしっ! じゃあつぐは特別に2つ、2つでどうかな?」

 

「……何でもいいの?」

 

 ジト目でにらむつぐとかご褒美でしかない!!

 

「おうとも!」

 

「……今度、カフェ巡りに付き合って。……夕輝くんの奢りで」

 

「はい喜んで!!」

 

 財布の中は見ていないけど、なんとかしよう。その気になれば両親に土下座でもして借りよう。または早急にバイト探そう。

 

「もう一つは?」

 

「……勉強教えて」

 

 そんなことで権利を使わなくても……と思いつつも、つぐらしいと思ってしまう。

 

「はい、喜んで」

 

 つぐに笑いかけながら了承した。

 




 次回、ラスボス編。チュチュは出ないよ。

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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