2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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 ストーリーの時系列が分からない……


第5話

『また断られた~!!!』

 

『またダメだったかぁ~』

 

『あこちゃん、ドンマイp(^^)q』

 

 自室のパソコンに向かい、チャットで会話するのも日課になりつつある。あの日から、あこと燐子さんとチャットをしている。今日もあこのバンドへの売り込みの戦果を聞いていた。

 

『友希那さんにお願いする前に、紗夜さんに防がれる~。あれは最硬のタンクだよ~(>_<)』

 

『我が姉がすまぬ。でも、戦車じゃないぞ? そこまで装甲固くもないし』

 

 紗夜姉さんが戦車なんて、あこもおかしなことを言うなぁ。

 

『戦車?? どーゆーこと?』

 

『夕輝さん。タンク違いです(;・д・)』

 

 戦車以外のタンクがあるのか。勉強になる。

 

『ともあれ、湊先輩に売り込むために姉さんを懐柔したいんだね?』

 

『なんて読むの?』

 

『かいじゅう(ノ´・ω・)ノガオー』

 

『説得するって言ったらわかりやすいかな?

(。・∀・。)』

 

 なんか燐子さんってリアルとチャット上ではキャラが違うわ~……

 

『ゆー兄、何か方法ない? (´;ω;`)』

 

 さて、まだ知り合って日は浅いものの、俺を兄として慕ってくれる妹分のために策を練る。

 相手は姉さんだ。生まれて10数年弟をやっているんだし、姉さんのことなら大概分かる。

 優しくも厳しく、不正は許さない正義感。

お堅く、頑固なイメージがあるけど、ちゃんと話せば分かってくれる人。努力家で、ことギターに関してはかなりストイック。

 そんな姉を懐柔する方法。それは――

 

『ワイロでもやっとく?』

 

『夕輝さん、あこちゃんに変なこと教えないでくださいo(`ω´*)o』

 

 燐子さんに怒られた。

いや、だって中学時代に『難攻不落の風紀委員』と名をはせた姉さんだもん。普通にしても話聞いてくれないなら、ポテトの1本や2本は覚悟しないと交渉のテーブルにも着いてくれないし。

 懐柔するには山盛りポテトを2、3皿は覚悟しないといけないけど。

 

『まぁ、さすがにワイロはあれだけど、姉さんの説得くらいならなんとか出来るかもしれない』

 

『本当!?』

 

 自分にとっての第一にして最大の障害である姉さんをどうにか出来るかもしれない。そんな思いもあって、チャット上ではあるけど、喜んでいるあこの姿が容易に想像できる。

 

『あくまで可能性の話だし、仮に説得出来たとしても……』

 

『湊さんがいる』

 

 そう。姉さんを説得出来たとしても、いうなれば城門を開けただけに過ぎない。あくまで本命は湊先輩に認められること。

 

『あいにく俺は同じ学校ってだけで湊先輩とは面識がない』

 

『でも、湊先輩のスペシャリストと言っても過言じゃない人が羽丘にいる』

 

『そんな人いるの!?』

 

『おうとも。湊友希那ガチ勢だ!』

 

『ガチ勢……(;´Д`)』

 

 まぁ、その人にも交渉はしないといけないんだけどね。たぶん引き受けてくれるだろう。

 

『そうなれば、あとはあこの実力次第だ。大丈夫なんだよね?』

 

『任せて! 世界で2番目のドラマー、宇田川あこの実力、見せちゃうよ!』

 

『じゃなくて、我が奏でし漆黒の調べ。存分に酔いしれるがいい!』

 

 あこの演奏は聴いたことないけれど、巴曰く、

 

「もう自分の技量を超えている」

 

 らしい。

巴のドラムも聴いたことないけれど、ドラム歴3年、さらには和太鼓もやっていたらしいから相当なものだろう。

 

(現時点でその巴を超えているならば、あるいは――)

 

『私も応援するよ(*´∀`*)ノ』

 

『ありがとう! りんりん』

 

 ともかく、あこの演奏を聴いてもらうために出来ることをやる。それしかない。

 

(責任重大だね)

 

 もはや逃げるほどの幸せが残っているのか怪しくなるほど多くなったため息を1つついて、協力を仰ぐべく『湊先輩の専門家』に連絡をとった。

 

 

 

「ははっ、知り合いだったのね」

 

「友希那さんの専門家って、リサ姉だったの!?」

 

「夕輝~? あこに何吹き込んだのかな~?」

 

 リサ先輩とあこがまさかの知り合いでした~。勿体ぶってた俺が恥ずかしい。

ともあれ、知り合いだったら知り合いでお互いのことが分かっているなら手間は省ける。あとは俺とリサ先輩で上手く交渉して、あこが実力を見せればいい。

 

「ともかく、リサ先輩。手はず通りお願いしますね?」

 

「よろしくね、リサ姉」

 

「まっかせなさーい。あこのために一肌脱いじゃうよ☆」

 

 コミュ力に定評のあるリサ先輩なら何とかしてくれるだろう。

 

 

「帰って。何度来られても迷惑」

 

「っ!」

 

 まさかの初手からの全否定。

 

「遊びじゃないの。私たちは――」

 

「FWFに出なきゃいけない、ですよね?」

 

 湊先輩が言わんとすることを遮り、俺が続ける。

 

「! あなたは?」

 

「夕輝!?」

 

「はじめまして。氷川夕輝、氷川紗夜の弟です」

 

 自己紹介をして一礼する。

 

「それで、何か用かしら?」

 

 湊先輩は平静を装っているけど、明らかに不機嫌そうだ。

 

「いえ、ドラムの売り込みに、と思いまして」

 

「もう一度言うけど、遊びじゃないの。悪いけど、他を――」

 

「まだギターしか集まっていないんですよね?」

 

「っ!」

 

 上手く交渉するはずが、『遊び』と言われて、カッとなってしまった。

 

「リズム隊もいない状況、メンバー探しはしているけど、妥協したくない。でもこのままじゃあ、FWFに出場はおろか、オーディションすら受けられない」

 

 断られても断られてもめげず、努力を続けているあこを否定されたようで――

 

「そもそも出場資格すらクリアできてませんしね?」

 

 穏便に済ますつもりが、煽っていた。

湊先輩の視線がかなり険しいものになる。

 

そもそも、湊先輩が求めるレベルで、なおかつガールズバンドに拘るのだとしたら、それこそスタジオミュージシャンでも引っ張ってこない限りはいないだろう。

 

「さて、運のいいことに、『偶然』ここにフリーのドラマーがいるわけですし、どうでしょう? 1度演奏してもらうっていうのは」

 

「それであなたのお眼鏡にかなうようなら加入してもらう。ダメならスッパリと諦めてもらう。簡単なお話でしょう?」

 

「それは――」

 

 何か言おうとする姉さんを右手を挙げることで征する湊先輩。 

 

「私は構わないわ」

 

(よし、ノった!)

 

 プライドが高いであろう湊先輩なら食いついてくれると思った。

 

「あこはどうだ? その条件でやるか、それともここでスパッと諦めるか」

 

「やります!」

 

 あこも腹をくくったようだ。

ともかく、これで俺が出来ることはやった。あとはあこが実力を発揮するかどうかに掛かっている。

 

「じゃあ、スタジオで1回だけ引いてもらう。その結果で判断するわ」

 

「分かりました」

 

「紗夜、行くわよ」

 

 そう言うと、湊先輩はこちらを――具体的には俺を――一瞥すると、ライブハウスに歩き出した。

 姉さんもこちらをにらみつけてから湊先輩のあとを追った。

 

(こりゃ、帰ってから説教コースだな)

 

「ゆー兄……」

 

「大丈夫だ。ここまで上手くいったんだ。あこなら合格出来るよ」

 

 不安そうにこちらを見つめるあこの頭を撫でながら励ます。

 

「うん! 頑張ってくる!!」

 

 安心したのか、笑顔を見せて2人のあとを追った。

 

「さて、リサ先輩はどうします?」

 

 あこがある程度遠ざかってからリサ先輩に問いかける。

 

「何がかな~?」

 

 分かっていながらも、はぐらかすようだ。

何時ぞやのやりとりとは立場が違うものの、同じ構図に苦笑する。

 

()()()()()集まってないらしいですよ」

 

「意地悪だね、夕輝は」

 

「ただ単に後悔してほしくないだけですよ」

 

「そっか……」

 

「えぇ」

 

 しばしの沈黙の後、

 

「夕輝はどうするの?」

 

「俺は部外者ですからね。大人しく帰りますとも」

 

 湊先輩にも怒られそうだし、と苦笑いする。

 

「まぁ、あれは怒るよね。たぶんアタシでも怒る」

 

「結果として、あこがオーディション受けられるので、甘んじて受けます」

 

「夕輝……」

 

「なんですか??」

 

 リサ先輩がスッと右手を俺の方に伸ばして――

 

「勇気ちょうだい」

 

「ダジャレですか?」

 

「……あ。ち、違うから」

 

 クスリと笑うと、顔を赤くして否定してきた。本当に気づいて無かったんだろうな。

 リサ先輩の右手を左手で握り、痛くないように気をつけながら力をこめる。

 

「……行きました?」

 

「ん、もう少しかな」

 

 もう少し力をこめる。

 

「ん、バッチリ☆ じゃあ、行ってくるね」

 

「行ってらっしゃい」

 

リサ先輩の姿が見えなくなるまで見送ってから、踵を返し帰路についた。

 

 

 後ほど嬉しい報告が2つ来た。




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