2人の笑顔は夕日に輝く   作:ハマの珍人

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第7話

 燐子さんから予定を聞かれた次の休日。

俺は燐子さんのご自宅の前にいた。

別にストーカーというわけではない。ただ、これはさすがに予想外だった。

 まず――

 

(本当に凄い家だ)

 

 アニメとかによくある、塀がズーッと続いている様な屋敷というわけでもなく、中庭に噴水がある大豪邸というわけでもないけれど、明らかに裕福な家だと分かる。

 最初に来たときは夜だったし、燐子さんを送り届けただけだったからそんなに気にしなかったけれど――

 

(本当に招待されちゃったんだよね……)

 

 今日通算何度目かになる確認をした。

 

 

 予定を聞かれて、俺は特に用事も無いし、バイトもしていない。部活や委員会にも所属しているわけじゃないから燐子さんの予定に合わせることになった。

 

問題は――

 

『場所、どうします?』

 

 待ち合わせ場所だ。

普通なら駅前だったり、どこかのカフェだったり、ファミレスだったりするんだけど――

 

『すみません……人が多いところはちょっと……

(||゜Д゜)』

 

『ですよね~』

 

 前回のライブのこともあるし、人ごみは避けるべきだろう。

そんなわけで駅前はNG。ファミレス……今時の高校生ならまぁ行くけど、そこまで親しくなっていない男女でファミレス行っても、気まずい気がする。あことかリサ先輩がいれば上手く会話を回してくれるんだけどなぁ

 

 あとはカフェ……俺が知ってるカフェってcircleのカフェテリアか、羽沢珈琲店しか知らないんだよね。

大体その2カ所で済ませちゃうし。

 

 ただ、燐子さんの話の内容によるけど、内緒の話だとするとどちらも知り合いに会う可能性があるからなぁ……。そうすると、どうしようか。

 

 ネットカフェなら個室に入れば人の目を気にしなくてすむし、チャットで話せばいい。

でも、それなら会って話す必要はないし……。

悩んでいると――

 

『あの……私の家はどうでしょうか……?』

 

『じゃあ、それで!』

 

 燐子さんから提案をされて、思いつかなかった俺は即答――

 

「ん!?」

 

 今、なんて書いてあった!?

 

パソコンの画面を確認する。

 

()()()はどうでしょうか?』

 

「燐子さんの家ぇ!?」

 

 確かに燐子さんからしたらホーム(2つの意味で)だけど、俺からしたら完全アウェーだ。(当たり前)

そもそも、最後に女友達の所に行ったのはいつだったっけ……。

 って、そうじゃない! 断らなければ! 代案? 断ってから考えよう!

 

『じゃあ……お待ちしてますね……』

 

 手遅れでした。

 

 

 そんなわけで、燐子さんのご自宅に行くことが決定。

手ぶらで行くのも気が引けたのでお菓子でも買って持っていこうと思ったけど――

 

(女の子が喜ぶものがよく分からない)

 

 俺自身、スイーツに詳しいわけじゃないからよく分からない。

俺の身近な人で、スイーツに詳しい人……。

 

 紗夜姉さんは俺より分かる程度かもしれない。日菜ねぇは姉弟で1番スイーツに詳しいとは思うけど何か感づかれそうだ。

 

 姉以外となると、Afterglowのメンバーだろうか。

蘭は甘いものが苦手らしいし、巴はそこまで拘らないだろう。モカはやまぶきベーカリーのパンを勧めてきそうだ。けしてやまぶきベーカリーのパンが悪いわけではないけれど、お土産として持っていくのはどうか。

 

 となると、ひまりかつぐに絞られる。

ひまりは、コンビニスイーツが好きらしいが、流行のスイーツにも詳しそうだ。

一方で、つぐも実家が喫茶店なのでスイーツにも詳しいだろう。

条件は一緒。ならば――

 

(つぐに聞こう!)

 

 スイーツに関しての条件が同じなら、あとは秘匿性。俺が女の子にスイーツを買うとして、それを秘密にしてくれるのはどちらか。

 ひまりは約束すれば言わないかもしれないが、何かの拍子にうっかり話してしまうかもしれない。わりと抜けてるから。

つぐはその点、ちゃんと黙っていてくれる。つぐに相談しよう。

 結果として、羽沢珈琲店のケーキをテイクアウトにしてくれた。さすがつぐ。しっかりしてる。

 

 

 というわけでお土産を持って、道に迷うこと無く燐子さんのご自宅までたどりついたところまでは良かった。

 

ただ、いまだにインターホンを押せずにいた。

押そうとして手を伸ばし、引っ込めてはウロウロ。覚悟を決めて……と繰り返している。

 早めに出てきたから時間に余裕があったはずなのに、もう約束の時間まで2分もない。

 

(このままウロウロしていても、不審者に間違われて通報されるだけ……ええい、ままよ!)

 

ピンポーン

 

 今日通算何度目かの覚悟を決めてインターホンを押す。

 どれくらい時間がたっただろうか? 30秒? 1分?

その程度だったかもしれないが、俺からしたら何倍も長く感じた。心音がうるさい。口に貯まった唾液を飲み込む。

 

『はい……』

 

「あ、お……いや自分。燐子さんの――」

 

 自己紹介しようとしたところで、はたと考える。

俺は、燐子さんのなんだろう? 恋人ではないのは明らか。むしろそんなことを言っても、警戒度を上げるだけ。

友達? 後輩? 確かに学年は下だけど、学校は違うし……

チャット仲間? これがしっくり来るかな。

 

『あ……夕輝さん。今伺いますね……』

 

 本人でした。思考が正常になる一方で、恥ずかしさから顔は紅潮した。

 

ガチャ

 

「こんにちは夕輝さん……わざわざお呼び立てしてすみません……」

 

「あ……」

 

 玄関開けて出てきた燐子さんを見て、考えていた挨拶とかが頭から吹き飛んでしまった。

 

 モノトーンであり、露出が少ない服でぱっと見は清楚、人によっては地味な印象ではあるが、ウエストより上がコルセット(?)でしまっていることで、その分胸が強調されている。いわゆる『童貞を殺す』(諸説あり)服というものであった。

 

「夕輝さん……?」

 

 俺が何も言わず、動かないことに不審に思った燐子さんが首をかしげながら呼びかける。

 正直、その姿も破壊力ありすぎです。

 

「あ、すみません。本日はお招きいただき、ありがとうございまひゅ!」

 

(か、噛んだ!?)

 

 またも実態をさらし、本日何度目かの紅潮を自覚した。

 

「ふふっ……あ、すみません……立ち話もなんですしどうぞ……」

 

「お邪魔します……」

 

 燐子さんに促されて入る。靴を脱いで、用意されたスリッパに履き替える。

 なんかこのスリッパ履き心地いいな。どこで売ってるんだろう? ニ○リじゃないんだろうなぁたぶん。

 

「じゃあ……ご案内しますね……」

 

 と、先に階段を上がる燐子さん。数歩遅れてついていく。階段も段差が低くて上りやすい。

こういう階段、リフォーム番組とかでよく見るよね。

 

 と緊張をごまかすようにどうでもいいようなことを考えながら歩いて行くと、1つの部屋の前につく。

 

「飲み物持ってきますので……中で待っていてください……」

 

 そう言って燐子さんは来た道を戻って行ってしまった。

 

(あ、ケーキを渡すの忘れてた)

 

 戻って置いてくることも考えたが、キッチンがどこにあるかも分からないし……。

とりあえず言われた通りに部屋に居ようと思い、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「失礼します」

 

 一声かけてからドアを開ける。

部屋の中にはベッド、机、備えつけのパソコン、ピアノなどがあり、きれいに整頓されていた。

 

(あれ? 思ったより狭い? ここ、『リビング』だよね? ()()()()()()()()()()……)

 

 そこで俺は勘違いに気づく。

 

(ここ、燐子さんの部屋じゃん!?)

 

 案内というから、てっきりリビングに通されるものだと思っていた。

階段を上るから、1階は倉庫や水回りだと解釈していた。

ピアノ、パソコン、机はあるけど、ベッドを置くなんて変わっているなぁと思った。

 

あれ、ということは……

 

「お待たせいたしました……どうかしました?」

 

 飲み物を持って燐子さんが戻ってきた。

部屋で待っているように言ったものの、立ったままでいる俺を不思議に思っているようだ。

 

「あ、すみません。これお土産です。手ぶらで来るのもあれでしたので……」

 

 持ってきたケーキをようやく渡す。本来なら、『つまらないものですが』、『お口汚しですが』と言って渡すんだろうけど、つぐやつぐのご家族に悪い気がして言えなかった。

 

「ありがとうございます……では、分けて、いただきましょう……」

 

「それと」

 

 チラリとピアノに視線をうつす。

 

「燐子さん、ピアノ弾けるんですね」

 

 言った途端、燐子さんの口がキュッと引き締まった。

 

 

 燐子さんに促され座ると、燐子さんはパソコンの電源を入れて何やら操作する。

すると、スピーカーから音楽が流れ始める。

 

(これは……あの曲?)

 

 それはあこから送られてきた練習風景の動画。

すると燐子さんはピアノの前に座り、滑らかに鍵盤を叩きはじめる。

 

「っ!!」

 

 この間、震えるほど感じたあの曲。それが燐子さんのピアノの音色が加わることでさらに別な曲に化けた。

なにより、燐子さんのピアノを奏でる姿が時に激しく、時に妖艶で、それでいて楽しそうだった。

 

 

「黙っていて、ごめんなさい……」

 

「いえ、燐子さんがピアノ弾けたらなぁと思ってましたが、まさかこれほどまでとは……」

 

 これだったら何かしらのコンクールで賞を取っててもおかしくない。

 

「あこちゃんからお話聞いてて……楽しそうだなぁって思ってて……でも、私とは縁が無い……そう思ってたんです……」

 

「それが……この間の動画が送られてきて……私だったらこう、アレンジするなぁって……」

 

 まず、スコアが無いのにアレンジ出来るってすごいと思います。

 

「それで……毎日のように弾いていて、楽しいんですけど……少し物足りなくて……」

 

「画面の向こう側……というか、少し手を伸ばせば、足を踏み出せば……届く距離でしていることなんですけど……そのもう少しを踏み出すきっかけがほしくて……」

 

「そんなときに夕輝さんから『何か演奏出来る?』って聞かれて……踏みだそうって……」

 

 あぁ。燐子さんからしたらかなり葛藤したんだろう。それでも、変わりたいと思った。そしてそれを俺に、まだ知り合って間もないはずの俺に話してくれた。

 だからその気持ちに応えたい。だけど――

 

「燐子さん。問題が2つあるんです」

 

「えっ!?」

 

 そう、燐子さんがバンドに加入するための問題。

最も技術なら湊先輩から見ても申し分ないだろう。

ただ――

 

「バンド活動をする上で、たくさんの人に視線を向けられることになります」

 

 まず第1にして、燐子さんにとって最大の問題がこれ。

人ごみが苦手で、視線を向けられていなかったとしても人がたくさんいるだけで顔を真っ青にしていた彼女が、客の視線を受けた上で、演奏しなければいけないということ。

 

「えっ……」

 

 明らかに狼狽する燐子さん。

スタジオ練習だったらせいぜいメンバー+時々スタッフ、または他の利用者が目を向ける程度。

だが、ライブとなれば話は違う。

加えて、『歌姫』湊友希那がボーカルを務めるバンドとなればなおさら注目される。

 

 ここで即答出来るようでなければダメだ。

仮に事情を知っている俺やあこ。色々と察してくれるリサ先輩ならそれでもフォローしながらやるだろう。

 

 でも友希那先輩と姉さんという音楽ガチ勢ツートップはそうはいかない。

例え大手音楽プロデューサーが認めるほどの実力があっても、ライブで演奏出来なきゃ意味がない。

 

 だからここで彼女の断固たる決意を口にしてもらわなければいけない。

 

「私1人だったら怖い……けど、あこちゃんもいるし……夕輝さん……」

 

「はい?」

 

 すっと手を伸ばす燐子さん。

 

「勇気、分けてくれませんか?」

 

「ふふっ、ははは」

 

「えっ!?」

 

 急に笑い出した俺に驚く燐子さん。

 

「あぁ、ごめんなさい。似たようなことがあったのでつい……」

 

 すっと燐子さんの手を取ると、ギュッと握る。

 

「俺で良ければ喜んで」

 

 俺の勇気で決心がつくならいくらでも差し出しましょう。

 

「それで……もう1つの問題って?」

 

「あぁ、これは最初の問題に比べたら大したことではないんですけどね」

 

 ゴクリと固唾をのむ燐子さん。そこまで気を張らなくてもいいんですけど……

 

「俺、メンバーじゃないです。完全な部外者です」

 

「えっ……」

 

「だから、自分から売り込むか、声をかけられるの待つしかないです」

 

 脱力した燐子さんには悪いけど、ともあれ、バンドメンバーが揃いそうです。

ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?

  • 許す! 書くことを許す!
  • ただでさえ話進まんのだからやめーや!!
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