『ゆー兄って、紗夜さんと仲悪いの?』
燐子さんの家に行った日の夜。いつもの日課のチャットをしていると、あこから唐突に聞かれた。
『いや、けして仲は悪くない……と思うけど、どうして?』
最近は姉さんの負担を考えて、夜に姉さんの部屋に行くのを控えていた。
もっとも、行ったとしても『練習の延長』としてギターを引いてくれるとは思うけど。
もし、行ってなかったことが原因で気づかない間に仲が拗れていたらイヤなんだけど。たぶん泣く。
『実はね、今日練習で――』
あこの話をかいつまむと、バンドの方向性の話の中であこは『お姉ちゃんのようなドラマーになりたい』と言ったそうだ。その途端、紗夜姉さんがまるで豹変したかのようにまくし立てられたそうだ。『あこの言うかっこいいは姉の真似だ』と。
その時はリサ先輩が上手く取りなし、その話は終わったらしいのだが――
『紗夜さんは厳しいけれど、あそこまで言われるの初めてで、あこびっくりしちゃって……』
『あこ、余計なこと言っちゃったのかな?』
あこは、自分の不用意な発言が紗夜姉さんを怒らせたんじゃないかと思っているようだ。
『詳しいことはまだ言えないけど、あこは悪くないから。だから自分を責めないで』
むしろ、誰も悪くない。
しかし、まさか『お姉ちゃん』って聞いただけでここまでとは……それほどまでなのか、紗夜姉さん。
思えば、いつからだろうか。紗夜姉さんを『お姉ちゃん』と呼ばなくなったのは……
思春期特有の、母親を『お母さん』、『ママ』と呼ぶのに抵抗をおぼえるように、『お姉ちゃん』と呼ぶのが恥ずかしくなり、『姉さん』、『紗夜姉さん』と呼ぶようになった。でも、本当に思春期で恥ずかしかっただけなのか……それとも、『お姉ちゃん』と呼ぶたびに
『おーい、ゆー兄! 落ちちゃったのかな?』
おっと。物思いに耽っていて、あこに呼ばれているのに気づかなかった。
『ごめんごめん。考え事してた』
キーボードを叩きながら、ログを確認する。
『忙しいの?』
『あこほどじゃないよ。部活もしてないし、バンドもしてない、ただの暇人だよ』
バイトでもやろうかな、程度には考えているけど浪費しなければ小遣いに困るほどではないしね。
『ゆー兄もNFOでもしてみない?』
『NFO?』
UFOじゃなくて? あ、でもどこかで聞いたことある気がする。
『Neo Fantasy Online っていうネットゲームなんですけど……今、コラボキャンペーンと同時にお友達紹介キャンペーンも行われてて……新規の人とやると、お互いにコラボアイテムがもらえたり、特別クエストが受けられたりと……とにかくお得なんです!(`・ω・´)』
『おわっ!? びっくりした!』
NFOとやらの話題を出した途端に、燐子さんがすっ飛んできた。チャットなんだけど……
『あ、りんりん。遅かったね』
『あこちゃん、夕輝さん。こんばんは(*´∀`*)ノ』
『ちょっと用事があったもので遅れました(>_<)』
『まぁ、用事があったんなら仕方ないですよ』
『ありがとうございます(´;ω;`)』
『ところで……夕輝さんはNFOを始められるんですか?
((((*゜▽゜*))))』
おう……もう明らかにテンション高いのが分かる。
これ、断ったりしたら明らかに急降下するヤツじゃないですか。
『まぁ、やってみようかなって軽い気持ちなんですけど……』
『本当ですか!?ε=ε=(ノ≧∇≦)ノ』
『では、分かりやすく説明しますね(`・ω・´)
このゲームは――』
その後、燐子さんによるNFO講座が始まり、あこの(チャットによる)悲鳴が上がるまで続いた。
『ところで2人とも。キーボードかピアノ弾ける人、知り合いにいない?』
あこを2人がかりでなだめて、落ち着いた頃にあこが聞いてきた。
なんでもスタジオ練習していて、スタッフさんに『ライブに出てみないか?』と言われたらしい。
そこで、実力の伴ったキーボード、またはピアノ経験者を探すか、キーボード無しにアレンジして演奏するかという選択を迫られているらしい。
とりあえず、知り合いに声をかけて経験者を探すことになったらしいのだ。
『1人……アテがあるけど』
『本当!?Σ(・ω・ノ)ノ』
ダメ元で声をかけたつもりだったんだろう。
きっとパソコンの前で大騒ぎしているはずだ。
『しかも実力は折り紙つき。あこも絶対に仲良くなれるよ』
『本当に!? どんな人なんだろう!! 楽しみだな((((*゜▽゜*))))』
燐子さんです、というのは絶対に黙っておこう。
その方が面白そうだし。
『りんりんはどう? ピアノ出来る人、いない?』
『私も……1人だけ』
嘘ではないよね。本人であり、俺が『アテがある』人物と同一人物なだけで。
『本当に!? じゃあじゃあ次の練習の日に来てほしいんだけど――』
あ、このテンションは勘違いしてますね。
『キーボード候補が2人かぁ! 楽しみだなぁ~』
『あ、あこちゃん……その……』
『あ、あこもう落ちるね~。また夜の帳が降りる頃にあいまみえようぞ!』
『あ、あこちゃん!』
反応無し
『落ちちゃいましたね。誤解したままで』
『どうしましょう(-ω-;)』
『と、いうことで次の練習の時に行きましょう』
連絡はしましたよ~。
『ご自宅まで行った方がいいですか?』
『いえ……駅前でお願いします……』
「え!?」
まさかの提案に思わず声が出てしまった。
『でも……大丈夫なんですか?』
『正直怖いです……でも……このくらいで怖がってたら……ライブなんて出来ませんので……』
燐子さんの決意はそれほどのものらしい。
『分かりました。では当日、駅前で』
なるべく早く行こうと思った。
※
風呂から上がり、しばらくぶりに紗夜姉さんの部屋の前に立つ。
ギターの音はしていない。
とりあえず今日のことは少し話をしておかなければ、と思う。
コンコンコン
しばらく来ていなかったからか、妙な腕の震えを抑えつつノックする。
「姉さん、俺だけど……」
部屋の前でしばらく待つが――
(あれ?)
いつもならすぐ返事が来るはずなのに何もない。
ダメならダメできっちり断るはずの姉さんが無言。
コンコンコン
念のため再びノックするもまたも無言。
「姉さん? 開けますよ?」
開けて見ると――
「すー……すー……」
ベッドの上で規則正しい寝息を立てていた。
こういう部分でも規則正しいんだなぁ、と思ってしまう。
バンド練習がハードなのだろう。姉さんにしては珍しく風呂に入らないで寝てしまっている。
(寝てしまうほど疲れちゃったのか……話するのは別の日にしよう)
「姉さん……寝るんだったら風呂に入らないと」
「んんっ」
「!!」ビクッ
妙に艶っぽい声を出されて、ビックリした。
そんなことはお構いなしに、無防備な姿と穏やかな表情で姉さんは眠り続ける。
いつもは気を張りつめて厳しい表情をしている姉さんも寝顔はあどけない。
(この穏やかな寝顔は守らないといけないね)
ベッドに腰掛け、姉さんの顔にかかった前髪をどけて、頬に触れる。
「んん~、ゆーき?」
あ、起きちゃった。というか、寝起きで舌っ足らずな姉さんも新鮮だなぁ。
すると、徐々に意識が覚醒していき――
「なにをしているの?」
はい、いつも通りの姉さんです。(床に正座待機)
「いえ……お話でもと思ったんですけど、お疲れのようですので、お風呂に入っていただこうかと思いまして」
「そう……じゃあいいわ」
すぐに解放されたので、急いで部屋に戻る。
コンコン
「ゆーくん。い~い?」
「(日菜ねぇ?)どうぞ」
部屋を訪れて来たのは日菜ねぇ。
昔は寝られない時に部屋に来て一緒に寝てたけど、最近来ることはなかった。
(何かあったのかな?)
「ゆーくん。あたしね! スカウトされてギターをすることになったの!」
「……え?」
果たして俺はどんな顔をしていただろう。
ポピパ、ハロハピ編も書いた方がいい?
-
許す! 書くことを許す!
-
ただでさえ話進まんのだからやめーや!!