命に嫌われている。   作:アドアステラ

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episode.1

『死にたいなんて言うなよ。諦めないで生きろよ。』

 

 

 

薄暗い部屋と、不釣り合いな明るい光を宿す画面。

そして、そこから流れてくる甲高い歌声。

 

 

ああ、まただ。

 

身体を焼き尽くそうとするかのように、内側から燃え上がる怒り。

 

最早お馴染みとなった感情に身を任せ、僕はパソコンをバタンと閉じた。

 

……違う。

 

こんな歌が正しいなんて、一時でも思ってしまった自分を消し去りたい。

 

これは、只の偽善。

 

そして僕自身、紛れも無い偽善者だ——。

 

 

 

✴︎

 

 

 

自らに対する怒りと、自らに対する失望。

 

その連鎖を断ち切れず、更に言うと嫌という程繰り返してきたにも関わらず、また懲りずに自分で打ち込んだ音源を聴く。

 

だが、やはり僕には耐性など備わっておらず、10秒も経たない間に再生を中断した。

 

 

 

実際、自分は死んでもどうでもよくて。

 

生きていたって死んでいたって、大して変わりなどしないから。

 

それでも、周りが死んだら悲しくて。

 

周囲の死。

 

誰かの死。

 

それに直面する前に、まずそれと向き合うという初歩的な事をこなしておきたい。

 

そうでないと、いざという時に何も出来ず、何も感じられない。

 

「それは嫌だから」っていう下らないエゴで、今日もひとりパソコンに向き合う。

 

 

 

✴︎

 

 

 

地球が滅びてしまえばいいのに。

 

そんな中ニ病染みた事を思いながら、机に頬杖をついて教室を見るともなく眺める。

 

ふと、目の前の黒板に焦点が定まった。

 

 

「自殺する若者を減らす為に」

 

 

ここ最近相次いでいる、若者の自殺。

 

世間を騒がせているそのニュースは、僕が通う高校の教師達に喝を入れる役割を果たした。

 

その結果が、これだ。

 

一応注釈的な事を述べておくが、僕は自分が偽善者であることを否定するつもりなど更々無い。

 

寧ろ、偽善しか歌えない自分を憎悪している。

 

でも、世の中に目を向けてみれば、僕以上の偽善者というのが数多く蔓延っている。

 

残念ながら、それが現状だ。

 

 

 

考えに耽る僕など気にも留めず、自分は正義の味方だ、と言わんばかりの嫌らしい笑みを貼り付けて、担任が一人の生徒に問う。

 

 

 

「――さん、貴女は自殺を減らす為に何をすればいいと思いますか?」

 

 

 

 

✴︎

 

 

 

 

この『道徳』と銘打った授業とも呼べない様な授業は、生憎2時間続き。

 

何だかんだ思考の渦に飛び込んでいるうち、気づけば1時間が過ぎ去っていて。

 

白けた教室を埋め尽くす、喧騒、喧騒、喧騒。

 

その合間を縫って、僕の耳に届いてきた会話があった。

 

 

「唯、ズル休みしてるんだって」

 

「え?やっぱり?」

 

「けど、あんな奴居ない方が楽しいじゃん。あっちから来ないでくれてるんだから、寧ろありがとうって感じ」

 

「マジそれな。共感しかない」

 

 

 

彼女達は、僕達のクラスの中でも一番目立つグループだ。

 

無論、悪目立ちしているのだが。

 

そんな集団が話題にしているのは、数日前から欠席している、一人の少女のこと。

 

名前は、唯。

 

穏やかで、優しくて、賢くて、自分なりの価値観を持っていて、善悪の判断も出来て。

 

人間として、素晴らしい女の子だ。

 

実は、そんな彼女と、僕は親交があった。

 

しかし、僕から見れば眩しく輝いている彼女は、何故だか一部の女子達から目の敵にされていた。

 

理由なんて、考えずとも分かる。

 

彼女が完璧すぎる故の、嫉妬。

 

所謂嫉視が、唯が孤立する原因をつくった。

 

それからというもの、彼女は何もせずとも暴言を浴びせられる存在になってしまった。

 

最初は、まだよかった。

 

二、三人がチクチクと妬みを込めた視線を向け、本人に時々嫌味をぶつける。

 

そんな、虐めと呼ぶには生温い行為に過ぎなかったから。

 

だが、日が経つにつれ、唯を格好の的とする人間は増えていった。

 

 

……これは僕の偏見かも知れないが、敢えて言葉として紡ぐ事にする。

 

人間は、カメレオンだ。

 

互いに感化され合って生きないと気が済まない、醜い生き物。

 

少し人より多く権力を持つ誰かが、何か信号を発する。

 

それに呼応して、周囲の取り巻きが権力者に倣い、その取り巻きに加わる弱者が雪だるま式に増えていく。

 

その影響の及ぼし合いは、引っ切り無しに周囲に応じて体の色を変えるカメレオンさながらで、僕は密かに人間をそう呼んでいる。

 

そして、僕のクラスメイト達も例に漏れず、カメレオンだった。

 

一人だけカメレオンになり得なかった唯は、彼女達の餌食としてロックオンされた。

 

人間は、本当に醜い。

 

おそろコーデなるものを好む人々は、まるでファッションの一環のように、誰かを嫌う。

 

特定の人物を嫌っているという共通項を持つ人間が集まり、我が物顔で狭苦しいコミュニティーを占拠するのだ――。




カンザキイオリさんの楽曲「命に嫌われている。」に以前から感銘を受けており、

自分なりに小説にしてみたい…と思った結果、

このような形で書き綴る事にしました。

原曲が、題名の通り「命」についてを歌った楽曲ですので、

当作品も相当ダークな感じになるとは思いますが、

これからもお付き合い頂けると幸いです…‼(*⁰▿⁰*)

それでは。
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