元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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あしからず。(ここまで定型文)


あまり重要じゃない話は長々と書くくせに
重要な話は軽々と終わらせてしまう癖があることに気づいた(これは不定型文)


第十四話 あなたに寄り添えなかったこと

予想はしていた。

自分を捕まえるというこの企みに、アリスだけが行動してユージオが何もしないとは、逆に考えにくい。

雨涵が驚いたのは…先ほどの殺気を発したのが、目の前のユージオだという事実。

いくら実戦経験が皆無な雨涵と言えど、発する気配の分別はつく。

 

あれは、間違いなく殺気。そしてそれは、心優しすぎるユージオには最も縁遠いものだと思っていた。

 

全くもって、先ほど感じた殺気は不可解だったが…それを考えなくても、今目の前に立つユージオがいかに固い決意を持って目の前に立ち塞がっているかは、一目瞭然であった。

雨涵を見据えるその顔からは、悲壮なる想いが見え隠れしていたが、それでいて握り締めている刀の先はしっかりと、彼女を捉えていた。かつては例え練習でも刀を仲間に向けることを頑として拒んでいた、あのユージオが。

 

 

 

雨涵は、先ほど感じた不可解な殺気のことを一度頭から追い払い…目の前のクラスメイトを見据えた。その目にしっかりと”敵意”を宿しながら。

 

 

 

 

「……雨涵」

 

 

カラカラの喉でユージオがクラスメイトの名を呼ぶのと、彼女の体がゆらりと揺れたのが、同時だった。

雨涵の体が低い体勢になったと思いきや…勢いよくユージオの方へ向けて突進してきたのだ。

 

 

ユージオが驚きに目を見張るより早く…彼の体が反射的に動いた。ユージオのそばを突破しようとした雨涵の体を遮るように、刀を横向きに薙ぎ払った。このままぶつかれば、雨涵の体に大きな切り傷が残ることになるが…彼女は突進のスピードを緩めることはなかった。

 

 

 

代わりに、雨涵が刀と接触する直前…その体が捻られた。

 

 

 

 

キィン! という金属音が鳴り響いた。予想外の彼女の動きに、ユージオが戸惑いを露わにする。

彼女は刀と接触する直前に背中を向け、その背に背負われた浅打を盾にして刃を防いだのだ。

 

 

その行動にユージオはどう対応すべきか、悩む暇すら与えないかのように雨涵はそのまま思いっきり背中側に体を回転させ、背負った浅打と鍔迫り合い状態だったユージオを弾き飛ばした。背中を使った衝突の勢いはそれほど大したことはないため、すぐに体勢を立て直したが…その後、雨涵の様子をみたユージオは目を見張った。

 

 

 

 

さっきまで彼女の背中にあった浅打はいつの間にか…彼女の左腕にあった。

だが…ユージオと同じように柄を握って構えていた訳ではない。

 

 

 

 

 

いつの間にか彼女の浅打は、幾十もの紐によって左腕に()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

一見すると、全くもって異様なる姿。

だがユージオは、鞘に収まったままの浅打を左腕に括りつけたその姿を見て、ユージオは一つ思い出すことがある。

 

 

 

 

 

 

 

今までユージオが真央図書館から借りて見た何十冊の本。瀞霊廷で出版された本が大半だが、中には現世から取り寄せられた本もあった。その中で彼が思い出したのは『武器の歴史大図鑑』のとある1ページ。そこに載っていた打突武器兼防具…『トンファー』の項目を、雨涵の姿を見て思い起こしたのだ。あれは両腕につける武器ではあるが、今片腕だけに装備している雨涵も同じような使い方をするであろうことは容易に想像できる。

 

 

そう、トラウマにより斬魄刀を握れない雨涵は…浅打を左腕に身にまとい、打突武器として扱うことを選んだのだ。

 

 

 

 

左腕の手首部分にちょうど刀の鍔が接するように括りつけられたその浅打を、雨涵は構えた。

もう、逃げる様子は微塵も見られない。ただ、目の前の”敵”を排除すべく戦闘態勢に入った。

 

 

そんな雨涵の意志の固さは当然汲み取れているはずなのだが…ユージオはなお、辛そうに歯を食いしばった。

だがそれでいて…体だけはしっかりと、戦いを迎え撃つ体勢をとっていた。

 

 

 

 

 

 

二人の体が、同時に足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの最中、雨涵はすぐに違和感を覚えた。

 

 

 

 

そもそもの話、雨涵はユージオに勝てる気で戦ってはいなかった。

いや──実際、彼女は勝ちたかったのだが…何せ、彼女は無傷ではない。先程の自爆の影響で彼女の体の節々が痛み、思った以上に体が動かないことはすぐに自覚できた。対してユージオは万全の状態。抜群の剣の才能を持つユージオに対抗するために考えついたこの浅打の使い方をもってしても、条件が悪すぎる…と思っていたのだが。

 

 

ユージオの刀は、一向に雨涵の体を切り裂かないのだ。

 

 

切り裂ける瞬間がないほど隙のない動きを雨涵がしてる…という訳ではない。前述したように、雨涵の体は万全に動けない。いつもの具合で動けば防げるのに、痛みで思ったように動けない瞬間が何回もあった。その隙をついて雨涵を斬りつけることなど、ユージオの腕なら造作もないことであるはずなのに。

 

少しだけその瞬間を意識して戦っているうちに、その違和感の理由はすぐに知れた。ユージオが隙をついて刀を振るっても、雨涵の体に触れる直前に引き止めているのだ。ハナから雨涵を斬る気がないのか、それとも斬ろうと思っても無意識に止まってしまうのか──彼の細かな心情までは知る由もないが、雨涵が戦いを続けていられるのは、そんな彼の心情に救われているとも言える。

 

とはいえ、容易に勝てる相手ではない。確かに彼は雨涵を斬ることはないが、その分防御は本気だ。雨涵の白打も刀の峰で受け止め、左腕につけられた浅打の柄部分を使って殴打しようとしても、それも斬魄刀の刃で防がれる。その卓越した刀捌きはやはり本物だと、思う。

 

 

だが…雨涵がどの書物にもどの家系にも載っていない独自の戦い方を身につけたのは……ユージオの剣術を、打ち破りたいと願ったが故。あの時は、このような形で戦うことになるとは夢にも思っていなかったが。

 

 

雨涵の体が思うように動かないというハンデと同時に、ユージオの方も攻撃の躊躇いというハンデがある。

同等のハンデとは言い難いだろうが……

 

 

チャンスは、ある。

 

 

 

 

 

ユージオを倒すために予め考えていた動きの一つを、実行する時が来た。

 

 

 

 

 

 

あくまで、いつも通りユージオを攻撃するように()()()

ユージオが刀を使って防ぎに行く時…その時が意表を突くチャンス。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、雨涵は攻撃の動きを止め……刀を自ら受けに行く。

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

 

 

ユージオの刀が、雨涵の院生服の右袖部分を貫いた。

そしてそのまま雨涵の右手が、峰の側からユージオの斬魄刀を引っ掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

峰から刀の側面を掴んだ故に、彼女の手に傷はつかない。

袖に突き刺さった刀を手元に戻すためには、刀を引くか、横に袖ごと切り払うかしかないが、それを雨涵が刀身を掴んで防いでいる。

一瞬硬直したユージオの隙をついて、グイと掴んだ刀を引っ張ってユージオの体勢を崩す。前のめりに倒れかけたユージオの体の動きに合わせて、左腕を構え……

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の浅打の柄の先端部分が、ユージオの顎を殴打した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の勢いで、ユージオの刀は雨涵の拘束から逃れられた。だが、顎を金属の柄で殴打された衝撃はそう軽いものではない。斬魄刀こそ辛うじて手離してはいないようだが、雨涵に右後背を無防備に晒し、倒れまいと左足を踏ん張っているようであった。

 

 

この瞬間、雨涵の脳裏に二つの選択肢が浮かんだ。

逃走か、それとも追撃か。

 

 

正直、今は追撃する絶好のチャンスではあるが…雨涵は無駄にユージオを打ち据えたい訳ではない。あくまでも、クラスメイト達から離れたくて、顔を合わせたくなくて…逃げているのだ。あの様子ならば、ちょっとの間足止めできる。その間、できるだけ距離を離して逃げるのだ。…もし再び戦うことになれば、雨涵が不利なことに変わりはないのだから。

 

 

結論は出た。雨涵は未だまともに動けそうにないユージオの側を通り抜けて逃走を図ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその瞬間。

雨涵はありえないものを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼道の詠唱も霊圧も、全く感じなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオの体の向こうから、緋色の閃光が迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

側を通り過ぎようとした雨涵に向けて、ユージオの体が反時計回りに猛然と回転した。

左から、赤い光の軌跡を引く水平斬りが迫る。

 

 

その方向が幸いし、咄嗟の状況でもなんとか左腕の浅打を辛うじて防御に回す動きはできたが…その勢いたるや、凄まじいものであった。今まで交えてきたユージオの剣撃とはレベルが違う。浅打ごしに受け止めても、左腕が強い痺れに襲われ…雨涵の体が大きくのけ反った。

 

咄嗟のことであっても、なんとか歯を食いしばって踏ん張りきった雨涵だったが…即座の追撃のためか、ユージオの斬魄刀がすぐさま振りかぶられた。ただでさえ体が思うように動かないのに、先ほどの赤き剣撃のせいで刀の防御のための左腕は痺れきって、しまっている。

 

雨涵は咄嗟に、腕ではなく体を横向きに動かすことでせめて左腕の浅打を刀に向けようとするが…

 

 

ユージオの瞳が微かに細められ…その斬魄刀が雨涵の左腕に向かって振り下ろされた。

 

 

 

 

 

正確には、左腕とそこに括られている浅打……()()()()に。

 

 

「っ!?」

 

 

そこは、ほんの微かな……左腕と浅打の隙間に、繊細かつ一瞬で刃を滑り込ませることで…

左腕に浅打を固定していた糸を、ほぼ全て斬り去った。

 

 

 

そのままユージオの刀が横に払われると、残り微かな糸でブラブラと繋がっていた浅打が完全に雨涵の左腕と分離された。

そして、横に払った軌道のままユージオの刀が真上に振りかぶられ…一体何が起こっているのか全く見当もつかないが、その刀もまた()()()()()()()が纏い始めていた。

 

 

 

 

 

もはやその刃を防ぐ武器は、ユージオによって既に落とされてしまった。

だが…その気になれば避けるなり逃げるなり、雨涵に手が打てない訳ではなかったはずだ。

 

 

 

回避も逃走もせず、硬直したように体を動かさない雨涵が心揺さぶられていたのは、全く原理も不明に光るその斬魄刀ではなく。

このままでは確実に雨涵を斬り裂くであろう、刀の軌道でもなく。

 

 

 

 

 

 

 

体に槍を突き立てられるかのように、自分に向けられる純粋な”殺気”と、

その”殺気”を放つ…氷のように冷たい、ユージオの瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや雨涵に「避ける」だとか「防ぐ」だとかいう戦いの思考は残ってなかった。

 

 

 

 

───ユージオも、そういう顔ができるのだな。

 

 

 

 

雨涵は確信した。戦う前に感じた殺気は、間違いなくユージオのものだと。

今まで見たことのない、冷酷に刀を振りかぶる彼を、雨涵はただ受け入れていた。このままだと、自分が地面に倒れるより早く彼の斬魄刀が自分を斬り裂くだろう。だけど、それでもいいと雨涵は感じた。

 

 

既に自分は、二人のクラスメイトから離れた場所にいる。

あの二人はそれを隠して、いつも通りに接し続けるつもりだったのだろう。

 

だけど…その事実を知ってしまえば、雨涵は孤独となる。

上辺はいつも通りでも、その裏で自分は除け者であるという事実が、雨涵を苦しめるのだ。

 

 

 

 

───ならば、今受けてる殺意の方が、まだ心地いい。

───私が二人にとっても邪魔者だというのならば、ここで斬り殺されるとしても、いい。

 

 

 

 

自分はなんて贅沢なんだろう、と思った。

上辺だけの友達という存在にすら…絶望してしまうなんて。

偽り続けられるくらいなら、拒絶されて死んだ方が良いだなんて、思えてしまうとは。

 

 

 

 

 

 

ずっと、みんなと同じ関係でいたいだなんて、自分には過ぎた願いだったのだろう。

自分がここで斬り殺されることは、”人殺し”として当然の報いなのだ。

 

 

 

 

雨涵は目を閉じて、訪れて然るべき時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どさり、と雨涵の体が地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

ただ…感じるのは、地面にぶつかった時の衝撃による痛みだけ。

体が斬り裂かれる感覚は、いつまで経っても訪れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち…が……う」

 

 

 

酷く苦しそうなクラスメイトの声が、雨涵の頭上から降ってきた。

雨涵が少しばかり戸惑いながら目を開けて上半身を起こすと…信じ難い光景を目にした。

 

 

 

 

ユージオの右手の斬魄刀は、先程まで雨涵がいた場所を斬り裂かんとしているまま…止まっていた。

なぜなら…ユージオの左手が、()()()()()いたからだ。

 

 

 

「やめ、て……違う…僕、は……」

 

 

 

剣閃を無理矢理引き止めたらしい左手から、血を流し続けるユージオ。その姿からは、先ほどの突き刺すような殺気も、氷のような冷たさも、何も感じなかった。先ほどがまるで別人であったかのように…今の彼は、いつも通りだった。ただ、酷く辛そうにしていること以外は。その辛さは、左手の痛みからきているものではなかった。

 

 

「こんな形で、雨涵を傷つけるなんて…絶対に、嫌だ!」

 

「僕は、ただ……雨涵に、苦しんで欲しくなかった……」

 

 

「雨涵と、アリスと……みんなで、また、笑い合いたいんだ……!」

 

 

「っ…!」

 

 

 

 

ガチャン、とユージオの右手から血の滴る斬魄刀が滑り落ち…同時にユージオの体が崩れ落ちた。

ついた膝のところに小さくできた血溜まりに、ユージオの瞳から流れる涙が波紋を作った。そうして滲んだ瞳のまま、ユージオは雨涵に掠れた声をかけた。

 

 

 

「…お願い、雨涵……話して、欲しい…」

 

「僕は…馬鹿だから、さ。分からないんだ……雨涵が僕らから離れていってしまった……一体何を、僕らが、してしまった、のか」

 

「…なんだって、するから。雨涵が、また、笑えるようになる…なら、僕は…なんだってするから…!」

 

 

 

 

 

「もう一度………僕たちを…君の隣に、立たせて欲しい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨涵は、もはや抵抗も逃走もすることはなかった。

ただ…ぼんやりと、涙に濡れるユージオの顔と血に濡れた彼の左手を見ながら、魂の抜けたように座り込んでいた。

 

 

 

 

 

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程なくして、アリスも追いついてきた。

二人して座り込んで黙りこくる雨涵とユージオの状況については少しばかり驚いたようだが、経緯を察したのか説明を求めるようなことはなかった。ただ、雨涵の体のあちこちに散見する火傷とユージオの左手の怪我を確認して、救護詰所へ言ったほうがいいとは口にした。だが未だ座り込んだまま動かない雨涵と、その姿を一瞥したユージオは静かに首を横に振った。

 

アリスは一瞬戸惑ったようだが、火傷はどうにもできなくてもユージオの手の怪我だけでも...とすぐに背中の斬魄刀を抜き自らの院生服の袖の一部を切り裂いた。そして分離した布を包帯状に加工してユージオの左手に巻いて止血していく。その間でも、雨涵の方が気になっているかのように度々視線を向けていたが、雨涵はまだ口も体も一切動く様子がなかった。アリスがユージオの左手に布を巻き終えても、なお。

 

それでも、ユージオとアリスは言葉をかけることなく、ただ静かに待った。最初は無理矢理にでも問い詰めるという方針を固めていた二人だったが、いざ目の前になると…かける言葉も、問い詰めるための言葉も見つからない。更に言うならば、ジッと雨涵を見つめるのもまた……気まずいというべきか。

 

雨涵も、ボーッと座り込んでいるが……時折視線が二人の方を向いたかと思うと…すぐに下へ逸らされる。完全に魂が抜けたようになっている訳ではないようだ。無論、元々魂魄である彼女にとってはあくまで喩えに過ぎないが。

 

 

 

三人の院生が、道端に黙って座り込み……ゆうに三十分が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『分からない』………だと?」

 

 

 

なんの前触れもなく、低く掠れた声がこの場に響いて、ユージオとアリスはハッと顔を挙げた。

 

 

 

 

「本気で…心当たりがないとでも……言う気なのか」

 

 

 

それは、五日ぶりに聞く雨涵の声。憔悴しきって枯れたその声を聞いて…二人は懐かしさを感じることなどできなかった。

それに…彼女の言うこと、それ自体に理解が及ばなかった。

 

 

 

「……なんで、二人は……私に構うんだ…」

 

「な、なんでって…そんなの…!」

 

 

 

 

「二人にとって…私は邪魔なのだろう。私が離れれば、それで…」

 

 

 

 

「「そんなことないっ!!」」

 

 

 

 

ユージオとアリスの大きな声が、同時に雨涵の声を遮ってシンクロする。

 

 

 

「そんなこと……そんなこと、一度だって思ったことないよ!」

 

「そうよ! 私にとってはまだ短い間だったけど…それでも、ずっと三人で一緒に学んで、過ごしていきたいと思ってる!雨涵もユージオも、誰も邪魔だなんて絶対に思わないわ!」

 

「……」

 

 

二人が決死で伝える本物の意志を聞いても、なお雨涵の瞳は揺らぐことなくただぼーっと冷めていた。雨涵がそのように思っていたならば、確かに突然距離を置き始めたというのも納得がいくが…そもそもそれ以前のところが納得いかない。なぜ…雨涵はそんな勘違いをしたのか。二人はそんな素振りどころか、言葉通り一片たりともそんな気持ちを持ったことすらないというのに。

 

 

また数分間、ぼーっと視線を彷徨わせていた雨涵は…ポツリと呟いた。

 

 

「……私が邪魔だから…二人だけで、会っていたのだろう………夜な夜な」

 

 

 

 

「よ、な…」

 

「よな?」

 

 

全く予想外の言葉が最後に聞こえ、ユージオとアリスは思わず喉の奥からトーンの違う声を出して互いに顔を見つめ合ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が邪魔だから……私に内緒で夜に出会っていたのだろう。私は、二人が()()()()()()()ところまで覗いてしまった……のだが…まさか、本当に…気付いていなかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「えええええええええええええ!!!!!?????」」


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