元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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お知らせ① 次回更新の際、当小説のタイトルが数文字変更になります。
お知らせ② 次々回更新の際、活動報告にキャラクター紹介を載っけます。

(本来であればタイトル変更は今話で行う予定でしたが、内容分割に伴い変更になりました)


第十八話 Mission complete

夢を、見ていた。

初めてだった。悪夢でない、夢を見たのは。

全く記憶にない光景の、夢を見たのは。

 

 

 

ユージオが夢の中で見たのは、誰かの後ろ姿。しかし、誰だか分からない。

 

 

身長は現在十一歳のユージオより明らかに高い。十七、八くらいの青年に見える。

だが、年のことなどどうでもよいくらい、気にかかることが二つある。

 

 

一つは、彼の髪色が…ユージオと全く同じ質感の亜麻色であったこと。心なしか、髪型もよく似ているように思える。

そしてもう一つは…彼が見に纏う、青みがかった銀色の重装鎧であった。

 

まさしく、それはユージオが小説の世界で憧れてきた『騎士』の鎧姿。後ろから微かに見える鉄靴や脛当て。腰に刺している、鎧と同じ色の鞘に包まれた剣。実際に役に立つのかはともかく、濃い青色のカッコいいマントも、全部ユージオの理想とする騎士の姿に間違いない。

 

 

夢の中でありながら、ちょっとだけ感動したユージオはその騎士に向かって歩み寄ろうとした。

 

 

しかし…前に進まない。まるで、ただ網膜に映された絵を認識しているだけのようだ。目の前の騎士を前にして、ただ見てるだけ。近づくことも、遠のくことも、顔を見るために正面へ回り込むことも当然できない。

 

ユージオは動かない体で一頻(ひとしき)りもがいた後、次に言葉を発した。

 

 

「あの……! そこの騎士さん!」

 

 

声は出た。しかし、返事はない。

青の騎士は相変わらずユージオに、背を向けたまま彫像のように動こうとしない。

 

 

ユージオはその騎士に近づくために、またも体を動かそうと試みた。

 

 

 

すると突然、体全体が縦に回転するかのような感覚が、彼を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景色が一転する。

ぼんやりした意識で目に映っているのは、見慣れた天井。つまり、霊術院寮の自分の部屋の天井だ。

ベッドで寝ていたならば、天井が目に映るのは当たり前ではあるのだが…自分の背中側から感じる感触は、硬く冷たい床のものだ。

 

そこまで認識してようやく、自分がさっきまでの夢から覚めたのだと気付いた。だが、自分が床に寝ているのはどういうことだろうか。そんな疑問を持てるほどには意識がはっきりしてきた時、自分の視界にヌッと他の人の顔が姿を現した。

 

 

「あ、ゆい…」

 

 

覗き込むような形で姿を現した自分のクラスメイトの名前を呼ぼうとした瞬間、口を手で塞がれるユージオ。一瞬、もがもがと抵抗するが、何やら目の前で切羽詰まった様子の雨涵が口に人差し指を当てて「しーっ」のジェスチャーをしたものだから、ユージオも大人しく口の抵抗をやめた。

 

動きを止めたユージオの目の前で、雨涵はさらにジェスチャーを行なった。人差し指と親指で円を作り、目元に持っていく。

 

 

 

 

 

 

み つ け た

 

 

 

 

 

そのジェスチャーが意味することを知ったユージオの脳は、一気に九割近くまで覚醒した。そう、先ほどまでのジェスチャーは全て予め三人の間で決められていたハンドサイン。そして、このハンドサインが実際に使われる時と言えば…あの作戦の実行の時を除いて他にない。

 

ユージオは最大限の警戒心と注意力を持って起き上がり、寝巻き姿のまま斬魄刀を手に取り…鞘から抜き放つ。そして雨涵と共に慎重に部屋から出る。ちなみに彼女もまた、左腕に浅打を括りつけた戦闘の体勢になっている。

 

二人が廊下に出ると、とあるドアの前に張り付いている一人分の影がある。光のない暗い廊下で顔が見えなくとも、あれが誰なのかユージオにも一瞬で分かる。抜き身の刀を手に、鍵穴を見つめる彼女─アリスは微動だにしない。ユージオ達が近づき、肩をトントンと叩いたことでようやく首を動かしてこちらを向いた。

 

だが、お互いに言葉は決して発さない。いつものポニーテールではなく、無造作に揺れるストレートヘアの状態のアリスはそのまま横にスライドしてドアの前を開ける。そしてそこには代わりにユージオが座り込み、さっきアリスがやっていたのと同じように鍵穴を覗き込む。

 

 

真っ暗な部屋の中なため、最初はシルエットのような人影にしか認識できなかったが、また一瞬だけ部屋に月光がチラついたその瞬間に、ユージオの目がその人影をしっかりと捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

その時の奇妙な気持ちは、なんて表現したらいいだろうか……分からない。

自分と同じ顔をした人物が、自分のよく知るクラスメイトと同じ顔をした人物と何やら言葉を交わしている、その様を。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが…驚き硬直するユージオが、少しばかり気を取り直すと……彼の脳裏にとある疑問が思い浮かぶ。なぜかドアの向こうにいるユージオとアリスの偽者は…身長が明らかにユージオ達より高いのだ。

現在十一歳のユージオに対し、ドアの向こうのあの二人は十七、八くらいの青年姿に見える。”偽者”と称するには明らかに不自然だ。先程『自分と同じ顔』とは称したが、よくよく見てみれば、向こうにいるあの”ユージオ”は、自分よりもどこか大人びた顔に見える。

 

 

そのまま心を奪われていると、今度は自分の肩をトントンと叩かれる感触を覚え、ようやくユージオは再び気を取り戻し、ドアから体を離した。そして、雨涵とアリス…二人のクラスメイトと顔を見合わせた。

 

 

 

顔を見合わせた三人は互いに頷き合うと…バッと同時にハンドサインを出し合った。人差し指、中指、薬指の三つを立てるサイン。それを互いに確認すると、雨涵だけが廊下を通って外へ向かって慎重に駆け出した。

 

 

 

 

 

今のハンドサインは『30秒後』という合図。

これから30秒後、ユージオ&アリスの偽者捕獲大作戦が決行される。

 

 

 

 

 

 

雨涵が向かう先は、今偽者達がいる部屋の外…ちょうど部屋の窓がある位置だ。

ユージオは、ドアノブの近くに寄って斬魄刀を握りしめつつ、呼吸を整えている。

アリスはひたすらに集中して、手元の霊圧を練っている。

 

 

 

何度も練り直した作戦。繰り返したリハーサル。睡眠時間を削って何日も行なった張り込み。

全てはこの瞬間のため。絶対に、奴らを捕まえる。

 

 

 

 

(……あと、10秒)

 

 

 

 

 

 

 

 

 8

 

  7 

 

   6

 

    5

 

 

 

 

 

 

    4…

 

  3……

 

 

 2………

 

 

 

 

1…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縛道の二十一  赤煙遁!

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン、という軽い爆発音と共に、ドアの向こうから赤い煙が発生した。

ドアの隙間から、ユージオ達のいる廊下まで煙が流れてくる。

 

 

 

 

作戦、開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスが行なったのは、二十一番の縛道である赤煙遁。だが、アリスが行うそれはただの縛道ではない。アリスは赤煙遁を()()()()()、しかも通常は手元から煙を放つ鬼道を、ドアを隔てた向こう側へ赤煙を発生させたのだ。30秒間しっかり霊圧を練る時間があったとはいえ、ここまで器用な真似はユージオも雨涵も絶対にできないだろう。この辺の実力はやはり天性の才能の差とも言える。

 

それと同時に、ドアの向こうからドンドンドン!と激しい音が鳴り響いてくる。だが、この音は部屋の中の偽者達が発している音ではない。これも作戦のうち。この音を出しているのは、寮の外にいる雨涵だ。

 

 

部屋の中で突然鬼道の赤煙が発生したとなれば、中にいる奴らは当然敵襲だと思うだろう。その際、”敵”がどこから来るかは実質二択に絞られる。即ちユージオ達が今構えているドアか、雨涵が潜んでいる窓か。そして雨涵が壁を叩いて大きな音を出しているのは、「窓から敵が来る」と思わせるため。

 

 

 

(当然、本命は……こっちだ!)

 

 

 

ユージオは思いっきりドアノブを回し、アリスと共に部屋に転がり込んだ。

部屋に充満した赤煙はユージオ達の視界をも遮るが…その中でも、偽者達の影さえ見れれば…充分だった。

 

 

 

影を認識したユージオは……今まで何度も練習してきた鬼道を、その師でもあるアリスと同時に放った。

 

 

 

「「縛道の二十九! 布纏旋(ふてんせん)!!」」

 

 

 

二人の袖口から現れた白く長い布が、まるで生き物であるかのようにうねりながらまっすぐそれぞれの影に向かっていき、ターゲットとなった影の足元から螺旋のように巻きついていく。そしてその布を頼りにしながら、ユージオとアリスも突喊する。

 

 

 

 

影に向かって頭から体当たりする二人。その衝撃をまともに受けて、影はどうと倒れ込む。

 

そうして組み伏せたその影の上に乗る……いわゆる”マウントポジション”を取ったアリスとユージオは、手に持った抜身の斬魄刀を目の前の人物の首筋に突きつけて、一言。

 

 

 

 

 

 

「「動くな」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

努めて冷酷に放たれたその言葉を聞いた偽者……もとい、青年姿のユージオとアリスは、体全体を白い布で螺旋上に巻かれている故に動けず、布の先が二人の口をも拘束して猿轡のようにしているために喋ることもままならず……ただただその瞳に驚愕の感情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ユージオ&アリスの偽者捕獲大作戦は成功に終わった。不気味なくらいに、全てがうまくいったのだ。

偽者は、一切の抵抗をしなかった。今もこうして、アリスとユージオが刀を首筋に当て、いつでもかっさばけるような状態であるにもかかわらず、青年姿のアリスとユージオの瞳に恐怖の感情は一切見受けられない。ただずっと驚いて混乱しているばかり、だ。

 

 

鍵がかかっていなかった窓を外から開けて赤煙を換気しつつ、部屋に入ってきた雨涵もまた、その光景を見て少しばかり目を見張っていた。とりあえず青年の偽者二人に抵抗の様子がないことを確認した院生二人は、上に乗っかる体勢をやめてグルグル巻きにした偽者二人を壁に寄りかからせて座らせる体勢に動かした。もちろんその間、斬魄刀の刃は首筋から動かさなかった。動かし終えた頃には赤煙もすっかり消え去り、雨涵が電気をつけるとそれぞれお互いの姿がよく見えるようになった。

 

 

 

「……ねえ、雨涵。君が見た二人って…」

 

「…いや、少なくとも…このような大人の姿では…なかったな」

 

 

 

念願の偽者を捕らえては見たものの、院生三人も困惑を深めていた。雨涵が目撃したというクラスメイトの偽者と、今こうして捕らえている青年姿の偽者が同一人物かという確信すら持てない。斬魄刀の刃を突きつけたまま、興味深そうに青年姿の自分を見つめていたアリスは、続いて偽者が着ている服装に着目した。

 

 

 

「…この人が来ている服。私が尸魂界に来た時に来ていた服とほとんど、いや、全く一緒に思えるわ…」

 

「本当か? アリス」

 

「ええ…流石に、サイズは違うけれども」

 

「……言われてみれば、僕も…」

 

 

 

同じく斬魄刀の刃を動かさぬまま、ユージオは目の前の偽者の服装を観察する。白い布で大半は隠れているが、それは少なくとも瀞霊廷では一般的には流行していない服装であった。どこか素朴な感じのある荒い目の半袖シャツを上着として、中は長袖のもの。そしてちょっと薄い黒の色をしたズボン。そして履いている革の靴までもが自分の記憶にあるものと一致している。というか寮の部屋は土足厳禁なのに。

 

シャツにズボンに革の靴。そして、お隣の青年アリスは鮮やかな青のスカート。これらは全部瀞霊廷ではまず見られない服装。これが一般的に流通している場所といえば『現世』を置いて他にはない、と院生三人は思った。もちろん、院生達にとっては、シャツやズボン、スカートや靴が現世では一般的であるという教科書の知識を元にしているだけで、実際に現世を知った上で思っている訳ではないのだが。

 

 

 

「…で、この人達は……『霊骸』だと思うか? ユージオ」

 

「……違う、と思う。僕が読んだあの本によると、『霊骸』っていうのは一見じゃ分からないほど、本人と霊圧が瓜二つになるって載ってたけど…この人達の霊圧は、僕達と何か違う気がする…」

 

「…そうね。すっごく似てはいると思うけど、同じかって言われると……違うわよね。でも…この人達が霊骸じゃなかったとしたら…一体、何者なのよ?」

 

「………」

 

 

 

『霊骸』か『二重人格』か。事前の会議では、偽者の候補をこの二つに絞っていた。だが、そのどちらも外れとなってしまった。ユージオ達とその偽者たちが同時に存在している以上、二重人格説は破綻。霊骸説も霊圧の絶妙なズレから破綻も同然である。いや、仮に霊圧の問題を置いとくにしても未解決問題が山積みだ。

 

 

この偽者達はなぜ青年の姿をしているのか?

なぜ瀞霊廷ではモロに目立つであろう現世の服を着ているのか?

何日張り込みを続けても発見できなかったのに、なぜ今になって現れたのか?

この二人の青年は院生寮のあの部屋で何をやっていたのか?

自分達にこうして襲われているのにも関わらず、なぜ一切の抵抗をしないのか?

いや、そもそも雨涵が見かけたという互いにキスをしていた偽者と、今こうしてひっ捕らえた目の前の偽者は同一人物なのか?

 

 

…全ての疑問は、暗礁に乗り上げる形となってしまった。

だが…いや、全てを明らかにする方法なら、一つある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり……この人達を、直接尋問するしかないようだな」

 

 

 

相変わらず一切抵抗せず、大人しく縛られたままの青年二人を見下ろしながら、雨涵は呟いた。そして、その青年と同じ顔のクラスメイト二人に視線を送る。視線を受けたアリスとユージオは、意を決したように頷くと、それぞれ目の前の偽者に近く歩み寄った。

 

 

 

「妙な術を唱えようとしたら、その舌を根元から斬り飛ばす」

 

 

 

刃を、より近く目の前の青年に近づかせながらユージオは彼の耳に呟いた。

最初にとっ捕まえた時と同じように努めて低く冷たい声を出したつもりではあったが、相変わらず自分と同じ顔をした目の前の青年は少しの恐怖も見受けられない。自分みたいな子供が脅し文句を言ったところで効果がないということだろうか。ユージオは表情にこそ出さなかったが、ちょっと落ち込んだ。事実、「舌を根元から斬り飛ばす」なんてこと、ユージオはできる自信はなかった。心情的にも、技術的にも。実を言うと、このセリフも小説から拝借したものだ。冷酷な味方が、敵を尋問する時の常套句である。

 

 

 

 

 

そうしてユージオとアリスはほぼ同じタイミングで、目の前の青年の口周りを覆う布だけを的確に切断した。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、少しばかり息苦しかったらしい青年のユージオとアリスは

全く同じタイミングで「ぷはーっ!」と思いっきり呼吸した。

 

 

 




小説を書くにあたってやっと知った豆知識。
“青年”という言葉は男女両方を指す言葉であり、少年少女とは毛色が違う。
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