元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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お知らせ①:小説タイトル変更しました。
これからも「元人工フラクトライト達と二人の死神物語」をよろしくお願いします。

お知らせ②:タイトル変更記念として、正午に投稿してみました。

お知らせ③:なんとなく、より話を細分化するために新たに章を追加して区分してみました。

お知らせ④:次回更新の際、当小説におけるキャラクター紹介を活動報告に載っけます。


第十九話 Eugeo and Eugeo Alice and Alice

「もう! 一体何なのよ! 急にこんなグルグル巻きにして!」

 

 

青年アリスの口から出た第一声は、突然の仕打ちに対する抗議だった。…確かに、突然こんな風に拘束されれば文句を言いたくなる気持ちは分かるが…とても、首筋に刃を突きつけられている者のセリフとは思えない。予想外のセリフに、霊術院生の雨涵とユージオは呆気にとられた。だからと言って特に何かのセリフを予想していた訳ではないが、とにかくこの非一般的な状況において一般的な抗議の言葉を受けるとは思わなかった。

 

 

「『何なのよ』って…それはこっちのセリフ!全く、あなた達のせいでとんだ迷惑を被ったんだから!」

 

 

一方の霊術院生アリスは強気だ。自分と同じ顔立ちの青年に対し、キッと鋭い視線を向けている。その光景を見た雨涵は失礼ながら、鏡を見た猫がそこに映る自分の姿に対して威嚇する様子を思い出した。

 

 

「…え? めい…わく?」

 

 

そして呆けたように疑問の声をあげたのは、青年姿のユージオであった。オロオロとした様子で隣の青年アリスに対して視線を送っているが、当の青年アリスは「し…知らないわよ! 私は全く何も…」と、首をブンブンを振って否定した。だがその様子が院生アリスの何かを刺激したのか、彼女の表情がより険しくなる。

 

 

「あのねえ! この院生寮に無断で侵入して、いちゃついて、挙句キスまでしてんのが酷く迷惑って話なのよ! しかもよりにもよって私たちと同じ姿で!」

 

 

 

 

「…っっっっっっ!!!????」

 

「…え、あ、う、う、そ……な、な、なんで、それ、を…!?」

 

 

 

院生アリスがその決定的な一言を喋った瞬間、青年二人の様子が明らかに挙動不審になった。耳まで真っ赤に染まって視線は激しく泳ぎ始める。院生アリスが狙って言ったのか、それとも怒りに任せて口走ったのかは不明だが、これで疑問が一つ解消した。この青年ユージオ&アリスは、雨涵が見かけたのと同一人物だ。

 

 

「…本当に、やってたんだ」

 

 

そんな青年二人の様子から全てを察した院生ユージオは、どことなく冷ややかな目で目の前の青年を見つめた。正直、自分と同じ顔をした人物が、クラスメイトと同じ顔した人物とキスしたりしてたというのは、気分のいい話じゃない。自分の気分だけの話ならともかく、そのせいでかけがえのない友達と危うく決別するところだったのだ。そのことを思うと、よくなかった気分がさらに落ちこんでくる。一方、そんな目で見つめられた青年ユージオは、酷く気まずそうな表情になった。

 

 

「いや…あれは……アリスが急に……。その……どちらかといえば、禁忌目録があるかの確認のためだって…」

 

「……あなたの言ってる意味はよく分からないけど…とりあえず、アリスの言った通り…あなた達の行いに、僕らは本気で迷惑したんだ。…この際、全部喋ってもらうよ。あなた達のことを何もかも、ね」

 

 

院生ユージオの瞳が自然と鋭くなり、手に持った斬魄刀がカチャリと音がなる。より正確かつ近くの首筋に刃を当てたのだ。普段の優しく元気なユージオらしからぬ厳しく冷たい態度である。やはりあの騒動に発展する直接的な原因となった者に対し、思うところが強いのだろう。

 

そんな厳しい視線を受けている青年ユージオは、今までの見せていた恥ずかしさや焦りの表情を一度引っ込め……

 

 

「………………ゴメン」

 

 

思い通りに動かない体のまま、神妙な表情で頭を下げた。それを見た院生ユージオは、少しばかり手に握った斬魄刀が緩む感触を覚えてしまった。

 

 

「…僕らが一体何をやってしまったのか…まだ、よくは分からないけど…それでも、君の顔を見れば分かる。…その、すまないことを…してしまったって」

 

「っ…そんな、謝ったって……!」

 

 

 

 

「許されるか許されないか……それは一旦、置いておこう。ユージオ」

 

 

青年ユージオの言葉に反論しようとした院生ユージオの言葉を遮ったのは、今まで後ろに控えて観察していた雨涵だった。肩に手を置いて落ち着くように示唆された院生ユージオは、まだ思うところありそうな表情はしていたが、それをグッと堪えて唾を飲み込んだ。

 

その一方、雨涵が右に目を向けると、そこにはお互いムッとした顔で睨み合っているアリス×2がいた。さっきまで何か軽い口論をしていたのだろうか。何だかますます威嚇しあう猫っぽい、という感想は一旦置いといて、院生アリスの肩にも手を置いて一歩後ろに下がらせた。そして「ここは私に任せてほしい」と小さく呟いて、雨涵が代わりに一歩進んだ。それにより、青年のアリスとユージオの前に立った。

 

 

「…あー、ゴホン。ご挨拶が遅れたな。初めまして、私は雨涵(ユイハン)アリスとユージオ(このふたり)のクラスメイトだ。そして…あなた方二人のキスを偶然目撃してしまった、張本人でもある」

 

 

その言葉を聞いた青年二人の顔がまたもや少し赤くなる。キスをすること自体は恥ずかしがらないが見られることは恥ずかしいという、まだまだウブいカップルらしい。だが、雨涵は何もそのことをもう一度責めるつもりで言った訳ではない。

 

 

「アリスとユージオの言う通り、あなた方の行為のせいで、私たちの間で一悶着が起こったのは確かだ。だが、あのことは下手な勘違いをした私にも大きな責任がある。それに…あの出来事をきっかけとして、私達の間の絆は深く強まる結果となった。…悪いことばかりではなかったから、な」

 

 

今度は、雨涵の顔に少しだけ赤みがさす。『絆』という言葉は口に出すと思った以上に気恥ずかしい。それでも、院生三人の間で絆が深まったのは、決して誰も否定できない事実だ。雨涵の両隣にいるクラスメイトも、『絆』という言葉に深く頷いてくれた。

 

 

「あなた方のさっきの様子を見ていれば、私達の仲を裂くためにわざとキスしているところを見せつけた……という風な悪意があった訳じゃないのは、よく分かる。悪意のないあなた方を、こんな風に不意打ちで拘束したのは申し訳なく思っている…が」

 

 

雨涵はさらに一歩、青年達に近づいた。

 

 

「拘束を解くのは、全てを話し終わってからにしたい。即ち、あなた達は誰で、どこから来た、どういう存在なのか。…是非とも教えていただきたい。頼む」

 

 

厳粛な思いで頭を下げる雨涵を見て……二人の青年は少しばかりの困惑と悩みの表情で、互いに顔を見合わせた。

 

 

「…誰、どこから、どういう存在…か。難しいわね…」

 

「うん……実を言うと、さ。今の自分がどういう存在かって言われると…僕らも、その…よく分からないところがあってさ」

 

 

自分がどういう存在か、分からない。

そんなことを言われては、院生三人の方も困惑するしかない。だが、目の前の青年達からはごまかしとか嘘とか、そんな風にはとても思えない。

 

 

「それなら…『誰』で『どこから来た』かの自己紹介くらいなら、できるってことよね?」

 

「自己紹介………そういえば、まだしてなかったわね。それなら…」

 

 

院生アリスの問いに、青年のアリスがゆっくりと顔を上げた。そして、話すべき答えを整理するかのようにしばらく目を閉じた後に、朗々と語り始めた。

 

 

「…ゴホン。私の名前はアリス・ツーベルクよ。出身はルーリッドの村で、天職は…そうね、神聖術のお勉強ってことになるかしら。十歳の頃から一年間は村の教会に通って勉強してたんだけど…その、()()()()禁忌目録違反で整合騎士に央都まで連れてかれちゃって。そこから二年間はセントラル・カセドラルで修道女見習いってことになってたけど…そこから……ちょっと言いにくいんだけど、色々あって…ね? 私自身はしばらく天井に封じられてしまったのよ」

 

 

一息に語り終えた青年アリスは、ふうと息を吐いた。そしてそのアリスからチラリと視線を受けて、青年ユージオもまた、同じように自己紹介を始めることにした。

 

 

「あー、えーっと…僕の名前はユージオ。性はなくて…アリスと同じルーリッドの村の出身。天職は《巨樹の刻み手》…だったかな、正式な名前は。本当は僕の代だけで到底終わるはずはなかったんだけど…あいつのお陰であっさり切り倒すことができちゃったその後は…その、連れて行かれたアリスを助けるために、整合騎士になることを目指して旅をしてさ…。文字通りそこから色々あって、最後はノーランガルス帝立修剣学院で上級修剣士までにはなったけど、整合騎士には……いや、ちょっとだけ、なって()()()()のか、な…。こんな形にはなってしまったけど…それでも、アリスは救えた……と、思う。僕にもうちょっと力があれば…もっといい形で終われたのかもしれなかったけど、ね」

 

 

色々詰まるところはありながらも、なんとか長めの自己紹介を終えた青年ユージオはホッと安心したように脱力した。こうして、お望みどおり青年二人分の自己紹介は終わった訳だが…。

 

 

 

「…ね、ねえ。アリス。この二人の言ってること……分かった?」

 

「……いいえ、私も…名前以外は、何一つ分からないわ」

 

 

 

院生二人は、これまでにないほど困惑した表情で互いに顔を見合わせた。どれほど難しく書き綴られた教科書の説明文も必死に解き明かしてきたユージオ達をもってしても、まともに理解しようとすることも難しい自己紹介であった。

 

 

そしてそれは、雨涵も同じだった。彼ら二人の言葉は、どれもこれも尸魂界にいる間はまず聞くことはない言葉の数々。もちろん、何一つ意味が分からないものばかりだ。だが、意外にも根っからの理論派である雨涵は、今の自己紹介から推理できることがあると考えた。アリスとユージオが聞いたら、何一つ意味の分からない自己紹介をどうやって推理するのかとツッコムところであろうが、雨涵は『青年二人が意味の分からない自己紹介をする』という状況そのものをヒントにして推理をするのだ。

 

 

(確かに、この二人の言っていることの意味は分からない。

…いや、意味というより厳密には『単語』が、だな)

 

(それでも、何もかも分からない…という訳ではない。『村』『教会』『学院』…これだけ抜き出せば、意味は通る。だが…いずれも尸魂界では決して馴染みのない言葉であることは確か)

 

(この世界を構成する三界のうち、尸魂界に馴染みのない言葉となれば……普通に考えれば『現世』の言葉ということになる。残る虚圏(ウェコムンド)の可能性は…いや、流石に考えなくていいだろう)

 

(現世の言葉を使う、青年姿をしたもう一人のアリスとユージオ。……そういえば、私のクラスメイトであるアリスとユージオは現世出身なものの、その記憶をなくしていた……)

 

(…え、じゃあ……ま、さか……そういう…こと? いや、だって…そう考えるのが、一番…)

 

 

 

理論派雨涵が、ガチで思考の渦にはまってしまった時…瞬きすらも止まった完全硬直状態になる癖がある。だがそんな癖を知らないユージオは「どうしたの、雨涵?」と、固まってしまったクラスメイトに本気で心配そうな声をかけた。しかしそれでも雨涵は動かない。そこで院生アリスが目の前の青年アリスに刀を突きつけたまま、その刀の柄で雨涵の額を小突くという器用なことをしたお陰でようやく雨涵は現実世界に帰ってきた。

 

 

「……お二人に、後二つだけ質問がある」

 

 

現実世界に戻ってきた雨涵は、ゴホンと喉の調子を整えると、改めてクラスメイトと同じ姿の青年達に向き直った。彼女は「二つだけ」と前置きしたが、もしこの二人が雨涵の想定と違う回答をした場合、その前提は容易に崩れてしまう。だが…雨涵はその可能性を考えてなかった。根っからの理論派は、導き出した自分の結論に対して、過剰なまでの自信を持つ。何度も脳内で理論の見直しを繰り返したからこその、自信だ。

 

そんな真っ向からの視線を、同じように嘘偽りのない真っ直ぐな視線で受ける青年達。互いに視線が交差する中、雨涵の口がゆっくり動いた。

 

 

 

「二人は……生まれてから()()()()の記憶がある…そうだな?」

 

「……!」

 

 

雨涵の質問に、院生ユージオが微かに息をのみ、院生アリスは無言のまま少し目を見開いた。そして一方、雨涵の問いを受けた青年達は…コクリと頷いた。

 

 

「…うん」

 

「私は…死んだって言っていいのかは分からないけど……そうね。ユージオと一緒にここまで来たなら…死んだ、ということなんでしょうね」

 

 

自分は、死んだのだと。

そう肯定する二人の顔に、後悔や悲しみなどの負の感情は見られなかった。だが諦めともまた違う…ただそのまま『死』を事実として受け入れている、澄んだ表情だった。

 

 

そして、その答えもまた…雨涵の想定通り。

一つ頷いてみせた雨涵は、次の質問に映る前に青年二人に対して…手を伸ばし始めた。

 

 

「えっ…雨涵?」

 

 

院生アリスの背後からの疑問の声も気にすることなく、右手を青年アリスへ。左手を青年ユージオにそれぞれ伸ばす。迫り来る手に青年二人はピクリと一瞬だけ震えたが、特に顔をのけぞらせたりすることなく静かに佇んている。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、迫った雨涵の手がとうとう青年達の肌に………触れることは、なかった。

雨涵の手は、青年二人の肌をすり抜け、体の中に埋まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、あ、え、ええええ!?」

 

「え、ええっ!? 嘘っ!? どういうことなの!?」

 

 

院生二人が、オーバーなリアクションで叫んでどよめく。だが、オーバーになるのも仕方のないことかもしれない。自分たちの縛道で捕らえたはずの相手に、雨涵の手が何の抵抗もなく沈み込んだのだ。沈み込んだと言っても、ズブズブというような音すらも一切発さず、すり抜けるようにして埋まるだけ。しかも、手が埋まった状態の青年アリスとユージオは微塵も痛がる様子すらもない。

 

 

(…やはり)

 

 

驚きのあまり狼狽る院生達。他人の体が自分の体にめり込んでいる張本人にしては、いやに平然としている青年達。その四人の間で、雨涵は一人確信を深めていた。

 

 

そのままめり込んだ手をひらひらと動かした後、ようやく腕を曲げて手を引っ込めた雨涵は、最後の質問を繰り出した。

 

 

 

「お二人は…一体どこからこの院生寮に来たのか。その答えは、おそらく『ここから』ではないだろうか?」

 

 

 

そう言って、先ほどまでの両手を…今度は院生ユージオと院生アリスが持つ…()()()の上に手を置いた。

そして…また、青年二人は、ゆっくりと頷いてみせた。

 

 

 

「「………え?」」

 

 

 

一方の院生ユージオと院生アリスは、相変わらず置いてけぼりを喰らっていた。

一つ目の質問は…なぜ雨涵がそのような結論に至ったかはともかく、まだ理解ができる。目の前の青年達には、生きてから死ぬまで…即ち『人生』の記憶があると。

 

だが、二つ目に関してはさっぱりだ。なぜかクラスメイトの手が目の前に青年達の体に埋まったことすら理解が不能なのに、雨涵は斬魄刀に触れつつ「お二人はここから来た」と言われてもますますさっぱりになるばかりだ。

 

 

しかし流石にそのままクラスメイト二人を置いてけぼりにする雨涵ではなかった。呆然としているクラスメイト二人に向き直った雨涵は、胸に手を置いて色々と整理するようにゆっくりと呼吸した。

 

 

「えっと、だな。大体全てを理解した。このお二方が、どんな存在なのか」

 

「そうなの、雨涵?」

 

「ああ……多少不可解な点はあるが、私の推論通りなら、ほぼ全ての出来事の辻褄が合う」

 

「”全ての出来事”?」

 

「そうだ。ユージオとアリスが出会ったから起きた、不可解なこと…ほぼ全てに、だ」

 

 

雨涵はもう一度だけ、スーッと深呼吸をして、吐いて……硬い絆を持つクラスメイト二人に向けて、自分の整理した結論を語る。

 

 

 

 

「ユージオ、アリス……二人は言ってたな。『現世での記憶はない』と」

 

「…うん」 「…ええ」

 

「あの青年二人が…ユージオ達が失った、記憶そのものだ」

 

「…うん?」「え?」

 

 

 

「きっと…あの二人こそが、現世でのアリスとユージオの()()()()()()()()()……ということなんだと思う」

 

 

 

できうる限り分かりやすく説明したつもりではあったが……クラスメイト二人のポカンという顔はそのままだ。一方、青年の二人は黙って雨涵の説明を耳に入れている。一部『現世』など、彼らにとって馴染みのない言葉も耳に入れているが。

 

 

 

「そして…記憶と人格そのものである二人が…どうして姿を持って歩き回り、意志を持って(あまつさ)えキスまでする…その理由が、さっき二人に手を伸ばしてみて、分かった」

 

 

更なる論を展開する前置きをする雨涵。その前置きを聞いた青年のアリスは「キスは別にいいじゃない…」とポツリと呟いた。

そんな呟きが届いているのかいないのかは不明だが、雨涵は少しばかり言葉を詰まらせた後にとうとう最後の結論を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「この人達の…今の体の正体は……アリスとユージオが持つ、斬魄刀の()()()だ」

 

 

 

 

「つまり…この二人は、ユージオとアリスの斬魄刀に宿っている…紛れもない、もう一人の自分ということに…なる、な」

 




雨涵が理論派という設定は後付けではありません。
本当です。信じてください。
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