元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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三次元の世界が元通り元気になって
二次元の活動が再び活発になる日を心待ちにしています。


BLEACH千年血戦篇アニメ化
BURN THE WITCH連載&アニメ化

どちらもすごく楽しみです。


第二十七話 Conditional Permission

「………待って!」

 

目が覚めてからの第一声。

いや、厳密にはこの一声を発しながら、院生ユージオは目を覚ました。

 

 

 

少しばかり息が弾み、しっとりと汗をかいている体。まるで軽い運動をした後のような様子のまま、院生ユージオはベッドから上半身だけを起こして、未だ夢心地にあるかのようにボケッとしていた。が、やがて頭を小さく振ると…微かなため息をついた。

そんな彼が起きる少し前から椅子に座るようにして具象化していた青年ユージオは、不思議な様子で目を覚ました院生ユージオを見て、ちょっと驚いたように目を(しばた)いていた。

 

 

「…どうしたの?」

 

「あ…いや、その……えへへ」

 

 

疑問の声を発す青年ユージオに対し、院生ユージオは曖昧な愛想笑いでごまかす。

青年ユージオはまだ少しばかり気になる様子ではあったが、何を思ったのかそれに対して深く追求するようなことはしなかった。その代わりに、チラリと部屋の時計を確認する。

 

 

「なんだか、いつもより随分早い時間に起きちゃったみたいだよ」

 

「そう? いや、でも早いに越したことはないよ。遅刻するよりはね。特に今日は…とても大事な日なんだから」

 

 

そう言って、院生ユージオはゆっくりとベッドから降りてグッと体を伸ばす。そしていつものように院生服がしまってある棚に手を伸ばす…前に、彼は文机の上にある一枚の紙を手に取る。

 

その紙は、所謂(いわゆる)”カンペ”と呼ぶべきものであった。

 

 

 

*

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スタスタと揃って歩きゆく二人の女子院生、アリスと雨涵はその目的地たる前方に、既に人影があるのを見つけた。いうまでもなく、その人影の正体は、同級生の男子院生 ユージオ。大体定位置化してきた座れる瓦礫に腰掛ける彼は、何やら手元の紙をじっと見つめている。

 

そして…実は二人の女子院生も、その手には同じような大きさの紙が握られている。

 

 

「おはよう、ユージオ。随分早いんだな」

 

「ホントね。私達だって早めに起きたつもりだったのに…寝坊助のユージオも、やっぱり緊張してるってことかしらね」

 

 

軽く手を上げながら、挨拶をする女子院生二人。

その声に顔をあげた院生ユージオは、少しばかり難しい顔をしていた。

 

 

「寝坊助は余計だよ。…まあ、今日はそれとは別にちょっと…夢見が、ね」

 

 

口籠った様子で口にした「夢」という言葉に、女子二人は目を丸くする。

 

 

「悪い夢でも…みたのか?」

 

「あ、いやいや…そういうものじゃないよ。あの夢は……うん…」

 

 

 

「……多分、僕が悪いと思うから」

 

「?」

 

 

悪夢じゃない、と否定した言葉は聞こえたが…最後にユージオが呟いた言葉はとても小さく、

女子二人は聞き取ることはできなかった。

 

 

「ん…それより二人とも、その手の紙って…」

 

「これ? これはもちろん、ユージオが緊張のあまり声が出なくなっちゃった時に備えて…ね?」

 

 

ニッコリと笑いながら手にする紙を掲げるアリスを見てユージオは一瞬だけ複雑な表情にはなったが、正直自分が緊張していることは否定できないので、力なく笑うしかなかった。

 

 

「ありがとう。そうだね…もしそうなったら、代わりにお願いするよ」

 

「まあ、あくまで念のためだ。私達はちゃんと信じてる。ユージオの思いをそのままぶつければなんの問題もない、とな」

 

 

少しだけ口角を上げながら、雨涵は力強く頷いた。

それを見たユージオの肩からは、りきんでいた力がちょっと抜けた。

 

 

 

 

 

そして三人は、霊術院前でしっかり横に並びながら目的の人物の到着を待つ。

時折、手のひらの内側にある”カンペ”をチラリと確認する以外、ほとんど動かないままで。

 

彼らが待つ目的の人物とは、霊術院の総合担当者である 石和厳兒(いさわげんじ)先生。

たった一つ、とある願いを先生に嘆願するために、彼らはここで待っている。

 

 

 

 

 

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青年の姿と魂を持つ、アリスとユージオ。

彼ら二人の方は、院生達がやろうとしていることを知らない。というより、普段からあまりこちらの事情に踏み込んでこないようにみえる。

 

 

もちろんこの世界について最低限の説明は、院生達から青年達に向けて行った。それでも、最低限の説明だけで彼らの疑問を全て解決できる訳はない。何せ、かつて生きていた世界とは丸ごと違う世界なのだから。

他にも、今日院生達がどんな風に過ごしたか。どんなことを学び、どんな場所に行き、何を感じたのか。院生達の日常についても彼らが尋ねることはない。青年達は基本的に、具象化した状態で霊術院寮にいて過ごす。時に青年達は外で”剣術”や”神聖術”を院生達に教えることもある。この修行は院生達が望んだことであり、青年達が自発的に何かを院生達に望むことはない。日常の何気ない出来事を聞くことすらも。

 

 

青年達が自分達との間に引いている一線というものを、院生達はなんとなく感じていた。

その線の名前は、おそらく『死』

 

 

死を一度経験した青年達は、この世界に触れることも…そして、別世界に住む院生達に干渉することすらも避けている。自分達がかつて生きていた世界と、院生達が暮らす世界は別のもの。別の世界に自分達が足を踏み入れてはいけないのだと、そう考えているのかもしれない。彼らは未だに自らを”死者”とし、別世界に生きる院生達を”生者”として境界を敷いているのだと思う。

 

 

その考えが間違いだと、院生達は言うつもりはない。

ただ、一つ言えることは…青年達と院生達の考えは根本的に違うということ。

 

 

院生達が仮定した前提の上で言えば、青年達の世界と院生達が生きるこの世界は同じなのだ。

ただ、ここから遠くのどこか別の場所にあるというだけで。

 

二つの世界を共に照らしていたソルス…もとい、太陽の存在。

海一つ隔てれば違って当然のはずの言語が、二つの世界で共通だという事実。

別の世界の(ことわり)であるはずの”剣術”と”神聖術”が、この世界でも”再現”できること。

 

自分達の考えを裏付ける要素はある。ただし、それを覆す要素もそれなりには存在するが…院生達の願いも含めて彼らは二つの世界が同じであるという前提を打ち立てた。院生達は青年達のことを死者とは微塵も思っていない。”斬魄刀”という別の存在に転生した…紛れもなく生きている魂だと感じている。

 

 

できることなら、自分のことを死者であるなどと思わないで欲しい。

叶うならば…青年達にも、生きている実感を覚えて欲しい。

 

 

もし、自分達の前提通りならば…

 

 

かつて、青年達が生きていた世界での大切な人と、再び会えるはずなのだから。

 

 

 

 

 

*

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*

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*

*

 

 

 

「……遅い、な」

 

「………」

 

「…………そうね」

 

 

 

足が棒のようになる…とまではいかないが、ちょうどその二歩手前とも言える段階になって、雨涵は不満にも似た声を漏らした。アリスもそれに同意する一方で無言のユージオは、それに同意できないという訳ではなく…ただ単に緊張状態が続いて少々声を出すのに難儀しているだけであった。

 

 

ただ立って待つというこの行為、場合によっては通常の運動と同じく疲弊をもたらすもの。それでいて今回は、多少の差はあれど全員少なからず緊張している今、肉体と精神の両方から疲労が溜まっていく。院生達は、体感では既に授業開始時間から40分経過しているようにまで思えていたが、実際の経過時間は25分ほどである。とはいえ、実際に石和先生の到着が大いに遅れているという事実は変わらない。

 

 

やがて先生の到着を心待ちにしている院生達は、ただ待つだけのことを止めるようになった。

代わりに、今院生達はゆっくりと深呼吸しながら目を閉じて、集中を繰り返す。

 

 

傍目から見れば以前と変わらずただ立っているだけのようにも見えるが、もし他に死神がこの様子を見ていたのならば、彼らが何をしているのか一目瞭然だろう。彼がやっているのは、『霊圧感知を広げる』ことである。すなわち霊覚をより機敏に、かつできるだけ広くに研ぎ澄ますこと。院生達はこれによって、先生の到着をより早く感じ取ろうとしているのだ。

 

霊圧感知に関してはまだまだペーペーな三人だが、地獄蝶を飛ばす訓練において石和先生の霊圧を覚えることを経験した身だ。他の死神よりかは分かる自信は少なからずある。加えてこの霊術院近辺は、基本的に他の死神も通らない閑散地帯。この霊術院に来ることを目的とした石和先生ならば、必ず探知できるだろうとの見込みはあった。

 

 

先生を早く見つけられて、さらには霊圧探知の訓練になる。一石二鳥という訳だ。

 

 

ただただ待ち始めてから25分。霊圧探知を始めてから10分。合わせて計35分後。

まず最初に、アリスの眉がピクリと動いた。

 

 

「……ね」

 

「………あ、う…うん…」

 

「………」

 

 

アリスが本当に微かな小声で二人に合図を送ると、ユージオと雨涵はほぼ同時に気づいたようで、小さく頷いた。いち早く気づいたのはアリスだが、言われれば二人も感じ取ることができる。こちらに、だんだんと霊圧の持ち主が近づいてくることを。

 

だが…三人はまた揃って小さく首を傾げる。

霊圧の感触が違うのだ。三人が必死で覚えたつもりである、石和先生の霊圧とは。

 

三人は更に集中を高めて、感知した霊圧の見直しをする。本当に覚えに違いがないかどうか。今まで自分が相対した他の死神達の霊圧と混同していないかどうか。だが、いくら心の内で見直し続けても三人の心の中で出る結論は同じ。誰の心にも感じた覚えのない霊圧なのだ。

院生達の表情が徐々に困惑していく間にも、その霊圧の持ち主は確実にこちらへ近づいてきていることだけはわかる。ここまでくると単なる通りすがりの死神とも考えづらい。

 

石和先生でないとするならば…誰?

急用で石和先生が来られない故の代理の人?

 

もしそれで済む話なら、簡単ではあるのだが…

 

 

三人のうち誰なのか、ゴクリと小さく唾を飲む音。

それで済まなかった場合の話を、考えてしまう者もいる。

 

 

やがて、謎の霊圧の持ち主が…院生達の視線の先の曲がり角を曲がれば、その姿が見えるはず。

そしてとうとう…その瞬間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

バサリと、派手なピンク色の着物が舞うその様子を、院生達は見た。

その様子を見た雨涵は、他のあらゆる思考と表情を素早く放棄し、真っ先に片膝をついて頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

雨涵とは違い、アリスとユージオはまず最初に視界に入った人物の正体を記憶から探ることを始めていた。

だが、一目見たらまず忘れなさそうなその人物の容姿を見ても、パッと答えが思いつかなかった。

 

まず顔がよく見えない。頭にかぶった笠のせいで口元以外はここからは隠されているも同然。着ているのは死覇装のようだが、特に目を引くのは肩に背負うように羽織っているピンクの布。派手な模様もあり、何やら女性がおめかしする時の着物にも見える。だが、そんなものを羽織っているとはどうも考えにくいが…。

 

ここまでが、ほぼアリスとユージオの脳裏によぎった思考でもある。そして、ここまでしか思考できなかったのは、隣に立っていた同級生が突然膝を折った厳粛な態度で頭を下げたからだ。無論、二人が動揺したのは間違いない。だが、その動揺も一瞬。友の行動に理屈をつけるよりも早く、アリスとユージオは共にその行動に続いて膝を地につけ頭を下げた。

 

 

態度は厳粛なまま、二人は脳内で雨涵の行動の意味を。そして、遠目に見たあの死神についての考えを巡らす。

もう一度、姿を思い浮かべて……と、していると一つ思い当たったことがある。

 

 

死覇装とピンクの着物の間から微かに、隊長羽織の白が見えていた…

改めて脳内で見直しして、初めて気づいたが。

 

そして、あの死神の正体が護廷十三隊の隊長...となれば、答えは一気に絞れる。

 

 

確かに、いた。隊長格のなかで、あの派手な羽織を背負った隊長といえば。

 

 

アリスとユージオは、同時に思い出す。

教科書に載っていた顔写真。そこに添えられた文章を先生の指示で書き直した記憶もはっきりと思い浮かんでくる。

 

 

あの時、護廷十三隊 八番隊隊長の字を消して書き込んだのは、

 

 

 

 

 

 

 

護廷十三隊 総隊長 京楽 次郎 総蔵佐 春水。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああほらほら…みんな、顔上げてちょうだい」

 

「もっと肩の力を抜いて…気楽に話そうよ。せっかくだから、ね?」

 

 

あらゆる毒気が抜けそうなくらい気のない声を耳にして顔を上げて見れば…

そこにはかつて教科書でみた薄い髭の壮年男性…が眼帯をつけた姿があった。

 

 

その姿こそが、雨涵が即座に膝をつくに至った理由。

それだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を見れば、即座に膝をついて礼を示さなくてはならない程、重い存在である。

だが、その本人から力を抜いて顔を上げろと言われれば、三人も大人しくそうする他ない。

 

 

「初めましてだねえ。いやあ、ずっと一回は挨拶しとかなきゃとは思ってたんだよね」

 

「ボクは京楽春水。今は、護廷十三隊の総隊長をやってるんだ。多分、まだ君たちの教科書だと八番隊隊長ってなってるかもしれないけど…」

 

「…はい。ですが、先生に教えられて…教科書の記述を書き直しました」

 

 

雲の上にも等しい存在の相手に対して、最初に口を開いたのはユージオだった。文字通り固唾を飲んで見守る女子院生二人だが、ユージオの答えを受けた京楽は「そっかあ。それは良かったねえ」のあいも変わらず気の抜けた声のままだ。三人の院生達もその声を聞いていると、どうも肩肘張った力も抜けてしまう。護廷十三隊のトップという印象から、なんだかユルいおじさんと言った感じに。

 

とはいえ、本当に「ユルいおじさん」として応じるわけにもいかない。

 

 

「総隊長殿…何用があって、この場にいらしたので…」

 

「ああほら、まだ固い固い。もっと力抜きなよ、こうやってね」

 

「あ…」

 

 

続いて総隊長に向けて第二声を上げたのは雨涵だが…その言葉の途中で京楽に肩をグラっと揺らされ言葉は途中で止められてしまった。少し似合わぬ悪戯っ子のような笑みを浮かべた総隊長は、それでも雨涵の疑問に答える。

 

 

「いやあ、理由はさっき言った通りだよ。一回は挨拶したいと思ったから、ね。だから石和クンから事情を聞いて、代わりに来たってワケ。それで……さ」

 

「なんだっけ…あー、君たちも何か…相談があって、石和クンを呼んだんだよね?」

 

 

「!」

 

 

顎をさすりながら思い出すように言った京楽の言葉に、院生達もまたハッとする。突然総隊長が現れるという想定外すぎる出来事を前に心を奪われていたために、こうして本来の目的を思い出せたのはラッキーである。

 

 

「もし、言いにくいことじゃなければ……代わりにボクが話を聞く…ってことで、どうかな?」

 

 

ニコリと柔和に笑うおじさんを前に、また三人の顔がより一層引き締まる。確かに、三人の相談…もとい願いは石和先生に申し出るつもりではあった。それが総隊長に代わったことは、ある意味では僥倖だ。もしも、総隊長を説得することにさえ成功すれば…もう、それは自分達の願いが叶うことは確定的に明らかとなる。

 

しかし逆に考えれば…ここで説得に失敗すれば、もう…。

 

 

「……」

 

 

だが、結果がどう変わろうとも…院生達が、ユージオがやるべきことは変わらない。

ユージオと二人の女子院生は、軽く目配せしあうと…二人が一歩下がり、ユージオが一歩前…京楽総隊長の前に立つ。カンペはとうに、服の中だ。

 

 

柔らかだが底の知れぬ感じの霊圧を持つ総隊長の顔を見上げる形で、

それでいてしっかりとその目見据えながら、ユージオが口を開く。

 

 

「…京楽総隊長殿」

 

「ん」

 

 

 

 

 

 

「お願いがあります。…僕たち霊術院生の、短期現世駐在任務体験の校外学習を…許可していただけないでしょうか?」

 

「……んん…?」

 

 

ユージオのその言葉を聞いて意味を飲み込んだ京楽総隊長は、随分予想外だったようで大きく首を捻った。それでも決して目を逸らさないユージオの目を同じく見つめながらも…再確認するかのように返答をする。

 

 

「現世駐在任務っていうのは…まあ、大体は現世の街一つを基準にした半径一霊里を範囲として…主に現世を荒らす虚から現世を護ること。もちろん、霊術院を卒業した正式な死神が着任する仕事だよ」

 

「……」

 

「君たちはまだ、霊術院に入学してからせいぜい…一ヶ月とちょっと。その君たちが、現世駐在任務をやりたいと…そういうこと、かな?」

 

「はい」

 

 

ユージオの決してブレぬ言葉と視線。それを見つめる京楽の眼も、心なしか少し細まったように見える。

京楽は頭の笠を少しズラしてかぶり直すと、再び問いを発する。

 

 

「…それじゃあ、君たちが現世で仕事したいその理由を…ちょっと聞いてみようかな。ああ、もちろん言いたくない理由なら…構わないけど」

 

 

言いたくないなら、言わなくていい。

それは…現世に行く理由が人に言えないモノであることを、既に予想してのことだろうか。しかし、院生達からすれば理由を聞いてくることは当然予想の範疇。京楽の言う通り、院生達が総隊長に言えない理由というのも確かに…ある。だが、理由を押し黙ったまま自分たちの望みを通そうなどというお気楽な思考は院生達も持っていない。

 

だから…正直に、話すべきことだけを話そうと、決めているのだ。

 

総隊長に理由を問われたことで、今まで一歩後ろに下がっていた女子院生のうち…アリス・ツーベルクが一歩前に出て、ユージオの隣に並んだ。そして前に出ている二人は、まるで演劇の演者であるかのように、同時に動き出す。

 

体に斜めにかかる紐をぐっと外すことで、背負った斬魄刀が体から離されて二人の右手に掴まれる。

各々、その鞘に収まったままの斬魄刀を胸の前に構えると、これまた同時に声を上げる。

 

 

「「斬魄刀のため…です」」

 

 

 

 

京楽の目の前に掲げられた二振りの斬魄刀。それはもはや”浅打”とは呼べない代物であることを、京楽は彼らと出会った瞬間から察していた。だから京楽の瞳にささやかな驚きの色が浮かんだのは、ここにきてその斬魄刀の存在を院生達自らが、全面的に押し出してきたことであった。現世に行く理由として彼らが述べる、”自己化を終えた斬魄刀”の存在。京楽は総隊長としてというよりも、自分個人として気になり始めていた。院生達が語ろうとするその理由を。

 

 

「……続けてごらん」

 

 

京楽が促し、ユージオが口を開き、語りが再開される。

 

 

「ご覧の通り…僕らの斬魄刀は、既に自己化を終えています」

 

「そして、最近になって…斬魄刀との”対話”をも、できるようになったんです」

 

 

「………」

 

 

「斬魄刀との対話を繰り返しているうちに…僕らは、一つの結論に辿り着きました」

 

「”現世に行き、現世を知ること” …それこそが、僕らが次の段階に進むために必要だと…思いました」

 

 

 

「うーん……君たち…ああ、ユージオ君とアリスちゃんは流魂街から来たって聞いたけど…ひょっとして、現世の出身なのかな?」

 

「はい。…だからこそ、だと思います。現世に”忘れてきた人”の存在を、僕らが”思い出す”必要があるのは」

 

「………」

 

 

自らの確認の返答にさりげなく織り交ぜられた情報を聞き取った京楽は、さらに深い思案の表情になる。おそらく、今まで彼らに授業を行なってきたどの先生も知り得てないであろう内面を自分に明かしている、と京楽は感じ取った。自分自身の心が、記憶が、いかなる状態に陥っているのかを他人に明かすことは、相応に難しいことでもある。それでもこの二人の院生達が語るそれは、偽りなく現世に行かなくてはならないという、強い意志からなる理由。

 

少しだけ考えにふける京楽を前に、まるで最後の一押しとでも言うように、ユージオが口を開く。

 

 

「…京楽総隊長殿」

 

「……なんだい?」

 

 

 

 

 

 

「僕らは……”具象化” “屈服”…そして、”卍解”までの習得を、既に見据えている段階にいます」

 

「!」

 

 

その言葉で初めて、京楽の表情全体が初めて驚愕に染まった。

 

 

「約束します。現世駐在任務体験を経たならば…僕らはまた一つ先の、強さを手に入れてみせます」

 

「なので、お願いします。この約束をもって、僕らの現世駐在任務体験を、許可していただけないしょうか」

 

 

これで…院生達が伝えたいことは全て終わった。

あとはただ、総隊長を前に三人とも頭を垂れて、最後の判断を待つだけとなった。

 

 

 

 

 

 

判断の時を待ってから、一分は超えただろうか。

ようやく京楽が動き出した。ただし、動いたのは口ではなく…足。

 

彼が歩み寄ったのは、最後まで言葉を出さず後ろに控えて、頭を下げていた女子院生のもと。

 

 

「…雨涵ちゃん、だね?」

 

「……はい」

 

「いいのかい? 君は」

 

 

単純なようで、深く多様的な意味が含まれた京楽の問いを受けて、雨涵もまた顔をあげる。

そして…それに対する雨涵の答えは、単純なもの。

 

 

「無論です」

 

「私の大切な友達が…そこへ行くことを望んでいる」

 

「それだけで…他のあらゆる理由など、私にとっては不必要です」

 

 

 

「…そうかい」

 

 

京楽の目の前で力強い意志を表明した少女の姿が、京楽の瞼の裏で全く別の少年の姿と重なる。大切な友達の願いのため、たった一つの命をも賭けて自らの目の前に立ちはだかった、大柄な少年の姿と。

 

 

 

「うん、分かった。いいよ」

 

「…え?」

 

「君たちの現世駐在任務の体験学習、()()()()()許可してあげちゃおうってね」

 

「………」

 

 

 

 

 

「「「ありがとうございますっ!!!」」」

 

 

 

花が咲くよう、とはまさにこのこと。

一転して笑顔となった三人の若き院生達は、今度は勢いよく深々としたお辞儀をした。

 

 

 

 

 

「やっと笑ってくれたね〜。うんうん、やっぱり女の子は笑顔が一番可愛いよ」

 

 

柔和な微笑みに戻った京楽は、ポンポンとアリスと雨涵の頭を軽く触れて、撫でた。ユージオの方に手は向かなかった。

 

 

「うん、それじゃあ…正確な体験学習の詳細は、明日にでも君たちに告知するよ。そうだね…多分、石和クンを通じて知らせると思うから、よろしくね」

 

「あ、はいっ!」

 

 

用は終わった。となったことで京楽はスムーズにくるりと振り向き、立ち去ろうとする。

が、去り際に少しだけ振り向いて、最後にこう言い残した。

 

 

「あ、そうそう。一番隊はいつでも可愛い女の子は大歓迎だからね。もし入隊希望書く時は、どうかよろしくね〜。あ、もちろん、ボクは男の子にもそれなりに優しいから遠慮しなくていいよ。でも女の子ならもっと嬉ししいなってことで。それじゃあね〜」

 

 

なんとも軽薄極まりないような京楽の言葉も、院生達の耳には言葉半分しか入ってなかった。

京楽の姿も見えなくなって、そしてその霊圧すらも感知できなくなった時、院生達は手を取り合って同時に飛び上がり、全力で喜んだ。

 

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

「『斬魄刀のため』……」

「……それって…もしかして」

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

次の日。

 

 

「よう。なんか、随分なことをやったようだな、お前らは」

 

「あ、石和先生!」

 

「おはようございます!」

 

「…おはようございます」

 

 

院生の霊術院前集合とほぼ同時に現れた霊術院総合担当者の石和は、

呆れ半分面白半分と言った表情で言葉を発した。

 

 

「やはり、京楽総隊長殿からお話がありましたか?」

 

「まあな。だが、俺は出勤前に大体の事情を知っちまったぞ。何せ、十三隊でそれなりの噂になってるぞ。『今期の霊術院中途入学生が、京楽総隊長に直談判して希望を叶えた』ってな」

 

 

「「「…へっ!?」」」

 

 

院生三人の喉奥から、奇妙に絞り出された声が漏れた。

噂になっている、とはどういうことなのか?一瞬、互いが互いに顔を見合わせたが、それぞれの表情を確認すると一瞬で理解する。流石にこのクラスメイトの中から、うかつに今回のことをペチャクチャ外部に喋る人がいるとは思えない。なら、一体誰が…?

 

 

「まあ昨日、京楽総隊長が主に女性隊士を集めて飲み会開いてたっていうから、そんときの話のタネにでもしたんだろう。ああ、具体的な話までは言い触らしてはないらしいし、そこは安心しろ」

 

「………」

 

 

まさかの京楽総隊長本人が飲み会で口を滑らしたらしいということを聞き、今度は全く違う表情になって院生達は互いに顔を見合わせた。別に出来事自体は知られたから何がマズいという訳ではないのだが…変に有名になってやしないかということは不安である。院生達は総じて、好奇の目に晒されることは苦手であるのだから。

 

 

「ま…他の隊士達の印象は上々だと思うぞ。総隊長に直談判なんて、度胸のある行為なことには変わりない。 これから死神を志すなら、強い度胸を持つことはとても大事だからな!」

 

「…は、はい」

 

 

軽く褒められたことにより、院生を代表してユージオが自然と返事をする。度胸を褒められたとは言っても、自分達から総隊長のもとに押しかけた訳ではなく、成り行きで総隊長が現れたから退くことができなかっただけで、これを真の度胸と呼んでいいのかというのは悩ましいところでもある。

 

 

「だが、あくまで護廷十三隊全体の風潮としては…

度胸よりも重要視してるものがあるということを、覚えておいた方がいい。…それは、”実力”だ」

 

 

神妙な表情で、石和先生は懐から綺麗に畳まれた書類を取り出した。

 

 

「護廷十三隊は”実力主義”の風潮が強い。この霊術院でも、実力さえあれば飛び級を繰り返し半年で卒業することもできる。そして…たとえ実力さえ示せれば、霊術院に通ってない者でもいきなり隊長の座に着くことすらできる」

 

「……」

 

 

その話を聞いたユージオの拳が、少しだけ強く握られる。

霊術院に通わずして、いきなり隊長の座に着いた人物と、会ったことがあるから。その実力主義の片鱗はよく感じてるつもりではある。

 

 

「今お前達は、本来正規の死神が着任するべきものである、現世駐在任務を体験したいと希望している。無論、これは普通ならば許可は到底不可能なものだ。だが、確かな実力さえ示すことができれば、その不可能を可能にできる。それが真央霊術院及び護廷十三隊の方針だ」

 

「総隊長からお前達に与えられた条件は…はっきり言って、難しいものとなる。だから、これを見てから無理だと諦めることもまた、一つの選択肢となる。その場合は、地道にこの霊術院で力をつけていくことだ」

 

 

その言葉に、三人の院生達は頷いてみせる。だが、どんなに高く難しい条件であろうとも、院生達のとるべき選択肢などハナから一つしかない。それを覚悟した上で、目の前の石和先生の手に携えられた指令状を見据える。

 

 

「では…通達する。短期現世駐在任務体験の校外学習を許可するために必要な条件は、以下の通りだ」

 

 

 

 

 

*

*

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*

*

*

 

 

「……どうしたんだい?」

 

「ねえ…兄さん」

 

「…何?」

 

 

 

 

 

「お願い! 僕と…”同調”して欲しいんだ!」

 

「………………うん、ごめん…もう一回言って?」

 




劇場版BLEACH もう一つの氷輪丸で総隊長が登場した時、
他の死神が一斉に片膝ついて礼をするシーンが好きです。
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