短いです。
番外編なので、読まなくても支障のない話です。
リアルワールド・フレンドシップ
「おやあ? 黒崎サンじゃないっスか! これはこれはいらっしゃいませ!さて、本日は何を買っていきますか? やはりいつもの『棒状霊圧プロテイン マッチマッスルM』の十本セットっスか? ああそれとも先日興味を示されていた新商品『霊急スプレーマジマーズZ』を買いに来たとか…」
「買うかんなもん! ていうか『いつもの』とか『先日』とか何ありもしない印象操作してんだ! そんな怪しげな品に興味持ったことも買ったこともねえだろ! 俺は遊子がいつも買う菓子を代理で買いに来ただけだ!」
扇子をパタパタさせて飄々と嘯く浦原に対して、オレンジ髪の青年 黒崎一護は盛大にツッコミをした。
「ははあ、そういうことでしたか! いやいや、お得意様の遊子サンがいつも買っていかれるものならきっちり用意してますよー。さ、まずはこの『霊破炭酸キャンディージュワドK』を…」
「だからドサクサに紛れて変なモン売りつけようとすんな! こっちはちゃんと買うもんのメモ預かってんだよ!」
手書きのメモをビシッと突きつける一護。鼻先まで紙を突きつけられても、なお浦原の飄々とした態度は崩れなかった。
「わかってますよお。単に新商品の間接的なご紹介じゃないっスか。いつも決まったお菓子を買うより、ここらで一つ今まで感じたことない新感覚を口の中にお届けしようっていう粋な…」
「アンタのそういうセールストークは信用できねえんだよ! ああもういい、勝手に選んどくからな。えっと、まずこれと…」
商売に関しての浦原のタチの悪さというのを骨身にしみてる一護は、浦原へのツッコミは程々に切り上げ、商品の物色を開始する。遊子の代理でお菓子を買うのは初めてだが、この浦原商店自体は何度も来ている身。”普通のやつ”がどこに売っていて”普通じゃないやつ”がどこに固まっているのかの見当は大体ついている。もっとも、”普通のやつ”の中に”普通じゃないやつ”を紛れ込ませてる場合もあるので、注意が必要ではあるが。
浦原の方ももう一護をこちらの言葉で惑わすことを諦めたのか、一護がお菓子を抱えてやってくると素直に会計を済ませた。
「どーも、毎度ありっス!遊子サンにもよろしく伝えといてください。来るとジン太が喜びますから」
「なんだそりゃ。そういえば…他の三人がいねえな。どこ行ったんだ?」
「ただの買い出しっスよお。ちょうど鏡野市の方に質の良いヨーヨーが入荷してるって聞いたんで、ざっと400キロほど仕入れようと思いまして」
「なんに使うんだよそんなに…」
呆れたようにボソリと一護が呟くと、「おっ、興味がお有りですか? いやあ、実はヨーヨーの器子構造を用いた画期的な対虚用武器兼おもちゃの開発がありましてね」と耳ざとく聞きつけた浦原によるトークが始まりかけるが「あーあーわかったわかった」と一護は強引に話を打ち切った。
「よし…と。そんじゃあまたな。浦原さん」
「ハイハーイ。新作霊機ヨーヨーが完成したらまたいらしてくださいねー」
「いかねえよ!」
結局、浦原さんの誘いは全てノーサンキューな一護であった。
両手に1000円分のお菓子をたっぷりと抱えて店から出る一護。妹の遊子が小学生の頃は500円分だけだったが、中学生になって以降は買う量は倍増したようである。そんな大量の菓子を抱えて店からまっすぐ歩く一護は…
自らとは逆方向に歩く、とある男性とすれ違った。
そして菓子の袋の隙間から、すれ違うその男性の顔を見て…一護はギョッとした。
思わず立ち止まってしまう一護だったが、その後、すれ違った男性を振り返って確認する…事はなかった。顔をもう一度確認するまでもない。”霊圧”をみれば一目瞭然ならぬ一感瞭然である。
(他人の空似…ってやつか。でも、なんつーか見た目も雰囲気も似てたな…”あの時のアイツ”と)
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「いやあ〜、お久しぶりです。お待ちしてましたよ。ささ、どうぞ粗茶でも」
「うん、頂こうかな」
部屋の中でも布帽子をたえず被りながら扇子をパタパタさせる駄菓子屋店長 浦原喜助を前に、ぴっちりとしたスーツを着用した男性は、大人しく出されたお茶を啜った。
「いいね。無難に美味しい味だ。
「おや、そうですか? 大人になったあなたには、こっちが好みかと思って用意したんですが...ま、次来た時には昔のやつをご用意して置きましょう。それより…早速、お見せしていただいてもいいっスかね?」
「……ああ、そうだね。今出すよ」
そう言った男性は、傍にあるビジネスバッグに手を突っ込んでガサゴソと漁る。
やがてその手に握られて現れたのは…書類の束だった。
「今少々お時間頂いて、確認しても?」
「構わないよ。今日はけっこう暇だからね」
受け取った束の中の書類を一枚一枚確認する浦原。その間、男性は興味深げに駄菓子屋奥の室内をゆっくりと眺めていた。やがて、比較的早く束を全て確認し終えた浦原が、扇子を広げながら満足そうな笑みを浮かべる。
「いやあ、お見事っス! ここまでの”物件”の確保、本当にありがとうございます! 今回と今後の賃貸料と手間賃は書類通りの口座に振り込んでおきますからね!」
「やれやれ。あなたも全く悪いタイミングで妙なお願いをしてきたものだね。今の僕は、表沙汰に立てない人間になってしまったから、こうして物件を借りるだけでも一苦労さ。ましてやこの量を、ね」
「そっスか。ここ最近は、あなたも大変だったんスねえ」
肉体的に疲れたわけではないだろうが、ふうとため息をつく男性。一方の浦原は、全く悪びれてない様子で自分もお茶を啜っている。そんな浦原を見る男性の視線が、少しだけ鋭くなる。
「これだけ大変な作業をやらせたんだ。メールで提示された手間賃じゃ…少し割りにあってないと思うけどね」
暗に不平を漏らした男性だが、浦原は巧妙に帽子で視線を隠し逸らしつつ、相変わらずの寝ぼけ調子で答える。
「またまたあ。いいじゃないっスか、たまの頼みくらい。昔は目を輝かせてねだってくる少年時代のあなたに、無償でたくさんの鬼道やら発明品やらを見せてあげたじゃないっスか〜」
「まったく、よく言うよ。どうせ最初から
「まあまあ、あなたの記憶が消えたとしても、アタシが手間をかけたことには変わらないっスよ? それに、あなたは
扇の下にニヤニヤを隠しながら飄々と振舞う浦原に、また別ベクトルで疲れが出てきたのか、男性は少しばかり脱力した様子を見せる。だが、それでいてその眼はどこか…遠くを見て懐かしむ顔となっていた。
「……まあね。あの時の記憶は…今思い返しても、夢のような時間だったよ」
「なんなら、もう一回体験してみます? 夢のような時間を」
「遠慮するよ。またそれを交渉の材料にされると面倒だからね。…この件で正真正銘、互いに貸し借りなしにしようじゃないか」
「疑い深いっスねえ。いいでしょう。今度はアタシから借りを作るかもしれませんから、その時にはどうぞよろしくっス♪」
「…前向きに検討するよ」
なんだか、ここにくるよりも前に溜まった気がする疲労感の息をまた少しばかり口から吐き出す。目の前の浦原という男は、男性のとある部下と口調がよく似ているためつい気が緩みがちだが、浦原の人間性は自分と比べても相当なタヌキなので、気が抜けそうで気が抜けないという複雑な対応を迫られる。まあ浦原はタヌキでもなければ、人間でもないのだが。
男性はチラリと腕時計を確認すると、ビジネスバッグを持ってゆっくりと立ち上がった。
「おや、もう行かれるんスか? けっこう暇なら、ゆっくりしていけばいいじゃないスか」
「せっかくこんな所まで来たんだ。一つの店だけじゃなく、もっと色んな所をのんびり回りたいからね」
「あらそっスか。それならお引き留めはしませんよ。悪霊にはお気をつけてくださいねー」
「…ああ。またね」
浦原が言うと洒落にならない見送り文句を受けながら、スーツ姿の男性は店を後にした。
店を背にして歩いていると、視線の向こうから三つの影が歩いてくるのを見止めた。
「うぐぐ…だから!なんで! 三人いるのに! 俺が! 半分も! 持たなきゃならねえんだよ!」
「いいじゃない。ジン太君は男の子なんだから。たくさん持って運動して、鍛えた方がいいよ」
「そうですぞ、ジン太殿。成長期の今に筋肉に負担をかけておく事で、将来はより相応しい筋肉を得ることができますゆえ……む?」
歩いてくるのは山のようなヨーヨーの箱を持つ男女の子供二人と、筋骨隆々の体を持つ眼鏡をかけた大男。明らかに他の二人に比べて大きな箱を背負っている赤い髪の少年と、中学生くらいの背丈の少女より先にスーツの男性に気づいたのは、メガネの大男の方であった。
「あなたは…これはこれはお久しぶりでございます。ご息災でしたかな?」
「…握菱さん、お久しぶりです。お陰様で、なんとかこうして日々を過ごしていますね」
見上げる身長差ともなったが故か、筋肉たくましい大男…握菱鉄裁に対し丁寧語で応対するスーツ姿の男性。それを一歩引いた位置で見る男女の子供二人…花刈ジン太と紬屋雨の二人の頭には「?」マークが浮かんでいる。どうやら鉄裁とは違い、二人はスーツ姿の男性のことを知らないようだ。
二人は、ある程度の世間話を経て、話を一区切りする。
「……それでは、これで失礼します。どうぞお元気で」
「はい。どうぞ御身を大切に」
話を切り上げて一礼する二人。
そして、スーツ姿の男性は…通りの角の向こうに消えていった。
「…なー、テッサイ。今のヤツ知り合いか?」
「ええ…およそ25年ほど前に、店長と私は当時はまだほんの子供だった彼に出会いました」
ジン太の疑問に、鉄裁は少しばかりの懐かしさを顔に滲ませながら答える。
「あの方のお名前は、菊岡誠二郎と申します。菊岡殿が幼かった頃に我々と関わった記憶は、我々が記換神機を用いて消去いたしました。しかし、その失われた記憶を菊岡殿が科学技術を用いて取り戻して以降、店長と菊岡殿は少しながらの交流を続けておられるのです」
「へー…」
それを聞いたジン太は(あの店長に昔から人間の友達がいたのかよ…)とちょっと失礼なことを考えていた。
メガネ藍染と菊岡さん似すぎ問題