元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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前回と比べてとても短いですが
大事なとこで区切りも良いのでどうかお許しを。



第三十二話 このからだ この心 君をずっと守りたい

破面(アランカル)のそれとは違い、死神の斬魄刀とはどうも面倒なものでネ」

 

「破面の斬魄刀が刀剣解放(レスレクシオン)という一段階の解放しか持たないのに対し、死神は始解(しかい)卍解(ばんかい)という二段階の解放を持っている」

 

「その上、より一層面倒極まりないことに、死神の斬魄刀には”意志”というものが内在している。自らの魂魄から削り取ったほんの一欠片のような存在だがネ。それらと歩調を合わせねば、死神は斬魄刀の解放に至ることはできないのだヨ」

 

 

 

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「死神の必修課程とも言える斬魄刀の解放についてだが、一般的にはそこに四つのプロセスが存在する」

 

「斬魄刀自己化を終えた死神は…まず斬魄刀の内部精神との”対話”…そして”同調”を図る。この二つのプロセスを終えることにより、死神は始解を習得することができる」

 

「始解を習得した死神は、次いで卍解の習得のために”具象化”の訓練を始める。この”具象化”を成し遂げ、現実世界に現れた斬魄刀の内部精神を”屈服”させることでようやく、死神は斬魄刀の最終戦術である”卍解”に至ることができるのだヨ」

 

「無論、このプロセスの過程を経ずに卍解を習得する例外も、既に観測されてはいるがネ」

 

 

 

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「先の戦争以前のデータにはなるが…護廷十三隊の隊士の中で、始解を習得しているのは全体のたった二割程度。そこらの凡百なる虚を倒すのには始解など習得せずとも充分とはいえ、滅却師共に一方的に殺戮されたのも止む無しと言えるほどの悲しき戦力の実状が、護廷十三隊にあるのだヨ」

 

「戦争の経験を経て、死神の戦力低下を大いに憂いたこの私が、慈愛と献身の心を持って作り上げたのが、この”強制同調薬”という訳だ」

 

 「斬魄刀を持ちながら未だに始解を習得できぬ死神共の、おおよそ八割近くが”同調”の過程で(つまず)いているという調査結果がある。また、始解を習得し終えた死神共も同様に口を揃えて、”同調”の過程が非常に難しかったと言う。ならば、それをこの私が手助けしてやればよいのではないかネ?」

 

 

 

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「ただ”同調”という言葉を聞いても、何をすればいいのか分からぬという凡人は多い。前段階である”対話”が分かりやすいが故に尚更、ということもあるだろうネ」

 

「だが、同調とはそう難しく考えることもない簡単なことなのだヨ。”同調”という言葉を”共感”に置き換えてみたら、どうかネ? 身近に感じる言葉になっただろう?」

 

「つまり死神と、その死神が持つ斬魄刀の内部精神…この二人が共に同じ感覚を強く共鳴することによって…同調の糸口が開ける。それくらいに、単純なことなのだヨ」

 

 

 

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「では、どのような感覚なら二人は同調がし易いと思うかネ?」

 

「温覚・冷覚・光覚・平衡覚・圧覚・臓器覚・運動覚など…私も様々な可能性を模索させてもらったヨ」

 

「結論として、私が薬物による強制感覚として採用したのは……”痛覚”だ」

 

「痛みこそ…最も人々が共感し、同じように苦しむことのできる、素晴らしい感覚なのだヨ」

 

 

 

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「二人の記憶の中で()()()()()()()()()()を、薬物想起により強制的に脳裏に焼きつけながら、()()()()()()()()()ことで、死神と斬魄刀の間に共感覚が発生する」

 

「だが、薬物で手助けできるのはそこまでがせいぜいだネ。そこから同調たる感覚までに辿り着けるかはその死神の才能次第…といったところだヨ」

 

 

「さて……はたしてこの”特異魂魄”は、私の慈悲の心を無碍にしないでいてくれるのか……大いに期待させてもらうとするヨ」

 

 

 

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「がっ…あ、あ゛あ゛っ...!」

 

 

痛みが、激しい。

右目そのものがえぐられるような痛み。後頭部から右目に向けて小人がドリルでトンネルの穴を開けているかのような痛み。右目そのものと頭部に走る痛みが同時にユージオに襲いかかっていた。

 

何も、考えることができないほど。

いやむしろ…考えることを拒絶させるためのような痛みだった。

 

 

それでも、ユージオは抵抗する。

(うずくま)って、痛みに苦しんで身を (よじ)るだけではなく…痛みに耐えて、思考を、再び、蘇らせる。

 

 

(ゔ…あ…だ、めだ…立て……! たたか、わないと…ま、だ…敵、は…)

 

 

戦いに思考を向けたユージオは、膝に力を入れて立ち上がろうとするが…すぐに、また膝が地についてしまう。痛みのあまり脚のみならず、全身に力が入らないのだ。ユージオはなんとか顔だけでも持ち上げて、未だ動きのない敵の破面を見据えようとする、が。

 

 

 

SYSTEM ALERT

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(……なん…だ……こ…れ……?)

 

 

ユージオは、ここでようやく気づいた。

右目と左目で、映る光景が違うことに。

 

 

左目に映るのは、変わらぬ光景。痛みで眼が霞むものの、先ほどまでずっと対峙していた敵──破面の姿が、輪郭だけは見えている。だが…それと対照的に、右目に映る光景はユージオにとって、全く記憶にないものだった。

 

 

真っ赤に染まる光景。それはまるで、問題集の勉強に使う赤シートで目を覆いつくされたようだった。そして、全く非現実的な様子で左目の目前に浮かび上がる文字。ユージオはこれを現世で使われている言語の一つ、”英語”だということは知っているが…その実ほとんど読み方を知らない。現世に行くにあたってもほぼ使わない言語として教えられていたからだ。もっとも、仮に知識として知っていたとしても、この状況で読むのは苦労するだろう。

 

だが。真っ赤に染まった世界よりも。浮かぶ意味の分からない英語の文字よりも。

ユージオの心を強く刺激したのは何より、そのさらに()()()()()光景だった。

 

 

 

(なんだ、よ……? ベッ…ド? ひと、が……いや…待っ……女の子、が…!? )

 

 

 

SYSTEM ALERT

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左目の赤い世界で、文字の向こう側にいる四人の人間について、ユージオは誰一人面識もなく、知らない。だが、その人の名前すら知らずとも…その四人の状況がいかに異常かは、痛みに苦しむ脳でも理解できた。

 

 

いかなる世界の常識に当てはめたとしても…縄で縛られ、恐怖に染まった瞳で怯える二人の少女に、半裸の男性二人が迫るその様子は到底看過できるものではないのだから。

 

 

(何を…何を、やっているんだよ…っ!? この、ひと、たちは!)

 

 

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『い、いや……いや……いや…………!』

 

 

(…… い、今の…声…!?)

 

 

聞こえた。女の人の、声が。

ユージオの右目が本来あらぬ光景を映し出すだけではなく、ユージオの耳元から本来ありえないはずの声が、聞こえたのだ。

明らかに右目の光景と連動した声。ユージオは、直感する。この耳に響いた声は、迫りくる悍しい男性を必死に拒絶する、目前の女性の声なのだと。

 

そう直感した瞬間に、ユージオは冷静さを失った。本来ならば幻影 幻覚の類と判断すべき右目の光景に向けて、行動を起こそうとしたのだ。やめろという声を出そうと。手を使って、自らの腕で、男性の所業を止めようと。

 

 

SYSTEM ALERT

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だが、それはできなかった。

所詮幻覚を前にしては自分は干渉できないという、現実的な問題ではなかった。

 

それ以前の現象として、右目に走る痛みが一層激しくなった。ただでさえ叫びたい程に脳裏をえぐり、穿ってくるその痛みが、ユージオの行いを拒絶するかのように。そして、それと連動するかのようにユージオの動きが止まる。また、最初に以上が起きたときのように…腕も足もそのものが氷漬けになったかのごとく、一寸足りとも動けない。

 

 

(…なんだよ、なんでだよっ…! なんで…動けないんだ…!?)

 

 

声なき声を、叫ぶユージオ。だが彼の心の奥底では、なんとなく感じていた。

この赤き世界に浮かぶ、意味のわからない”英語”。

これが、これこそが…自らの動きを妨害しているのではないかと。

 

 

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────これは、何らかの《封印》だ。

 

 

また、違う声がユージオの元に届いた。

だけど、さっきの少女の声とは違った。声そのものはもちろん、耳への響き方も。

いや…耳よりももっと、深い、深いところから…響いてきたかのようだった。

 

 

(ふう……いん?)

 

 

ユージオはさっきのように、声の正体については考えなかった。

それは、潜在的には()()()()()()()()()声だったからだ。

 

代わりに、ユージオが疑問を呈したのは…封印という言葉についてだった。

 

 

────法への恭順を強制しているんだ。

────八年前のあの時も、そして今も。僕の行動を妨げることによって。

 

 

(ほう…法…? 恭順…だって…!?)

 

 

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(ふざけるな! 法ってなんだよ!? 法への恭順!? こんな…痛みと苦痛を与えて!? )

 

(拷問のような真似をして、僕になんの法を守らせようとしてるんだ!?)

 

(目の前で、女の人を縛って! 嫌がる女の人たちへ手を伸ばすあの男たちは!? その法とやらは、あれを止めることはしないのか!? 法は…あの女の人達を守ってはくれないのか!?)

 

 

痛みでほとんど潰えていたはずの思考が、溢れんばかりに漏れでてくる。それは、”怒り”の感情。

女の人へ魔の手を伸ばす男を止めようとする行為を、苦痛で押し留めようとする見えない”法”とやらに、激しく憤った言葉がユージオの心に充満する。

 

 

────法は、悪の一部しか抑え込めない。

────だからライオスとウンベールは、法の荒い編み目を軽々とすり抜けて…

 

────いや、ある意味では法に則って、何の罪もないロニエとティーゼを、汚そうとしている。

 

 

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『そんなの、絶対に間違ってる!!!』

 

 

ユージオは、叫ぶ。

さっきまでのユージオの心の声とは、また違う。現実世界に音として現れていないのは同じだが、その言葉の響きはより深く…心の”世界全体”に響き渡っていた。

 

 

『法が一部の悪しか抑え込めないなら……

僕たちがその他の悪から、守るべきなんじゃないのか!?』

 

『法が、あの男たちのやってることを”悪”と呼ばないなら……

僕が、法の”悪”となってでも、その悪を止める…止めてやる!』

 

 

それは…少なからず、かつてのユージオの決意であり、願いを体現した言葉でもあった。

 

かつて、流魂街で暮らしていたユージオのたった一人の家族であったお婆ちゃんを奪い去ったのは、犠牲を強いる”悪”だった。 お婆ちゃんを殺した張本人である目の前の破面も、それを主導した十二番隊隊長 涅マユリも、その"悪"を法によって罰せられることもなくのうのうと日々を過ごしている。

 

 

ユージオには、そんな”悪”をなくす方法も分からないし、その悪を許している”法”を変える方法も分からない。そんな自分でも、分かることがある。自分の恩人の一人である日番谷隊長から、教えてもらった。

 

世界や、法が許すような”悪”を、許さないこと。

自分の手で…”悪”から、みんなを護ること。

 

 

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ユージオの体に、更なる力が込められる。だが、未だに体は動かない。

それでもユージオは決して諦めない。相変わらず激しく荒れ狂う痛みに抵抗するかのように。体を前にしようと、腕を振るおうと、足を踏み出そうと、足掻く。足掻いて足掻いて…歯を食いしばる。

 

 

『負けない……法になんて…! ここで負けたら……”大切なもの”を、失ってしまうから!』

 

 

────大切な、もの。

 

 

ユージオの叫びに、またあの声が応じる。

まるで”共鳴”するかのように、叫びと響きが重なり合う。

 

 

『そうだ…! 法なんかより、ずっとずっと…大切なものだ!』

 

『あの日からずっと、僕の中にある大切なものだ! あの日の決意が! 想いが! 心が! 今日この日まで、僕を生かしてきた! 僕という存在を、僕としてこの場に立たせてくれた…!』

 

 

あの日。親代わりのお婆ちゃんを失って、途方に暮れ続けた日々の中で、日番谷隊長に出会った。

日番谷隊長は、道を示してくれた。死神になるという道を。

日番谷隊長は、教えてくれた。死神になれば、護るための力を得られることを。

 

ユージオの心は、あの日に決まった。

死神になって、強くなって…みんなを、”悪”から護ること。

 

 

 

『この心は、死神になる僕の誇りだ! この心が!誇りが!この胸にある限り!

僕は誰にも…絶対に、負けない!』

 

 

 

 

────誇り……心、か。

 

 

 

 

『そうでしょう、()()()! ……いや、()()()()!!』

 

 

 

 

────ああ……そうだ!()()()()

 

 

 

 

その二人の言葉を機に、何かが変わり始める。

 

 

 

 

 

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二人の声が、響く。

 

 

『動け…! 動け、動け…!”法”なんかに、負けてたまるか!

 

────動け、動くんだ! 剣を握って、抜き放つんだ!

 

 

 

 

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二人の声が、近づく。

 

 

『大切なものを、護るんだ…! 死神としての誇りを!

────剣士としての、誇りを!自分の心そのものを!

 

 

 

 

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二人の声が、重なる。

 

『アリスも…!雨涵も…!みんなに…指一本足りとも触れさせないっ!

────ティーゼも…!ロニエも…!護るんだ! “悪”から! 絶対に!

 

 

 

 

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『二人から────離れろっ!!!

 

 

そして、声のみならず…二人のユージオの動きまでも”同調”した。

 

 

 

 

 

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その同調の瞬間こそ、二人のユージオが……()()()()()へと還る時だった。

 

 

 

 

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『う……おおおおああああ────ッ!!!」

 

 

 

”同調”した声が、現実世界のユージオの口から叫び声として溢れ出し、

 

 

 

 

 

 

 

 

『想い咲けっ!! 『青薔薇』!!」

 

 

 

 

 

 

斬魄刀が、その声に応えた。

 

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