流石に文字数の関係から限界と感じたので、ここで区切らせてくださいませ。
とても、不思議な感覚だった。
言葉にするのが難しいほどの感覚。
だが、あえて言葉にするとしたら……
『一人なのに、二人の思考が融合している感覚』とでも表現するしかない。
何かを思うにしても、まるで自分ともう一人。二人で考えるような感覚になる。
自分が知らないはずの知識を、もう一人がスッと教えてくれて、自分の思考にスムーズに染み渡るような感じ。とっても不思議な、感覚だった。
本来は一人だった魂があの時、二人の存在に分たれた。
おそらく…完全な一人にまた戻ることは、もうできないと思う。
それでも……今、間違いなく言えること。
二人は”同調”することによって、一時的に…一人の存在へと戻れたのだ。
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ルピ・アンテノールは、今日初めて”冷や汗”というものを流した。
正直、油断していたことは否めない。目の前の死神見習いの子供は、自分の返り血を浴びせて以降はずっと苦しそうな顔をしたまま動かなかったからだ。その原因は涅マユリの手で自分の血の中に仕込まれた薬剤だということは、事前に教えられていたために分かっていた。
薬剤投与の後どうなるかは「未知数」であり、場合によってはそのままお役御免とも言われていたため、ルピの気は完全に抜けていた。具体的にどのような薬かは知らされていないものの、
そう、思っていたが。
突然目の前の死神見習いの子供から、喉を裂かんばかりの絶叫が発せられた。ルピはもちろん、それに驚いた。だが…そのような驚きの感情を上回る勢いでルピの体を襲ったのは…冷たい”悪寒”。ルピは何かを考えるより早く、今まで使っていなかった高速移動歩法”
おそらく…さっきの瞬間に響転を使って避けていなかったら、自分の左腕はあの子供によって真っ二つに断ち切られていたであろうから。
その子供──ユージオの様子に、二つほど変化が訪れていた。
一つ。彼の右目から、涙のように血が滴った痕があること。
そしてもう一つは彼が振り抜いた斬魄刀が、全く別の”剣”の形に変化していたこと。
薄青く輝く刀身に、薔薇の花の象嵌が華麗に目立つ両刃剣。
明らかに、先ほどまでユージオが握っていた刀とは異なる代物。だが、ルピはそうした変化の現象を知識として知っていた。
(…始解、ってやつだよね)
(今まで温存していた、なんて訳はないよねェ。となると、ここにきて初めて習得したってコト? …いや、フツーに考えたら
(まーったく、このまま解散…の方が楽でいいんだけど。でも…始解とやらを習得したコイツがまたどれくらい強くなったかは気にな、る………!?)
ルピの思考は、途中で中断することになった。
なぜなら、視線の先でユージオが地を蹴って距離を詰め始めていたからだ。
突然の戦闘再開。だがルピは然程驚くことはなく、いつもの調子で回避態勢を取る……だが、迫り来るユージオの構えた剣が薄水色の光を纏い始めていることに気づいたとき、ルピは少しばかり驚きで目を
(あれェ? さっきの光る技…あんな風に走りながらでも出せるんだ?)
(まあ…あの技の速さはもう覚えたし、あんな風に使うのバレバレじゃ、避けるのも楽チンだよねー)
先ほど見たばっかりの素早い水平斬りを放とうとしている様子を見切ったルピは、取っていた回避態勢をさらに深く構える事で攻撃に備える。そして、攻撃範囲へと踏み込んだユージオの振り被る剣が、より一層の輝きを纏った。
───アインクラッド流 単発水平斬 ホリゾンタル!
あの時と同じ技。光の一閃が空気を裂くと共に、ルピは上体を逸らして低い体勢になりながら後方に避ける。
だが。
(……あれ?)
ユージオの青の剣先に付着した、目立つ赤色の液体。
ルピの胸元に刻まれた、もう一つの小さな傷跡。
新たな傷跡から流れ始めた血が、ルピの白装束をさらに汚していく。
(あれ…? 避け切れて、なかった? マジ?)
自分は、あの時の速度を元に完璧な体勢と速さで避けられたはず…なのに、なぜ傷が?血が?
だが、その疑問を解決する時間は与えないとばかりに、ユージオが追撃のために動き出した。それに応じてルピも疑問を頭の隅に追いやり、戦闘に集中せざるを得なくなった。
ルピが疑問を頭の隅に追いやっていた一瞬の隙でさらに距離を詰めたユージオ。彼の構える剣の形は、先ほどと違いった大上段に振りかぶりだった。そして何より…頭上に振りかぶっていたその剣にもまた、青い光が宿り始めていた。濃い、青色の光だった。
(また光る剣技!? …いや、さっきとは
ゾクリ。
またルピの背筋に冷たいものが走った。
そんなルピの心情を知る余地もなく、ユージオはただ
───アインクラッド流 単発垂直斬 バーチカル!
ブゥンという複雑に空気を裂く音に一瞬遅れる形でドゴン、という重く鈍い音がした。
重い空気を裂くような音は、
(……地面を割るとまではいかずとも、ひびをいれるなんて随分力強くなってんじゃん…。あの勢いなら、そりゃあボクの腕の一本くらい斬れるはずだよね)
最初、薬から復活した直前のユージオの一撃。あれを食らっていたら自らの腕を落とされていたという推測もまた、正しかったであろうことを改めて認識した。それに加えて、先ほど速度を見切ったはずの自分が避け斬れなかった水平斬りのスピード。地面にヒビを入れるほどの垂直斬りの威力。
(…薬をやる前に見せてくれた技より、威力もスピードもまた上がってるって事だよねェ)
(全くさあ…ほんと、どんくらい成長すれば気が済むのさ…)
(これじゃあ…ますます、楽しくなってきちゃうじゃんか…!)
いくつもの刀傷を体に刻み込まれながらも、ルピはさらに深く、不敵に笑ってみせた。
不気味とも思えるほどの破面の様子に、ユージオの心は一瞬だけ動揺するが、それが収まるのもまた一瞬。
更なる追撃のため、ユージオはごく自然な動きのまま距離を詰めて剣を振りかぶると、再びその剣が鮮やかに光りだす。それもまた、今まで見せていなかった新たな剣術。”記憶通り”の動きから繰り出される自然な戦闘技術。
───アインクラッド流 単発斜斬 スラント!
地面をヒビ割ったバーチカルとほぼ同威力と言えるほどの勢いを持った左上からの斜め斬り。だがその斬撃もルピではなく、残像を斬ることしかできなかった。それだけではなく、剣が空ぶったその瞬間にユージオの背に重い衝撃が落とされた。
剣術による”硬直”の結果、衝撃を受けてもまともにとっさの回避行動をとること叶わず、一瞬遅れてあとずさって距離を取ることしかできなかった。二度までも破面に秘奥義は避けられた挙句、いつの間にか背後に回られていたこと。ユージオの二人分の心が、冷静に警戒と対策を自身に促す。
「いやァ、君の光る剣の技は確かに速いねェ。…速いけど、さ」
ブゥン。
ルピの姿が、また霞むように消えて。
ユージオはとっさに防御姿勢を取ろうとする…が、どこから攻撃がくるのか分からぬ状態で適切な動きなどできる訳もなく。勘で防御することも失敗し、左肩へのカカト落としをもろに受ける事になってしまった。
「ボクがちょっと頑張った速さに比べたら…ねェ? カワイイもんだよ」
痛む肩を抑えながらも、闘志を消さずにこっちを見据えるユージオの視線を正面から受け止めつつ、ルピは小さく微笑んでみせた。
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「ほうらっ!」
ガッ
「こっちこっち!」
ドグッ
「…!」
───アインクラッド流 単発…
ドガッ
「っ…!」
「アッハハ、遅いねェ!」
その光景は、明らかに一方的な攻撃の様相を呈していた。
ルピの扱う響転のスピードに、ユージオは完全に翻弄されていた。
死神でいう”瞬歩”に値する高速移動術である響転だが、瞬歩とは違い霊圧感知をすり抜けるという明らかな独自性をもっている。そのため、移動直後の霊圧の揺らぎから移動方向を推測するといった手は通じず、ただ移動を目で追えるようになるか、それとも移動後の霊圧察知をいち早く行うかの二択となり得る。
だが、今のユージオにはそのどちらも難しかった。そもそもの話”瞬歩”を用いる死神との戦闘ですら未経験な彼が、この高速の打撃を捌く事自体が難しかった。四方八方からの息をつかせぬほどの打撃の数々。最初に比べて相当に発動スピードが上がったはずの秘奥義ですら、放つ機会が与えられない。
それでいて、その打撃を放っている側のルピは表面上楽しげだったが、脳内ではどちらかといえば驚きの感情の方が多かった。
(もう十数打は叩き込んでるはずなのに…まだぶっ倒れるどころか、避けたり防いだりをずっと続けてられるなんてさァ…正直引いちゃうレベルだよねー)
(それに……)
「_ _ _ _ 、_ _ _ _ 」
「_ _ 、_ _ _ _ _ _ _ 」
(なんか途中からブツブツ…何呟いてんの?)
(鬼道とやらを放つ様子もないし…変なやつ)
微かにルピの耳に届いていた違和感の声。それは戦闘中の間にユージオが何か言葉を呟き続ける声だった。内容は聞き取れないほどに小さなものだったが、何であれそれを呟きながらもルピの打撃に耐えつつ防御対応姿勢を一切崩さないその姿勢。ルピの心には、不気味さとも表現できる警戒の気持ちが湧き出た。
(まあ、なんか隠し玉あるならとっくに使ってるだろうし…一方的にボコられてるだけのコイツに、これ以上できることはないだろうけどねー)
(…て思ってるとさ、またコイツが急になんかやり始めるからねー。それがまた、楽しみなんだよねェ)
ルピは油断をせず、何か予想外のことをやらかしてくるのではないかと常にユージオを警戒していた。それでいて、響転を活用した撹乱による打撃乱舞に対して、ユージオは防御し切れていないという事実はしっかり踏まえていた。それこそが、自身の過ちとも気づかずに。
油断をしなかった”つもり”
警戒していた”つもり”
それでも根本的にユージオを侮っていたルピの傲りが、決定的な一撃を招く事になった。
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「があぁっ!?」
その悲鳴は、ルピのものだった。
先ほどまで余裕の体勢を崩さなかったルピが、苦痛の表情に歪む。
ここまでの苦痛の声を挙げたのは無論、ユージオの一撃によるものだった。
(う、そだろ…? コイツ…)
(ボクの響転を…見切ったのか!? さっきまでロクに目で追えてなかったくせに…!?)
そんな彼が苦悶の表情になった原因は、体の内部まで深く食い込むほどの傷。
ユージオの持つ解放状態の斬魄刀”青薔薇”は、ルピの右足太腿部分を貫いていた。
全くの突然だった。
翻弄されているユージオを嬲るべく、今までと同じように響転を用いて彼の背後に回った瞬間…ユージオの剣が、的確にルピの足を捕らえて突き刺したのだ。この対応は、響転の動きを完全に見切っていなければ不可能な芸当。だが、ユージオが徐々にルピの響転に対応した動きをしてきたといった傾向は全くなかった。最初から最後まで変わらず、ただされるがままに攻撃を喰らうことしかできていなかったはず。こうして響転を扱うルピに一撃を入れたのは、間違いなく突然。
だが、ルピの脳裏に一瞬…不可解なユージオの動きに関しての仮説がチラついた。
(まさか…コイツ、ボクの攻撃を避けきれていなかったのは…
(ワザと響転を見切れていないフリをして、確実にボクの動きを止められるタイミングを見計らった時に…!)
そこまで考えるのに数瞬。だが、ルピは勢いよくその考えを脳裏から追い出す。偶然だ。たまたま、適当なタイミングで狙ったら偶然ボクの足を射止められただけだ、と考えを無理やりに切り替える。最初の考えを認めてしまったら、曲がりなりにも目の前の子供に一本取られたことを、認めてしまうことになるから。
前屈みの体勢になってルピの足に剣を刺して動きを止めることに成功したユージオが、一瞬沈黙した隙に…ルピが語りかける。
「……ふーん、で…君の剣でボクの動きを止めて……どうする気かなァ? このまま、ボクのサンドバックにな…」
ユージオの顔が上がり、強い瞳を宿した表情がルピの視界に入った。
そして…彼の口から、“詠唱”の最後を飾る言葉が紡がれた。
「エンハンス・アーマメントッ!!」
「っ!?」
詠唱が完成したことにより、ユージオの持つ”青薔薇”の能力が、解放された。
バシィィィッ!!と鋭く破裂するような音を伴って、ユージオの持つ剣を中心として一気に氷結の波が広がり始める。最初にルピの右足部分。そこから水の波紋のように広がっていき、やがてルピの立つ地面に。そしてルピの体を這い上がるかのように霜が形成されていく。
だが、変化はそれだけではない。地面に広がった霜からさらに何かが生まれ、ルピの体を目指して伸びていく。その正体とは、氷で形成された
陽の光に美しく反射するその姿は華麗でもありながら、各部に生えた
迫り来る霜と荊の波状拘束を受けつつあるルピは……今の今まで脳裏に欠片も残っていなかったはずの、とある別の死神の顔がゆったりと想起し始めた。
(ああ……そっか。コイツの斬魄刀……”氷の能力”かァ…)
(同じなんだァ…あの
さっき、ルピの心の奥底で微かに燻っていた”焦り”の感情が、綺麗に焼失した。
代わりに……ルピの心の全てを一気に染め上げたのは…
(くふっ……ふふふ…あはっ、アハハハハ…!)
強い、喜びだった。
霜と氷荊が、腹に…胸に…首に。そして、顎にまでその荊が食い込み始めた瞬間。
今まで笑みを浮かべていたルピの口が、言葉を紡いだ。
「
ユージオの体が、突如として荒れ狂った白い霊圧の嵐によって大きく吹き飛んだ。
危うく背中側から地面に衝突するところを、ユージオは何とか体を捻って回避。片手片膝を地について、無防備な体勢で倒れることは何とか防いだ。だが、一体何が起きたのかすぐに把握ができない。さっきまで自分は、破面の足部分を剣にて縫い止めていたはずなのに。それすらも吹き飛ばす勢いで巻き起こった圧の正体が、分からなかった。
だが、白き風の嵐が徐々に薄くなっていった時…正体など考える時間はないと判断せざるを得なかった。
ブンッという空気を重く裂くような音がして、嵐の風が一筋消える。
「アッハハァ……! いいじゃん、いいじゃん! ここまでやるなんてさァ!」
笑い声と共に、白の嵐を”触手”が引き裂く。
「やっぱりキミ……とっても面白い
二本、三本、四本...。
次々と、白嵐を突き破るように、”触手”が展開される。
「解放状態まで見せたんだからさァ…! もっとだよ! もっともっと、ボクの”渇き”を満たしてよねェ!」
否──触手ではなく、”触腕”と言うべき太さの物体が、五本目、六本目、七本目………八本。
ルピの背中に形成された、ギアと生物が融合した回転盤のような物体から大きく伸びる触腕が、合計八本。大木のような巨大さでありながら、その一本一本がまるで独立した意思を持つ純白の大蛇のように力強く蠢いていた。
歪な人型と化したルピの体。
その体には、先ほど身にまとわりついていた霜も、氷の荊も消滅していた。
それ以前に今までユージオがつけてきたはずのいくつもの刀傷までもが、
*
*
*
鉤状の突起がついた触腕が一本、大きくうねりながらしなり、鞭のようにユージオへ迫りくる。
もちろんその大きさは、一般的な鞭とは到底比べものにはならない。
「っ!」
体を横にしての回避に成功。だが、ユージオにはそれを喜ぶ暇など当然与えられない。避けた触腕が空振りして大きく地面を打ち鳴らすのとほぼ同時に、二本目の触腕が横なぎにユージオの元に襲いかかる。
姿勢を低くすることで、頭頂部を触腕がかすっていくも、回避。それと同時に足を踏み出して、破面に向けての距離を詰めようとした瞬間に、目前の位置に向けて三本目の触腕が垂直に振り下ろされる。なんとか上体をそらしてギリギリの回避をするが…今度は両側から挟み込むように四,五本目の触腕が…!
「ぐっ…!」
とっさにユージオは、勢いよく地面に剣を突き刺し、その反動をも利用して地を蹴って浮かび上がる。まるでサーカスか何かのごとく、地面に刺さった剣を握ったままの片手一本での空中倒立に成功する。まがりなりにも死神の素質を元にした身体能力と、少ないながらも死神としての特訓の成果が反映されたものだった。
二本の触腕は狙いを殴打すること叶わず、地面に刺さった青薔薇の剣に勢いよくぶち当たる。もろに刃の部分に触腕が接触したにも関わらず…触腕には傷一つつくことはなく、逆に倒立状態で剣の握り部分を持つユージオにまで、触腕の打撃による衝撃が痺れるように、手に、腕に響いてくる。
だけど、その痺れに臆している暇はない。
痺れる腕になんとか力を入れて腕を曲げ、体をすぐさま地面の上に戻す。が、数瞬に満たないその時間でも戦闘では遅すぎた。ユージオの腹部に六本目の触腕が叩き込まれるのと、地に足がついたのがほぼ同時。
「があ、はっ…!」
その重みは、今まで素手のルピから受けてきたものとは比べものにならなかった。踏ん張ることが、できない。せっかく地についた足が空をかく。だが、足でとどまることができずとも…まだ半分痺れの残る腕が、地面に刺さった青薔薇の剣を握っていた。それで踏みとどまる…いや握りとどまることが、できれば。
だがそんな願い虚しく、青薔薇の剣は伝わる触腕の衝撃に負けて地面から抜けてしまった。かろうじてその手の剣を離さなかったのは幸運と言えど、ユージオの体は大きく吹き飛んだ果てに壁に背中から激突した。
立ち上がることが、できない。
激突した壁にそのまま寄りかかるように、脱力。頭が、項垂れる。
力が、入らないのだ。腹部へのたった一発の衝撃が、全身の臓器と骨に痺れと痛みを大きく伝動させて…
『立つんだ! 早く! 次が来る!』
溶けこんだ意識のもう片方が、警告を促す。それは自分の声でありながら、もう一人の自分の声でもあった。その声と同時に、バッとユージオの体が素早く起き上がった。まるで、全身に響いた痛みが一瞬で消滅したかのように。
二本の白き巨大な触腕が、既に目前にまで迫っていた。ギリギリ、手に持った剣の攻撃範囲に入るか入らないかという距離。触腕がその範囲に入る前の微かな時間で、ユージオの振り上げた青薔薇の剣が、より一層深い光を纏い始めた。
───アインクラッド流…!
「う、おおおお──ッ!」
喉奥から振り絞った声と共に、攻撃範囲に入り込んだ一本目の触手の先端は、ユージオの垂直斬りを喰らうことで力なく地面に落ちる。ユージオの使ったその剣技は単発垂直斬である”バーチカル”…ではない。
同時に迫り来る二本目の触腕に対応するための……アインクラッド流の真髄に値する剣術。
垂直に振り下ろし終えたはずの青薔薇の剣に纏う光は、いつも通りに消えるどころかより一層の輝きを放ち、跳ね上がった。
───
垂直斬りから、瞬時に斬りあげる二連撃技。合わせてV字の軌跡を描くその剣技によって、ユージオはルピの二本目の触腕の先端をも切断してみせた。先端を切られ二又となった触腕は、だらりと屍のように地面に横たわることとなった。
だが、その瞬間に…新たな触腕が横なぎにユージオを吹き飛ばした。
「ふうん…ま、一本の剣でも二本まではなんとかできるってとこかなァ」
横からの衝撃に吹き飛びながらも、今度はしっかり地に足をつけて踏ん張ってみせたユージオを少し感心した表情で見つめるルピ。その背中では、先ほどユージオが先端を切った触腕をも含めて八本。傷跡は残ったままだがさっき屍のように横たわっていた触腕までも、また何ごともないように背中で生き物のように蠢いていた。
「でも ま…三本目は流石に無理ってことだよねェ。いや…こうやってキミをちょっとずつ虐めてけば、また三本目、四本目と対応できるようになるのかなァ?」
「それでそのうち、ボクの八本全部捌けるくらいに成長しちゃったり…? アハハ、あの弱っちかったキミがそこまで成長できるとか……想像しただけで楽しみすぎるよねェ! やってみよっかァ!」
興奮を隠さぬ声を上げたルピ。その背の触腕が三本、空に向かって勢いよく伸びたかと思えば、そこから急降下。天から降り注ぐ大砲の弾のごとき勢いを持って、ユージオの元に降りかかる。
だが…今度ばかりは、ユージオも後手に回ることはなかった。
激しい音と共に地面が抉られる……より前に、疾駆のごとく白の攻撃から抜け出る影。
体を低く傾倒し、疾風のように走るその影と共に線引く、青白色の光。
(うわ、はやっ…!?)
剣の動きでもなく、ユージオの体そのものの駆ける動きが。『速い』と、ルピはとっさに感じた。一瞬で見積もったその動きはいわば、『自身の響転の一歩手前』とでも表現できるほどのスピードだった。確かに速いが、瞬歩にも響転にも劣る程度のスピードなら、ルピにとっては見切るのも本来は容易なはずだった。だが、突如として急激な加速を持ってして動かれては、咄嗟の反応も遅れて…
───アインクラッド流 下段突進斬 レイジスパイク!
右下から斬りあげる光を伴ったユージオのその剣だったが、それを食い止めるためさらに上から降り注いた三本の白き触腕が剣だけを的確に狙って、勢いよく地面に叩き返した。轟音が響き、地面に剣が大きく食い込む。それに伴って、ユージオの突進も強制的にとどまらざるをえなくなってしまった。
ルピは、相変わらず楽しげな表情のまま言葉を紡ぐ。
「一体いくつ光る技があるのさ…キミ。ま、距離を詰めるスピードは速かったけどねェ…甘いよ」
「有り余って暇なくらいボクには腕があるんだから、一つ 二つ不意をついたところで、結局は三 四本の腕で止めればい……!?」
ルピの言葉が不自然に止まったのは、その異変に気づいたから。
なんだか、剣を抑えている三本の触腕から違和感を覚えた瞬間…青薔薇の剣から発生した氷の荊が触腕を纏い、伝わるように急激な展開を始めた。
「なっ!?」
咄嗟にルピは、剣を抑えていた三本の触腕を剣から離す。だが、ユージオがそれに応じる形で動き出した。地面に食い込んでいた剣を力で引き抜き、動かして…三本の触腕のうち一本を追いかけるように、剣を斬り上げて触腕に向けて斬りあげる。他の二本の触腕は剣から離れた時点で氷の荊の侵触は止まったが、ユージオが追いかけて剣を振るい接し続けた一本の触腕に伝う荊は止まることなく…
ほぼ一瞬とも言えるスピードで、一本の触腕は先端から背中部分までの根本まで、完全に氷の荊と氷の皮膜に覆われた。
「……」
ルピは氷に覆われた自身の触手の一本を仰ぎみる。感触を確かめる。…動かない。
(…ふぅん。このままじゃ動けそうにない、か)
凍った触腕から意識を外したルピは、目の前のユージオの様子の観察に戻る。
接近したのは自分を斬るためではなく、最初からこれを狙って…?
「……接近した敵から身を守ろうすると、触腕を短くせざるを得ない」
「それなら、氷で封じるのも速く…簡単にできる」
「…ん?」
小さなユージオの呟きが、ルピの耳にも届いた。
「破面……お前は、行ったよな。八本全部に…僕が対応できるように、成長するかもって」
「…ああ、そうだねェ。もちろん、キミには期待して…」
「そこまでの動きは…僕には到底、できそうにない」
「へ?」
まともに話し始めたかと思いきや予想外の否定をされ、ルピはコテンと首を傾げる。
ユージオは基本の剣道の構えに忠実に、まっすぐ青薔薇の剣を構えつつ…
視線も共にまっすぐ、敵たるルピを見つめ直した。
「だから、その八本を全部、封じてやる。
…一度だって、僕の仲間に手を出させないように……お前を、止める!」
力強く紡がれた、その言葉。
ルピは一瞬だけ呆気にとられたように驚いたが…カラカラと、軽そうに笑ってみせた。
「いいねェ……いいよ、それでも…! ぜひ、やってみなよォ! キミの氷が
「っ……!」
煽るようなルピの言葉の後半部分を聞き取ったユージオは、奥歯をギリと噛みしめた。
あの言葉…おそらくあの破面には、バレてる。青薔薇が生み出す氷の限界を。
それでも、ユージオには…他に道はなかった。
原作の表記例→アインクラッド流 二連撃技 バーチカル・アーク
本作の表記例→アインクラッド流 二連斬 バーチカル・アーク
本作で表記が変わってる理由→院生のユージオ君のセンスで分類名をつけてるから
今回の文字数は10290文字でした。読者としては読みやすさはどうですか?
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1話にしては多すぎる。字数を抑えて欲しい
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1話にしては多いと思うがこのままでいい
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1話の文字数としてちょうどいい
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1話の文字数としては少ない。増やしていい