元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

35 / 68
なんの前触れもなく実施したアンケートに、ご協力ありがとうございます。
今回もですが、またちょくちょくアンケートする可能性があります。

ご協力いただけると今後の執筆の参考となり、大変嬉しいです。


第三十四話 Blue rose and Ice dragon

凍雲(いでぐも)

 

(そで)(のしら)(ゆき)

 

そして…ユージオの持つ青薔薇(あおばら)

 

 

今世代の尸魂界にも、氷雪系の斬魄刀を持つ者は何人も存在する。

だがその氷雪系の斬魄刀の中での”最強”とは、決して揺らぐことのない一つの存在が、永遠に君臨し続けている。

 

 

ユージオの恩人の一人でもある十番隊隊長 日番谷冬獅郎が持つ斬魄刀 “氷輪丸”

 

 

その”最強”とは、決して伝統的な語り草の一種ではない。

氷輪丸はその最強の名にたがわぬほどに、他の氷雪系とは 劃然(れきぜん)とした力の差があった。

 

 

最強たる氷輪丸の能力。それを表現するにあたってはとても単純。二つの力に分けられる。

一つは、四方三里に及ぶ広範囲の天候を支配する” 天相従臨(てんそうじゅうりん)”の能力

もう一つは、大気中に含まれる水分()()を用いて、氷を生み出す能力

 

 

この後者の能力こそが、氷輪丸が”最強”たる所以(ゆえん)。他の氷雪系の斬魄刀も氷や雪を生み出すことはできるが、それらは全て自身の霊圧を基にして生み出しているに過ぎない。それに対して氷輪丸が生み出す氷は、大気中に無尽蔵に存在する水分を基にしたもの。霊圧消費の少なさ、氷の生成効率などは当然比べものにはならない。それに加えて、広範囲天候操作能力である天相従臨を用いれば、氷を生み出す元となる大気中の水分すら、自在に増やすことも容易である。

 

 

単純かつ、大質量の氷生成及び操作、凍結能力。

最強の名前を冠するのには、それだけで充分であった。

 

 

つまり……恩人の隊長が持つ最強の斬魄刀とは違い、ユージオの持つ斬魄刀 ”青薔薇”の生み出す氷の荊は、全て彼自身の霊圧を基に生み出さなくてはならないということ。

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

ルピの触腕八本全てを、青薔薇が生み出す氷の荊で封じ込める。

言うは易く、行うは難し。作戦は単純なれど、そう簡単には行かないことだった。

 

まず、この作戦を行うとなると…アインクラッド流秘奥義はしばらく使えない。確かにユージオの扱う剣術は驚異的な威力を持つが、その代償として発動後の”硬直”がその体に襲いかかる。時間にして1秒かかるかかからないかと言ったところだが、そのような隙間時間さえも縫って、破面の触腕は貪欲にユージオを狙い撃ってくる。八本の触腕に同時に対応できる秘奥義があれば別だが、”今の”ユージオにそのような剣術は使えない。

 

なので、迫り来る触腕に対しては基本的に回避を徹底する。それでいて、視線を触腕から逸さないままに思考を働かせ、覚えていく。触腕の動き、癖、速さ、威力…それは別に、雨涵の分析のように事細かくする必要はない。大体でいい、感覚でいい。咄嗟の判断に活かせるだけの情報さえ、頭に残ればいい。

 

だが、ただ避けるだけで手に入る情報というものは限界がある。

移さなくてはならない、行動に。攻撃に。

 

 

「はあっ!」

 

 

気合と共に、触腕に向けて剣を振り下ろすユージオ。当然それは秘奥義ではなく、ただの純粋な垂直斬りに過ぎないが…それでもほんの小さく剣が触腕に食い込んで動きを抑えたその瞬間、先ほどと同じように氷の荊と皮膜が波のように触腕に纏わりついていく。だが、無論それを黙って見過ごすルピではなく、氷の浸食を止めるべく発生源のユージオを吹き飛ばさんと、三本の触腕がさらに彼の上空から降り注ぐ───

 

 

「っ…破道の十二 伏火(ふしび)!」

 

 

ユージオの言霊の宿った叫びに応じて、彼を囲むように網状の霊圧が展開されていく。破道の中でも珍しい、防御や拘束に転用できる縛道寄りの鬼道だ。だが、その小規模な縛道では触腕三本分の勢いを満足に止めることはできず…最初に伏火の壁を抜けた横薙ぎの触腕がユージオの右肩を殴打した。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

骨にまで響くような痛みに歯を食いしばり、痛みを押さえ込むことに強く意識を寄せることで”心意”が作用し、すぐに体が元通りに動けるようにはなる。一人では抑えきれなかった痛みも()()()の心意なら、抑えて戦える。所詮、先送りにするだけの応急処置だとしても、戦い続けるためにはこうするしかなかった。だが…結局攻撃は食らったとはいえ、破道を使ってまで微かな時間を稼いだかいは、確かにあった。

 

 

ルピの展開する二本目の触腕が、氷の荊と氷そのものに覆われ固まっていた。

 

 

「……」

 

 

ルピはチラリと、凍った二本目の触腕に視線を向けたが…すぐにユージオにその目を向けると、残り六本の触腕を振るい始める。ユージオは再び必死の回避行動を始める。それと同時に彼の脳内で、今の行動で得た情報を反復する。

 

 

(今の...! 触腕一本を、氷で完全に止められるまでの時間は大体4秒とちょっと…)

 

『やっぱり、最初の短い触腕を止めた時に比べて時間がかかる……けど、さっきと同じように秘奥義で接近する手は多分、もう通用しない。秘奥義後の硬直を狙われたら、再起不能になるくらいの攻撃を負いかねない…!』

 

(一番の安全策は、さっきやったように鬼道で隙を作ったその時を狙って、触腕を封じることだけど……)

 

(僕の霊圧が、そこまで、持つか…!?』

 

 

二人分の思考が、素早く意見を交わし合う。二人の意見が一人の思考として融合していく。

鬼道を使えば、当然霊圧を消費する。そして氷の荊を展開するのにも、霊圧を消費する。鬼道の撹乱を交えた手を使うとして…果たして、残り六本分の触腕を封じるまで……耐えられるか否か。

 

そこまでユージオが考える間にも、触腕の攻撃は心なしか激しさを増してきている。ただひたすら避け続けるだけでも、限界が近づいてきていることを、ユージオは肌で感じた。

 

 

 

(考えている、暇は…もう、ないっ! やるしか──ないんだっ!』

 

 

 

一体化した思考を胸に、ユージオは触腕の回避を続けなからも左手で霊圧を練り始める。合間を縫って縫って、縫い続け…とある攻撃の一瞬の合間を狙い、握っていた左手をルピに向かって開く。

 

 

「縛道の十八…! 閃響(せんきょう)!!」

 

 

開いた左手から一気に、眩いばかりの光が爆発する。閃光弾の如きその光は、それなりに距離がある先のルピの瞳すらも眩ました。当然至近距離にいるユージオの目も本来は影響を受けてしかるべきだが、事前に目を閉じることができればある程度自分への影響は少ない。

 

そして…本体のルピが目を眩ましている間、触腕の動きは鈍くなる。絶好の隙となる。

 

 

青薔薇、とユージオが心で叫ぶ声に呼応して荊の展開が始まる。

パキパキと硬くひび割れ、グッと強く押さえ込むような音が響き渡り、

 

 

ルピの三本目の触腕は、鬼道で展開した光の四秒の間に凍てついた。

 

 

 

残り、五本。

 

 

 

だが目眩しの光が収束するのを機に、残りの触腕の動きがより活発化した動きで襲いかかる。速い。地面を叩く音が、明らかに激しい。響く。耳に、響くその音が、警告を鳴らす。これ以上、食らうのは……あの動きの触腕を食らったらもう、ダメだと。

それに、ここまで三本の触腕を封じて、ようやく分かった。このペースで一本一本封じていては、残りの触腕を封じるまでには、到底自分の霊圧が持たない…足りない!

 

 

(何か…考えないと……! より早く、一度に……多くの触腕を封じないと…!』

 

 

体勢を低くして、触腕を避ける。だけど、頭頂部をかする感覚が明らかに大きく響く。あと数ミリ姿勢を低くできなかっただけで、頭部へ大きなダメージが来るだろう。文字通り、一寸先は死を直感させる。

 

 

(何か…何か…! 鬼道ならなんとかできても…霊圧消費の効率が悪いし、これ以上やるのは流石に霊圧が足りない…!』

 

 

距離が開く。とてもじゃないが、近づけない。

近づこうとすれば、荒れ狂う五本の触腕が一瞬で自分を叩き伏せにくるだろう。

今までは見えていた、触腕の振るう合間が…見えない!

触腕は三本も減っているはずなのに……どこにも、近づける隙間が見当たらない…!

 

 

(そもそも…鬼道で隙を作ってから、

青薔薇を発動させようとすること自体が…時間の無駄になる……!』

 

(ここの時間さえ、どうにか短縮できれば…速く、多くの触腕を氷で封じることも…!』

 

 

 

これ以上、距離を取られて触腕を伸ばされては、

ますます封じるのが難しくなるばかり…!

 

 

 

(何か…他の手を……!』

 

 

 

そこまで思考したその瞬間、ユージオの視界に映る触腕の動きが、大きく広がった。

 

 

「ねーェ…そろそろ、いいかなァ?」

 

 

破面の…ルピの、声がする。

 

 

「僕さァ…一本一本ゆっくり凍らせてあげるほど、お人好しじゃないんだよね」

 

 

五本の触腕の動きが、揃い始める。”同時に”ユージオを囲うように旋回し、狙いを定める。

 

 

「キミが”その程度”しかできないならァ……終わらせちゃっても、いいよねェ?」

 

 

一本は、ユージオの頭頂部を狙い真上に。

ユージオの右胸を突き通そうとする二本目。

右から横薙ぎに薙払おうとする三本目。

左肩を打ち砕かんとする四本目。

血を流しているユージオの右目を穿たんとする五本目。

 

 

今までは三本同時攻撃がせいぜいだったのに…

ここにきて、ルピは五本同時の攻撃の宣言をしたも同然。

 

獲物を狙い定める大蛇の如く、ユージオの目の前で五本の触腕がうねる。

 

 

本気だ。

破面は本気で、自身を仕留めにかかっているのだと感じた。

 

 

(五本同時の、攻撃……! まずい、これは…避けきれない! 完全に囲まれている!』

 

(どうする…!? どこか、どこか…合間を! それとも、突進斬の秘奥義を使って、囲みから抜け出て…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや、待って……!)

 

(これは、好機(チャンス)かもしれない…)

 

 

『…え?』

 

 

 

融合していたはずの二人のユージオの思考に、枝分かれするような分断が起こった。

あくまで枝分かれのようなものなので、根本は一人に融合していることは変わらないが…

一人と一人の思考として一時的に分たれやすくなっていた。

 

 

この危機的状況を、好機として捉えた”声”は…

 

 

(僕に、やらせて。兄さん…いや、ユージオ)

 

『…だけど、ここで対処を間違うことがあったら……もう』

 

(知ってる。でも…お願い。考えがあるんだ。きっと、僕なら…できる)

 

『……分かった。キミに任せるよ、ユージオ』

 

 

 

院生ユージオの、声だった。

 

 

 

院生のユージオの記憶”のみ”を頼りとして、動き出す。

右脚を引き、剣を後ろへ持っていきながら集中を繰り返すその動き。以前一人でやっていた時に比べ、何度も経験した体が覚えているために、動きはとてもスムーズだった。だが、それでも戦いの最中では遅いくらいの時間。

 

 

ルピの操る五本の触腕が、一斉に動き出した。

 

 

 

 

ユージオのとった構えは、自らが最初に習ったアインクラッド流秘奥義 “ホリゾンタル”

だが、いくら速度と威力を伴った水平斬りと言えど、五本の触腕が織りなす暴力的攻撃をいなせる訳はない。

 

 

もちろん、院生ユージオはそれを重々承知している。

彼が自らの心と同調した青年ユージオに語った”考え”とは、ただ秘奥義を放つことだけではない。

 

 

院生ユージオが頭に思い浮かぶイメージ。

そのイメージの力が”心意”となりて、秘奥義発動に繋がる。

 

 

 

───アインクラッド、流……!

 

 

 

ただし……院生ユージオがイメージしたのは、

剣術についてのイメージだけでは、なかった。

 

 

 

───秘奥義・

 

 

 

氷を想い…荊を想う。

大きく、広く…育つように。

護るべき者を、護れるように。

 

 

彼のイメージが、”心意”が。

剣を纏う光だけではなく、全てを凍てつかせるような冷気となりて、青薔薇の剣を包み込む。

 

 

攻撃範囲に入ったその瞬間。

ユージオの体が、弾むように動き出した。

 

 

 

 

「う、おおお──ッ!」

 

 

───氷壁展開斬 ホリゾンタル・プロテクション!!

 

 

 

水平なる青き閃光と共に振り抜かれた剣。

その軌跡をなぞるようにほぼ一瞬で…ユージオの正面を大きく覆うような氷の荊の壁が、目の前に広く展開された。

 

 

 

 

バギィィィ、という鈍くも甲高い音を立てて、ルピの五本の触腕が氷の荊を突き破った。

 

 

「…!?」

 

 

ルピは驚く。当然だ。既にこの戦闘中二回は見慣れた技を放ってきたかと思いきや、

その剣の動きをなぞるかのような凄まじいスピードで、氷の棘が壁のように生成されたのだから。

 

このような現象は、初めてだ。

 

勢いが止まることなく壁に突き刺さった五本の触腕。氷の棘に覆われた向こう側のユージオの姿は、ルピには見えない。だが、触腕の先の感触から、壁の先のユージオを仕留められていないことをルピは感じ取った。思った以上に分厚く展開された氷の荊を前に、触腕の威力は大きく落ち、「止められた」と言っても過言ではない状況に陥った。

 

 

ルピは、再攻撃のために素早く触腕を引き戻そうとする…が、動かない。五本とも。

いや…動かさせる訳には、いかなかった。この機を逃せば、このチャンスを逃せば…自分の負けだ。

 

 

勝つか、負けるか……その分かれ目は、今しかない…!

 

 

 

『青薔薇────!」

 

 

 

“二人の(あるじ)”の声に応じて、青薔薇が動き出す。

否──正確に言えば、動き出したのは既に展開したはずの氷の荊壁。

 

氷が、動き出す。まるで本物の荊のように。

広範囲に広がっていた荊が、収束していく。花の花弁が閉じるかのように。

多量の棘が、五本の触腕に向かって一斉に纏わりついていく。

 

 

だが五本同時にとなると、今までのようにスムーズにはいかない。

当然、ルピの触腕が抵抗を始める。三分の一ほどの長さを抑えつけられていてもなお頑強にうねり、引き、貫かんとする。氷の荊に、いくつかのヒビが生じ、パラパラと氷が粉となって剥がれ落ちる。

 

 

 

 

(──負けるな!』

 

(──負けるな、ユージオ! 負けるな、青薔薇!』

 

(──ここで負けて…大切なものを、失う訳には……いかないんだ!』

 

(──勝って…あの破面に勝たないと……死神として、剣士として…立ち上がるために!』

 

 

 

 

「凍……れぇぇぇっ!!」

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

ルピは、目を見張った。

氷の荊の侵食スピードが、文字通り瞬く間に一気に広がった。

そのスピードを前にルピが抵抗を続けるより早く、五本の触腕は同時に強く輝く荊の波に凍てついた。

 

 

 

 

だが、それと同時にユージオは片膝をついた。

額には玉の汗が浮かび、激しく短い息を何度も繰り返す。喉はいつの間にかカラカラで、声を出すのすら難儀するほどだった。足にも力が入らない。なんとか地についた片膝を浮かせてもみても、生まれたての小鹿のようにガクガクと震える。手に握った青薔薇が、汗で滑り落ちそうだ。

 

急激にユージオを襲った疲労状態を示す現象。明らかに、霊圧枯渇が原因だった。秘奥義と同時に氷の荊を壁として生み出し、それらを操作することで、五本同時に触腕を封じるという行為。言葉にして書けば簡単なれど、その行為はユージオの霊力を、霊圧をほぼ失わせるほどの大掛かりな技だったのだ。考えてみれば、当然の帰結。

 

 

それでも…ユージオにはその当然に甘んじていることは許されなかった。

 

 

 

 

「うっ、ぐ……く…あ……が…!」

 

 

 

 

(──立て! 立つんだ!』

 

(──触腕を封じれたって…ここで倒れたら、なんの意味もないんだ!』

(あいつは、もう、動けない……今しか…チャンスは……』

 

 

 

 

 

「……ないん…だっ!」

 

 

足の震えを押さえつけ、二人の意識が互いに互いを叱咤し…体を、起き上がらせる。

顔を上げる。目で、倒すべき敵を、見据える。いる。視線の先に。動いていない。動けないんだ!

ここまできた。自分の手で、一太刀をいれる。自分の意志で。

殺すためではない。止めるために。二度と、あいつに。仲間に、大切なひとに。

 

 

手を出させて、なるものか……!

 

 

ユージオは、構えを取る。湧き上がる激情とは対照的に全身の力を一度抜き、右手の青薔薇を右肩に乗せるかのような位置で、固定する。剣の直線上の先にいる破面に狙いを定めるスナイパーの如く。距離は遠い。触腕を交わすまでの間に随分距離を離されてしまったからだ。

 

 

だけど、届く。

この秘奥義なら10メル先、10メートル前後の遠間(とおま)からでも、とんでもない勢いで打ち込める。

 

 

これが、最後だ。

体も限界。発している自身の霊圧も、もはや最後の灯火と言っても過言ではない。

酸素も足りない。短い息が止まらない。

水分も足りない。カラカラに乾いた喉が苦痛を刺激する。

 

 

だが、いかに苦しくとも。

 

いかに限界が近づいていようとも。

 

この後に、自分にどのような結末が訪れていようとも。

 

 

 

この一太刀だけは……決して…!

 

僕の……心に懸けて…!誇りに懸けて…!

 

 

 

打ち込んで…見せる!

 

 

 

ユージオの剣を包み込むのは、黄色がかった緑色の激しい輝き。

 

 

 

 

 

───アインクラッド流……!

 

 

 

 

 

「はああああ────!!」

 

 

ユージオの体が弾かれたように飛び出した。

 

 

 

 

 

───上段突進斬ッ!

 

 

 

 

 

破面との距離が、急激に近く。

8メル。 6.5メートル。  4メル。 2メートル。

 

届く…! 間に合う、打ち込める……!

 

 

 

 

 

 

───ソニックリープ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォン

 

 

「がっ……!?」

 

 

 

その距離。約1メートル。

ユージオの最後の剣は……敵に届くことなく、地に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

ユージオの視界の端で、手に持った剣の光が急激に失せていくのを見た。

そして彼の体もまた、うつ伏せに倒れ込んだ。

 

 

背中が、焼ける。

音はせねども、強くヒリヒリと今も火をつけられて燃えているかのような痛み。先ほど、突如として背中に襲ってきた”衝撃”の痛みが、ユージオの皮膚を剥がし、焼いているかのごとき痛みを与えているのだと、本能的に察した。

 

だけど、分からない。

なぜだ? どこから、攻撃が飛んできた?

 

触腕は、全て、封じたはず……。

 

 

 

 

「あ〜ァ…怖かったねェ」

 

「まーさか、八本全部氷づけにされるとはねェ…その上、とーっても速く飛び出してくるんだもん。ボクもう、怖くて怖くて…さァ」

 

「思わず、虚弾(バラ)を使ってキミを止めちゃったァ…ごめーん、ネ?」

 

 

 

虚弾(バラ)

ユージオの耳に届いたその言葉。だが、理解が…追いつかない。分からない。

体が…動かな、い…。

 

 

 

「ボクさァ、直接いたぶっている感触が好きってだけで…別に遠距離攻撃ができない訳じゃないんだよねェ。むしろ得意? って感じー」

 

「虚弾っていうのは、ま、霊圧固めた弾丸って言えば早いかなァ。スピードだけがウリで、大した威力じゃないんだけど…キミにはちょっと痛かったよねェ…無理せず、そこで大人しく倒れていた方がいいよォ。いくらキミでも、これ以上は……」

 

 

 

そこまで言ったルピの言葉が、突如止まる。

1メートル先のユージオの体が、動き始めからだ。

 

 

 

 

───心意を。

 

───心の意志を、強く持て。

 

───まだ、動ける。僕は、動けるんだ…!

 

───動いて、戦え…敵は、すぐ、目の前、に…!

 

 

 

 

足に入れた力が、体を浮き上がらせる。

腕に入れた力が、上体を起こす。

 

立ち上がり、体がフラリと揺れる。

上がらないはずの腕も…全力で、上げる。

その動きは、緩慢と言えるものであった。

 

 

それでも…構えを、取る。

目前の敵を、破面を、倒すために。

 

 

 

───アイン、クラッド…流……

 

 

 

 

ドガ

 ドゴ

ドガ

 

 

 

「ぁ………!」

 

 

ユージオは、崩れるように倒れ込む。

 

 

肩に。

 

首に。

 

胸に。

 

 

三度までも虚弾を食らい、焼けつくような痛みが全身にまで苦痛を広げ…

もはや二人分の心意でもどうしようもできないほどの苦しみを前に…ユージオの体は、もはや立ち上がることままならなかった。

 

 

 

「あーあ…だから言ったのに……バカだなァ」

 

 

 

凍った触腕の先から追撃の虚弾を三発も放った張本人、ルピは半ば呆れたような口調のまま、聞こえているのか聞こえていないのかも分からぬまま、目前で倒れ込むユージオに話し続ける。

 

 

 

「キミってさァ…こーいう時には生意気に抵抗する癖に…自分に都合のいいことに関しては素直だよねェ」

 

「……虚弾を撃ち込まれても…目の前にボクがいれば斬れると、本気で思ってた? 触腕を封じているんだから、早く光る技さえ出せれば勝てると、本気で思ってた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当に、ボクの触腕を完全に封じ込めていると……本気で思ってたわけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルピは最初、ユージオの氷の荊によって触腕の一本を封じられた時…こう思った。

 

 

()()()()じゃ動けそうにない、と。

 

 

このまま、とは。

ただ動かそうとすることだけ考えて動かそうとしても、無理だったということ。

 

 

 

では…ただ動かそうとすることだけ考えるのではなく、

()()()()()()ために動き始めたら……どうなるか。

 

 

 

 

 

 

ルピの八つの触腕に、強い霊圧が込められる。

それにより…触腕が大きく膨張を開始する。

 

 

初めは、氷に阻まれてなんの変化もないように思える。

だが…ほんの10秒ほどで、その前兆が現れる。

 

ヒビが入る。音が発生する。

パラパラと降る、氷の粉塵。

 

 

 

 

 

やがて、ルピの頭上…ユージオの上空で鳴り響く、甲高く断続的に響く音。それは……触腕を覆っていた氷の荊が次々と割れ、砕け、散っていく音。

 

 

 

 

華麗に日の光を反射して降り注ぐ氷の欠片。

雪の如く降り注ぐそれは、ユージオにとってこの上なく残酷なものであった。

 

 

 

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

 

 

「いやァ、見てらんないんだよねェ。弱いキミが、ボクに勝てる可能性に目を輝かせてんのが…勝とうと思ってることがさァ」

 

「最初っから…そんなの、あり得ないのにねェ」

 

 

ルピは顔を上に向けた状態で、そう呟いた。

上に向いた視線のその先では…触腕にぐる巻きにされ、宙に吊るされ浮かんでいた。

 

 

下がって項垂れるユージオの頭。触腕の下からブラブラと力なく揺れるユージオの足部分。一見すると、完全に気絶しているように見える。だけどルピは、見逃さなかった。未だに青薔薇の剣が地に落ちていないこと。

 

 

ユージオがなお、自身の斬魄刀を握り締め続けていること。

 

 

 

「…まさか、まだ勝てると思ってるなんて……いくら頭の中お花畑でも、そんなワケないよねェ。何考えてるの、キミ? なんで…諦めないの?」

 

 

 

グラリ、と吊るされたユージオの体が触腕によって揺らされる。それに応じる形で…ユージオの頭が、動き始める。

 

 

その顔の、眼の、視線が…ルピを捉えた。

 

 

 

 

 

「言、った……だ、ろ…」

 

「決し、て…お前か…ら、目を…離さない…!」

 

 

「勝つ…勝たない、と……」

 

「たたか、って…みんな、を…護る…ん…だ…」

 

 

 

 

 

その眼は、死んでいなかった。諦めていなかった。

絶望的な力の差を目の当たりにしてもなお、消えない闘志。

 

 

恐怖を感じぬ程混乱しているわけでもない。

だが、命を捨てた眼もしていない。

 

 

 

勝てるつもりで戦う訳ではなく、

勝たなければならないが故に、戦う。

 

 

 

それは、ルピにとっては戯言で、理解の外であった。

 

 

 

 

 

「……もういいや。キミはもう、変なことしか言えないみたいだし…」

 

「もっと遊びたかったのは山々だけど…これ以上遊んでるせいで、また電撃食らうの嫌なんだよねー」

 

 

ユージオを吊るす一本の触腕とは別に、二本目の触腕がユージオに伸びていく。その触腕の先が、シュルシュルと音を立てて細く伸び…一般的な紐なみの太さになる。

 

 

「お疲れ様。とっても、楽しかったよォ………おやすみなさーい」

 

 

紐並みの太さとなった触手が、ユージオの首回りに巻きついた。触手は、緩やかかつ強く…彼の首元に存在する頚動脈洞を圧迫する。

 

 

 

彼のその瞳に宿る、消えない闘志を失わせるための、白き魔の手。ユージオは…もはやそれに抵抗する術を持たない。

 

 

 

最後に残っていた闘志ですら……消え失せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霜天に坐せ!『氷輪丸』!!」

 

 

 

 

 

囚われてた青薔薇を救うべく、氷の竜の咆哮が轟いた。

 

 

 

 




アインクラッド流 秘奥義・改 氷壁展開斬 ホリゾンタル・プロテクション
        ↑
   完全な院生ユージオ君のセンス

最近特殊タグを用いて太字や中心文などを使用しています。読者として読みやすさはどうですか?

  • 特殊字は読みにくい。全部普通の字がいい
  • あまり支障はないが特殊字は控えた方がいい
  • 今くらいの使用頻度でも普通に読める
  • もっと太字や中心文を使用してもいいと思う
  • 色文字など更に色んな特殊字を使って欲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。