元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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これから準備回が続くので穏やかって、お伝えしましたね?
すんません あれ 嘘言いました


第三十七話 Sudden test from captain of 5th Division

「試験開始15分前となった。教科書はしまえ。筆箱の類もだ。筆記用具だけが机の上にある状態にするんだ」

 

「まず最初に、解答用紙を配る。マークシート式のものと、記述式のものの二種類だ」

 

「それじゃ、筆記用具を持て。お前ら二人にはマークシートの記入を行なってもらう。記入箇所は、今日の日付 氏名 性別の欄だ。マークは記入例の通り、かつ良い例のようなマークを行なってくれ」

 

 

 

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「…よし。終わったようだな」

 

 

「解答する時も同じように、マークシートの番号と解答番号をよく確認し、マークするように」

 

「問題の内容に関する質問は一切受け付けない。各自で判断しろ」

 

「ただ、問題冊子の落丁、乱丁、印刷不鮮明があった場合は、遠慮なく申し出てるように」

 

 

「これは言うまでもないことだろうが…辞書、参考書の使用は禁止だ」

 

「受験者同士の用具の貸し借りも禁止となる。今のうちしっかり筆記用具は確認しとけ」

 

「体調が悪くなった場合も、遠慮せず申し出るように。試験より、自分の体調を大事にしろ。特に…気をつけるべき奴は、自分で分かってるだろうけどな」

 

 

「さて…そろそろ、問題冊子を配布する。指示があるまで、開いてはいかんぞ」

 

 

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「まず…問題冊子の表紙に氏名の記入欄がある。筆記用具を持って、記入欄に氏名を記入してくれ。記入が終わったら筆記用具を置いて、問題冊子表紙にある注意事項をよく読みながら待機してくれ」

 

「……………よし、読み終わったか。…もうまもなく、試験開始時刻となるな。ああ…それと、問題冊子は持ち帰り不可だ。回収する予定だから、そのつもりでいてくれ」

 

「試験終了30分後から終了5分前の間は、退室可能時刻となる。退出を希望する奴は、該当時刻以内に挙手をするように。その際は俺が二種類の解答用紙と問題用紙を回収する。その後は静かに退出するように。一度退室した後の再入室は不可だから、忘れ物をしないようにな」

 

「それでは、俺が合図をするまで…手には何も持たずに、待機」

 

 

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「よし、時間だ。試験開始!」

 

 

 

 

 

 

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「お…終わったか。二人とも、お疲れ様」

 

 

そわそわ そわそわ

 

 

「これからどうする? ちょうどお昼頃だし…昼飯にいくか」

 

 

そわそわ そわそわ

 

 

「……テストの結果、気になるのは分かるが…今は一旦忘れた方がいいんじゃないか? そわそわしてたって、採点の結果は良くならないぞ」

 

 

「うっ……うん」

 

「そうね……分かってるけど、どうにもね…」

 

 

最低限の筆記用具を携えて臨時の試験会場から出てきた院生ユージオとアリスは、ずっとそわそわしっぱなしだった。このままだと会話に支障をきたすと判断された雨涵の一言を受けて、いくらか二人のそわそわは緩和されたが…それでもそわそわは容易に消えなかった。

 

短期現世駐在任務体験の校外学習許可のための最終難関、おそらくは前代未聞 三種類の教本全てを範囲とした試験。ここがユージオとアリス達によっての瀬戸際なのだから、結果が気になってそわそわするのもよく分かる。だが、何も最初で最後のチャンスというわけでもなし。それに、他の条件とは違い…才能ではなく、努力の積み重ねのみで突破できる難関でもある。今まで積み重ねてきた努力の結果を、信じてただ待つほかない。

 

 

「とにもかくにも、昼飯は食べた方がいいだろう。結果が出るのは夕方なんだろう? ご飯を食べて、一度気持ちを落ち着けたらどうだ?」

 

「…そうね。試験が終わったら、すごくお腹空いてきたわ。お肉…食べたい」

 

 

ボソリとアリスが呟いた言葉に、雨涵とユージオは思わず顔を見合わせた。アリスが具体的な食べ物をリクエストするのを、二人は初めて聞いた。大事な試験が終わって気が抜け、思わず口から漏れた願望なのだろう。そういえば、アリスが弁当屋で弁当を買う際は、結構な頻度で焼肉弁当をセレクトしていた気がする。

 

 

「お肉か…僕もいいと思うけど、雨涵は何かいい店知ってる?」

 

「いや…不勉強だったな。これを機に勉強を兼ねた食事処巡りをするのもいいが…二人も疲れただろうし、早いとこご飯にしたいだろうからな…」

 

「えっ。いや、そんな真剣にならなくていいわよ。私、ちょっと口に出ちゃっただけで、別に本気じゃ…」

 

 

 

「なんや。肉食べたいんか?」

 

 

 

突如、として背中側から投げかけられた声に三人の院生はギョッとした。その独特な口調は、ユージオと雨涵にとって心当たりのあるものだったが…逆に心当たりないのは、声。

 

女の人の声だった。

 

恐る恐る、三人揃って振り向いた先にいた女性は…死神の格好ですらなかった。現世の女性の服として特徴的であるスカートを身につけていたが、青年アリスのエプロンスカートとは形状はもちろん、長さも膝上からさらに短い。それに加え、顔にかけられた眼鏡が特徴的だ。

 

死神の服装ではないとは言ったが……霊圧は、死神のものと同じ感じだ。特に、口調が同じあの人と似てる気がする。

 

院生達三人は、突然声をかけてきた女性になんて対応したものか…困っている間に、先に女性の方が口を開いた。ただし…その言葉は、院生達に向けたものではなかった。

 

 

真子(シンジ)、この子らやろ? 初対面のあたしに先越されてんの、情けないと思わんの?」

 

「俺より数秒早かったくらいでなにドヤってんのや。見つかったんならええやんけ別に」

 

 

一瞬、虚空に向かって話しかけてると思いきや、その女性の言葉に対して即座に返事をする声があった。声の発生源は院生達のまた背後。さっき振り向いたばかりなのに、声の発生源に対してもう一度振り向く羽目になった院生達三人。

 

そこにいたのは、今度こそ…ユージオと雨涵にとって顔見知りの隊長。

 

 

「平子隊長…」

 

「おう、坊主。退院おめでとサン。俺なら、今も営業しとるいい焼肉屋を知っとるで?」

 

 

白の隊長羽織を揺らす平子は、ニヤリと笑った。

 

 

 

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「ほれ、昼飯はオレのオゴリや。好きな肉を好きなだけ食うとええ」

 

「なんや、真子も景気のええとこあるんやな。ほな勢いよくカルビから…」

 

「ちょお待てリサ。お前までオゴリとは言うてへんわ。お前だけは会計別やぞ」

 

「ケチケチすんなや。今回のプレゼントにも充分に協力してやったやろ。一人分の飯代くらい出したってや…高給取りの隊長サン」

 

 

(プレゼント…?)

 

 

そう軽口を叩き合う平子隊長と現世服の女性との会話に、ユージオはちょっと気になる言葉を聞いた。そんなユージオを含めて未だ遠慮の渦中にある院生達に対し、平子隊長は適当に肉の注文をこなした後、院生達に向けて口を開いた。

 

 

「おう、紹介が遅れたな。コイツはリサっていうてな。オレの腐れ縁の一人や。いつもは現世におるんやけどな」

 

「YDM書籍販売会社 代表取締役 矢胴丸リサや。よろしく」

 

 

(ワイ…ディー…? アルファベット…英語かしら?)

 

(とりしまり……やく? 取締りって…現世でいう、”警察”ってことかな?)

 

(書籍販売の会社…普段は現世にいながら、尸魂界(ここ)にも来ているということは……相当に大掛かりな事業なのでは?)

 

 

三者三様 それぞれ紹介に対する感想を抱いていると、今度はリサの方から院生達に向かって言葉が投げかけられた。

 

 

「あんたら、真央図書館の復興…手伝ってくれたんやろ。ありがとうなぁ。ほんで今回は礼の意味も込めて、真子のプレゼント企画に協力したんや」

 

「プレゼント…とは、何の話ですか?」

 

 

雨涵が、控え目に手を上げてリサに質問する。隣のアリスも同じように疑問の顔で首を捻っている。ただ一人、更にその隣に座るユージオだけが、記憶の心当たりに思いついていた。しかし、疑問の表情の二人の女子院生の顔を交互に見て、リサは呆れたように平子に視線を向ける。

 

 

「なんや真子、この子らに何も話してないんか?」

 

「今から話するとこやったんや。ま、それより今は…肉 食おか。話はそれからにしよや」

 

 

そんな平子の言葉と同時に、店員が数々のお肉をテーブルに運んできた。

最初にタン ロース ハラミ…そして、カルビ。熱を帯びる鉄板。アリスの喉が、ゴクリと鳴った。

 

 

「最初に言った通り…好きに食べてええけど、あんまり食べんことをお勧めするで。腹八分目くらいに抑えとき」

 

「だっさいなあ真子。奢る言うといて、あまり食べんようにお願いするてアンタ」

 

「ちゃうわボケ! オレの財布事情とは別のアドバイスや!」

 

「アドバイス……? どういうことです?」

 

 

今度はユージオの疑問の声。平子はそれにニッと笑って答える。

 

 

「昼だけやない。夜にもお前らは腹いっぱい食える機会があるからや。夜にはなあ、『ユージオ君退院&現世行き決定祝賀会』の予約入っとるからなあ」

 

 

 

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しばらくは五人とも…飢えを解消するために肉を頬張り続けていたが、やがてちょうど腹八分目まで腹を満たしきったユージオが久しぶりに口火を切った。

 

 

「んむっ………平子隊長。さっき言ってた、祝賀会って…?」

 

「……あ? 言葉通りの意味や。退院した坊主の祝いと、アリスちゃんも含めた二人がよう頑張ったお祝いを兼ねた飲み会をしようっちゅうだけ。なんも難しいこと言ってないやろ?」

 

「いや…だって、まだ試験の結果も出てませんし…現世に行けるとは決まってませんよ」

 

「そん時は、単に『ユージオ君退院祝賀会』にすればええやん。なんも問題あらへん」

 

 

そう言いながら、さらに追加で肉を頬張る平子。ちなみに雨涵は既にサラダ中心に移行し、リサはシメとばかりに冷麺を啜っていた。ユージオもそろそろデザートへの移行を考えていた。ただアリスだけは、まだまだ肉のペースが落ちる様子がなかった。

 

トマトを飲み込んだ雨涵が、次に言葉を平子へ投げかけた。

 

 

「それでは…”プレゼント”の話を……聞かせてはもらえないでしょうか?」

 

「ああ…ええで。お前らは食べながらでええから、聞いといてくれや」

 

 

雨涵の疑問に対して、院生達全員へ説明をするため…平子は箸を置いた。ユージオは平子の言葉に甘え、店員にデザートのアイスを注文してから、話を聞く体勢になった。

 

 

「まあ、これも言葉通り…現世に行く坊主やアリスちゃんに向けて二つほど、プレゼント用意してあるんや。そのうち、リサには二つ目のプレゼントについて協力してもらったんや。…ちょいと不安なモン用意されたけどな。俺の知り合いの女の中で最も現世向きのセンスがマシやったから、しゃーないんや」

 

「なんやねん。ええやろ、セーラー服。現世に違和感なく溶け込めるいい女の服や」

 

 

(センス……セーラー…服?)

 

 

ユージオは首を捻る。チラリと隣を見るが、雨涵は静かに首を振り…アリスも肉を頬張ったまま小さく首を振った。二人としても分からぬ言葉らしい。おそらくはこれも現世の言葉。あれだけ分厚い現世の教科書や資料集を全て網羅して勉強したのに、まだまだ知らぬ言葉がどんどんと耳に入ってくる。現世は深いなと、三人の院生は感じた。

 

 

「ま…二つ目のプレゼントの話はええとしても…問題は一つ目のプレゼントの方や」

 

「問題……ですか?」

 

 

店員から受け取ったデザートを一口食べたユージオが怪訝な顔になる。

プレゼントに問題。どのようなものか、想像もつかないが…

 

 

 

「せや。…この際、ハッキリ言わせてもらうけどな。オレ個人は、ユージオ君もアリスちゃんも…現世に行くことを認めとらん」

 

 

「えっ!?」

 

「…!」

 

「…ぇ、あ、うぐっ…!」

 

 

 

平子から放たれた衝撃の言葉に、ユージオと雨涵は驚き…アリスに至っては非常にタイミングが悪く、喉に肉を変につまらせてしまった。そのアリスの様子に他の四人が大いに慌て…急いで水を調達してアリスの喉に流し込んで、ゲホゲホとようやく気道を確保してアリスの無事が確認できた後…平子は再び説明を再開した。

 

 

「ふう…ま、言うてオレはお前らの現世行きを止める権利なんてあらへんがな。京楽サンが出した条件をクリアしたっちゅーんなら、そのまま現世行ったって誰も文句は言わへん。ただ…あくまでオレ個人としては、や。二人ともまだ現世で仕事するには早いと思うとる」

 

「…それは……なぜ…?」

 

「足りひんからや。圧倒的に…”経験”がな」

 

 

”経験”

その言葉の重みは、ユージオにもアリスにも…雨涵にも、強くのしかかる。

それだけは…決して尸魂界にいる間に決して手に入れられないもの…で、あるはずだから。

 

 

「話を戻すけどな、さっき言ったプレゼントのうち……二つ目のプレゼントを受け取るには条件があるんや。それは…オレからの一つ目のプレゼントを受け取って…オレを認めさせることや」

 

「プレゼントを…受け取る? 認め…させる?」

 

 

もはやアリスは肉を頬張らず、平子の言葉に…不思議そうな顔をする。プレゼントを受け取ることと、平子を認めさせること。その二つが、どうにも繋がらない。ただ…次に平子の放った言葉が…とても不穏な響きだった。

 

 

「一つ目のプレゼント……受け取りたかったら、いつでもオレんとこ来いや。

ただしそん時は、()()()()()だけ済ませてから来るように…な」

 

 

その言葉に、ユージオの体がビクッと震えた。

 

 

 

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焼肉屋での会合から、約二時間後。

ユージオ、アリス、雨涵…三人の院生達は今、五番隊 隊舎前にいた。

 

ただ、先ほどと違うのは…ユージオとアリスの背には、斬魄刀が携えられていたことだ。

 

 

「ユージオ…本当に、大丈夫なの?」

 

「平気だよ。退院前にはしっかり、リハビリしたからね」

 

 

肩をグルグル回して、元気なアピールをするユージオ。彼はまだ、退院してからたった数日しか経っていない身。それでありながら、これから先の戦いの場に向かおうとしていた。

 

クラスメイトのみならず、一度寮に帰った時は具象化した青年ユージオや青年アリスからも大いに心配された。特に青年ユージオは、一週間ほど前の戦いを経て院生ユージオがどういう目にあったのかをしかと感じているからこその、心配だった。だが院生ユージオには、かつて十二番隊から戦いに誘われた時ほど、不安も恐怖も感じてはいなかった。なぜなら戦いの話を持ちかけてきたのは、自分にとっては恩人の平子隊長。そして何より…自分の隣にはとても大事なクラスメイトが…大切な仲間がいてくれる。それだけで…心が落ち着く。何が待ち構えられても…毅然と、立ち向かえる。隣にいる大切な仲間を、守るために。

 

 

「お……ホンマに来たみたいやな」

 

 

ガラリと突然、隊舎のドアが開いた先に…平子隊長が、いた。

何やら小脇に大きな縦長の袋を抱えて、ニヤニヤとしている。

 

 

「坊主はホンマに昨日の今日で、大丈夫か…なんて、お隣のクラスメイトには散々言われてるやろうしなあ。もうオレが心配せんでも、覚悟はできとるんやろな?」

 

「…はい。よろしくお願いします」

 

 

ユージオが静かに頭を下げるのに揃って、アリスと雨涵もまた頭を下げた。

その所作だけではなく、院生達に滾る霊圧から、覚悟の程を感じ取った平子は、より一層笑みを深めた。

 

 

「ええこっちゃ。ほんならいこか。隊舎裏の修行場、抑えてあるんや。

そこで、一つ目のプレゼント渡したる」

 

 

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平子隊長に導かれるまま、院生達が修行場と呼ばれる場所に行くと…そこには二時間前に出会ったYDM書籍販売会社代表取締役 矢胴丸リサもいた。ベンチに座る彼女は、ただついでだからと見学に来ただけだと言った。

 

 

「見学はええけど、手ェ出すんやないで、リサ」

 

「いちいち言わんでも、わぁっとるわ」

 

 

そう言ったリサは、院生達の中の雨涵だけに視線を向けると、クイクイと手招きする。その意図をすぐに察した雨涵は彼女の側に寄って小さく会釈すると同時にリサの隣に座った。

 

 

これで…この修練場に立つのは、ユージオとアリス…それと今回の当事者の平子だけとなった。

 

 

戦いの準備をしてこいと言われてここに来たこと。

リサは手を出すなと言われていること。

そして…院生達と対峙する平子の姿。

 

 

「もしかして、僕らは平子隊長と……?」

 

「ちゃうちゃう。二人がオレとやりあうなんて、まだまだ百年早いで。お前らの相手は…コイツや」

 

 

そう言って平子は、小脇に抱えていた長い袋を床に立てた。トンと音がするのを考えるに、袋の中には何か硬いものが入っているようだ。そしていざ、平子がその袋の紐を解くと…

 

 

 

白い、人型の板のようなものが十枚ほど、袋の下から現れた。

 

 

 

ユージオもアリスも…離れたところのベンチに座る雨涵にも、それがなんなのかよく分からない。一方、袋の下からのものを披露した平子は、ドヤ顔で説明を加える。

 

 

「これはなあ。”転身体”っちゅう道具や。元は隠密機動の最重要特殊霊具だった”転神体”っちゅー代物を、技術開発局が廉価版として改良した代物なんや。霊術院でも、高学年向けの訓練によう使われとる」

 

「はあ。でもそれが……僕らの相手って、どういう…」

 

 

 

 

「ああ…こういうことや」

 

 

 

 

平子は、手に持った転身体の一枚を手に取ると…思いっきり上空へ向かって放り投げた。

院生達の視線が、空中で回る白の転身体に集まる。

 

そんな最中、平子が懐に手を入れて何かを取り出した。

視線が空に釘づけの院生達は取り出した瞬間のそれを見ることはなかったが…すぐに視界に収めることになる。

 

柄が長方形の形をした黒のクナイとでも表現できそうな代物を手に持った平子は、それを空中の転身体に向けて投擲した。

 

 

 

白の人型に、黒のクナイが突き刺さった瞬間。

転身体が光に包まれたかと思いきや、その光が丸く大きく広がった。

 

 

 

オオォォォ——————!!

 

 

 

妙に透明感のある、それでいて荒々しい不思議な声が、転身体の光から響き始めた。

今まで何が起きてるか分からず硬直していた院生達が反射的に背の斬魄刀へ手を伸ばした。

 

 

光の中から、腕が伸びてくる。

ただそれは…とてもじゃないが、人のものとは思えない。

むしろ人を容易に握りつぶせそうなほどに大きく、異形じみた緑色の腕。

 

光から出てくる足が、体が、首が…全てが、明らかに巨大で、異形。

その異形の正体を表す白く巨大な仮面……それが最後に光の中から湧き出た。

 

 

 

「転身体はなあ。霊圧などのデータを元にして、その偽物を作り出すことができる道具や」

 

 

 

オオォォォ——————!!

 

 

 

異形が咆哮をあげ、ちょうどニヤニヤしながら立つ平子の背後に降り立った。

 

 

 

「今回俺が転身体に差し込んだデータは、マユリんとこから買った(ホロウ)のデータや。値段相応に、精度よく書き込まれた情報刀でなあ…」

 

 

そう語る平子の背後に立つ異形…偽物の虚が、異形に肥大な右腕を振りかぶった。

白い仮面の奥の、獣染みた純粋なる殺意。その拳で叩き潰そうとしている先は…間違いなく最も近い標的、平子。

 

 

ユージオとアリスは思わず、その喉奥から危ない!と警告の言葉を放とうとした。

だが、それより先に虚の拳が振り下ろされる。

 

 

しかし…さらにその拳より速いタイミングで、平子は瞬歩を用いて他の荷物ごと院生達の背後にまで移動していた。虚の拳が、修行場の地面に大きなヒビを入れる。

 

 

「とまあ…こんな風に、虚としての本能に忠実や。オレが作ったやからといって、別にオレに制御できるワケやない」

 

 

二人の院生は、突如として背後に移動したその平子の声にピクリと反応したが……振り向くことまでは、しなかった。戦うべき敵が、目の前にいることが…しっかりと認識できているからだ。

だが…戦うべき敵は、それだけではなかった。

 

 

「おお…せやせや。忘れてたわ。霊術院生は、二人……やったなあ」

 

 

やけにすっとぼけた声が、さらに院生達の背後から聞こえたかと思えば…

 

 

 

 

 

 

二つ目の白き転身体と黒いクナイが、院生達の前方の空中で交わった。

 

 

 

 

 

 

「改めて言わせてもらうわ。ユージオ君に、アリスチャン。

オレからの一つ目のプレゼントは、これ。”虚との戦闘経験”や」

 

「どうせ…お前ら霊術院生同士でしか、訓練しとらんのやろ?

でも、それじゃあダメや。虚相手には、虚相手の戦い方っちゅーもんがある」

 

 

 

 

 

ガァァアアア——————!!

 

 

 

 

 

 

二つ目の咆哮が、隊舎の修行場に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

「一人前の隊士なら…一人で一匹、虚を退治できるくらいの実力があって然るべき、や」

 

「その一人前の実力を…今ここで見せてみいや。ユージオ君に、アリスちゃん」

 

 

 

 

「そしたら、二人のことを認めて……渡したるわ。

二つ目の…正真正銘、とっておきのプレゼントをな」

 

 

 

 

 

ユージオとアリスは、斬魄刀を抜き放って…構えた。

プレゼントとは名ばかり。五番隊 隊長 平子真子からの、最終試験が開始された。

 




【こぼれ設定話 その2】
霊術院生 アリスはお肉が大好物だ!
流魂街時代、産絹彦禰と共に鳥や獣を狩って
ワイルドに捌いて食べた味が、一生のお気に入りになったのだ!

なんなら時々瀞霊廷を出て、流魂街の森で鳥や獣を狩って捌いて
同級生に振る舞ってみたいとまで考えているぞ!
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