元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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別に入れなくてもいいのになんとなく説明図を入れたくなる病気が発病しました。
ご注意ください。


第三十九話 Drinking party and the way home

「それじゃー・・・ユージオ君の退院祝いと、二人の試験合格を祝ってー・・・」

 

 

「「「「「「「かんぱーいっ!!!」」」」」」」

 

 

七人の元気な声が重なり、様々なお酒の入ったグラス八つがガチャリとそれぞれ音を立てる。

その独特な雰囲気を前にして、三人の院生達はなんとか周りの大人達に合わせて「か、かんぱーい…」と控えめにグラスをあげた。

 

 

外も暗くなり、普段なら院生達はそれぞれ院生寮の自室にて就寝前の自由な時間を満喫する頃合い。

しかし今日に限って、三人の院生は仕事終わりの死神達と共に居酒屋と呼ばれるお店の中にいた。

 

 

「ほら修兵! せっかくのお祝いの席なんだから、もっとぐいーっと行きなさいよ!」

 

「ら、乱菊さんいきなり二連大ジョッキはちょっとうぷっ」

 

 

右の方には、さっき乾杯の音頭をとった松本乱菊と、その彼女に酒を流し込まれている檜佐木修兵。

 

 

「お酒飲むの久しぶりだなあ。ずっと忙しかったから、たまに飲むとすごくいいね」

 

「…あまり飲み過ぎるなよ、雛森」

 

 

その隣には、両手でコップを抱えてほわほわとした雰囲気の雛森桃に、静かな雰囲気の日番谷冬獅郎。彼は先ほどの死神達の「かんぱーい」の声に混ざらず唯一無言で杯を合わせたくらいには無口気味だった。クールと言い換えてもいい。

 

 

「はっはっは。こうして隊長格の方々ばかりとの飲み会に混ざるのは初めてで、つい緊張してしまいますな」

 

「どこがやねん。遠慮なくガブガブ飲んどるやんけ。言うとくけど三席やからってお前はオゴリちゃうからな」

 

 

逆の左サイドに目を向ければ、そこには院生達にとって最もお馴染みな石和先生と平子隊長。

 

 

「七緒ちゅわ〜ん…ボク、なんだか頭がクラクラしてきちゃったなあ〜って〜」

 

「見え透いた嘘ですり寄ってこないで下さい。引っ叩きますよ」

 

 

さらにその左にはクネクネとした動きの京楽総隊長と、それをピシャリと言葉で封じる伊勢七緒。客観的にみれば、京楽はとてもじゃないが死神達を束ねる戦闘部隊の隊長とは思えない振る舞いだが…それでもこのおじさんが護廷十三隊総隊長という地位にいるのは紛れもない事実。それに、この場での院生達の飲食代は全て京楽総隊長が持つというのだから、院生達からしてみれば二重の意味で頭が上がらない。

 

とにかく…ユージオとアリスは、さっきノリで乾杯した後…未だ口をつけることができていないコップの飲み物をじっと見つめた。二人の手元のコップに入っているのは「カシスオレンジ」 ジュースの類かと思いきや、れっきとしたお酒だと聞いて多少戸惑っていた。

 

 

「僕、お酒なんて初めてだよ…大丈夫かな?」

 

「ええ…確か教科書には、二十歳にならないと、お酒って飲むのダメなんじゃなかったっけ?」

 

 

「それは現世の法律だ。一応、尸魂界ではそういう決まりはない。推奨はされてないがな」

 

 

試験のせいで、現世の知識とごっちゃになってるユージオとアリスの勘違いを正したのは、隣に座っていた雨涵だった。そんな彼女はレモンサワーをゴクゴクと飲んでいた。ちょっと驚いて目を見張る二人。

 

 

「推奨されてないって…雨涵は大丈夫なの?」

 

「ああ。私は子供の頃から訓練してたからな」

 

「く、訓練…!?」

 

 

この飲み物は、訓練しなくてはならない程の代物なのだろうか…!? そう考えると、ますます二人の心の中に遠慮の気持ちが膨れ上がってくる…が。

 

 

「ほ〜ら、ガキンチョども! あんたらもぐいっといきなさいよ! ほら!」

 

 

酒の回りの早い松本乱菊の手が、二人の持つコップに勢いよく添えられた。

 

 

*

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*

*

 

 

端的にその結果を言うならば、ユージオはダウンし、アリスは適応した。

 

 

「う、う〜ん…」

 

「大丈夫か、ユージオ? ほら 水を飲め」

 

 

目を回してうつ伏せるユージオを助けおこし、雨涵が水を差し出す。うんうん唸りながらもそれを受け取ってユージオは喉に水を流し込む。どうもユージオは酒に弱い体質だったらしく、アルコールの効用が現れる段階をすっ飛ばして、早々に気をやられてしまったようだ。彼には辛いだろうが、これで酒に関する自分の適性を知ることができたのだから、あながち悪い体験ではないとも言える。

 

一方、アリスの方と言えば…

 

 

「いいなあ〜乱菊さん〜。私も乱菊さんみたいになりた〜い」

 

「あらあら、可愛いこと言うじゃないの〜アリスちゃん、私のどこがいいの? もっとよく教えてちょうだいよ〜」

 

「やだあ〜乱菊さんったら、言わなくてもわかってるくせに〜」

 

 

存分に、酒の効用の恩恵を享受していた。

適量のアルコール作用により、大脳皮質の抑制が解放されて精神的な緊張を緩和。より饒舌になったアリスは乱菊さんとよく分からない話に花を咲かせ、同時に食欲も増進したらしく話の合間にも唐揚げをバクバクと口に運んでいた。しかしあの様子、下手したら普段のクラスメイト達より打ち解けていないだろうか…?

 

 

「うう…僕はアリスみたいになりたい……ねえ、雨涵。僕にもお酒を飲めるようになる訓練を教えて…」

 

「…いや、別に酒を飲めなくても問題はないし、恥じることもない。気にしない方がいいぞ」

 

 

どうもアリスとは逆のテンションになってしまっているようなユージオの肩をポンポンと叩いてあやす雨涵。ちなみに雨涵の行っている訓練とは至極単純。アルコールの身体的影響を無効化するために臓器の働きをコントロールする、暗殺を生業にする一家秘伝の特訓のことである。そのため大抵の酒ならば水のように飲み干すことができる。ただ、ユージオのように潰れることもなければ、アリスのように酒の恩恵を受けることもできないため、雨涵自身はあまり好きではない。

 

 

「どや? しっかり食べて飲んどるか? 特にユージオ君とアリスちゃんは、虚と戦ってカロリーも消費したやろ? せっかく京楽サンのオゴリなんやから、存分に食べな損やで……ってあれ、どこいくんねん ユージオ君は」

 

「お手洗いらしいですよ」

 

 

突然やってきた平子は、席から立って歩き去っていくユージオの後ろ姿を見て首を捻る。しかし雨涵から疑問の答えを聞いた平子は笑いながらストンと雨涵の側の席に座った。

 

 

「ははーん。食っては出して 食っては出してで、料理をひたすら食いまくる作戦やな? いや、この機会を最大限に活用しようとは、なかなか見込みあるやんけ」

 

「…いや、多分そういう意図ではないかと……」

 

 

*

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*

*

 

 

「うっぷ……お酒って、コワイ…」

 

 

ガチャリとトイレのドアから出てきたユージオの顔は、相変わらず青かった。それでもある程度はマシになったらしく、何とかぼやくだけの気力は持ち直したようだ。頭がクラクラし、吐き気がグルグルと胸の内で渦巻く。大人になったら耐性がつくからとはチラリと耳に入ってきたが、正直甚だ疑問である。

 

そんなふらふらの状態だったからか…ユージオはトイレの前に立っていた人物に、声をかけられるまで気づかなかった。

 

 

「や、ユージオ君。大丈夫かい?」

 

「え…あ……京楽総隊長…?」

 

「いやあ、お酒が苦手だと大変だよね〜。はいこれ、酔い止め薬。即効性の高いタイプだから、きっと少しは楽になると思うよ」

 

「へ……あ、ありがとうございます…」

 

 

ふらふらの状態でも辛うじて、「京楽総隊長が自分に薬をくれた」ということを理解したユージオは掠れた声でお礼を言って錠剤の入った瓶を受け取る。本当はもっと嬉しそうにするべきなんだろうが、今のユージオにはなかなかそういう余裕はない。

 

とはいえ、流石京楽総隊長推薦の酔い止め薬なだけあって効果は覿面。完治とまではいかずとも、全体的な頭痛及び吐き気は、何とたちまちのうちに7割近くは(おさ)まった。目に見えて、ユージオの顔も平常の色へと戻っていく。

 

苦痛からほぼ解放されたユージオは少しテンションを取り戻し、もう一度京楽総隊長に元気よくお礼を言おうとした。

 

 

「……ごめんね、ユージオ君」

 

「え?」

 

 

だが、その前に京楽総隊長から告げられたのは…謝罪の言葉だった。

 

 

「流魂街での十二番隊が行った一件。そして今回、ユージオ君が十二番隊管轄の破面に襲われた件。両方とも、彼の行いを抑えきれなかったボクに責任がある」

 

 

流魂街。

十二番隊。

破面。

 

そのキーワードを聞き…ユージオは思わず半開きになった口を閉じた。京楽総隊長が一体何に対して謝罪の意を抱いているのか、理解できたからだ。思い起こすのは…正直、あまり思い出したくはなかった記憶ではあった。まだ何も分からぬ流魂街の民だった頃に、黒い装束を纏った見知らぬ死神に連れ去られそうになった記憶。そして、先日入院する原因となった破面との戦いの記憶。それら全てを裏から糸で引いていた…十二番隊の存在。

 

 

「十二番隊の涅隊長は…ちょっと、興味ある実験の段になると暴走しがちでね。時には強引かつ手荒な手段も辞さなくなる。ただ…ね。これだけは知っておいて欲しいけど、涅隊長のやろうとしていることは、決して私利私欲のためじゃない。彼の実験はその全てが、瀞霊廷の…ひいては尸魂界のためになることなんだ」

 

「本当に私利私欲だけでこんな実験を繰り返すようなら、とうの昔に彼は瀞霊廷から追放されてるさ」

 

 

京楽総隊長の言葉を聞き…ユージオが新たに思い起こすのは、まだ瀞霊廷へと赴く前……日番谷隊長が語った言葉。*1

 

 

 

 

———涅は…研究と実験のためなら、見境がなくなる男だと言える。敵だろうと…下手したら味方も、あいつにとっては実験材料として、映っているのかもしれねえな…

 

———だが、涅の科学者として腕前は疑うべくもない。あいつがいなければ…世界が滅んでいたかもしれねえ

 

 

 

———ユージオ。お前に一つ聞きたい質問がある。

 

 

 

 

「『悪を倒すために悪を利用することを、悪だと思うか』」

 

「…それは」

 

「はい。まだ僕が流魂街にいた頃……日番谷隊長から、聞かれた質問です。そしてその際 護廷十三隊の総隊長殿が、その考えを肯定しているということも聞きました」

 

「………」

 

 

スッと碧眼が細まった京楽を前に、ユージオは続ける。

 

 

「僕は……正直、京楽総隊長とは違う考えです。それがどんなに世界のためになったとしても、悪は悪。許すことはできません。でも…僕にはその悪を止める立場もなければ、力もありません。だから僕は、死神になると決めたんです」

 

「世界のためになるという悪が、人を苦しめて犠牲を強いるというのなら、その悪から人を護りたい。僕がもっと強くなって多くの悪を倒せれば、『悪を倒すために悪を利用する』ことがおこらなくて済むかもしれない」

 

「強くなって、悪から人を守りたい。流魂街で十二番隊に出会い、日番谷隊長に教えられたことがきっかけで、そう思うようになりました。それに…」

 

 

ユージオは、自分の掌に視線を落とす。入院中は自覚することの難しかった、自分の霊圧。今ならはっきり分かる。あの戦いを経験する前と後で、自分の霊圧の(みなぎ)りが明らかに変わっていることを。

 

 

「十二番隊による破面との戦いの後、自分は死神としての新しい力を手に入れました。確かに、辛くて苦しい戦いではありましたが…それだけの戦いではなかったことは、はっきり分かります。いえ…むしろ、それで良かったと思っています。なので、総隊長が謝ることなんて…ないと思います」

 

「あくまで…自分自身で選んだ道を辿るために、必要なことだったと感じていますから」

 

 

「……そうかい」

 

 

ユージオの話を聞いている間 どことなく肩肘の張った様子になっていた京楽は、ふうと息を一つ吐くと再びゆるりとした様子に戻った。そして、優しげに微笑んでみせた。

 

 

「君みたいな子が死神を志してくれて、本当によかったと思うよ」

 

「……でも、僕は」

 

「うん。確かに君とボクじゃ考え方にちょっと違いがあるかもね。でもさ、むしろそれでいいんだ。組織っていうのは、色んな考えの人がいた方がさ。全員が全員 一辺倒な考え方しかしないようなら、いつか必ず取り返しのつかない間違いを犯してしまうはずだから、ね」

 

 

そう言うと京楽はユージオの肩を優しくポンと叩いて、背を向ける。

 

 

「ま…今後もし何か困ったことがあったら、遠慮なくボクに相談しにおいで。できる限り、力になると約束するよ」

 

 

ひらひらと手を振って、席に戻っていく京楽。

その後ろ姿に向かってユージオは、小さく礼をした。

 

 

 

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「で、ユージオは大丈夫なのか?」

 

「うん。京楽総隊長がくれた薬がよく効いてさ。それにこうして夜風に当たってると気持ち良くて、もっと楽になった気がするよ」

 

「大変だったのね、ユージオは。私はお酒呑むとすっごく楽しくなれたわ」

 

「…羨ましいなあ」

 

 

ユージオ、雨涵、アリス。三人の院生が会話しているこの場所は、既に居酒屋の中ではなかった。

楽しかったり 苦しかったりした時は過ぎ、とうに解散の時間となった三人は一足早く家路についていた。もちろん、無言でこっそり帰ったわけではなく、しっかりと死神の先輩達に挨拶と、飲食代を奢ってくれた京楽総隊長への再度のお礼をした上での帰路だ。背後から「二次会行く人ー!?」という乱菊さんの声が聞こえるため、まだまだ夜を満喫する死神達もいるようだ。だが、院生達はいつもなら寝るべき時間も過ぎており、これ以上夜を楽しむのはちょっと辛かった。

 

 

「しかし、死神の人たちも元気だな。明日が休みだからと、この後また多くがカラオケに行ったりするらしい」

 

「僕は夜更かしはもう懲りてるからなあ…それにしても、からおけって何?」

 

「端的にいえば、歌を歌うための場所だな。機械が歌のための演奏をしてくれるし、防音もしっかりしてるから思いっきり歌っても邪魔にならないんだ」

 

「人気ある隊長格がカラオケで歌ったりすると、それをこっそり録音してCDにして売るらしいわ。なかなか機会がないけど、その分売れ筋がすごくいいって伊勢副隊長が言ってた。女性死神協会経済発展策の中心事業の一つなんだって」

 

「な、なんだかそれはよく分からないけど……歌を歌うための場所かぁ。僕、昔お婆ちゃんが歌ってくれた子守唄しか知らないなあ」

 

「気に入る歌があるかもしれないし、気に入ったら調べて行ってみるのも悪くないかもな」

 

 

いつもの銭湯帰りのように、あまり実らないお話ばっかりを繰り返す三人の院生達……のはずだったが、今日ばかりはちょっと毛色が違った。アリスが、とあることを思い出したからだ。

 

 

「そーいえば、ユージオ。今なら姉さん達もいないし、あの理由話してくれてもいいんじゃない?」

 

「…へ? あの理由…って?」

 

「ほら、私たちが二回目の見舞いに行った時、なぜか一人でニヤニヤしてた理由よ! こういう機会に教えてくれるって話だったでしょ!」*2

 

「……………………よく覚えてたな、アリス」

 

 

10秒程の沈黙を経て、ようやく思い出した雨涵が声を絞り出した。何せ、その話といえば一週間以上前のこと。しかも1分かかるか掛からないかくらいの、ちょっとした会話の上での話だった。正直なところ、あまり話しても話さなくても変わらないようなことではないかという感じがしたからこそ、雨涵もあまり意識して記憶していなかった。

 

だが、およそ20秒ほどの沈黙を経て思い出したらしいユージオは、意外にも切羽詰まったような顔をしていた。

 

 

「そうだっ! あ、ありがとうアリス! 僕、思わず忘れちゃうところだった! 大事なことだから、なるべく早めに話しておこうと思ったのに!」

 

「そ、そんなに…か?」

 

 

予想以上に迫真の様子を垣間見せたユージオに、雨涵は目を見開く。

歩いていた足を止めたユージオは、くるりを改めて二人の前に向き直る。

 

 

「そう! 僕、見つけたかもしれないんだ…! 兄さんとアリス姉さんがいた世界への手がかりを! やっぱり…二人の世界は、現世にあるんだよっ!」

 

 

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話は、一週間以上前…平子が、初めてユージオの見舞いに来た日に遡る。

 

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「———ログアウト、やて?」

 

「はい。もし、その意味を知ってたら……教えて欲しいんです」

 

 

足を伸ばしてベッドに座ったまま、ペコリと頭を下げるユージオ。

それに対して平子は、困惑の表情を浮かべながら頬をポリポリとかく。

 

 

「あー…知らへんこともないんやけど……いや、賭けてもええけどオマエ、んな言葉 現世に行ったところで絶対使わんで? 知ったところで無駄や思うけどなあ」

 

「…それでも、知りたいんです。お願いします」

 

 

再度 ペコリと頭を下げると、平子は顎をさすりながら答えた。

 

 

「まあ、知ってて損するっちゅうことはないやろからええけど……ああ、でもなあ。どっから説明したもんやろか…ん、まあとりあえず…坊主は、『ゲーム』を知っとるか?」

 

「はい。えっと、遊びをするための機械……ですよね。実物は見たことありませんけど」

 

「せやろなあ。尸魂界じゃ、なかなかそういうもんは流行らんのや。せやけど、現世じゃもう大流行でなあ。何千何万というゲームが(うごめ)いとるわ。『ログアウト』っちゅうのは、ゲームの専門用語と思ってくれてええ」

 

「なんぜんなんまん……」

 

 

機械といえば写真撮影の際にみた撮影機材 ライト 印刷機などがせいぜいで、普段瀞霊廷を歩いていてもまず機械を見かけたことのないユージオにとって、遊ぶための機械が万単位で蠢いているというのはなかなか想像できない。というより、まず「遊ぶための機械」とやらのイメージが全くできない。車や電車という乗り物の機械とかなら、教科書で何度も確認したのだが…。

 

 

「そうは言うても、『ログアウト』はその何千何万というゲーム全てに共通する用語っちゅうわけでもない。その中でも…そうやな。今現世で流行りの『VRMMO』でよく使われとるんとちゃうか?」

 

「ぶ…ぶい、あーる……えっと、アルファベットを用いた略称ですか?」

 

「お? なんや、察しがええやんけ。 現世の勉強の成果やなあ」

 

 

 

「ま、正式名称は覚えんでええ。現世でも『ぶいあーるえむえむおー』言うとけば通じるからなあ。ただこれ……いや、マジでどない説明したらええんやろか。ゲームを見たこともない坊主に、現世の中でも超最先端技術のゲームを理解させんのめっちゃムズいやんけ…」

 

 

うんうん唸って考え込む平子。ただ言葉の意味を一言教えてもらうだけで終わるはずが、思った以上に大きなことになっている気がしてならないユージオ。だがここまで来てやっぱり、と遠慮するつもりはなかった。青年達の世界についての手がかりになるかもしれないのだから。

 

 

腕を組んで唸り続けること約2分。ようやく脳内で考え方が纏まったらしい平子が口を開いた。

 

 

「あー…せやな。坊主は、夢とか見るか?」

 

「え? あ、はい……結構…見ます」

 

 

突如、ゲームやログアウトとはまるで関係なさそうな質問をされて、ユージオは多少の戸惑いを感じつつも肯定の返事をする。夢はよく見る……というより、今回「ログアウト」なる言葉を聞いたのもそもそも夢だった。院生ユージオにとっての夢は、他の人よりも多くの意味を持っている。特に…あの戦いの後、()()()()()を見るようになってから、特に。

 

 

「そうか。ほんなら少しはイメージしやすいかもなあ。…坊主、紙とペン持っとるか?」

 

 

次なる平子の問いに対してもユージオは肯定の頷きを返すと、教科書メモ用にあったペンとノートを平子に手渡した。受け取った平子は、すいすいとノートに図を書いていく。

 

 

「当然のことやけど、ほぼ全ての生き物には脳ミソがあるやろ? その中でも知性を持つ人間は、眠る時に夢を見ることがあるんや。これも常識やな」

 

【挿絵表示】

 

「ほんで、『VRMMO』っちゅうのはな…めっちゃ簡単にいうと、ゲームが作った夢の中で遊ぶもんなんや」

 

「……へ?」

 

思わず間抜けな声が漏れたユージオの前に、2枚目の図を示す平子。

 

【挿絵表示】

 

「……夢の………”世界”」

 

「せや。本来は人間が見るものだった”夢”を、ゲームの機械が作るんや。ほんで…」

 

【挿絵表示】

 

「…こんな感じになるなぁ。VRMMOっちゅうのは、機械が作った一つの夢を多人数が同時に見ることができるんや。ゲーム機を使えばなあ。本来は一人に一つの夢だけなのに、みんなで一つの夢を楽しもうなんて、現世の連中の発想力や技術力には参るでホンマ」

 

「ほんで、ゲーム機を使って作られた夢の世界へ行くことを『ログイン』。夢から覚めて現実に戻ってくることを『ログアウト』って言ったりするんや。まあ、VRゲーム以外のMMOなんかでもログインログアウトは普通に使(つこ)うたりするけどな。せやけど、現世の主流ゲーム言うたらもっぱらVRMMOやしな」

 

「……ま、説明としてはこんなもんやろか。坊主、ちゃんと理解できたんか?」

 

 

一息に説明しきった平子が、改めてユージオの様子を確認してみると…いつの間にか真剣な表情になった彼は、ぶつぶつと何かを呟きながら考え込んでいた。平子が耳を澄まして見ると…

 

 

「夢の世界……世界が、ある……現世に、もう一つの世界が…間違いない。そうだとしたら、僕らの考えが…」

 

「お、おーい? 坊主ー…」

 

「平子さんっ!!」

 

「おわっ!?」

 

 

何やら平子にもよく分からないことをブツブツ言っていたかと思いきや、突然顔を上げて大声でこっちに呼びかけてきたもんだから、平子は思わずのけぞった。

 

 

「そのっ! その夢の世界には、住人がいますか!?」

 

「じ、住人…やて?」

 

「はい! 世界というならば、そこには夢を見て世界に行く人たちとは別に、最初から住人がいてもおかしくないと思ったんですけど…どうですか!?」

 

 

何やら急に必死になったユージオの様子に「???」な状態になりながらも、平子は一応の返事をする。

 

 

「せ、せやなあ。ま、大抵のゲームにはおるんやないか? 住人って言うか…ゲーム用語やと、NPCって言うんやけど」

 

「えぬぴーしー…ですか」

 

 

真面目な顔で変なイントネーション。カタカナ語には相当詳しくなったが、まだまだアルファベットの発音が怪しいユージオの様子が面白かった平子は、そのまま説明を続ける。

 

 

「住人言うても、人間の形をしているだけで人間やないで。人間らしさを演出するためにそれっぽく作られただけの、意志のない人形みたいなもんと考えたらええ」

 

「意志のない…人形、ですか?」

 

「せや。『今日はいい天気やな』と言ったら『そうやなあ』って返すくらいはできるけどな。人形やから、考えて返事したわけやない。こう言われたらそう返事をするっちゅう、プログラムが組まれてるからそう対応できるだけなんや。さっきの図で言うなら、所詮”脳”のない連中ってことや」

 

 

先ほど自分が描いた一枚目の図をペシペシ叩いて示す平子。一方、それを聞いたユージオは…今までの興奮ぶりとはうって変わって、急に随分静かになった。

 

 

「…平子隊長は、その……夢の世界に、行ったことはありますか?」

 

「あん? …いや、俺はないわ。あんなバカ高いゲーム買うくらいなら、もっとオシャレするための服やら靴やら揃えた方が建設的やからな」

 

「そうですか……と言うことは、平子隊長もあまりその夢の世界のことは知らないのですか?」

 

「…失礼なこと言いよるなあ。でも全くその通りや。そもそも夢の世界……VRMMOってだけでも山ほど種類あるんやで。そんな現世の遊びのプロなんて、尸魂界にはおらんわ」

 

 

手をひらひらさせながら答える平子。そんな平子に対して、ユージオはなおも変わらず静かに考え込んでいる様子のままだった。

 

 

「……うん、充分に可能性はある。きっと、たくさんある世界の、どこかが……」

 

「?」

 

「平子隊長!」

 

 

そんな静かな状態からまたガバッと大声を出すもんだから、平子はまた仰反ってしまった。今度は何が飛び出してくるかと、思わず身構えてしまいそうになるが…

 

 

「大変参考になりましたっ! 教えていただきありがとうございます!」

 

「お、おう…。なんや、これで役に立ったんか? ほんなら、ええんやけど……」

 

 

会話は程よく打ち切られ、平子はなんだか微妙に釈然としなかったが…可愛い後輩が何やら喜んでいるのならば、それでええかと思うことにした。あまり事情に深入りするのは野暮というものである。

 

 

「ほんなら、俺はもう行くで。興奮するのはええけど、入院中なんやからしっかり療養するんやでー」

 

「はいっ! ありがとうございました!」

 

 

ペコリとベッドに座ったまま頭を下げるユージオを背に、平子は病室を後にする。一瞬、可愛い後輩がやたら興味を示していたようであるVRMMOのゲームをプレゼントしたらもっと喜ぶのではないかと考えたが、それは本当に一瞬。自分の貯金と現世のVRMMOゲームの値段を脳内で比較した結果、その考えはすぐにご破算となった。

 

それと対照的にユージオは、現世にあるという『夢の世界』についての考えを巡らせていた。

その情報が…『青年達がかつて暮らしていた世界』への手掛かりになると、希望を持って。

 

 

 

 

結局のところ、ユージオがニヤニヤしていた理由は、希望を持ったからだったのだ。

 

 

 

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「夢の世界…『ぶいあーるえむえむおー』…確かに、聞いたことないわね。教科書にも載ってなかったはず」

 

「まあ…ゲームのことなんて、教科書が詳しく書く訳はないだろうからな。いや…それにしてもゲーム……か」

 

 

文字でしか存在を知らないユージオやアリスと違い、やったことこそないが一応の実物を見たことのある雨涵が、難しい顔で唸る。

 

 

「ユージオの考えが正しいならば……あの人たちは、機械の中で生まれ育ったということになる」

 

「「………」」

 

 

夢の世界とはゲームが作る世界。そしてゲームとは機械の一種。だから青年達は機械の中の存在である…論理的に考えれば当然そうなるのだが、雨涵はもちろんアリスとユージオも到底実感は湧かない。彼らが実際に見たことある機械と言えば、カメラやら照明やら印刷機器やら。あんな感じの鉄の塊の中には世界が広がっている…など…。

 

 

「う、うーん…現世の中で他の世界があるって聞いて、これだ!って思ったんだけどなあ…」

 

「…いえ、私はユージオの考えに賛成よ」

 

 

ユージオの考えに賛同を示したアリスは、スタスタと歩みを再開する。ユージオと雨涵は慌ててその後を追って歩き始める。

 

 

「結局、ユージオ兄さんや姉さん達の世界の手がかりは、私たちは何も掴めてない訳だし。例え怪しい可能性でも、ないよりは全然ましじゃない? 最初っから可能性を捨てるより、可能性に当たって砕けるべきよ!」

 

 

心なしか早めに歩きながら、グッと握り拳を作って口を引き結ぶアリス。当たるのはともかく、その後砕けるような出来事は起きないものと信じたいものだが。しかし、アリスの考え方にはユージオも雨涵もウンと頷いて肯定する。どうせ現世に行ったところで手当たり次第に探すつもりだったのだ。そこでようやくユージオが手がかりを入手した以上、そこから探りを入れていくに越したことはないだろう。

 

 

「…そうだな。そういうことなら、明日にでも図書館で調べてみるか。教科書には載っていなくても、ゲームの本に絞って探せばそこに載っているかもしれない」

 

「ユージオ、あれだけ山ほど本読んでるのに、その『ぶいあーるえむえむおー』は見たことないの?」

 

「え、ああ……それが、僕でも見たことないんだよ。雨涵の言う通り、きちんと本を絞って探す必要があるかもね。……あ、そういえば…」

 

 

考え込み始めたかと思いきや、ふと何かを思い出したかのような様子のユージオに、雨涵が反応する。

 

 

「ゲームのこと、何か思い出したのか?」

 

「あ、いや違うんだ。ゲームとかじゃなくて、全く別のことなんだけど…」

 

 

そう言って、ユージオは視線をアリスの方へ向ける。思わず「私?」と自身を指差して確認するアリス。頷くユージオ。

 

 

「いやあ、そろそろアリスがあの時言っていたことについて知りたいな…って」

 

「あの時?」

 

「ほら、兄さん達と出会った次の日の、弁当屋での帰り道でさ…」*3

 

 

 

——実は、私…姉さん達の世界で、会いたい人がいるのよね。

 

——ほう? それは…気になるな。一体誰なんだ?

 

——ふふ…秘密、よ。

 

 

 

「…………………………………………よく覚えてたな、ユージオ」

 

 

今度ばかりは、雨涵も思い出すのに相当の時間がかかった。確かにアリスが秘密について(ほの)めかす発言はあったものの、相当前の何気ない会話の中でのこと。こればっかりは、雨涵はガチで忘れていた。ユージオ達の記憶力がすごいのか、それとも自分の記憶力が平均と比べて欠如しているのか…ちょっと不安になってきた。

 

一方、雨涵より早い段階で思い出したアリスはポンッと手を打って…ニヤッと笑った。

 

 

「なるほど〜。ユージオったら、自分が手がかりを見つけてきたからって、その代わりに私に秘密を知りたいって訳ね〜」

 

「え、いや…代わりとかじゃなくて、単に前々から聞こうと思ってただけで…」

 

 

ブンブンと手を振るユージオだが、アリスはそんなユージオの否定を聞いているのかいないのか、ニヤニヤ笑いは崩さない。

 

 

「しょうがないわね〜。確かに姉さん達の世界への手かがりを聞けたのは大手柄だし、一人だけなら教えてあげてもいいわよ。私の、会いたい人」

 

「えっ? アリスの会いたい人って、一人じゃないの?」

 

「ええ。実は、私の会いたい人は二人いるの。それでね、その一人の名前は…」

 

 

ユージオと雨涵に改めて向き直ったアリスの顔は…さっきのニヤニヤ笑いがいつの間にか消えていた。

 

 

「セルカ・ツーベルクさん。私と違って…アリス姉さんの、本当の妹」

 

 

代わりに浮かんでいたのは…ちょっと切なそうな表情だった。

小説内で過去の話が引用されたため、脚注機能で参照話のリンクを貼ってみました。読者から見てどうですか?

  • もっと積極的に使っても良いと思う。
  • 今回くらい使う分には良いと思う。
  • どちらでもあまり気にしない。
  • 今回より少ないくらいなら良い。
  • 絶対に使わないで欲しい。
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