元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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更新速度を早めてお送りしております。
前話の見逃しにご注意ください。


なぜ早いのかというと、今回の話は小話だからです。
第三十九.五話なんてふざけたことをやってますが、そんな感じの文量です。


第三十九.五話 Night conversation of Former artificial Fluctuatinglight

霊術院生三人組が未だ夜の飲み会を楽しんでいる頃。

 

 

雲も少なく、月光が明るい範囲を照らし出す幻想的な夜に一人、青年が(たたず)んでいた。

彼が佇んでいるそこは、とある建物の中……()()()()()()()()

 

そこはもはや、建物の中とはいえない場所。壁も、屋根も破壊されて吹きさらしの状態。周辺に積み重なっている瓦礫は、当然壁や屋根の代わりになることはなく、夜風は直に吹いてくる。だが、それで彼の体が冷えることはない。

 

その建物の名は、真央霊術院。半年以上前の戦争で破壊し尽くされた、死神を目指す者達の登竜門たる場所。ただし、彼は死神を目指す者でもなければ、死神その者でもなかった。そんな彼は、真央霊術院の三階に相当するはずだった場所に立ち尽くし…夜空を、星を、月を…ただ黙って眺めていた。

 

 

青年が静かに星を眺めている光景は、第三者の視点から見ればそれだけで絵になりそうな幻想的なものであった。

 

 

だが、そんな静かな空間に闖入者が一人。

 

 

「あら、ユージオったら…こんなところにいたのね?」

 

「えっ…?」

 

 

ふわり、と降り立ったその人は……彼の──ユージオの、とても…大切な人。

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオは…彼女に、見惚れた。

この世界に来てからは、毎日のように顔を合わせている間柄であるのに…。今、月明かりに照らされながら、ゆったりと降り立つその姿は、まるで天の使いかのよう。

 

 

「ちょっと、ユージオったら… ぼーっとしてるのよ」

 

「あ、ああ…ごめん、アリス。なんでもないよ」

 

 

ちょっと(ども)った様子の変なユージオに対して首を傾げながらも、彼女──アリスはユージオの頬を人差し指でプニッと突いた。

 

 

「もう、ユージオったら…こんなとこにいちゃダメじゃない。他の人に見つからないように、寮から出ないってあの子達と約束したでしょ?」

 

「…そういうアリスなんて、ここからもっと遠くの方まで歩いて行ってるじゃないか。一度 夜歩いてた他の人に見つかりかけたこともあったよね」

 

「……バレてた?」

 

 

指摘されたアリスの表情は悪びれている様子は特になく、むしろ悪戯っ子のような顔をしていた。ユージオがコクンと頷くと、アリスは苦笑い。

 

 

「ここの人…死神さん、だっけ? いつも黒い服着てるから、夜だとちょっとこっちから気付きにくいのよねー。ま、でもここでゆっくりするくらいなら、バレないでしょ」

 

「…そうだね」

 

 

さっきここはダメだと言ってたのに、今やもうここでゆっくりする気満々なアリスに、今度はユージオが苦笑してしまう。アリスは瓦礫だらけの床の中で辛うじて綺麗な部分を見つけると、そこの床にスッと座り込む。それに倣って、ユージオもその隣に座り込んだ。

 

一応まだ椅子として無事な霊術院の備品もあるのだが、二人の青年はそれに座るどころか、触れることすらできない。今だって、床に座っているというより床に座っている()()()()()()()()()()と言った方が正しい。

 

 

彼らは、前に生きていた世界で一度 死んだ。

だが、死んだ後の彼らは…再び「ユージオ」「アリス・ツーベルク」としてこの世界に生きている。

 

ただし……まるで、とても儚い存在になってしまったかのようだった。

 

 

地に垂れるアリスの手の上に、さりげなくユージオの手が重なる。

この世界の物に触れることはできなくても…お互いなら、この世界でも触れ合える。

 

 

「…そうね。ユージオがいるなら……ほら、これ!」

 

「え? …わ、それひょっとして…」

 

 

アリスが月光の元でくるりと一回転すると、今の今まで手ぶらだったはずのその腕には、いつの間にか藤かごがぶら下がっていた。微かな光しかなくても、ユージオには分かる。もう、長いこと見る機会がなかったそれを、アリスはするりと腕から外して床に置いた。

 

 

「ちょっと暗いわね。…システム・コール リット・スモール・ロッド」

 

 

アリスが神聖術の式句を唱えると、ぼおっと青白い光が宿る。光が宿ったのは、これまたいつの間にかアリスの手にあった草穂の先である。その出現は本当にいつの間にかと称する他なく、ユージオが一つ瞬きする間に生まれている。ユージオ自身もこの世界に青薔薇の剣を想起した経験がある以上、そういうことができること自体に今更驚きはないが…それにしてもアリスが物を想起して生み出すのが本当に早い。

 

アリスは床に置いたかごに、光を灯した草穂を上手く挿して光源とした。その光と月光の合わさった位置に白布を広げ、その上にかごから取り出した食べ物を手際よく並べていく。

 

 

飲み物にはミルクの入った瓶。干した果物が数種類に、チーズと燻製肉が挟まれた薄切り黒パン。それに、塩漬け肉と豆煮込みのパイ詰め。かつて、アリスが毎日の労働の昼休憩として持ってきてくれた、お昼ご飯の献立のうちの一つ。もう何年も、何年も前に途絶えたその食事は、結局もうあの日以来 二度と食べることはできなくて…。

 

胸にこみ上げてくる思いが、目頭を熱くさせる。思わずちょっと目を逸らして気持ちを押さえ込むユージオ。

 

 

「…こうして見ると、夜に食べるにはちょっと多いかしら。あの頃のお昼は二人とも疲れてたからか、すぐにペロリと平らげちゃってたけど」

 

「ううん 大丈夫だよ。アリスの持ってきてくれるお弁当が…ずっと、一番に美味しいんだから…」

 

 

そう言って、視線を戻したユージオはゆっくりとパンに手を伸ばす。暗がりのせいもあって、ユージオの言葉を聞いたアリスの頬がちょっと赤くなったのには気づかなかったようだ。

 

アリスが想起した弁当の味は、変わっていなかった。何年も前の、あの頃の記憶の味と。さっき我慢してこらえたはずのものが、また危うく目から溢れ出るところだった。アリスが自分の分のパンを手に取ろうとする瞬間を見計らって、また目を抑えるユージオ。

 

二人は揃ってパンや果物を咀嚼しながら、時折空を見上げる。夜空を見上げながら静かに食事をするというのは、とても新鮮だった。この弁当を()()()()()()()()あの頃は、互いに互いの顔を見ながら他愛のない雑談に花を咲かせていた…。

 

それを思い出した瞬間、とうとうユージオは目から溢れ出るモノを抑えきれなくなってしまった。どうかアリスにバレませんようにと咄嗟に祈ったものの、その祈り虚しくアリスからはスッと手巾が差し出されてしまった。結局、ユージオは大人しく手巾を受け取って、顔の涙を拭き取ることにした。

 

 

やがて気持ちが落ち着いて 涙も止まってきた頃を見計らい、ユージオはアリスに手巾を返した。だが、それだけではない。紙に包まれた食べ物も、同時に差し出していた。だが、その食べ物は…アリスの想起した弁当とは別のものだ。

 

 

「ユージオ、これ…?」

 

「蜂蜜パイ。央都のお店で売ってるもので、あいつが………キリトが、よく買って食べてた」

 

 

相変わらず視線を逸らしながら、手巾と一緒にパイを差し出すユージオ。一見すると脈絡のない突然の行動に見えなくもないが、聡明なアリスは大体分かった。照れ隠しの意味と、お礼の意味。アリスは優しく微笑むと、「ありがと」と言って手巾とパイを受け取った。

 

手巾をポケットにしまい、パイを頬張るアリス。その味に、目をパチクリさせて好感を表情に表す。

 

 

「んー…これ、とても美味しいわ。確かにキリトが夢中になりそうな味ね。これじゃ、私の弁当から浮気されるのは仕方ないかも……」

 

「い、いやいやいや! そんな、浮気だなんて…キリトだって、きっとアリスの弁当が一番だって言ってくれるよ!」

 

「そうね。そうだと、良いわね…」

 

 

 

「いつか本人に会えたら、聞いてみることしましょう」

 

「……!」

 

「ね?」

 

 

至って普通の口調で紡いだアリスの一言に、ユージオは息を飲んだ。

その言葉は、本当に何気ないもの。ここで初めて、アリスの心のうちを…ユージオは知った。

 

 

 

()()()()()()()、アリスは彼に……キリトに会えることを、諦めていないのだと。

それを知った瞬間…こんな暗い夜のはずなのに、ユージオの目に映るアリスのその姿が、とても眩しく映った。

 

 

*

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*

 

 

だって、もう…ありえないだろう?

 

僕たちは死んだ。そして、全く別の世界にこうして来てしまった。

それも…もはや人間ではない。人間のような”何か”として、僕たちはここにいる。

 

何もない。

過去、僕たちの生きていた世界のことなんて…繋がりなんて、何もない。

あると言えば…僕たちの中にだけ。精神世界の思い出の中にのみ、僕らの世界はずっとある。

 

 

 

それでいいんだ。

 

 

例え会えなくても、いいんだ。

僕の心の中に、キリトがいて。

アリスの心の中にも、キリトがいる。

 

 

 

そして キリトの心の中に、僕らがいるなら……それでいい。

 

 

 

思い出は、永遠にここにあると言ってくれた。

キリトの中で、僕は…ユージオは、生きている。

 

 

だから…僕がいなくても、キリトは大丈夫。

最高司祭を倒した後…もしかしたら、世界は大変なことになるんじゃないかという心配もある。それでも、ずっと不可能と思えてきたことを成し遂げてきた、僕の英雄…キリトなら。まるで、今目の前に広がる夜空のように…世界を、優しく包み込んでくれる…。

 

 

 

道は、とっくに分かれたんだ。

僕たちと、キリト達の進む道は違う。

 

 

大丈夫。僕たちの生きた世界には、キリトがいる。

気高い心を持った、整合騎士アリスだって、あの世界で生きている。

 

 

だから、もう…考えなくていい。何も思わなくていい。

 

キリトには、僕なんていなくても…

僕がキリトの側にいなくても……

 

 

もう、キリトと二度と会えないのだと、しても………

 

 

 

 

 

「ほら──泣かないで、ユージオ」

 

 

そっと、ユージオの目元を…アリスの指先が拭った。

ユージオは気づかなかった。さっきから何度も抑えようとしていた涙が、全く無意識のうちに流れていたことに。そして、隣にいたはずのアリスが、目の前にきてくれていたことを。

 

 

眼前のアリスの顔が、月光の微かな光の中で微笑んだかと思うと…一気に近づいて──

 

 

互いの唇が接し、柔らかな感触を反発しあう。

 

 

 

あまりに急なキスだったため、ユージオは思わず目を白黒させるも…やがてゆっくりと目を閉じた。そう言えば…初めてこの世界で再会した時も、禁忌目録がないかの確認とか言われて突然キスされたなあ…とも思い起こしながら。

 

 

やがて、アリスがその顔をゆっくりと放し、ユージオにニッコリと笑いかけた。

 

 

「ほら、涙も止まった」

 

「…うん」

 

「大丈夫。きっとまた、会えるわよ。今はただ…信じて、待ちましょう」

 

「………うん」

 

 

アリスは、分かってくれているのだろうか。

今まで、自分が諦めていたことを。きっと、希望なんてないと思っていることを。

 

 

それでいて、なお自分を励ましてくれているのか。

 

 

再びキリトと会える可能性なんて…見つからないし、あるとは思えない。

アリスから励まされてもなお……ユージオの心に、希望は宿らない。

 

 

 

けど……

 

 

 

 

「やっぱり…会いたいな。キリト……」

 

 

 

 

ユージオは、自分の心に……ほんのちょっとだけ、素直になった。




【こぼれ設定話 その3】
なぜ、アリスとユージオは尸魂界へやってきた時、記憶を失っていたのか。

それはアンダーワールドの世界から去る時に、キリトを置いていくことへの心残りが疑似フラクトライトとなってその世界に残っていたから。ユージオの魂の欠片は青薔薇の剣に。アリス・ツーベルクの魂の欠片はアリス・シンセシス・サーティの体に。

フラクトライトの魂の一部をアンダーワールドに残していった二人は、魂魄の内部が欠損した状態で尸魂界へとたどり着いた。それゆえに、大事な記憶を思い出すことができないでいた。

しかし、流魂街での出会い 経験を繰り返していくうちに、その欠損部分を埋め直すように、新たな魂と自我が生まれ始める。それが後に『霊術院生ユージオ』と『霊術院生アリス』なる、もう一つの新たな人格となった。
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