元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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もっと四人が初めての現世を堪能するワチャワチャ日常回を書き綴る予定でしたが、早く本筋を書きたいという我儘ゆえに急展開となります。


第四十六話 日誌と手がかりの一冊

短期現世駐在任務体験校外学習

記録日誌

 

本当は正式に提出する日報もあるんだけど、それとは別にこうして日誌をつけることにした。

 

提出するための硬い文章じゃなくて、あくまで気楽な日記みたいな感じで書きたいと思ったから。

それに何より、兄さん達の世界についての手がかり。ゲーム、ログアウト、VRMMO……夢の世界。それらを愛梨と情報共有するためにも、この日誌を活用したいと思う。書いてるところさえ見られなければ、兄さん達にも知られることはないだろうし…もちろん、開けっぱなしにしないようにも気をつけて。

 

 

 

 

○月×△日 任務一日目

 

義骸 死神担当:島崎 茅野

魂葬:1件

虚浄化:0件

 

初めての魂葬を無事に行えたのはいいけど…今日は本当に愛梨に迷惑をかけっぱなしで本当に申し訳ないと思う。義魂丸がないのを補うために、明日からは義骸で街を回る担当と魂魄の姿で魂葬と虚退治をする担当で分かれて行動することにした。虚の出現率が高いのは夜中だから、本当は死神担当は夜に巡回するべきなんだけど…平子隊長曰く、夜に寝てても虚討伐の指令が来たら起きればいいって。

愛梨は、僕の義骸を使って街を回るって言ってるけど…それは当然、愛梨が僕の姿……端的に言えば、仮の体とはいえ男になるということであって……。

 

…色々不安だけど、愛梨が大丈夫だと言うのだから、信じよう。

とにかく、明日から気持ちを切り替えて頑張ろう。

 

記録担当:島崎

 

 

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○月×○日 任務二日目

 

義骸担当:島崎

死神担当:茅野

魂葬:2件

虚浄化:0件

 

雄次郎の言う通り、気持ちを切り替えて頑張りたい二日目……だけど、スタートダッシュとしては良くない一日ではあったわ。…正直に言うと、ほとんど私のせいなんだけど。

というのも、出かける前にちょっとテレビをつけてみたら……もう、目が離せなくて。それも私だけじゃなくて、雄次郎も、ユージオ兄さんも……姉さんも。四人揃ってテレビに釘付け。私のお腹が鳴った時に初めて皆ハッとなって、テレビに夢中になり過ぎてたことに気づいたの。

お腹を鳴らしちゃったのは正直恥ずかしかったけど、そんなことがどうでも良くなるくらい驚いたわ。何てったって、私がテレビをつけたのが八時。それで私のお腹が鳴って皆が正気を取り戻したのが、午後二時だったのよ。午前中丸々、任務をサボっていたことになっちゃった。

これは流石に二人で反省。テレビのリモコンは棚の奥深くにしまって、テレビは封印することにしたわ。もっと私達が自制を覚えるまではね。

 

結局、二人とも午後だけの仕事になっちゃった。

私の方の仕事は、魂葬を二件ほど行ったわ。初めてにしては…うまく、言ったと思うわ。多分。

 

記録担当:茅野

 

 

*

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○月×□日 任務三日目

 

義骸担当:茅野

死神担当:島崎

魂葬:1件

虚浄化:0件

 

昨日は僕らが不甲斐ないせいで、半日仕事ができていなかった。今日こそはちゃんと任務をこなさないといけない。今日は愛梨が初めて僕の義骸で街を廻る日だけど、そっちを心配していられないくらいには気が張っていたと思う。

お昼の休憩時間には、一昨日買っていた本を読んで趣味を兼ねた情報収集をした。一冊ずつ読むのが勿体無くて、つい二冊同時読みをやっちゃった。床に本を二冊広げて、それぞれを両膝で抑えながら両手でページをめくる……正直情けない格好だし、後ろからの兄さんの視線がちょっと痛かったけど…本を読んでるうちに気にならなくなった。

ずっと読みたかった漫画の方は面白くて、楽しくて、とても幸せだったけど…肝心のVRMMOについての情報はあまり得られなかった。

というのも、今日僕が読んだ本はVRMMOの社会的影響とか家庭的影響とか…子供の教育上云々とか……まあ要するに、VRMMOを知っていること前提の論述書みたいなもので、VRMMOのことを一から知りたい僕らにはあまり向いていない本だった。あの時はVRMMOの文字がある本を片っ端から買っていったからしょうがないと言えばしょうがない…かも。

残る本の中にこそ、いい情報が残っているといいな。

 

記録担当:島崎

 

 

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○月□☆日 任務四日目

 

義骸担当:島崎

死神担当:茅野

魂葬:?件

虚浄化:0件

 

本来なら、死神担当が記録をつけるべきなんだけど、今回はちょっと僕が二連続で記録を担当した。

実は…愛梨が夕飯の時間になっても一向に帰ってこないと思ったら、そこから更に一時間経った頃にフラフラになりながら帰ってきたんだ。

もちろんすごくビックリした。でも怪我は全くなくて、虚に襲われたという訳でもなさそうだった(もし虚が出現したなら、僕の伝令神機にも指令は行ったはずだし…)

結局愛梨はこんな夜遅くまで何をしていたのかを一切話してはくれなかった。ただ無言で風呂場で水浴びして着替えたらすぐに床についちゃった。話したくないというより、余程疲れていたみたい。

愛梨が話したくないなら、僕ももちろん無理に聞くことはしない。今日の愛梨の夕飯は、冷蔵庫の方にしまっておこう。

 

記録担当:島崎

 

 

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○月□=日 任務五日目

 

義骸担当:茅野

死神担当:島崎

魂葬:3件

虚浄化:0件

 

昨日は雄次郎に心配かけてしまった。姉さんの言うことを聞かずにのめりこんじゃった私が悪いのは、充分反省してるつもり。朝起きて雄次郎に謝ったら「僕だって愛梨にはずいぶん迷惑かけちゃってるし、まだおあいこにも遠いくらいだよ」と言ってくれた。今後は、ほどほどにしよう。

義骸の私は、今度はゲームを売ってる店を探して街を歩いた。件の「VRMMO」はゲームの機械が作る世界だった言うし、本による情報収集だけじゃなくて実物を探してみることにしたの。

ただ、ゲームを売ってそうな店はなかなか探すのが難しかった。「ゲーム屋」って乗ってる看板があるわけでもないし、とりあえず機械が外から見えている店に入ってみても、中にあるのは冷蔵庫とかテレビとかの機械ばっかりで。

夕方になった頃、何かすごく巨大な建物のお店の上の階の方で「VRMMOゲーム大特価!」みたいな売り場をようやく見つけたわ。その時は本当に嬉しいやら驚くやらで、変な声が出ちゃって姉さんを驚かせちゃった。

 

平子隊長の言う通り、VRMMOってだけでもすごいゲームの数。

「人界」「ルーリッドの村」「公理教会」「セントラル・カセドラル」……姉さん達の世界の手がかりになりそうな言葉を頑張って探してみたけど、どのゲームの表紙や裏表紙を見てもそれらしいものは載ってなかった。姉さん達も興味深そうにいろんなゲームの表紙を見ていたけど、特にピンときている様子はなかったわ。

本と同じように手当たり次第に買ってみることができたら良かったんだけど…ゲームって、恐ろしいくらいに高いのね。ゲーム一個買うだけで、一週間分の食費が消えちゃうと考えたらとても手は出せない。その上、ゲームだけ買っても遊べなくて、ゲームの他にそのゲームを動かす機械を買う必要が……もう頭が痛くなってくるわね。

 

充分なくらい尸魂界でお金を稼いだと思ったつもりだったんだけど…ひょっとしたら、この現世でも更にお金を稼ぐ必要があるかもしれないわね。

 

記録担当:茅野

 

 

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○月□*日 任務六日目

 

義骸担当:島崎

死神担当:茅野

魂葬:1件

虚浄化:0件

 

雄次郎に二連続で記録を担当させてしまった分、もちろん今日も私が記録を担当する。

また雄次郎に迷惑をかけることのないよう、”アレ”もほどほどにしたわ。でも…本当に、あとちょっと。あとちょっとでモノになりそうだから…今夜、雄次郎達が寝静まった頃にこっそり外出てやろうかしら。

 

それにしても、いくら二手に別れてもこの半径一霊里を全部回るのは大変。普通に空から回るだけでも時間かかるのに、整は建物一つ一つにいる可能性もあるから、厳密には範囲内の全建物を回っていかないといけない。でも、目に見えないけど器子にも干渉し合うこの魂魄の体だと、店や家に入るのも一苦労。だって、他の人達に触れたら危ないし怪しまれるしで、出入りする人たちと接触しないように建物の中を回るのってすごい大変だし神経を使うわ。多分、建物内の整を調査するのは義骸担当に任せたほうがいいかも。本来はこの範囲を一人でこなすんだって言うんだから、死神の現世駐在任務って本当に大変なお仕事なのね。

 

そういえば、今日は巡回中に雄次郎とばったり出会(でくわ)した。ただその時は、ちょっと雄次郎が困っているようだった。というのも、何か人間の女の人達に囲まれてワヤワヤしてたわ。

また本屋の時みたいに雄次郎が何かやっちゃったのかと一瞬邪推しちゃったけど、女の子達が「お兄さんどこの国の人なんですか?」「観光ですか? それなら私達、いい店知ってますよー!」「お兄さんカッコいいです! すみません、一緒に写真いいですか!?」と詰め寄られてるのを見るに、女の人達からの一方的な迫り方のようだった。

こっちに気づいた雄次郎は視線で助けを求めてきたけど私の側から女の人達にどうこうする訳にもいかないし、手を広げて降参の構えを送るしかなかった。

 

とりあえず雄次郎は写真のリクエストだけ対応したら、「これから用事あるから!」で無理やり女の人達から逃走してた。後で雄次郎が言うには、あれは「逆なんぱ」というものらしい。つまり、結局男でも女でも常に「なんぱ」の危険性があるってこと……私が雄次郎の義骸を使っている時も、油断しない方がいいわね。

家に帰った雄次郎は、女の子に逆なんぱされたことよりも、その女の子達が使ってた板のような薄いカメラについてすごく気になってたっぽかったわね。

 

記録担当:茅野

 

 

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○月□¥日 任務七日目

 

義骸担当:茅野

死神担当:島崎

魂葬:1件

虚浄化:0件

 

 

今日で任務体験も一週間となった。

そういえば今日も……いやこの一週間でずっと、一体も虚が出現してないな。

伝令神機にも全然指令がこない。

平子隊長は「どんなに少なくとも最低週一で虚は出ると思っとった方がええ」みたいに言ってたけど…これは、偶然なのかな?もちろん、虚が出ないならそれに越したことはない……んだけど、なんだろう。何となく不安になるような…

 

 

 

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「雄次郎! ちょ、ちょっとこっち来て!」

 

「…え?」

 

 

今日の分の日誌を書いていた雄次郎は、その途中で背後からの切迫したような愛梨の声を耳にした。思わず机の上に置いてあった伝令神機の画面をチラリと見るが、当然指令は来ている様子はない。虚出現の報以外で何かそんなに焦ることがあるのだろうか。

不可解に思いながらも、雄次郎はきちんと日誌を閉じた上で椅子から降りる。ユージオとアリスは斬魄刀の中に戻っているのか、他に誰もいないこの部屋で愛梨は自らのベッドの上で一冊の本を広げていた。

 

 

「どうしたの、愛梨? その本が何か…」

 

「見れば分かるわよ! ほら、ここ見てここ!」

 

 

一秒でも惜しいとでも言いたげな雰囲気で、ずいっと本を押し付けてくる愛梨。雄次郎には買った覚えのない本であったことから、おそらくはあの時の本屋で愛梨がチョイスしたものだろうか。その勢いに押されながらも、雄次郎は愛梨が示した本の文章に目を走らせる、と…

 

 

——完全なる仮想世界を構築するナーヴギアの性能を活かした世界初のVRMMORPG、ソードアート・オンラインの舞台となる世界の名前は、浮遊城『アインクラッド』。具現化する異世界、An INCarnating RADiusの略称から生まれた言葉である。この世界がやがて——

 

 

「アイン…クラッ、ド……って、え、えええええっー!? 嘘! だって、アインクラッドって…兄さんの…!」

 

「しーっ! 驚くのは分かるけど声は抑えて! 姉さん達も気付いちゃうし、隣部屋の人たちにも迷惑でしょ!」

 

 

勢いよく愛梨に口を塞がれ、その勢いで二人揃ってベッドの上に倒れ込む。結果的に愛梨に馬乗りされるような形で押さえ込まれた雄次郎は本を抱えながらコクコクと頷いて今後気をつける旨を伝えた。マウントポジションは無事解除され、改めて愛梨と雄次郎は揃ってベッドに座り込み、互いに本を食い入るように見つめた。

 

 

「…偶然? いや、偶然にしては……だよね」

 

「それはそうよ。VRMMOの本に載っている「アインクラッド」……ユージオ兄さんが使う”剣術”の名前。絶対、なにか関わりがあると考えて間違いないわ」

 

 

強気に断言する愛梨。

一方、雄次郎はふと気になって本の表紙を確認すると、題名には「SAO事件全記録」とある。一見するとVRMMOの字が見受けられないが、ちょっと視線を下にずらせば「世界初のVRMMOが引き起こした世界最悪の事件を、”内”の生還者が描く完全実録!」の文が踊る帯が本に付与されているのが分かる。愛梨はこの宣伝用の帯を見て購入のリストに入れたのだろう。

 

 

「……愛梨、この本借りていい? 僕が読んでいい? ね、お願い!」

 

「そんなせっつかなくても、もちろんそのつもりよ。本の担当は雄次郎って決まってるからね」

 

 

愛梨から完全に本を手渡され、両手で抱えているとなんだか雄次郎は胸が高鳴ってくる感じを覚えた。当然、未知なる本を開く前のドキワク感とは異なるものである。想像以上だった。いざ、仮定と想像だけで議論を続けてきた青年達の世界——その手がかりが、この手にあるという感覚は。

 

 

気を利かせた愛梨がベッドから離れ、雄次郎が書きかけた日誌を引き継いで代わりに書くべく向こうの机に向かっていった。雄次郎は改めてベッドの上に座り込み、愛梨から受け取った本を一旦目の前に置いてから深呼吸を一回、2回。なんか無意識に仰々しくなってしまう。

 

意を決してベッドの上においた本の表紙を、片手でめくる。いつもは胡座を書くところだが、足は自然と正座の体勢になり、上体を曲げて本に向けて顔を接近。並ぶ文章を、文字を…少しも見逃さないように頭に入れていく。

 

 

——世界初のVRMMORPGとして、発売前から一世を風靡したこのゲームが、同時に世界で初めてとなる…最悪の犯罪の舞台になろうとは——

——『これは、ゲームであっても遊びではない』…この言葉の意味は、否応なしに全てのプレイヤーがすぐに理解させられることになった——

——中央広場を埋め尽くす絶叫。それは、二年以上にも渡る惨劇を告げる絶望の鐘の音として——

 

 

「……?」

 

 

雄次郎は最初、文字だけを率先して頭にいれ…その言葉の意味を理解するのは後回しにしていた。本を嗜むものとしてはNG極まりない読み方ではあったが、世界への手がかりを掴むため…「アインクラッド」のようにキーワードとなる語句を探すことに集中していたからだ。だが、そんなNGな読み方でも入ってくる断片的な文章の意味…それが頭に入ってくるにつれ、雄次郎の脳裏にハテナマークが浮かぶ。

 

雄次郎とて、この一週間VRMMO関連の書籍を読み続けてた身。そんな彼が感じた明らかな違和感。今まで読んできたVRMMO——ゲームの解説や論述本とは、違うような。

 

 

まるで、盛大な物語が始まる前の語り口のような。

 

 

 

————四千人近くの死者を生み出した最悪のデスゲーム、ソードアート・オンライン。これは、生と死が渦巻く世界の中でそれでも生を掴み取るために足掻き続けた人々の記録である。

 

 

 

「四千人………死者……えっ? ゲームの話……だよ、ね?」

 

 

 

おそらく、本全体の前書きとなる部分を読み終えた雄次郎。

その口から…自分に言い聞かせるような言葉が漏れた。

 

 

 

 

VRMMOという世界においては、「死」や「殺し」という恐ろしい言葉が自然と交わされているらしい。それというのも、所詮ゲーム…遊びの世界においては、生きるも死ぬも仮初でしかないから。たとえゲームの世界で死んでも、子供同士のチャンバラでやられた子供が死んだふりをするのとなんら変わらないのだと、本には書いてあった。

この「ソードアート・オンライン」についての本に書かれている「死者」というのも、その程度の意味に違いない……と、雄次郎は()()()()()。ただ、そう本気で思えるほど雄次郎の読解力は低くはなかった。

それでも、「遊びで人が死ぬ」なんて話は、信じたくないのもまた事実。空想の物語の話ではなく…四千人もの人間が現実の世界で死んだという話。四千人といえば…半年前の「霊王護神大戦」で勇敢にも戦死した死神達の数さえも上回るほどなのだ。

 

信じたくない話を、切々とした文体で訴えてくるこの本。思わずゴクリと唾を飲み込んだ雄次郎だったが、その時ふと、とあることに気づいた。

 

 

(…待てよ。そもそもVRMMOのゲームは、僕らの推測からすれば兄さん達の世界のこと。そして兄さん達はその世界で死んで…尸魂界にやってきた)

 

(人が死んだVRMMO…SAOと、兄さん達の世界………そして、SAOの城の名前と同じ兄さんの剣術流派「アインクラッド」……)

 

(ひょっと、して……ひょっとすると…!)

 

 

改めて、より本を眼前に近づけて読書を再開する。その読み方は、相変わらず本を嗜むものとしてはNG極まりない読み方。文章の意味ではなく、言葉をひたすらに探す読み方。ページを捲るスピードも、とても内容の意味まで頭に入っているとは思えないほどの速さ。

 

あるはずだ。この本のどこかに、兄さん達の……ユージオとアリスの生きた証が。世界の証明となる言葉が。

 

楽しむために本を読むのではなく、成し遂げるべき願いのために、雄次郎は言葉を探す。目を走らせる。読み終えたページが右手に溜まり、次々と左手がページをめくって右手に送り続ける。

 

 

 

 

 

 

だが……その手は思いの外早くに止まった。

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

左手の指で抑えている方のページを、じっと見つめる雄次郎。その中の一文を、

いや、その”人名”を……思わず指先ですっ、となぞる。

 

 

 

そこに書かれている名前とは……”ユージオ”でも、”アリス”でもなかった。

 

 

 

だけど、雄次郎は知っている。その名前を。

会ったことはない。だけど、その姿を見たことはある。

 

 

 

兄の、ユージオの記憶の中で、常に一緒にいた人物。

 

 

 

*

*

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*

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『いい音がしたのは、五十回中三回だったな。全部合わせて、えーと、四十一回か。どうやら、今日のシラル水はそっちのおごりだぜ、ユージオ』

 

 

『せっかくの旨い弁当なんだから、もっとゆっくり食べたいよなあ。なんで暑いと弁当がすぐ悪くなっちゃうんだろうなあ』

 

 

『夏の氷、と言えばあれしかないだろう。「ベルクーリと北の白い……」』

 

 

『よし決まり、次の休息日は白竜……じゃない、氷の洞窟探しだ!』

 

 

 

*

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*

 

 

 

『君は誰? どこから来たの?』

 

『ええと……俺の名前は……』

 

 

 

 

 

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*

 

 

 

————第1層フロアボス攻略戦を突破したことで、全てのプレイヤーの心に希望が宿ったことは間違いない。だが、生まれたのは希望だけではなかった。

————尊い犠牲が生まれた。第1層フロアボス攻略の象徴となるプレイヤーを失ったことで、攻略プレイヤーたちも攻略方針の違いから2つの派閥に分かれることになってしまった。

 

————それと同時に…『ビーター』という汚名を背負う新たなプレイヤーの存在が台頭する。

————彼が背負っていたのは、確かに汚名ではあった。しかし第1層フロアボス攻略戦において、彼の働きは間違いなく、勝利への架け橋となる貢献。全てのプレイヤーの心に希望を宿す契機を担った一人である。

 

 

————そしてその『ビーター』が、全てのプレイヤーのその希望を叶える……救世主となることを予感していた者は……はたして、あの場にいたのだろうか。

————いや、浮遊城『アインクラッド』の最終ボスを魔王とするならば、その魔王を打ち倒し、およそ六千名のプレイヤーを救った彼は、救世主と言うより勇者と呼ぶべきであろうか。

 

 

————漆黒の衣裳を好んで見に纏い、「黒の剣士」の異名を持って攻略に臨んだ『ビーター』。

————彼の、キャラクターネームは……

 

 

 

*

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*

*

*

 

 

 

「キリト………さん…?」

 

 

 

 

 




【こぼれ設定話 その7】

Q.現世に来て一週間となりますが、現世で過ごしていて一番驚いたことは?

ユージオ—動く絵や動く光景を写すテレビ。仕組みももちろん気になるけど、一日中見ても飽きないくらい色んな目を惹く光景を映し続けているのがすごい。
アリス—車や電車など、様々な乗り物。中でも自転車が一番気になっている。難しい機械も使っているように見えないし、自分の故郷でも材料さえあれば再現できるんじゃないかと考えている。

雄次郎—病院で読んでいた大好きな漫画の最新刊が発売されていたこと。しかもどうやら現世でも大人気らしく、すれ違いざまに聞いた会話によると、最終巻まで発売されているらしい。一刻も早く手に入れたい…!
愛梨—雄次郎の義骸を借りた時の、男の体の感覚。特にトイレの時————

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