元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

50 / 68
読者から見たような神視点でなく、
あくまで情報の少ない作中人物の目線で色々議論しているのが大好きです。


第四十七話 議題「キリトさんと世界移動について」

「へえ……キリトさんのことが、その本にねー」

 

「愛梨はキリトさんのこと、アリス姉さんから聞いてたりしない?」

 

「ちょっとはね。でも、雄次郎みたいに顔は分からないわよ。私はまだ姉さんと同調できないんだから、記憶も見たことないもーんだ」

 

 

わざとらしいくらいに拗ねた口調の愛梨は、両手で大事そうに持っていた照り焼きハンバーガーを大口を開けて頬張った。満足そうな表情になる愛梨をみて、雄次郎もなんだか微笑ましい気持ちになりながら自分もフィッシュバーガーを口に運ぶ。

 

 

*

*

*

 

 

時刻はちょうどお昼。いつもは別々にとるはずのお昼休憩を、今回は二人で一緒にとっている。なぜなら”昨晩の件”について、話し合いたかったからだ。

本来ならば一日目の時のように二人で義骸に入って食事処に入りたいところだが、義魂丸のない今だと突然の虚出現に対応できないしその上、今回の話し合いはいつも見守ってくれてる兄姉達には内緒にしたかった。

 

なので今、二人が食事をとっている場所は一般の食事処ではなく、なんと屋外。それも普段住んでいるウィークリーマンションの屋上に、朝買ったシートをひいてそこでお昼ご飯を食べている。普段は当然施錠されてる場所ではあるが、死神見習いの彼らにとって、言い方は悪いが侵入など容易いことではある。

ちなみに今日のお昼ご飯はハンバーガーとポテトのセット。一昨日に愛梨が見つけた現世の食べ物で、彼女はすこぶるそれが気に入っているようだ。それらを購入後に小型の霊子変換器で霊子にすることで、死神状態の彼らでも食べれるようにして、雄次郎と愛梨は食事を楽しんでいた。

 

その上、二人とも斬魄刀はさりげなく部屋の中に置いていってる。こうすることで、兄姉達に今回の話し合いを秘密にできる。わざわざ部屋の中ではなく屋上を食事場所に選択したのもそのためだ。まあ、単純にお昼の陽気に触れながらの食事もなかなか良いものでもある。

 

 

ポテトにマスタードのソースをつけながら口に運ぶ雄次郎の視線は、シートの上に置かれた一冊の本——「SAO事件全記録」の表紙に視線を向けていた。その目の真剣さは、まるで実際に本の中の文章に目を通しているかのようだった。

 

 

「そういえば、本の中にはユージオ兄さんや姉さんのことは載っていたの?」

 

「まだ半分くらいしか読んでないけど……見つかってない。そもそも本によると、1万人以上の人がこのゲームの中にいたって言うし、その中に兄さん達がいたとしても、書かれてない方が自然かなって」

 

「でもその1万人がいる夢の世界の中で、キリトさんのことが特別に書かれてたんでしょ? …どんな風に載ってたの?」

 

「あ、ちょっと待って。ええっと…ね」

 

 

雄次郎は食事で汚れた手を付随のティッシュで拭き取り、本を手にとってページをめくり始める。すると、雄次郎の両手が本で塞がっているのを見て、愛梨は何を思い付いたのかニヤリとし始める。

 

親切心か悪戯心か、愛梨は突然雄次郎の買ったポテトを代わりにつまんで、雄次郎の口元に持っていった。

 

 

「はい、あ〜ん♪」

 

「あーんって、え、ちょっ……………ん、んむ………あ、ありがとう…。で、えっと……あ、あった。このページ、で…」

 

 

愛梨のあ〜んに結構困惑はしたものの、一応は好意と受け取って大人しく押し付けられたポテトを口で受け取ってモグモグと咀嚼。一瞬、今の一連の行為に対して恥ずかしさを感じる雄次郎。そうこうしていると該当のページを見つけたので、愛梨にそれを示してみせた。

 

 

「………………ふーん、『黒の剣士』って二つ名……それに『二刀流』って、京楽総隊長と同じ? …それなら確かに有名になるのも、なんとなく分かる気がするわね」

 

「うーん、このゲームの『二刀流』と尸魂界の『二刀一対』が同じくらい珍しいのかは分からないけど……あ、はむ……んくっ……有名になったのはむしろ、こっちが理由みたい。ほら」

 

 

————いや、浮遊城『アインクラッド』の最終ボスを魔王とするならば、その魔王を打ち倒し、およそ六千名のプレイヤーを救った彼は、救世主と言うより勇者と呼ぶべきであろうか。

 

 

「魔王を倒して、六千人を救った…。なんかよく想像できないけど……凄い、のね。キリトさんって…」

 

「うん、二刀流って言うのも……あー、ん、んむ……もしかしたら本当に、京楽総隊長くらい強いのかも。…そう思うと、個人的にもちょっと会ってみたくもなるんだよね…」

 

 

雄次郎が本を持ち、愛梨もそれに目を通しながら雄次郎の口にポテトを提供するという奇妙なルーティンが行われているが、そんな中でも別世界のゲームにおける「キリトさん」なる人物についての会話が弾む。だが、二人はすぐに話の脱線に気づいた。キリトさんの正体を突き止めるのは、あくまで”世界”を見つけるための足掛かりなのだ。キリトさんがメインではない。

 

 

「本によると、キリトさんは”ソードアート・オンライン”っていう夢の世界にいた。で、雄次郎が見たユージオ兄さんの記憶だと、キリトさんはユージオ兄さん達がいた世界…”人界”にもいた。キリトさんは元々、どっちにいたのかしら?」

 

「モグモグ……えっとね、多分”人界”の方がキリトさんの故郷だと思う。僕が見た兄さんの記憶の中のキリトさんやアリス姉さんは、今の僕らと同じくらいの子供だったからね」

 

S(ソード)A(アート)O(オンライン)でのキリトさんが何歳かは分からないけど、流石に幼少期からゲームで戦っていたとは考えられないし……んん、でも……あれ…?」

 

 

確信めいた口調でキリトの出身地を推理していた雄次郎が、突如難しい顔をして首を捻り始める。思わせぶりな様子の雄次郎が気になる愛梨は、数本残っていた雄次郎のポテトを全て一気に彼の口に押し付けながらその理由(わけ)を聞いてみる。

 

しばらく頬を膨らませてポテトを咀嚼し、ようやく嚥下(えんか)した雄次郎は語り始める。

 

 

「えっと、僕が見た記憶はね。子供の頃の兄さん、アリス姉さん、キリトさんの三人の記憶……とは別に、もう一個見たことがあるんだ。兄さんとキリトさんが一緒にいる時の記憶なんだけど…二つ、気になることがあるんだ」

 

「一つは、兄さんとキリトさんが…子供じゃなくて、成長した今みたいな姿になっていたこと……それと、もう一つが…」

 

 

*

*

*

 

 

『君は誰? どこから来たの?』

 

『ええと……俺の名前は……キリト。あっちの方から来たんだけど、ちょっと、道に迷ってしまって……』

 

 

*

*

*

 

 

「…お互いのことを、知らない?」

 

 

目を丸くして驚く愛梨。雄次郎は食べ終わった後の食事の包み紙を一つの袋に纏めながらコクリと頷く。

 

 

「そう。まるでお互い初対面みたいに……変だよね。兄さん達三人はまるで幼馴染みたいに仲が良さそうだったのに…あの光景から何年経ってるかは分からないけど、まさかお互いに忘れたなんてこと…」

 

「それは…確かに不思議ね。……あれ、でも待って。なんか似たようなハナシ、どこかであったような…?」

 

 

 

「どこかで……? ……………………………………あっ」

 

「……………………………………ええ」

 

 

雄次郎は、思い出した。さらにそれから一秒遅れ…つまりはほぼ同時に愛梨も思い出して、改めて顔を見合わせる。

 

知り合いのはずなのに、記憶を失ってお互いに忘れているというハナシ。そうだ、そもそも雄次郎と愛梨自体がそんな不思議な出会いを尸魂界で果たしたのだ。*1

厳密に言えばただ記憶を失っていた訳ではなく雄次郎と愛梨、ユージオとアリスの記憶と魂魄に絡む複雑な事情と事象が絡んでいたのだが、似たような現象であることには間違いない。

 

愛梨は手を綺麗に拭くと、話を纏めるためにも懐からノートを取り出してそのページを一枚切り離す。そして、黒ペンと赤ペンを駆使しながら何かを書き込みつつ、独り言のように推論を口にし始めた。

 

 

「アリス姉さん達三人は幼馴染……かは分からないけど、少なくとも子供の頃から仲良しだったのよね。でも、成長したキリトさんとユージオ兄さんはお互いに記憶がなくなっていた…」

 

「…尸魂界だと、姉さんとユージオ兄さんは来た瞬間から記憶を失っていた…。それなら、ひょっとすると……」

 

 

「すると……?」

 

 

首を傾げる雄次郎。愛梨はまるで理論派の雨涵が乗り移ったかのように、ブツブツと呟きながら一枚の紙にカリカリと描き続けていたが、やがてその手を止めると左手に持ったその紙をビシッと勢い込めて雄次郎に提示する。

 

【挿絵表示】

 

「つまりね。私が思うに『世界を移動すると記憶が消えちゃう』ってことじゃないかと思うのよ! 人界→尸魂界に移動した姉さんとユージオ兄さんは記憶が失われてたし、キリトさんが記憶をなくしていた理由も人界→SAOの世界→人界と移動してきたからと考えたら、辻褄が合うと思わない?」

 

「ん、ん……なる、ほど……。でも、世界を移動していない人界の兄さんまで記憶を失ってるってことは…」

 

「『世界を移動すると、その移動した人についての記憶も皆失われる』……ってことじゃないかしら。こればっかりは実際にその世界に行ってみるまで検証はできないけど。ひょっとしたら、姉さんとユージオ兄さんについての記憶も、キリトさんは…」

 

 

眉根を寄せて、少し悲しそうな表情になる愛梨。キリトさんが子供の頃仲の良かったはずのユージオとアリスのことを覚えていない……現時点ではただの推論に過ぎないものの、その可能性が考えられるだけでもなんだか悲しい気分になってくる。

一方の雄次郎はこの図の左端を見て「この書き方だと…まるで僕と愛梨が兄さんとアリス姉さんの間に産まれた子供みたいになっちゃってない…?」という感想を抱いていたが、本題はそこではないと思い直して改めて表の全体に注目する。

 

しかし…そうしていると、何かに気づいた雄次郎の顔が少しずつ青くなっていく。

それに気づいた愛梨が、首を捻りながら尋ねる。

 

 

「…どうしたの? 雄次郎」

 

「いや……これ見て思ったんだけどさ。ひょっとしたら、兄さん達の故郷の人界ってさ…VRMMOと、関係ないんじゃないかって……」

 

「え?」

 

 

今まで立ててきた”人界”という世界についての推論…の前提そのものが崩れている可能性を考え始めた雄次郎が、ポツリポツリと語り始める。

 

 

「だって、僕がそもそも人界=VRMMOって仮定したのはさ。記憶のキリトさんが『ログアウト』っていうVRMMOの言葉を使ったからって理由が一番なんだよね。でも…愛梨のこの図の通りなら、キリトさんはVRMMOのSAOの世界から帰ってきたワケだから、『ログアウト』の言葉は普通に知ってて当たり前ってことになる…」

 

「人界からSAOの世界に行けたり、尸魂界にも行けたりって考えると…”人界”っていうのはむしろ、色んな世界へ渡れる架け橋のような場所……って考える方が、自然かも…」

 

 

「ああ…なるほど。言われてみれば確かにそうねー。もし、”人界”が色んな世界へ渡れる可能性があるとしたら、もしかすると現世から直接人界に行く方法もあったりするかも………ん…?」

 

 

雄次郎の推論を受けて、うんうんと納得の意を示す愛梨。そこから更なる可能性を見出そうとしている最中で愛梨は目前の雄次郎の様子がちょっと変なことに気づいた。さっきの顔の青さのまま俯いて、落ち込んでいる雰囲気がプンプンと。

何をそう落ち込んでいるのか……と愛梨は口をへの字に曲げて考えるが、やがて何かを思いついたかのような様子を見せると、雄次郎の側に寄って肩をバシッと叩く。

 

 

「まったく……まさかとは思うけど、自分の考えが外れて落ち込んでるの? 雄次郎ったら、現世に来てからちょっと落ち込みすぎよ?」

 

「そ…そうかな。でもさ、もしVRMMOが関係なかったとしたら…せっかく愛梨にも協力してもらって色々調べたのに……」

 

「もう、なにまたネガティブになっているの! 私はあくまで自主的にやってるんだから、協力してもらうとかじゃないでしょ! それに、何も無駄になんかなってないわよ。このことだって、VRMMOのこと調べて初めて分かったことなんだから、ね」

 

 

雄次郎に対し、自分の書いた紙をヒラヒラと突きつける愛梨。急に勢いついた愛梨に対して思わず雄次郎は少し後ろにのけぞってしまう。

 

 

「別に、VRMMOのことを目指すことは何も間違ってないと思うわ。だってこのSAOって世界は、人界と行き来できることが唯一確認できてる世界のはずだもの。現世や尸魂界から人界に行くことはできなくても、VRMMOから人界を目指す方が、一番確率が高そうじゃない」

 

「確かに……そうかも。無駄じゃない、よね…。でも、結局……キリトさんはどこで……」

 

「…………はぁ」

 

 

それでもテンションはローのまま、視線を下に向けて考え込んでしまった雄次郎の様子に愛梨は小さくため息をついた。

 

 

「はい。これ」

 

「…え?」

 

 

考え込んでいた雄次郎の視線の先に、スッと愛梨の手が差し出された。

いや、その上にはいくつかの紙…もとい、現世のお金であるお札が三枚ほど乗っかっていた。

 

 

「雄次郎は今日義骸でしょ? 私の分のお小遣い貸すから、今日は任務を忘れて好きなの買って遊んできなさいよ」

 

「えっ……そんな、3000円も……悪いよ。それに任務も…あいたっ!」

 

「い・い・の! そのネガティブな雰囲気を気分転換で直してきなさいって言ってるんだから!」

 

 

お金を持ったまま拳を作って雄次郎の脳天を叩く愛梨。そして、そのままお金を雄次郎の懐にグイッと突っ込んだ。

 

 

「お金は貸すだけ! それで雄次郎がちゃんと気分転換して、元気になってくれるなら安いモノよ。キリトさん達のことについて深く考えるのはあとにしましょう。あなたはただでさえ気分の上下が激しいんだから、せめて気分高くいきましょうよ、ね?」

 

「…うん。あり…がとう、ね」

 

 

そこまで愛梨に言われては、雄次郎も断れなかった。大人しく頷いた雄次郎は自分と愛梨の分のご飯の包み紙を一纏めにすると、ゆっくりと立ち上がって屋上から飛び降りた。そのまま空中をゆっくりと降りて窓から自分たちの部屋に戻っていった。

 

 

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

*

 

 

陽が、ようやく完全に落ちきった頃。

 

 

「ただいま〜」

 

「あ……お帰り、愛梨。それに、アリスも」

 

 

いくつかの魂葬を終えて()()()帰ってきた愛梨とアリスの二人。死神担当が窓から入退出するのはもはやいつも通りではある。が、それを部屋で出迎えたのは雄次郎…ではなくユージオ一人だけであった。机の上には雄次郎の斬魄刀が一つポツリと置いてあるだけで、その持ち主の姿はない。

 

 

「あら? 雄次郎…は、まだ帰ってないの?」

 

「うん。…珍しいよね。雄次郎がこんなに遅いの。愛梨は、何か知らない?」

 

「……うーん、てっきりお金で本を買って早めに帰って読書してるかと思ったのに……ああ、いいえ。分かったわ。私が探しに行ってくる。……まさかとは思うけど、現世の変なことに巻き込まれてたりとか…?」

 

 

予想していた雄次郎の行動パターンが外れ、首を傾げる愛梨。

結局テンションの方は戻ったのかしらとも思いながら、再び窓の方に身を翻したその時……

 

 

ガチャリと音がして、部屋のドアが空いた。

 

 

「あ、雄次郎? お帰り、一体何を………って、えっ!? 雄次郎!?」

 

 

ドアの開く音に対してまたクルリと振り返った愛梨は、驚いた。

ユージオとアリスも、目を見開いて同じように驚いた。

 

 

 

 

真っ赤に目を泣き腫らした義骸の雄次郎が、スンスンと鼻を啜りながら部屋に上がってきたのだ。

 

 

「た、ただいま……みんな……ぐすっ」

 

「ゆ、雄次郎!? いったいどうしたの!? 何かあったの!?」

 

「…いや、なんでも…ない……だいじょ…ひっく……うぶだから」

 

「なんでもないわけないしょ! ほらこれティッシュ! もう、何をしてたのか正直に話しなさい! ただでさえ心配してたのに!」

 

 

背の高い義骸の雄次郎の顔に届くよう、ちょっと空中に立った上でティッシュをその顔に押し付けてフキフキする愛梨。愛梨の手から追加のティッシュを受け取りながら鼻をかみつつ、雄次郎はポツリと呟いた。

 

 

「映画……」

 

「へ?」

 

「え、いが……見て…すご、くて……本当、っ……全部、知ってた、のに…ぐず……涙が、とまらな、くて……」

 

「あ、ああ………なんだ。そういうこと、ね」

 

 

顔中の液体をゴシゴシと何度も吹き直しながら語る雄次郎の言葉を聞いて、愛梨は全身の力が抜ける思いをした。安心九割呆れ一割の感情と共に、空中から地面にドサリと愛梨は座り込んだ。

 

 

「…ちょうどいいわ。ついでだから義骸のままお風呂入って義骸ごと洗ってきたら? 入ってる間に義骸用の着替えも外に出して置くから、お風呂出たら着替えてから義骸をしまってちょうだいね」

 

「そう…する、よ。……う、うう……れ……ぐすっ……く、さん…….」

 

 

相変わらず止まらない啜り泣きのまま、何かよく分からない言葉を小声で呟きながら雄次郎はお風呂場へと消えていった。

 

愛梨は大きな安堵の息をつくと、思わず大の字になって玄関前に仰向けに倒れ込んでしまった。心配してソンした…とまでは言わないが、夜遅くなったのが思ったより平和な理由でよかったと思っている。そして、そんな愛梨の様子を見て覗き込んでくるユージオとアリスの二人の姿が視界に映ってくる。「?」マークが顔に書いてあると言わんばかりの二人の表情を見て、愛梨が解説する。

 

 

「…心配ないわよ。雄次郎はただ映画を見に行って感動して泣いてたってだけみたいね。雄次郎ったら感受性がとても高いから……それにしても、あれだけ泣いたのは初めてみたかも」

 

「『えいが』って…なんだい?」

 

「テレビの一種よ。ただ、すーっごく大きいの。ここにあるようなテレビの何十倍は大きいと思うわ。そんな特別な画面で見る特別な映像を、お金を払って特別に見ることができる場所があるの。私も行った事ないけど、多分…」

 

 

そう言うと、大の字に転がっていた愛梨は一度ゴロンと回転してから立ち上がると、ちょうどそのテレビの横に積まれっぱなしになっていた数冊の漫画本のうち一つを手に取った。

 

 

「雄次郎が尸魂界で入院中から読んでたこの漫画……なんか、街の中でこの漫画の名前の映画が上映してる、みたいな看板があったし、それじゃないかと思うわね」

 

「へえ…!それってつまり、絵本を動く絵として写せるのね。 それって凄く楽しそう! 私も、観てみたいかも…!」

 

「そうねー。雄次郎があそこまで泣く映画、ちょっと気になるわね。今度、姉さんやユージオ兄さんとも一緒にみましょうか! ね、ユージオ兄さん!」

 

「え? あ、う、うん……そう、四人一緒に見るのもいいかもね」

 

 

絵本が映像として動くという話を聞いて、ユージオはかつて故郷でいくつも読み聞かせてもらった絵本や口伝の武勇譚のことを思い出していた最中、突如愛梨に話を振られて話半分に聞いていたユージオは曖昧に頷いた。テレビというのは一度じっくりみたことはあるが、ああいう風にして絵本のお話が動くのだとしたら、確かにアリスの言う通り一度は見てみたい気持ちが強くなってくる。

 

愛梨は起きっぱなしだった漫画本を改めて棚の方にしまいこむと、改めて兄姉達に向き直った。

 

 

「…そうだ! ね、雄次郎がちょうどお風呂に行ってる間、私たち三人で内緒のお話をしましょうよ!」

 

「へ? な、内緒のお話……?」

 

「例えば、どんな話をするの?」

 

 

突然な愛梨の提案に、目を白黒させるユージオとアリスの兄姉達。その様子を楽しむかのように、愛梨は悪戯っ子のような笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

「そうね〜……実は私、久しぶりに二人から色々故郷のお話聞きたいなって思って!」

 

 

 

 

「特に……二人の故郷にいたキリトさんについてのお話を、たっぷりとね♪」

 

 

 

 

その言葉を聞いて、特にユージオの体がピクリと跳ねて反応した。

 




【こぼれ設定話 その8】

いざその映画を四人で見に行こうとするとき、四人が思うかもしれないこと。

アリス(映画…テレビの何十倍も大きいって聞いたけど、どんな感じなのかしら。楽しみねー)

ユージオ(それにしても…映画がそんなに大きいと、目が疲れたりしないかな。僕、テレビをただ見てる時でも結構目が疲れてちょっと頭が痛くなったような気がしたんだよね…。でも、雄次郎が凄く心を入れ込んでるらしいし、ちょっと楽しみかも)

愛梨(姉さん達みたいに具象化の状態なら映画をタダで観れちゃうわね…いや、そもそも私たちも死神化した上でならタダで観れる…ダメよ、それは流石に映画館の人たちに悪いわ。ちゃんと義骸で行ってお金は払って…あ、でも結局姉さん達はタダで映画を見ることになっちゃう……どうしましょう。何も言わずに多めにお金を払ってもいいかしら? 怪しまれないといいけど…)ウーン

雄次郎(ちょっと待って心の準備ができないあれをもう一度なんてあんな結末を見るなんて耐えられないかもああでももう一度会いたいあの人の迫力の戦いをまた観たいだけど最後には……ああどうしようどうしよう。心が痛い辛い耐えられないかも)オロオロ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。