元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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現世前章の中でも前々から特に書きたかった戦闘場面なので
ちょっと頑張ったつもりになってます。


第四十九話 肆頭と双人

緊張感が体を走るのと同時に、心意の高まりを感じる。

 

もし、ここで目前の虚に対する”恐怖”の感情が染み渡ってしまったのなら、心意は逆に悪い方へ作用してしまい、体をまともに動かすことができなかっただろう。

しかし、雄次郎が抱いていたのは恐怖の感情ではなく…義務感であった。

 

そうだ。

目前の虚が、仮に自分より強かったとして……自分のやるべきことは、変わるのか?

勝てないと諦めて、逃げるのか?

 

違う。

自分より強い相手だとしても、それが自分の義務を放棄する理由にはならない。

 

 

自分は死神見習いとはいえ、この地区を京楽総隊長より任された。

そして、自分の背中を押してくれた様々な人のため。

現世の人間たちを、この虚から護るため。

 

 

何より…この虚を倒すことで、一刻も早くその罪を浄化して尸魂界へ送るため。

 

 

恐怖している暇など、ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

斬魄刀を抜いた雄次郎は、今まで授業で習った通りの…つまり剣道を元にした刀の構えを取った。

ユージオから習ったアインクラッド流の構えを取らなかったのは、相手が得体の知れない虚だったことが大きな理由だ。アインクラッド流の剣術は威力抜群。だが、その代わり動きがある程度固定化されているため、いざという時の対応力に欠ける。

尸魂界で練習を重ねた普通の虚相手なら、アインクラッド流秘奥義で一撃必殺というのも充分選択肢の一つではあるが、これほどの霊圧を持つ双頭の虚相手ともなると…あらゆる不足の事態を考えて、尸魂界で教わった基本の型で迎え撃つことを雄次郎は選んだ。

 

 

呼吸を整えつつ…目前の虚の一挙手一投足を極限まで集中して観察をする。

そしてその観察の瞬間、双頭の虚の動きに変化が訪れる。

 

 

こちらを睨みつけながら唸り続けていた虚の声が止み…そして、その姿勢が後ろ足を縮めることで全体的に低く…見えた。

 

 

 

次の瞬間、虚はものすごいスピードで動き出した。

弾丸、いや巨大な砲弾のごとく真っ直ぐ…雄次郎に向かっての一直線の突進。

 

 

「っ!?」

 

 

相手がいつ動き出すのか、しっかり観察していたのが生きた。

中距離からの超速とも言える突進に対して雄次郎は、ギリギリのところで避けた。後方に下がったり横に動いたりでは間に合わないとの判断により、避けた方向は”下”。上下左右を生かせる空中戦だからこそできる避け方であった。

 

それでも、雄次郎は思わず動悸が激しくなってしまうほどに、焦りを感じていた。

決して余裕のある回避という訳ではなかった。それに、僅差で躱したゆえに感じたその突進の勢い。もし当たっていたら…と感じると、思わず戦慄してしまう。

 

だが、その一瞬の戦慄が体に影響を及ぼす…暇すら、なかった。

なぜなら、双頭の虚は標的に突進を躱されたとみるやいなや空中を蹴って回転しつつ方向転換。

素早く斜め下…つまり、雄次郎の方向を見据えた。

 

双頭の虚の体が、微かに低くなる。

そう、間髪入れずに次なる突進をかますべく、既に下に逃げた雄次郎にターゲットを定めていた。

 

 

虚に見下ろされる形で再びあの突進姿勢を構えられ、雄次郎の頭を思考の取捨選択が渦巻いた。

さっきとは状況が違う。斜め下に向かっての突進は重力によって威力も増す。加えて、同じように下に逃げるのは悪手だ。幸い、先ほどよりも距離は空いている。避けるとすれば、思いっきり横に跳んで避けるのが……

 

その思考の瞬間に、雄次郎は”あること”に気づいた。

そしてその気づきの結果、彼のとるべき行動は決まった。

 

 

 

 

 

 

双頭の虚は、突撃する。

二つの頭を互いに合わせ、硬い頭蓋を勢いのまま敵を粉砕するため。

 

それに対し、雄次郎は……既に”構え”ていた。

上段構えの振りかぶり…それは、自分の大事な”兄”から習い、受け継いだ構え。

 

 

 

そう…雄次郎は、逃げなかった。

 

 

 

迫る虚の砲弾に対し、雄次郎の斬魄刀が蒼き光と共に振り下ろされる。

 

 

 

───アインクラッド流秘奥義 単発垂直斬 バーチカル!

 

 

 

刀と虚の頭部が、接触する。そして、その瞬間は……本当に一瞬で終わった。

その衝撃を受け止めることは到底できず、雄次郎は突進の衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 

 

その勢いのまま、雄次郎は現世の建物…とあるビルの建物の高層部分に背中から激突した。

コンクリートに大きなヒビが入り、そのカケラがパラパラと地上に落ちていく。

 

 

「っ…あ、ぐ……ぅぅ…」

 

 

当然、痛い。衝撃が骨にまで響いてくるかのようにまで感じる。だが”痛い”で済んでいるということは、雄次郎の想定通りであった。

 

通常、コンクリートにめり込む勢いで吹き飛ばされでもしたら、現世の人間はもちろん普通の魂魄でも即死は免れない。だが、雄次郎は予測と対策。そして死神としての力で耐えきった。

元々、あの突進から逃げないと決めた時から雄次郎は”予測”していた。例えアインクラッド流秘奥義を用いても、あの衝撃を受け止め切るのは不可能だろうと。それを分かった上で、雄次郎はアインクラッド流秘奥義”バーチカル”で迎えうった。衝撃を受け止め切るのは不可能でも、多少なりとも自身にかかる衝撃を減らすために。

そして”対策”としては至極単純。霊術院の第一回目の授業*1で習った”霊圧集中”を背中側に纏わせた。それにより、コンクリートを破壊するほどの衝撃を体に受けても、それは大幅に緩和された。

 

それでも体全体に響く痛みは、雄次郎の体に軽くないダメージを与えている。壁にめり込んだまま軽い呻き声を漏らす雄次郎の側に、尋常じゃない事態を感じ取ったユージオが、斬魄刀の中から具象化して現れた。

 

 

「雄次郎……え、ちょっと、大丈夫かい!?」

 

「あ、ああ……兄さん。ちょうど、よかった…」

 

「…?」

 

 

雄次郎はユージオを見ると、どこか安心したような表情になった。そしてそのまま…視線を、上空の虚にではなく、さらに下に向けた。

 

 

「ね、兄さん…下で……誰か、怪我してない?」

 

「し、下…?」

 

 

空中に浮くユージオは、言われるがままに少し下へと移動して視線を向けるが…そこには、怪我をした人どころか、そもそも人っこ一人もいなかった。

それを雄次郎に伝えると、彼はさらにホッとした表情になって呟いた。

 

 

「そう……よかった」

 

 

 

 

 

 

雄次郎が、なぜ双頭の虚の突撃を避けなかったのか。

理由は、その突撃によって現世の人間への被害が発生することを恐れたからである。

 

斜め下に向かっての突撃。そのまま現世のビル群に突撃しようものなら…ビルの中にいる人。またその破壊の破片が下を歩く人間に降り掛かろうものなら…

 

死神の任務の一つ。現世の人々を虚による被害から護ること。

その被害を最小限に抑えるため、雄次郎はあえてその突進を受けて…自分が吹き飛ばされる方を選んだ。

 

目論見通り、ビル内の人間にまで被害が及ぶことはなかったが、自分がビルに激突することでコンクリートの破片がいくつか落下していった。雄次郎はそれだけが心配だった。なので、具象化したユージオにお願いして確認してもらったのだ。

 

その答えをもらった雄次郎は、感謝の念と共にユージオへ言葉を紡ぐ。

 

 

「ありがとう、兄さん……それと…あと一つだけ、お願いが」

 

「うん、分かったよ」

 

 

間髪入れずコクリと頷いたユージオを見て、問いかけた側の雄次郎の方が目をパチクリさせる。

 

 

「…えっと、まだ僕…お願いの内容言ってないけど」

 

「分かるよ。君の言うことくらい。……だって、僕は君の...兄、だからね」

 

 

*

*

*

*

*

*

*

*

*

 

 

 

『想い咲けっ!! 『青薔薇』!!」

 

 

小さな体が、空中を蹴る反動で大きく跳んだ。

その高度は一瞬であの双頭の虚が立つ場所まで到達するほど。

 

先ほどの突進で敵を仕留めたつもりであった虚は、再び自分の高度にその”敵”が姿を現したのを見て、歯を軋りながら不愉快そうな唸り声をあげた。

 

その”敵”には、先ほど突進で吹き飛ばした前に比べると、変化があった。

外見ではなく…その手に持つ武器が。虚からしてみればちっぽけで脆そうな日本刀が、いまや青銀の輝きを放つ大きな両刃剣へとなっていた。

 

双頭の虚は、この”敵”はさっきの”敵”とは別人だと本能で認識した。外見的には持っている剣が変わっている程度なのだが、その虚の本能は正しかった。

 

 

今、斬魄刀”青薔薇”を持つその死神見習いは、先ほどまでとは()()()()()

彼の名前は、ユージオ。

アインクラッド流の剣士としての記憶と、死神見習いとしての力と記憶を持つ一つの魂であった。

 

 

双頭の虚とユージオは、改めて同じ高度で対峙する。

互いに、まだ…動かない。

 

特にユージオの側は、あまり下手に動きたくはなかった。

可能ならば、相手の手の内…いや、()()の内を知ってから反撃に移りたいからだ。

 

 

(さっきの突進…尋常じゃない威力だったけど、まさかそれ”だけ”なんてことはないはず…)

 

(どんな能力が発動してもおかしくない。それが分かるまでは、迂闊には動けない…とはいっても、このまま膠着状態が続くとなると…)

 

 

ユージオが何より警戒したのは、虚が持つ特殊能力。

尸魂界で戦った疑似虚ですら地面を殴って軽微な地震を起こす能力を持っていた。虚一体一体にどのような力が宿っているかはまるで未知数。予測の立てようがない。その片鱗でも見ない限りは。

 

一番良いのは、こちらがしっかり警戒と迎撃態勢を整えている今、相手が能力の内を明かしてくれることなのだが…そんなユージオの意図を知ってか知らずか、双頭の虚は唸り声をあげつつこちらをにらみつけるように見据えるのみで、一向に動く様子がない。

 

 

(…仕方ない。こっちから仕掛けるしか!)

 

 

痺れを切らしたのは、ユージオの方だった。

ユージオが恐れたのはこのまま何もせず手をこまねくことで、やがては双頭の虚が目の前のユージオを”敵”と認識しなくなって、人間を襲い始めること。

それだけは絶対に起こしたくない展開。だからこそ一度ユージオは”攻撃”をを仕掛け、双頭の虚に自分は”敵”だと印象付ける。

 

あわよくば、持つ能力の一つでも明らかになれば……!

 

 

「破道の三十一! 赤火砲!!」

 

 

ユージオが攻撃の起点として選んだのは、鬼道。爆発型の火球を飛ばす中級規模の技だ。

それも、剣を持つ構えは極力崩さずに片手のひらを相手に向けることで放った。

 

仮に、これが直撃したとしても虚を倒しきれるとは思えない。しかし、虚の側も素直に直撃を受ける訳にも行くまい。何かしら、動きはあるはず。

 

この距離からの赤火砲なら、躱すのは少々難しいはず…が、できなくはない。急な遠距離攻撃に対して虚はどうでる?……無理してでも避けるのか。それとも……

 

 

一瞬の予測が逡巡する中、放たれた炎の砲弾が双頭の虚へ迫り来る……だが、その一瞬の時の中で双頭の虚が動く。今までに見たことのない動きを。

 

 

双頭のうち、まるで獅子のような立髪を持つ方の口が光りだした。バチバチという異音と共に、発光するその口が……開いたその瞬間。

 

 

巨大な黄金色の光線が、真っ向から放たれた。

 

 

 

「っ!!」

 

 

自分の放った赤火砲の砲弾が黄金色の光線に呑まれて消える。しかしその時には既に、ユージオは準備を終えていた。

 

巨大な光線型の攻撃に対し、ユージオは迎撃の方法を知っていたからだ。

 

 

 

───アインクラッド流 単発垂直斬 バーチカル!

 

 

 

かつて光線状の鬼道を斬った経験を持つユージオは、双頭の虚からの突然の攻撃にも取るべき迎撃方法をとった。尸魂界での特訓の時、確かにユージオはこの秘奥義で愛梨の光線状の鬼道を斬ったことがある。*2だが…その経験と今の状況はまるで違う。

 

青薔薇と光線が接触したその瞬間に、ユージオはその間違いを実感した。

 

 

「あっ……が、し……び、れ…」

 

 

そう、獅子頭の虚が放った閃光は雷撃を伴っていた。加えて、その威力は以前受けたものとは明らかに違う。

アインクラッド流の秘奥義で攻撃を防ぐという手段は決して悪手ではなかったのだが、剣で完全に防ぎきれない分の攻撃が、体に影響していく。”痺れ”という最悪の形で。

 

巨大な雷の閃光で視界は塞がれ、そして、体の痺れによって動きが制限され……状況は、明らかにマズイ。

視界と動きの二重の制限がかけられたユージオに今、できることは……

 

 

 

(どうにか…! 霊覚で、敵の位置だけでも……! 次はどうする? どこから来る…!?)

 

 

 

「……う、え…かっ!」

 

 

 

巨大な雷撃の奔流の中で、双頭の虚本体の霊圧を霊覚で探るのは困難だったが、幸か不幸か双頭の虚の霊圧は強大で、かつ()()()だった。だからこそ、虚が自らの頭上に回り込んでいるのに気づくことができた。

 

だが、これは二重の意味でマズい。体は痺れ、動きがままならない中。それに加え、上から降り注ぐ攻撃というのは下界…つまり現世にまで攻撃が被弾する可能性がある。

突進攻撃ならまだマシではあるが、あの雷撃を上空から放たれたら…自分だけの被害では終わらない。

 

避けなれば。そのような事態だけは、絶対に。

 

ユージオは、痺れの中で必死に体を動かす。”口”と”手”という限られた部位に集中して。

 

 

「ばくど…うの、二十、九! 布纏旋(ふてんせん)!」

 

 

それは、ユージオが…もとい、雄次郎が最も得意な鬼道であった。

破道ではなく、縛道。それは相手に反撃という選択をさせないための行動。これなら確実に反撃してはこない…とまでは言い切れないものの、少しでもその可能性を減らすためであった。

 

案の定、白い巻き布がユージオの手から放たれた瞬間、虚はそれを攻撃の類とは見做さなかったのか少し警戒するように身を引いたのみだった。だが、その巻き布が虚の体に巻きついて動きを奪い始めた時、ようやく虚も自身への攻撃を察したようだった。

 

そして、虚の双頭が咆哮を上げる。それだけの動きに見えたが、それと同時に体に力を入れて膨張していたことにより、雄次郎の得意縛道である 布纏旋(ふてんせん)は布を引き裂く大きな音と共に引きちぎられていく。

 

 

そこまでの時間、三秒にも満たなかっただろうか。それでも、その間にユージオは痺れから回復した。現世へ攻撃の被害が出ることもなく。今の攻防は、紛れもなく自身の勝ちだとユージオは咄嗟に思った。

 

だがユージオが目指すのはあくまで、一瞬の勝利ではなく最終的な勝利。

痺れから回復したユージオは思いっきり空へ跳躍した。攻撃を下ではなく、上へ誘導するために。

 

 

逆にユージオを見上げる形となった虚は、その大口を開く。だが…さっきと違ってその口を開けたのは銀狼の頭を持つ方であった。

 

 

ユージオは、咄嗟に悪寒を覚えた。

先ほど、獅子頭部の口からは巨大な雷撃の閃光が放たれた。

では…もう一方の狼頭からは何が来るか。同じ雷撃…ではないだろうとは思っていた。しかし、かといってどのような攻撃かの予想など、できるはずもないし、してる暇もなかった。

 

ユージオに思考する暇を与えんとばかりに、銀狼の虚の口から微かな光…攻撃の兆候が見えた。

しかしそれは、以前の雷撃の光とは違う。雷のようなバチバチとした光ではなく……まるで、太陽の光を反射して輝く黄金の輝きのような…

 

 

そして、銀狼の口から放たれたのは……なんと『剣』のように見えた。だが…それをより正しく表現するならば、『剣の形をした弾丸』というべきか。

 

 

黄金色の剣の形をした霊圧の物体。それが、十や二十の弾丸となってユージオに向かって放たれた。

 

 

その攻撃に対して、ユージオは剣には剣をと言わんばかりに、自らの愛剣を振るった。

 

 

 

───アインクラッド流 三連斬 シャープネイル!!

 

 

 

アインクラッド流の真髄とも言える、連撃技。

十,二十の剣の弾道から、自身の攻撃に当たる危険な剣のみを的確に弾いていくユージオの光る剣撃。

その光る剣撃は三連撃技。だがその剣筋一つでいくつもの剣を同時に防いでいく。

 

全ての剣を弾いたその瞬間、ユージオの心に大きな不安が顔を覗かせる。

自身が弾いたこの剣が、地面に向かって落ちたら極めて危険。かといって、既に落下していく十や二十の剣をどうすれば………

 

 

だが、それは幸運にも杞憂だとすぐにわかった。銀狼の口から放たれたその剣は、彼が視線を向けた時には既にバラバラと粉のようになって崩壊していた。それも、全てがだ。

ユージオが弾いたのも弾いてないのも等しく崩壊して、空中で全てバラバラに消え去っていた。おそらく、元々数秒しか霊子構造を保持できない剣の弾丸なのだろう。だがその代わり、ユージオは剣で弾いた時の感触から、その圧倒的な硬さを感じ取っていた。

 

 

強い硬度を持つ代わりに、数秒しか保てない剣の弾丸を放つ、銀狼の能力。

本物の雷ほどのスピードはないにしろ、強大な雷の閃光を放つ、獅子頭の能力。

そして、双頭の巨体を生かした突進攻撃。

 

 

 

(…分かったっ! こいつの能力……そして、弱点!)

 

 

 

ユージオは見抜いた。

双頭の二つそれぞれに能力があり、今ユージオはそれを全て確認した。なんとかここまで繋いだ。敵の能力を把握しつつ、現状では現世への被害は0。

 

そしてその中で見つけた、敵の弱点。

そこを的確に狙うためには……”あの攻撃”を誘発させるのが一番だ。

 

誘発させる、と言うのは簡単でも実際にはそう上手くはいかない。あの虚の三種類の攻撃はどれも遠距離に向いた攻撃。距離を取ったとして、ユージオの狙い通りの攻撃をしてくる可能性は三分の一。特定の攻撃を誘うというのは難しく思える……

 

 

が、期せずしてそのユージオの狙いは成される事になる。

双頭の虚は自らユージオと同じ高度まで飛び上がって立つと……後ろ足を縮め、姿勢を低くした。

 

 

(……来るっ!)

 

 

その様子を見たユージオは、この戦いにおいて…初めて”喜び”の感情と共に、身構えた。

まさに…ユージオが期待していた通りの攻撃の前兆だったからだ。

 

 

雷撃の前兆は、獅子頭が口を開けること。

剣の弾丸の前兆は、狼頭が口を開けること。

 

そして、突進攻撃の前兆は後ろ足を縮めて体を低くすること。

 

 

双頭の虚は、全ての攻撃に対して前兆がある。その中でも、突進攻撃の前兆は分かりにくいが……ユージオの印象には強く残っていた。

一切の助走もなく、あれだけ勢いのある突進攻撃。一番最初に繰り出され、そして二度に渡ってユージオに向けられたものだ。だからこそ、印象に残っていた。その攻撃の前兆について。

 

助走をしない代わりに、後ろ足に力を溜める体勢。それをユージオはしっかり観察していた。

 

 

 

そして、その攻撃の前兆を今…ユージオは心待ちにしていた。

 

 

 

双頭の虚が一吠えするのと同時に、その巨体が跳ねるように飛びかかってくる。

その一瞬で、硬度なる頭蓋がユージオを打ち砕くより前に……手に持つ青薔薇の剣をその頭蓋に叩きつけた。

 

 

秘奥義は、使わなかった。なぜならそれは、剣術の攻撃のために動きが制限されてしまうから。

今、ユージオが剣を振り下ろした理由は、攻撃のためではなかった。

 

剣を振り下ろしたと同時にユージオは空中を蹴っていた。

そのため、ユージオの体は…頭蓋に叩きつけられた剣を支点として、グルリと回転して浮き上がった。

 

 

 

 

そして一瞬。素早くユージオは剣技の体勢を取った。

 

 

 

 

目標は、斜め下。

ここから見える…双頭の虚の、()()

 

 

 

 

突進。

雷撃。

剣の弾丸。

 

これら三つの攻撃は全て、虚の前方の敵に向けて襲われる攻撃だ。だからこそ…ユージオが導き出した弱点は、その虚の背後。

 

二つの頭を持つ虚は、その性質上前面への攻撃、警戒範囲に対してはとても強いはずだ。その範囲は、ほぼ180度と言って良いだろう。だが…どれだけその首を頑張って向けたとしても……真後ろまでは、無理なはずだ。絶対に。

 

双頭の虚の弱点は、攻撃の届かない背後。だが、そこに回り込むのは容易ではない。

だからこそ、ユージオは待った。敵の背後が、自然に現れるその瞬間。それは、敵が自ら動く攻撃、突進だ。雷撃や剣を発射する攻撃と違い、敵自身が動いてくれるこの突進攻撃こそ狙い目だった。

 

だが、双頭の虚はその巨体によらず身軽で俊敏な動きをする。実際、最初の突進攻撃から素早く身を翻して二度目の突進攻撃に入る動きは、ユージオも正直戦慄したほどだ。

双頭の虚が「突進攻撃を外した」と認識するより早く……その背後から、仮面を砕き割る。

一度に二つは無理でも……双頭のうち、一つだけでも砕き割れれば…必ずや弱体化できる。

 

 

 

 

 

だから、こそ。曲芸じみた動きで突進攻撃を受け流し、双頭の虚の背後を取った。

そして……もうその瞬間、ユージオは攻撃体勢を整え……その剣を、青い光で満たしていた。

 

 

 

まだ、虚は振り向けていない。

今この瞬間、この技なら……たとえ今、振り向かれても…間に合う、充分に!

 

 

 

───アインクラッド流…!

 

 

 

いや…振り向く前に、仕留められるっ!

 

 

 

───上段突進斬 ソニックリー…………!?

 

 

 

既に技を発動させた後……だというのに。

ユージオは、本来感じるべきはずのないものを感じた。

 

 

 

 

視線。

それも、殺意を持った…野生の視線。

 

馬鹿な。

奴は…あの虚は、完全に背を向けているというのに。

 

 

 

視線の正体は分からない……だけど。

なぜか()()()()()感じる殺意の視線に、ユージオは咄嗟の行動をとった。

 

 

本来であれば、虚に向かって斬り下ろすはずのその秘奥義を…その遥か手前で振り下ろす。

ただの曖昧な根拠に縋った、なんの意味もない行動のはず…だが、その曖昧な根拠が、意味のなさそうな行動が、全て結果的に正しかったと分かるのは、すぐだった。

 

 

 

 

ユージオが剣を振り下ろしたその瞬間に、その目前が紅蓮の炎で包まれた。

 

 

 

 

「がっ……!?」

 

 

 

剣によってある程度の炎を切り裂き、咄嗟に防御の霊圧を纏っていたことで、ある程度は防げた。だが、その火力と範囲は全く想定していなかったものだった。顔や腕の一部に赤い熱傷が刻まれ、思わず体の態勢を崩して、ユージオの体は空中に止まれず…落下を始める。

 

最中、ユージオの目に映ったのはその双頭の虚の……二本の尾。

そのうち、赤と青の螺旋模様をした尾が…()()()()()、炎の名残を口の周りに滾らせていた。

 

 

(あの、尾は…!)

 

 

ユージオは、真っ逆さまに落ちる体制から即座に空中で身を捻り、両足を空中に立たせる。

そして…その間にユージオの目前には、先程の炎を放ってきた尾とは違う…漆黒の尾がその口を開いた。

 

ユージオが剣を構え直すのと同時にその口から放たれたのは、八本。

八本の黒い棒状の何か。しかしそれはただの棒ではなく…先端にはまるで黒水晶を思わせるような鉤爪がついていた。

あれをそのまま受ければ、刺さるだけでも大きな痛手。ユージオは咄嗟に出すべき剣技を定める。

 

 

 

───アインクラッド流 単発斜斬 スラント!

 

 

 

その八本の鉤爪が同時に放たれたのが幸いか。

単発技の一撃の軌道で、全ての鉤爪を叩き落とすことに成功した。

 

 

 

それでも…ユージオは、強く唇を噛み締めて悔しさを滲ませていた。

 

 

 

(この二本の尻尾は……”蛇”だった! しかもそれぞれ違う能力を持っている…!)

 

(双頭じゃない…前に二つ、後ろに二つの頭と攻撃手段を持った……”四頭の虚”だったんだ!)

 

(………”弱点は背後”だなんて…早とちりすぎる! しっかりしろ、ユージオ!)

 

 

どうしても、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいっぱいだった。自分が見出した”背後”という弱点がまるで見当違いであり、そこを逆に突かれて手痛い炎の反撃を受けたこと。

とは言っても、あの尾には顔全体を覆う白い仮面がつけられていた上に、積極的な動きもなかったために…あれが生きている頭部だと見抜くのは並の死神でも難しい。まだ死神見習いであるユージオに落ち度があるとは誰も強くは言えないだろう。

 

それでも、ユージオは自分の観察力不足、判断不足、油断…自分を責めた。

もっと、強い心を持つべきだ。決して油断するな。弱点を見定めたからといって先程のように”喜んだり”するような心は以ての外だ。より冷静に、慢心を捨てた強い心で、立ち向かう。

 

 

ユージオの心は、より強固に組み上がる。油断と慢心を自ら叩き落としていくその心が、心意に影響を及ぼす。強く、その体に、斬魄刀に、霊圧に。影響を与えていく。

 

それに対して、双頭の…いや、四頭の虚はくるりと前転のように回転し、改めてユージオに正面から向き直った。ユージオを睨みつける獅子頭と狼頭の印象は強く、とても背後の二本の尾にまで意志があるとは思えないだろう。

 

新たに相対したものはいいものの、現状この虚に対する戦いは白紙に戻ったも同然であった。前後にそれぞれ二種類の攻撃手段があることが判明した。なら、どうする?

この場合、もっとも死角となり得るの虚の真下か。しかし、もし虚の下に回ったのを感知されて下に向けて攻撃をされては、その余波が眼下の現世の街にまで及ぶ可能性…それが怖い。

 

ならば、逆。真上からの急襲がもっとも安全ではあるが…上方向はおそらく、前後ほどではないにしろ虚側も対処がしやすい攻撃方向であろう。虚の首の稼働範囲にもよるが、反撃されるリスクも高い…が、前後から攻めるよりはよりは、まだ…。

 

 

ユージオは…攻撃方針を固めた。

未だ、同じ目線の高さの状態から、後方飛びで一気に距離を取り……着地の瞬間までには、既に構えを取っていた。

空中にいる間に構えの準備をしていたお陰で、着地から一秒も経たずしてその体は弾けるように飛び出した。

 

 

 

───アインクラッド流……!

 

 

 

虚の真正面から、突撃するユージオに対して口を開いたのは…銀狼の頭。

そして…それこそは、ユージオの予想通り。もし四頭の虚が同じ突進攻撃での迎撃を選んできたら、同じ真っ向からの突撃で分の悪い戦いになるしかなかった。

ここで遠距離攻撃による迎撃を虚が選んだことによって…ユージオは真っ向からの戦い()()の手段を取る。

 

一度、秘奥義を発動させてしまえば体の動きはほとんど固定化されてしまう。だが、ユージオは知っている。動きを変える方法がない訳ではないことを。

現世に行く以上、空中戦は既に想定していた戦い。その空中戦において、アインクラッド流をどう活用すべきか…練習の時間は少なかったが…それでも彼は……いや、彼らはイメージさえ強ければ、それを体現できる存在である。

 

 

狼頭の口に雷が溜まり、震え…その瞬間………ユージオは、大きく跳んだ。

 

 

大きな跳躍は、虚の身体よりもユージオの高さを上へ押し上げた。

それから数瞬遅れて、さっきまでユージオのいた場所を雷撃が飲み込んでいく。

 

 

その頃にはもう既に、眼下の虚…特に獅子頭の方に狙いを定めていた。

虚はまだ動かない。自分の雷撃によって目の前が塞がれている現状。まさか敵が上にいるとは気づいていないのか。いや、気づいたとしても……今度こそは間違いなく、こちらの方が速い!

 

 

遥か高い上空から一気に、蒼き光を煌めかせながらその剣を…青薔薇を、体ごと振り下ろす!

 

 

 

───”超”上段突進斬 ソニックリープ!!

 

 

 

体重と剣を使って上空から勢いよく振り下ろしたその一撃は、見事獅子頭の虚に命中した。

瞬間、白き仮面に…大きなヒビが入った。

 

 

 

 

だが…そこまでだった。

 

 

 

(硬い! …これ以上、斬れない! 刃が、進まない!)

 

 

 

ユージオは、その一撃で虚の頭を一つ打ち砕くつもりだった。

だが、実際には虚の仮面に剣の半分が食い込み、そこから大きなヒビが入った……そこから、剣は、動かない。

 

 

 

 

───グゥオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

 

(まずいっ、虚に気づかれ…!)

 

 

 

まずいと思った時には、時既に遅く……

痛みを大きく感じているのか、虚は空気を震わせるほどの叫び声をあげつつ、前面双頭の首を大きく振り回した。

ユージオは、剣を虚の獅子頭から抜き取っての緊急脱出を試みるが、それが間に合わなかったため、ユージオは剣ごと大きく吹き飛ばされた。

 

かろうじて剣を手放すことは免れたが、ユージオの吹き飛ばされる勢いはものすごい。何せ仮面にめり込んだ剣を頭を振ることによる振動や遠心力のみでユージオごと弾き飛ばしてみせたのだ。下手したら、その勢いは突進を刀で受けた時以上の衝撃だ。

 

上手く態勢を取れない。立てない。霊子を掴めない。硬めきれない。霊子を固めて掴もうとしても…飛ばされる勢いに負ける。四頭の虚との距離が開く。

 

 

 

 

そして遠ざかっていく虚の姿……だが、その中でユージオは…背筋に、悪寒を感じた。

それは渾身の一撃が効かなかったことに所以する、ただの悪い予感か。いや……ユージオは、見ていた。悪い予感ではなく、悪い”確信”だった。

 

そう…ユージオが吹き飛ばされたその瞬間に、後ろ足が縮まれたあの態勢……

 

 

その確信を明確に思い出した瞬間、ユージオの先の視界で……虚が、迫ってきた。

物凄い、勢いで。あれは…!

 

 

(突進攻撃……だ! マズい、態勢が…早くしないと、まともに、受けれない…!)

 

(早く…立て! 手でもいい、とにかく霊子を固めて、あの突進を、剣で…!)

 

 

だが…間に合わない。

ユージオがようやくその勢いをとどめた時…既に虚は、とてつもない勢いで跳んでいた。

迫り来る双頭の獣の頭。秘奥義の構えを取る暇もない。せめて足元をしっかり踏みしめ、剣を盾にするしか余裕がない………それでもダメージは免れない…!

 

 

体はもはや立ち上がる暇もなく、剣を盾にしてあの突進を防ぐ…いや、もう防げない。いかにこの態勢、時間から攻撃の威力を軽減するか……それしか、ユージオには頭になかった。

 

 

 

だから、ユージオは…………忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『想い巡れっ!! 『 (かね)(ぼし)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオは、一人じゃないことを。

とても大切な人が………この、同じ現世に、同じ志の元で、いることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四頭の虚の突進は、ユージオには届かなかった。

“何か”に阻まれて勢いが止まり…そして、未知なるものに危険を感じ取ったのか、虚は大きく後退した。

 

全く予想外の横槍。それにより、ユージオは攻撃を免れた訳だが…今、虚を止めた“何か”を、ユージオはまともに視認できなかった。かろうじて見えたのは……キラキラした何か、としか。

 

 

 

「ごめんね…ユージオ」

 

「遅れちゃった…でも、なんとか間に合って…よかった」

 

 

 

どうしてだろう、とユージオはその時、思った。

随分久しぶりにこの声を聞いたような気がしたからだ。

 

でも違う。実際には、予想外の虚との戦いのせいで、忘れてしまっていただけだ。

いや……それだけではない。今の声…というより……この、感じは…?

 

 

 

「……ア、リス…?」

 

 

 

半分惚けたような表情で、思わずユージオは…声の方向へと振り返った。

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは…茅野愛梨。

いや…少し、違った。

 

 

 

 

 

”六つの星”が、彼女を守るように、回っている。

 

【挿絵表示】

 

今、斬魄刀”金星”を持つその死神見習いは、ユージオが感じた通り()()()()()

彼女の名前は、アリス・ツーベルク。

ルーリッドの村で生まれた少女の記憶と、死神見習いとしての力と記憶を持つ一つの魂であった。

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