元人工フラクトライト達と二人の死神物語   作:り け ん

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またも大変遅れました。
意図せずキリ良い話数にキリ良く切れました。


第五十話 全力の果て

ユージオのすぐ隣に、茅野愛梨……いや、アリス・ツーベルクが着空する。

 

 

その瞬間…彼女の周囲を回っていた”六つの星”は、彼女の持つ刀の鍔の元へ集結していく。六つの星は連なるように鍔に並ぶと、カチャカチャという音ともに星の形が変わっていき……やがてそれは、鍔の先から伸びる一本の黄金色の刃として変形した。

 

手に持つ剣以外、彼女の容貌に何も変わった様子はない。真央霊術院生徒”茅野愛梨”としての姿そのままだ。だが、その内面はもはや別のもの…いや、正確には一時的に元の存在へと回帰したというべきなのだろうか。

 

心なしか、毅然とした雰囲気を漂わせて立つ彼女を横目に、半ば恐る恐るユージオが口を開く。

 

 

「…アリス……なんだよね?」

 

「もちろんよ。ユージオの言ってた通り、こうして改めて一つの存在になるのって、凄く不思議な感覚ね。……いいえ、それよりも…」

 

 

ユージオの問いをあっさり肯定しながらも、黄金色の剣を油断なく構えつつ、アリスは虚に視線を向ける。

 

 

「あの、虚って……」

 

「うん…気をつけて。僕たちが今まで訓練してきた虚とは比べ物にならない。多分…僕一人じゃ、勝てない」

 

 

警告を共に、不安が入り混じった言葉。本来ならば、何のこともない虚の浄化作業のはずが…目の前に立つ四頭虚が…いかに恐ろしい強敵であるかを。

もちろん、アリスはそれを知っていた。目の前に立った瞬間から、その虚の霊圧を敏感に感じ取ることができる。

 

 

「そう……なら、私たち二人なら?」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「勝てる……勝たないと、いけないんだ」

 

「…分かったわ」

 

 

ユージオは、必ず勝てるとは言わなかった。一方で、自信なきことも言わなかった。少しでも後ろ向きな姿勢や言葉は、心意を鈍らせる。アリスもそれを重々承知しているからこそ、ユージオのその言葉で状況を察した。目前に立つ相手の虚が、いかに彼の想定を超えた強大な力を持っているかを。

 

虚から見れば、新たな敵として現れたもう一人の死神見習い。その姿を見て、獅子頭と狼頭の双頭が唸りを上げる。そして後ろ足が縮まり、姿勢も低く…

 

 

「アリスッ! 横に避けてっ!!」

 

「っ!!」

 

 

突然のことでも、アリスはユージオの警告に俊敏に対応した。二人は別れるように左右で分離し、その結果、何もない空間を四頭の虚が殺意の塊として過ぎ去っていく。

 

 

「ユージオ! この虚の特徴は!?」

 

「前の二つの頭は遠距離攻撃! あと後ろの二本の尻尾も意志があって、中距離攻撃をしてくるっ!! 口を開けたら注意してっ! 特に、狼頭の攻撃は…!」

 

 

戦闘中、極力言葉を絞って簡潔に敵の能力をアリスに伝えようとするユージオ。また攻撃の種類の中でも更に注意すべきことを伝えようとしたが、戦闘中に脅威を知らせる手段として…言葉というものは、少し遅かった。

 

 

ユージオがこの戦闘でもっとも警戒すべきものとして考えた”雷撃”を…既に狼頭は攻撃準備を終えていた。バチバチという鋭い光を口内に溜めているのが遠目からでも、見えるほど。

 

もちろん、その攻撃動作はアリスも見抜いていた。攻撃を避けるための足の動きを止めて、虚を真正面から見据えて、剣を構えるアリスだが……ユージオは、それを一番恐れていた。

 

 

「ダメだ、アリスっ! それを防ぐのは……!」

 

 

だが、友に向けたユージオの警告は…ちょうど虚の雷撃の発射の凄まじい音にかき消された。

その凄まじい勢いの雷撃に対して、アリスは既に…迎撃の準備を終えていた。

 

 

 

 

ユージオが一番危惧していたのは、アリスが 自身(ユージオ)と同じように剣で雷撃を斬ることでの迎撃を行うこと。それこそ、ユージオの二の舞。剣を伝わって体全体が痺れ、行動不能になってしまう。

 

警告が届く前に、アリスは迎撃の態勢を取っていた。ただ、その迎撃の姿勢は、ユージオの想像したものとは全く違う。アリスの剣は…いつの間にか、また”六つの星”に分離して…彼女の眼前に展開した。

 

 

その様子を見てユージオは一瞬、動きを止めた。元々、アリスが雷撃によって痺れた時のフォローに周るつもりで動いていたのが…驚きのあまり、止まったのだ。

 

 

───無茶だっ!

 

 

音なき声が喉から出る。その六つの星は、剣が変形したものとはいえ雷撃に立ち向かうにはあまりに無力にユージオは思えた。星と化した剣はあえなく雷の中に飲まれて消えるとしか思えなかった。

 

 

ユージオの考えは、ある程度正しい。確かにそのまま星の刃を雷撃の盾としたならば、明らかに力不足だ。

 

 

 

 

 

 

だが、アリスにそのつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

「破道の三十二! 黄火閃(おうかせん)!!」

 

 

 

 

 

 

アリスが叫んだその瞬間…展開されし六つの星のうちの三つの星”から”黄色い閃光が”同時に”放たれた。その閃光が、雷撃を真っ向から受け止める。

 

 

 

「……え」

 

 

 

ユージオはその…星と化した剣が()()()()()のを見て……ちょっと、唖然とした。

アリスを助けるために動いていたことも…一瞬、忘れてしまうほどに驚いていた。それでも、その後は即座に理解した。あれが、アリスの斬魄刀の能力なのだと。

 

 

 

*

*

*

*

*

*

 

 

 

劈烏(つんざきがらす)

 

灰猫(はいねこ)

 

千本桜(せんぼんざくら)

 

 

尸魂界には他にも、刀身が分裂してそれを自在に操る能力を持つ斬魄刀はいくつも存在する。それらはいずれも”無数”と言っていい程の数に分裂するのに対し、アリスの…茅野愛梨の斬魄刀、金星(かねぼし)はたった六つの星に分裂するのみ。手裏剣のごとき高速回転による切断力はあれど、おそらく物理的な攻撃力は他の斬魄刀に比べ極めて低いのは間違いない。

 

だが、それもそのはず。彼女の斬魄刀は直接攻撃系にあらず、鬼道系なのだから。

 

アリスが唱えた鬼道は本人の体から放たれるのみならず、六つの星の刃から放たれる。たった一つの鬼道でも、その発射場所が空中を自在に巡る七つのどれから放たれるか予測がつかないとなってくると、一気に対処の難易度が上がる。一つを警戒して対処するのは容易でもそれが六つ…いや、アリスの体から放たれる可能性も含め、七つとなると…。

 

その強さはユージオもすぐに理解した。が、今の…アリスが黄火閃を星から”同時に三発”放ったその光景を見て……不安を抱いた。それはその威力や強さとはまた別の、不安。

 

 

一方、アリスの方はすぐに危機を感じ取った。自身の放った三連黄火閃が…徐々に雷撃に押され、拡散していく様子を。

 

 

(……黄火閃三発でも、足りないなんて!)

 

 

「破道の三十二ッ! 黄火閃(おうかせん)!!!」

 

 

アリスは、続けて詠唱をする。それによって…残りの星三発からも、黄色い閃光が追撃として放たれる。これで合わせて計六つの黄火閃が雷撃への迎撃に加わった瞬間、一気に雷撃と黄火閃が弾け飛んだ…つまり、互いに相殺されたのだ。

 

相殺を確認したアリスは、星六つを刀身に戻しつつ…肩で息をしているアリスの元へユージオは並び立った。

 

 

「大丈夫かい…? アリス」

 

「見ての通り、平気よ。ちゃんとあの雷は打ち消したじゃない」

 

「違うよ。僕が気になったのは、君の霊圧のこと…」

 

「……」

 

 

アリスは、つ…とユージオから目を逸らした。

 

 

「三十番台の黄火閃を六発も一気に放つなんて…凄い、とは思うけど…それ以上に心配だよ。一撃の相殺にあれだけの霊圧を使うのは…」

 

「分かってるわよ」

 

 

ちょっとだけ拗ねたような口調で、改めて目前の虚へ向き直った。

 

 

「少し…あの雷の威力を見誤ったわ。ユージオの言う通り、私の斬魄刀はお世辞にも霊圧の効率が良いとは言えない。たった一回の攻撃を防ぐだけなのに…今ので霊圧の三分の一は、使っちゃったわね」

 

「………」

 

 

それを聞いたユージオの額に眉根が寄る。ただしそれは怒りによるものではなく、ユージオなりに…頭の中で考えていたためだ。

 

 

 

勝つための、作戦を。

 

 

 

「アリス……お願いがあるんだ。君は…」

 

 

しかし、今は戦闘中。

ユージオが皆まで言う前に、四頭虚の巨大な咆哮にかき消された。同時に、その巨体が宙を蹴る音が空気を震わせる。

突然の突撃。それでも、アリスはさっきの一度で充分学習していた。むしろ、アリスを心配していたユージオの方が、一瞬避けるのが遅れてしまったくらいだ。

 

 

また、お互い逆の横方向に避けた結果、アリスとユージオの距離は大きく離れた。

 

 

「お願いって!? なにっ!?」

 

「アリスの霊圧は、もう相殺にも防御にも使わないで! 避けられる攻撃は全部避けるんだ!」

 

「え!? いいの、それ!?」

 

 

それでも、お互いに意思疎通を忘れないように大声での会話は忘れない。

情報共有…特に、ユージオの考えた作戦の共有。

 

 

「役割分断だ! 相殺も防御も、全部僕が引き受ける! 決して現世に被害は出させない! アリス…君の残りの三分の二の霊圧は全部攻撃のために使って欲しい!」

 

「全部!? 二人で攻撃を分担した方が良いんじゃないの!?」

 

「いや、僕の青薔薇は正直攻撃向きじゃない! 秘奥義は隙が大きいし、連撃しても崩せるか分からない! だけど、アリスの鬼道ならきっと…!」

 

 

声を張り上げる最中でも、四頭虚の攻撃は容赦無く続く。

獅子頭の口が開き、黄金色の剣の形をした霊圧の塊が次々と発射される。

 

 

───アインクラッド流 二連斬 スネークバイト!!

 

 

圧倒的な硬度を持つ代わりに、数秒で崩壊する剣の弾丸。その性質を読み切っていたユージオは発射距離から目算しても現世にまで弾丸が届くことはないと見て、自身に刺さる可能性のある剣のみを的確に弾いた。

 

それでも息が切れそうになりながら、言葉を叫ぶことは続ける。人間の知恵を駆使しなければ、この魔獣のような虚には勝てないと本能的に感じていたからだ。

 

 

「アリス!! あればでいいんだけど…霊圧を極限まで使うような大技がもし…」

 

「あるわよ! それで倒せばいいのね!?」

 

「うん、お願い!」

 

 

アリスは言葉を遮るように返事をし、ユージオは深くは聞かずに即座に肯定の返事。戦闘の最中に悠長な会話はできない。声は大きくても、無駄を極限まで減らした会話を心がける。

 

 

「じゃ、ユージオっ! 私からもお願い…というか、約束っ!」

 

「…えっ!?」

 

「”霊圧が尽きて倒れた私”を必ず助けること! いいわね!」

 

「は……はいっ!」

 

 

今のやりとり。

もしも他人が聞いたのならば、それこそ無駄な会話なのではないかと思ったのかもしれない。だが、今のアリスの約束の言葉一つには、一つより多い意味が含まれていた。

 

 

ユージオが願ったアリスの大技。それは、今彼女が持つ霊圧が全て尽きるほどの大技であること。

それによる反動でアリスはおそらく気を失ってしまうであろうこと。

 

そして…その技を放ったあとの、ユージオを……信じていること。

 

 

 

その信頼に、答えないわけには行かない。

そのために…自分ができることは、なんだって!

 

 

 

アリスは、四頭虚から一気に距離を取るように離れると…金星を顔の前に立てるように構えた。

すかさずユージオは、四頭虚からアリスを守るような間に位置を取った。

 

 

「アリス! どれくらい必要!?」

 

「二分! それと、できればあの虚の動きが止まる数秒も欲しい!」

 

「分かった! どっちも任せて!! 僕がやる!」

 

 

アリスが虚から距離を取って構えを取った時点で、ユージオは察した。アリスのその大技が、いわゆる”溜め”の時間が必要なこと。それでユージオは稼ぐべき時間を問うた。アリスが要求したのは二分と、虚の動きが止まる数秒。

 

ユージオの役目は決まった。アリスの安全な二分と、虚を止める数秒の時間を”作る”こと。

 

 

(必ず…アリスを、現世を、護り抜く! それこそが…今の僕の、青薔薇の、誓いだ!!)

 

 

ユージオの背後で、アリスは剣を構える。

その構えは、顔の真正面で垂直に剣を立てるように。

 

 

(今の私が星を展開していられる時間は、十一秒フラット…!)

(だけど、事前に霊圧をしっかり練れば…さらに数秒、その時間を伸ばせる…)

(それに加えて、”あの技”を放つためには、もっと……!)

 

 

剣を構えたまま動かないアリスを背に、ユージオは駆け出した。

 

 

(まずは…奴の注意を全て引きつける!)

 

「破道の三十一! 赤火砲!!」

 

 

空を蹴り、四頭虚と同じ高さまで上がった瞬間に、爆発火球を放つ。

あえて敵の顔の前で攻撃を放つことで、自らの印象を強く焼き付ける。火球そのものでは物理的に対して焼けないであろうが…それでも、目論見は成功したと言える。空中高く立ったユージオを見上げた四頭虚は、低い唸り声を轟かせながら口を開く。狼頭の、口が。

 

 

雷撃。だが、攻撃の前兆はしっかりと捉えていた。

ユージオは体を捻って攻撃を躱し、今度は下に向かって移動する。四頭虚の側面に向かって位置取ると、虚もこちらへ体を向けた。

 

 

ここまでは、計算通り。

 

 

アリスに攻撃を向けないために、四頭虚にはこっちを向いてもらう必要があった。つまり、虚の体の側面がアリスに向くように。虚の背面には二匹の蛇が尻尾として蠢いている。そっちの攻撃がアリスを襲わないとも限らない。かといって、アリスからあまり離れてしまっては、彼女が攻撃に転じる時に都合が悪い。

 

そして、アリスが望んだ二分。その間攻撃を避け続け、四頭虚を釘付けにする……それは、非常に難しいことであることはユージオにも分かっていた。

なぜなら”避ける”ということはユージオも、それを追う四頭虚もクルクルと移動を続けながら戦闘を行うということ。その際に、攻撃の余波がアリスに及ばないとも限らない。アリスに攻撃が向かないように気を使いながら、攻撃を避け続ける……危険だ。何かの拍子にアリスの方向にしか逃げ道がなくなったり、四頭虚が何かしらの気まぐれな動きでアリスを攻撃範囲の中に捉えてしまったら…!

 

だから、ユージオは避けることで時間を稼ぐことを早々に放棄した。

 

 

 

 

代わりに彼が狙ったのは……まだ、誰にも見せていない”秘奥義”。

 

 

 

 

頭の中で何度も反復した秘奥義。

しかしそれは、考えただけで現実に練習したことはない。なぜなら、秘奥義とはいってもユージオが島崎雄次郎に教えたものではない。島崎雄次郎自身が、現世に行く直前に思いついた技なのだから。

 

 

現世について以降、任務やキリトさんのことで頭が一杯で、その思いついた技を練習することはなかった。なんなら…この戦闘に入るまで、すっかり忘れていたと言っても過言ではない。

 

 

だが、この瞬間…厳密にはアリスから時間稼ぎを頼まれた瞬間に……思い出して、確信した。

今こそ、使うべき時。

 

 

 

いくら頭の中で考えていたとしても、一切練習をしていない技を放つなんて、通常ならば考えられないほどに無謀だと言わざるを得ない。だが…雄次郎の、いや、ユージオの”心意”なら!

 

 

こちらを睨みつけるようにして、今度は獅子頭の方が口を開く。

そしてそれと同時に、ユージオは跳躍した。

 

狙ったのは、獅子頭の部分の…顔の真下。首の付け根。

口から放たれる攻撃には、あたりようのない死角。剣の弾丸は現世に被害を及ぼす前に霊子崩壊するため、その点は問題ない。そして、アリスの方には攻撃が及ばない方向。

 

 

全ての条件は整った。

あとは……全力で、虚の首筋から”全力で”叩き込むため!

 

 

(アリスは、自分の霊圧が尽きる覚悟で技を叩き込んで、倒すつもりなんだ! 全力で!)

(それに…僕が、全力で答えなくて、どうするんだ!)

 

 

ユージオの青薔薇が…濃い、群青の光を放ち始めた。

 

 

 

(全力で……虚の動きを、ここで止める!)

 

 

 

 

───アインクラッド流 秘奥義・改!

 

 

 

 

ユージオの剣が、斜めに振り下ろされるのと同時に……膨大な量の氷の薔薇が、まるで渦を巻くように展開される!

 

 

 

 

 

───氷嵐拘束斬 スラント・スパイラル!!

 

 

 

 

 

虚の首元を、まず茨の蔦が締め付ける。しかも、一度だけではない。

何重にも、何重にも……獅子頭のみではなく、狼頭の方の首までもが、茨のロープに首を覆われていく。

 

 

──グヴヴヴ…ヴァアアア!!

──ガッ…ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

 

 

棘付きの痛々しい茨に喉を食らいつかれ、苦痛の声を上げる二つの頭。

そしてユージオの剣は、斜めに切り下ろされた後も…止まらない。

 

 

回る。ユージオの体ごと。

剣と共に。そして…渦巻く茨が、さらに伸びる。広がる。巻き込む。

 

 

虚の手足を。胴体を。尾を。次々と縛り上げていく氷結の茨。

 

 

──ア゛ア゛ァァァッ! エ゛ァァァ!!

──キェェェ…アアア!!

 

 

奇怪な虚の悲鳴が、更に二つ折り重なる。

それは、虚の尾として生きる二匹の蛇の悲鳴。

 

もはやその巨大な四頭虚の体は、その尾を含めて全ての部位、関節がキラキラと青く眩しい氷の茨…それでいてギチギチに縛られていた。

 

 

(……ぐっ、ゔ…)

 

 

しかし、悲鳴をあげていたのは虚だけではなかった。

ユージオは、崩れるように片膝をつき…やがて、両手も空に着く。地に落ちてしまわないように、手足の周辺霊子を固めるので精一杯のようだ。

 

 

本来、『氷嵐拘束斬 スラント・スパイラル』は対人用に考えた技だ。

斜め切りの一瞬で渦を巻くような氷の茨が展開。素早く敵の武器かもしくは腕に絡みつき、そのまま一瞬で全身を縛りつけ、氷づけるためのもの。

 

そう、大型虚に対して使う想定はしていなかった。だから、今のユージオの攻撃は…さらに突貫でアレンジしたのだ。彼自身も竜巻のように、回り続け…茨をさらに展開し、虚の全身を拘束する。

相当な霊圧を消費した。破面と戦った時でさえ、これほどの量の茨を一気に展開したことがない。心意の力が無ければ、発動すらできなかっただろう。その結果が、息を切らせて空に膝を手を着いて喘いでいる様子だ。

 

 

しかし…喘いでいる暇などないという現実が、すぐに耳に届く。

 

 

ピシ、ピキ……という音がユージオの耳にざわつく。そして彼が顔を上げた途端、氷の破片がパラパラと降りかかる。それが何を意味するのか…明白だった。

 

 

いつの間にか、虚の苦痛の声は止んでいた。

代わりに大きな唸り声。そして、さらに響くひび割れ音。

 

 

ユージオが全力の霊圧を持って展開した茨は…既に次々と、破壊の兆候が現れ始めていた。通常の茨と違って伸縮性のない氷の茨は、力で破壊することは比較的容易。それは、ユージオが一番よく知っている。

 

 

 

 

 

 

だが、これで……自分の役目は、果たせたはず!

 

 

 

 

 

 

 

 

「巡れ……! 星たち!!」

 

 

 

 

その声を聞いた時…ユージオは実感した。

間に合ったのだ、と。

 

 

アリスの叫びに呼応して、六つの星が流れるように別れ、広がっていく。

 

一つは、虚の真正面に。

一つは、虚の真後ろに。

一つは、虚の側面に。

一つは、虚の逆側面に。

一つは、虚の上空に。

一つは、虚の直下に。

 

一つ一つの星があらゆる方角から虚を囲む、”天秤の陣”。

アリスは、柄を持った手を上に掲げると同時に、ユージオに視線を向けた。

 

 

無言の視線。

だが、ユージオは即座に意味を理解した。

 

力を振り絞り、空を蹴って…アリスの位置まで後退した。

 

 

退がって見ると、よく分かる。

自分が虚を拘束した氷の茨は、あらゆる場所がひび割れ、いつ虚に体の自由が戻ってもおかしくない。そして、そうなってしまう前に……

 

 

「…炎昼響間 嘆きの咆哮」

 

 

アリスの詠唱が始まった。この戦いの切り札となる鬼道の詠唱。

だが、それは…

 

 

「君臨者よ…血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ…!」

 

 

何か…"違和感"を、ユージオは覚えた。

 

 

「金景 朱音の空 欲し…波打ち乱れ仙を舞う…」

 

 

この詠唱…"混ざっている"?

 

 

「焦熱と争乱 海隔て逆巻き 南へと歩を進めよ!」

 

 

これは、二種類の鬼道の詠唱を並行して行うことで、

鬼道の連発を可能とする…二重詠唱。

 

 

「そして…極彩解け切り 雲海熱せよ!」

 

 

 

だと、思った。

けれど……()()()()()

 

 

 

六つの金星が…激しく回転を始めると同時に、赤く光り始めた。

それは…キラキラとした光というよりは、溜めに溜めた熱がエネルギーの行き場を失い、赤き光となって発しているような。

 

燃えるような強い熱が、六つの星に、滾る。

 

そして…四頭虚を覆っていた氷の拘束が、

甲高い音を立てて殆どひび割れ、砕けたその瞬間。

 

 

アリスが、渾身の一声を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

破道星舞(はどうせいぶ) 五三一番(ごさんいちばん)六龍炎滅(ろくりゅうえんめつ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

六つの星。それぞれから"龍"が顕現する。

炎で象られた、"龍"が六体。上から。下から。横から。正面から。後ろから。

 

炎龍がその長い体を虚に巻き付けはじめる。そう、それこそユージオの氷の茨のように。

だが、その六体の炎龍が虚の体を包み込めば、その炎は虚の皮を、肉を、仮面を焼く。

 

 

──グヴァァァァアアアアアアアアア!!

 

 

今までで一番の悲鳴が、虚の四つの口からあふれ出る。

音の圧力が風圧となって、ユージオとアリスの鼓膜と脳を激しく揺らす。

 

だが、それでも二人は怯まない。退がらない。

あともう少し……ここは絶対に、逃してなるものかと。

 

 

アリスは上空に向けて掲げていた柄を…勢いよく振り下ろし、そして。

 

 

 

 

「壊!」

 

 

 

 

その号令と共に、六つの龍の炎が()()()を起こした。

爆炎と化したその龍の炎は、完全に四頭虚の姿を覆い尽くし…なお、燃え続けていた。

 

 

 

*

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破道の三十一 赤火砲。

破道の五十 川龍焔(せんりゅうほむら)

 

ユージオが聞いたアリスの詠唱は、この二つの破道のものがそれぞれ入り混じったものだった。だから最初は、話にだけ聞いた"二重詠唱"を行うのかと思っていた。鬼道を連撃で発動するための事前準備としての詠唱。

 

けれど……違っていた。

 

あの六つの星から放たれたのは、普通の破道の五十番だったように見えた。

破道の五十 川龍焔は炎で象られた龍が敵を呑み込み、燃やし尽くす破道である。だが…今回の川龍焔は、それだけではなかった。

その炎の龍には中に別の"火"が練り込まれていた。それは、破道の三十一 赤火砲。爆発する火球。

 

龍の炎によって敵の体を破壊し、燃やし消耗させる。火球の爆発は、五十番台の大きな炎をも巻き込み、巨大な爆発として敵にトドメを刺す。

 

そう、これは二つの鬼道の連発ではなく、"融合"。

アリスだけが開発した、アリスの斬魄刀でしか放てない最高威力の炎の破道。

 

 

それこそが、破道星舞 五三一番『六龍炎滅』

最強の破道である九十九番『五龍転滅』にあやかった名前である。

 

 

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激しく燃え盛る炎を見て、ユージオは…少しばかり放心していた。これ程の威力の大技…こう目前で見るのは、初めてだ。今までユージオが見たことある、最も激しい攻撃……すなわち、島崎雄次郎の大切なお婆ちゃんを奪ったあの閃光*1、それよりも遥かに、高い威力を持ち合わせていることは明らかだった。

 

だが、ユージオはすぐに四頭虚を覆う炎から意識を逸らざるを得なかった。なぜなら、すぐ近くにいる友達の異変を感じ取ったからだ。

ユージオが、斜め後方を見た時…その視線の先にいたアリスは、いつの間にか未解放に戻った斬魄刀を握りしめ、立ちすくんでいた。

 

…かと思いきや、その体がグラリと安定を失う。

そして次の瞬間に、アリスは背中から倒れるようにして…落下していく。

 

 

「…!」

 

 

疲弊しきった体を無理矢理にでも動かして、ユージオはアリスを受け止めんと…駆け出した所で、バランスを崩して片手をついてしまった。

ただ、駆け出そうとしてバランスを崩したのは疲労のせい…もあるだろうが、それ以前に目の前の光景に驚いたことが、一番大きい。

 

 

「ふう……半分、賭けだったけど…なんとかなったわね」

 

 

その声は、アリス・ツーベルクの声。

ただし、その声はさっきまでの"アリス"とは少し違う。

 

 

 

そこでは、完全に気を失って脱力した状態の"茅野愛梨"を抱きかかえるアリス・ツーベルク。斬魄刀の具象化として宙に浮きながら、彼女を助けていたのだ。

"具象化した斬魄刀が触れるのは、その斬魄刀の所有者のみ"。その特性を利用して、始解が解除された瞬間に分離したアリス・ツーベルクが、気絶した茅野愛梨を助けたのだ。

 

友達への急な危険が急に去り、ユージオは安心感から酷く脱力した。相変わらず、手足元の霊子を固めるので精一杯の様子のまま、ボソリと呟いた。

 

 

「ひょっとして…僕が助けなくても、良かった…?」

 

「ゴメンなさい、ユージオ。これ、直前で思いついたのよね。できるかどうか分からなかったけど、成功して良かったわ。それに、ユージオが約束通り助けようとしてくれたの、凄く嬉しかったわ。私も…多分、この子も」

 

 

そう言って、具象化状態のアリス・ツーベルクは微笑んだ。その微笑みで、ユージオの残り微かに張り詰めていた気も一息に霧散する思いがした。

 

何故なら…そう、戦いは終わった。

アリスと、茅野愛梨の決死の攻撃によって…四つの頭を持つ虚は、燃やし尽くされたのだ。

本来であれば斬魄刀で浄化するのが最も良いのだが、この場合は致し方ない。鬼道による浄化は、やむを得ない場合として認められている。最も確実に死神の霊力を使って浄化できるのが斬魄刀であり、鬼道だと100%の浄化が上手くいかない可能性があるため、推奨はされていない。が、禁止もされていない。

 

死闘だった。四つの頭によるほぼ死角なしの攻撃の連続。その攻撃から、自分の身も、現世の人々も守らないといけなかった。平子隊長の前評判とは全く違う、恐ろしいほどに高く()()()ような霊圧の虚。ユージオだけでは、勝てなかったであろう。確実に。

 

ユージオとアリスの二人…いや、島崎雄次郎と茅野愛梨の四人で共に戦った末の勝利。達成感がないといえば、嘘になるだろう。

 

 

ユージオは、片膝をついて目を閉じ…息を切らせながらも安心感に身を委ねていた。

 

 

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視覚を閉じることで、ある程度霊覚に集中して鋭敏になる。

それに加えて…ユージオが()()に気づけたのは、まだ微かに残っていた警戒心故だろうか。

 

 

ユージオの霊覚が()()を捉えた瞬間、ほぼ脱力しきっていたその体が一気に緊張し、勢いよく立ち上がった。アリスは…気づいていない。だが、()()が決してユージオの思い込みでなかったことは、すぐに明らかになった。

 

 

 

 

 

 

グヴヴヴヴァァァァァァアアアーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

炎に包まれて消えたはずの姿と霊圧の場所から、ありとあらゆる憎しみを煮詰めたかのような咆哮が、空を激しく揺るがした。

驚きで目を見開くアリス。そしてその瞬間には、ユージオは既に動いていた。

 

 

「伏せてっ!!! アリス──!!」

 

 

────アインクラッド流 秘奥義・改! 氷壁展開斬 ホリゾンタル・プロテクション!!

 

 

咄嗟に、ユージオは氷の茨で形成された壁を、輪を描くように展開させる。

アリスとユージオの二人を、守るための壁。その行動は、結果的に最適なものであった。

 

 

ユージオが動くのと同時に、燃え盛る炎の中から、黄金の剣が大量に射出された。

 

 

攻撃の予兆を感じ取ったユージオにより、氷の防壁が次々と迫り来る剣を防いでいく。

ほぼ最後の灯火と言えるほどの霊圧を使って形成した防壁は完全に、アリスを剣から護ることに成功した。

 

 

 

 

そう、咄嗟に防壁を展開したユージオの判断は間違っていなかった。

ただ……疲弊しきった体での防壁展開は、少し、遅かった。

 

 

 

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防壁が間に合わなかった…防ぐことができなかった、剣が、二本。

それが、交差するように…ユージオの脇腹に突き刺さっていた。

 

 

内臓が傷つき、自らの院生服に血が滲む。

 

 

「…ぁ…か」

 

「ユージオッ!?」

 

 

 

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ユージオの身に起こった事態に気づいた、アリスの驚愕の声が届く。

その腹部に刺さった剣は、その性質から…すぐに霊子分解を起こし、消滅していく。それによって、剣によって塞がれていた傷口からさらに激しく血が流れ始める。

 

痛み、血液欠乏、そして…絶望から、段々とユージオの意識が薄れていく。

アリスの決死の一撃でもなお……燃え盛る炎の中でもなお、その魂を強固なものとしているあの四頭虚の存在が、ユージオに絶望を染み込ませていく。そして、その絶望は"負の心意"としてその体にも影響を及ぼす。

 

それでも…なお、ユージオは奮起の気持ちを呼び起こす。

 

 

(…今、僕が、倒れたら……だめ、な、んだ!)

 

(戦えるのは、僕、だけ…! 僕が倒れたら…アリスは……現世は……!)

 

 

しかし…ユージオの体はもはや、心意でもどうにもならないほど、

限界だった。

 

体に力が入らない。

 

意識が朦朧とする。

 

瞼が、勝手に下がっていく。

 

 

(負け、られ、ない…! 立て、立つ…んだ…! 立って…たたか、って…)

 

(みんな、を……まも、……る…)

 

 

ユージオの意識は……最後まで護る意志を残したまま…………途切れた。

 

 

 

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意識が途切れるその瞬間に、彼の視界に映った()()()()が、今日の最後の記憶として、ユージオの脳裏に焼きついた。

 

 

それが何かも、分からぬままに。

 




Q.アリスの"破道星舞 五三一番 六龍炎滅"ってどれくらいの爆発規模や威力がありますか?
A.大体、砕蜂さんの卍解"雀蜂雷公鞭"の五分の一くらいです。
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